第5話
とりあえず、一度休憩にしていつものように鶏肉を食べていく。しっかり皮などは剥がされている筋トレ民用のものだ。
味付けもほとんどされていないそれらを、俺は筋肉に栄養を届けるつもりで食べる。
……プロテインがあれば、運動の後にはそれを入れたいんだけどな。さすがに、そんなものはないからな。
水分を補給していると、兵士たちがやってくる。
「レイス様、かなり空間魔法も形になりましたね……」
「でもまだまだ燃費が悪いからな。……それより、皆の調子はどうだ?」
「え? はい。最近、レイス様が言っていたおもりをつけて訓練をする様になってから……なんだから体のキレがよくなっているんですよねっ」
「それなら良かった。この街を守るために皆の力も必要なんだ。頼むぞ」
「……はい! もちろんです!」
……兵士長のザンゲルが元気よく頷いた。
おもり、というのは各種ステータスの成長を強化するアクセサリーたちのことだ。
兵士たちも、ある程度強化しておかないと……将来の大惨事に対応しきれない可能性があるからな。
街が魔物に襲われ、第三王女が死に、ヴァリドー家が爵位を失った大惨事……。
俺一人で対処できればいいが、それがいつ起こるか分からないため少しでも戦力は確保しておきたいのだ。
だから、防具屋にお願いしてできる限り屋敷に納品してもらったのだが……まあ、これはこれで問題もあった。
というのも、ヴァリドー家は軍事費を極限まで削っているので……あんまりお金は使えないのだ。
とりあえず、家族が購入して見向きもしていない骨董品などを適当に売り払って金は作っているが、今後もできる技じゃないんだよな。
「休憩も終わりましたし、そろそろ……行きましょうか」
ゲーリングの言葉に、俺は頷き装備を整えていった。
……今日から俺は、ヴァリドールの近くにある悪逆の森での実地訓練を行うことになっている。
街から森まで歩いていくには二時間ほどかかるので、馬での移動となる。
門近くに兵舎があり、その近くで馬の管理もしているため、まずはそこへ向かうのだが……。
ゲーリングと兵士たちを連れて街を歩いていると、街の人たちに声をかけられる。
最近では兵士たちとともにランニングをしているのだが、その時に結構街の人たちとも話をしている。
だからか、最近は顔見知りの人も結構いるものだ。
街の人たちに嫌われないよう、最低限の交流をしながら街を歩いていく。
……最初の頃はかなり恐れられていたのだが、今はそういった様子は多少減ってきていた。
レイスくんが十年かけて築いたマイナスの地位を、なんとかゼロには戻せたんじゃないか? という感じだ。
西門に着いた俺はそこで、馬へと乗り換えてからゲーリングとともに悪逆の森へと出発する。
さてさて。実地訓練はどうなることやら。
これから向かう悪逆の森だが、結構難易度は高いんだよな。
今の俺がどれだけ通用するか……。
不安はあるが、俺も成長しているのは確かだ。
……社畜時代に築いた精神力のおかげか、毎日訓練していてもまったく疲労感はなかった。
そのくせ、社畜時代はそれが給料に反映されることもなければ、残業代になることもなかった。
が、ここでは鍛えれば鍛えただけ、成長していく。自分に還ってくるので、さらに頑張ることができた。いて
魔力は増えているし、力もついてるし、頑丈にもなっている。
……後は、動く魔物とどれだけ戦えるかだな。
悪逆の森の入り口が見えてきたところで、俺たちは馬から降りる。
一緒についてきた兵士だけがその場に残り、馬の面倒をみることになり、俺はゲーリングとともに悪逆の森へと入っていく。
「レイス様。こちらのダンジョンについてはどの程度知っていますか?」
「……そうだな。第一層から第五層まで分かれているんだったか?」
ゲームでの知識を伝えると、ゲーリングは頷いた。
「はい。奥に進めば進むほど魔物が強くなります。今日は第一層でゴブリンなどと戦っていきましょう。……大丈夫です。初めての戦闘です。危険があればすぐに私が助けに入りますからね」
ゲーリングは第一層の魔物なら問題なく倒せる実力があるらしい。
というか、うちの兵士たちはだいたい第一層の魔物に通用するかどうかという能力だそうだ。
よくそれで、今までやってこれたな……というのが素直な意見だ。
というのも、ヴァリドー家がこんな危険なダンジョン近くに街を持っているのかというと、悪逆の森から溢れた魔物を処理する役目を担っているからだ。
そのため、国からもかなりの支援金をもらっているのだ。
まあ、今のところ軍事費には使われず、両親や兄たちの娯楽費に回されているが。
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