おまけの後日談5 二艦同時攻撃だ!
我が家の中は今、非常に険悪なムードになっている。
何故なら美海と晴海さんが絶賛喧嘩中だからだ。
「…………」
「…………」
目も合わせないしお互いにそっぽを向いて何も喋らない。
無言の状態が続く中、俺はオロオロしながら二人の間を行ったり来たりしている。
そんな中、大海は精悍な顔つきで凪海の寝ているゆりかごに捕まり立ちし、ゆっくりと揺らしながら俺達の様子を見守っている。
大海!? 二歳になったばかりだよね? どうしてそんなに落ち着いてるの?
「ぱぁぱ、だめだめ」
うぐっ!! む、息子にまでそんな事を言われるなんて……
ええ、そうですよ、パパがダメダメだからママ達が喧嘩しちゃったんだよね。
……事の発端は昨日の夜、子供達を寝かしつけ、夜のお楽しみ戦闘をしている時だった。
ようやく戦闘解禁になった美海と久しぶりの戦闘をして数日。
その間、晴海さんとは二人で戦闘をするにはしていたのだが……
「ママ? ちょっと私に譲ってよ!」
「やぁん、ママだって戦闘我慢してたのに!」
潜水艦を前に、巨大戦艦と揚陸艦が激しくぶつかり合っている。
どうしてこんな争っているのか、それは二歳になった大海、まだ生後六ヶ月の凪海がいるから、凪海の夜泣きや授乳、それにつられて大海まで目を覚ましてしまうから、ゆっくり戦闘する時間を確保出来ていないからだ。
なので潜水艦への攻撃をする順番の争いが日に日に激化している。
「あっ! コラッ! ママは昼間メンテナンスしてたでしょ!?」
「美海だってお風呂で潜水艦を浮上させてメンテナンスしてたじゃない!」
「あ、あれはメンテナンスのうちに入らないわよ! それを言うならママだって総一がトイレに入ってる時……」
「あ、あれはちゃんとトイレ出来るか心配で…… み、見てただけよ!」
「子供じゃないから出来るでしょ!」
「わ、分からないじゃない! そーくんだもの!」
醜い争いだ…… 争いは何も生まないんだよ? 平和が一番……
「元はといえば、総一がはっきりと断らないで流されてるのが悪いのよ!?」
「美海! そーくんを責めちゃダメよ!? うふふっ、そーくんはそのままでいいの、私がぜーんぶ面倒見てあげるから」
「そう言って総一を一番責めてるのはママじゃない! 今だって…… 手やトンネルで…… あっ!! ママのせいで凪海が起きちゃったじゃない! あぁ、今行くからねー?」
「うふふっ、いってらっしゃーい、じゃあ私は…… んふふっ」
「うぅ…… まぁま……」
「あぁっ! 大海まで起きちゃったわぁ…… はいはーい、ママはこっちにいるからねー? ……そーくん、戦闘準備して待っててね?」
でも、授乳や寝かしつけをしている間に二人ともウトウトして…… あらら、寝ちゃってる…… 育児で疲れてるんだから、無理して戦闘しなくてもいいのに……
そして、装備を全部外した状態のまま寝てしまった二人に布団をかけ、子供達をベビーベッドに戻し、俺も二人の間で眠りについたのだが……
朝、目が覚めるとこの状態だった。
「……総一!」
「は、はい!」
「……肩揉んで!」
「かしこまりました!」
「そーくん!」
「はいぃっ!」
「……揉んで!」
「かしこまりました!」
……えっ、どこを?
「……ママのだらしないのなんて揉まなくていいから! 私のを揉みなさい!」
「だらしなくない! それに、そーくんは夢中だもん!」
……肩を揉むって話だよね? ね?
「……ふん!」
「……ふん!」
二人とも、怒った顔もそっくりだね! 可愛い顔が台無しだよ? ほら、子供達も怖がっちゃうから……
「「どっちの方が可愛いの!?」」
見事にシンクロしてますね……
◇
とにかく二人に負担をかけないように家事をこなし、可愛い二人の子供達を面倒を見て……
相変わらず目を合わせようとしない二人を横目で見つつ夜に備えた。
そして、家族みんなで寝ている部屋とは別の、戦闘用の寝室で二人に待っててもらい、俺は子供を寝かしつけた。
凪海は起きるかもしれないが…… とりあえず二人と効率良く戦闘をするために俺が考えた作戦を実行するために、二人の待つ寝室へと入る。
お互いに無言で顔を背けているが、戦闘準備はバッチリのようだ。
「ふん! 総一、私からよね?」
「あらあら、私からに決まってるわよね? そーくん」
まあまあ…… とりあえずね? 三人で戦闘開始しようよ……
巨大戦艦と揚陸艦をピッタリと横に並べ、三つの船首同士がくっつくように上から抱き締めた。
「な、止めてよ、これじゃあママとも……」
「んーっ! そーくん!?」
みんなで仲良くしましょうよ、ほら……
船首付近の三つのトンネルを絡ませるようにくっつけていると、色々言っていた二人が大人しくなってきた。
それと同時に俺の腕は二つの海溝へと伸び…… 巨大戦艦と揚陸艦を撫でるように攻撃開始した。
同時攻撃すると、エンジンがかかってきたのか、二艦とも船体を大きく揺らし始めた。
エンジンがかかるとオイルも漏れ出し、二つのオイル漏れの音が寝室に微かに響き始めた。
「そう、いちぃっ」
「そーくぅん……」
そろそろいいかな? それじゃあ……
「えっ!? ちょっと、イヤよこんな……」
「そーくん…… 何するつもり?」
揚陸艦の上に向かい合うように巨大戦艦を乗せて、密着させた間を…… 潜水艦で攻撃開始だ!!
俺が考えた作戦…… それは巨大戦艦と揚陸艦の弱点を重ねての二艦同時攻撃だ!
二艦の間を割り込むように前進、後退を繰り返し陽動し、隙をついて二つの海溝を交互に攻める! 密着し身動きが取れず、周囲が確認出来ない二艦には、突然の奇襲になりダメージも大きいだろうと考えたのだ!
しかも被害状況をお互いに間近で見ることにより、戦意を喪失させ撃沈するという、二重に恐ろしい作戦となっている。
「やぁぁっ、ママ、見ないでぇっ!」
「恥ずかしいわぁっ、美海ぅっ!」
二艦とも抵抗出来ずに一方的に攻撃をされて混乱しているんだろう、いつもよりも警報が鳴り響いているような気がする。
これなら二艦とも満足のいく戦闘になるだろう、ふふっ、作戦成功だ!
そして最後に二つの船首に向けて、トドメの魚雷を発射…… ふぅっ、熱い戦いだった。
「マ、ママぁ……」
「美海……」
「ごめんね、ママ……」
「ううん、ママの方こそごめんね……」
そして、二艦はそれぞれ被弾した船首をくっつけ、魚雷が残らないように清掃をしている……
「んっ、ママ……」
「んふふっ、美海……」
うわぁ…… 母娘で仲直りのキッス……
いけないものを見ているみたいでドキドキする!
「戦闘後の潜水艦の清掃もしないとね」
「うふふっ、美海、一緒に清掃しましょ?」
そして健闘を称え合うように、二艦による丁寧な清掃を受けて……
「やっぱり三人一緒が一番ね」
「そうね、争いは良くないわ」
「じゃあ…… 美海、晴海、そろそろ寝室に戻ろうか」
「はぁーい! あ・な・た、うふふっ」
「素敵だったわよ、あ・な・た、ふふっ」
そして、みんなでキスをして子供達が眠る寝室に戻った。
◇
「ママ! ちょっといい加減にしてよ!」
「美海! えーっと…… もう! ママ、怒っちゃうんだからね!」
またやってる…… でも、喧嘩をしているようで、二人してチラチラと俺の方を見てくるんだが。
「二人とも、喧嘩は駄目だよ? もし喧嘩を続けるなら……」
そう言うと、二人は嬉しそうな顔をして、中身のあまりない言い争いを続けた。
うん…… 今夜の対戦はまたあの作戦を実行して欲しいってことだな。
子供達もいるけど、三人で工夫してまだまだ『仲良く』なる俺達だった。
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