おまけ (晴海 前日譚)

 そーくんとの出会いは、美海を身籠り、実家を勘当され、手切れ金と一緒に親に与えられたマンションでだった。


 そこで隣に住んでいたのがそーくんのご両親。

 まだ中学生だった私の境遇を知り、何かと気にかけてくれて、気付けば家族のように接してくれた、私と美海の命の恩人みたいな人達、その夫婦の一人息子がそーくんだった。


 人懐っこくて可愛くて、美海が生まれてからはまるで妹のように美海を可愛がってくれてありがたかった。


 家族ぐるみでの付き合いに加え、共働きだったそーくんのご両親に頼まれてそーくんを私の家で預かって面倒みたり…… とにかく私にとっても可愛い息子のような存在だった。


 そして時は経ち…… そーくんが高校生、美海が中学生の時に、二人はお付き合いを始めた。


 最初はビックリしたが、いつかはそうなるだろうなぁ、という予感はあった。


 美海はそーくんにベッタリだったし、そーくんも美海を可愛がっていた。


 でも…… ちょっぴり寂しかった。


 小さい頃は『はるみさん、はるみさん』と私に抱きついてきたり『はるみさん、だいすき』ってずっと言ってくれてたのに……


 そーくんが中学生に上がる前、あの最後に一緒にお風呂に入っていた時の事が原因かなぁ……


 そーくんのご両親が仕事で遅い日に、いつものように三人でお風呂に入っていた時……


『うふふっ、可愛い潜水艦……』って言ったのがダメだった? それともいつものように身体を洗ってあげようとしたのがダメだったの? ……よく分からないけど、あの時から避けられているような気がする。


 そーくんは可愛いけど男の子だからね、こんなオバサンにベタベタされるのはイヤだったよね……


 それでも美海とそーくんが幸せそうにしていると嬉しい…… けど少し、ほんの少しだけ嫉妬している自分が嫌になる。


 そして、心の片隅にそんな思いを隠して生活していたある日……



「美海…… あれ?」 


 少し早めにパートが終わり家に帰ると、いるはずの美海が出迎えてくれなかった。


 おかしいと思いつつ玄関で靴を脱ぐと、玄関には美海の靴とそーくんの靴が置いてあった。


 二人が家にいるのに出迎えてくれないなんて…… 


 そしてリビングに向かうために廊下を進み、美海の部屋の前を通り過ぎた時……


「み、美海!」


「そう、いちぃっ!」


 美海の部屋から普段聞かないような声と…… ギシギシという音が聞こえてきた。


 心臓の鼓動が一気に跳ね上がった。

 二人は恋人同士だからいつかはそうなっても不思議ではない、でも……


 いけない! と思いながらも、どうしても気になってしまった私は美海の部屋の扉をそっと開けた。


 そこには…… 戦闘中の二人がいた。


 

 初戦だったのか、戦術なんて関係なく、二人はお互いに攻撃をしている。


 ただ、そんな戦闘シーンを見てしまった私は…… あることに気が付いた。


 

 あれが…… 戦闘なの?

 二人の戦闘と比べたら私の知ってる戦闘は…… 駆逐艦が非武装の船を攻撃するような、身勝手で一方的な蹂躙だった。


 しかも、何あれ…… 潜水艦なのに…… 立派な砲台がある!

 えっ? あの駆逐艦に付いていた砲台の倍の大きさがあるわ! だって…… 小指よりちょっと大きいくらいだったわよね、あれ。


 その立派な砲台で戦艦に攻撃してる…… 戦艦側も攻撃が激しいのか警報のような声を出して……


 凄い…… あんなの知らない…… いいなぁ……


 そして、その日から私は潜水艦と戦艦の海戦を、離れた水辺から覗き、水遊びするのが日課になってしまった。


 日に日に激しくなる戦闘、お互いに切磋琢磨し戦術を鍛え、戦闘を終えるとお互いの健闘を称えノーサイド…… あれが本来あるべき戦闘の姿なのかもしれない。


 そんなのを知らない私は羨ましくて、だけど素晴らしい戦いに興奮して…… 私の水遊びも激しくなった。


 その頃には自分の部屋からしっかりと両目で見られるくらい襖を開け、気付かれないように夢中で覗いていて…… 後で知ったけど、美海にはバレバレだったのがとても恥ずかしかった。


 そして運命の日…… 

 美海の誕生日にお酒をいっぱい飲んで酔い潰れたそーくんが…… 美海と私を間違えて、戦闘を仕掛けてきた。


 そんな乱暴に仕掛けられたわけではないから、逃げようと思えば逃げられた、でも私は……


『思い出作り』なんて後で二人には綺麗事のように説明したけど、本当はそうじゃない。


 ずっと羨ましくて『美海が私だったら……』なんて母親として考えてはいけないことをずっと心に秘めていたから…… どこかでこうなったことを喜んでいたんだ。


 だから私は…… 美海には出来ない、大人な戦闘でそーくんを虜にしようとして……


 ろくな戦闘経験のない私が出来ることといえば、美海には出来ない、安全装置を解除しての戦闘くらい。


 そして、最初の戦闘から、半分脅しのようにそーくんに再戦を求め……


 逆に私がそーくんから離れられなくなるくらい虜になってしまった。


 甘えるように胸部装甲を攻撃するそーくん。

 潜水艦をトンネル内で攻撃され、涙目で白旗を掲げるそーくん。

 情けなく『ごめんなさい』と言いつつ魚雷を大海原に発射するそーくん。


 どのそーくんも可愛くて、ついついサービス戦闘をし続けた結果…… 


 私は、かけがえのない宝物を手に入れた。

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