最終話 やっと…… 逢えたわぁ (10ヶ月目)

 妊娠十ヶ月…… いよいよ出産が近付いてきた。


「うふふっ、もうすぐ会えるわね」


「は、はい……」


「もう! 総一が今から緊張してどうするのよ」


 晴海さんのはち切れそうなくらいパンパンになったお腹を三人で撫でながら、産まれてくる赤ちゃんに三人で話しかけている。


 お腹の痛みや重みで時々辛そうにしている晴海さんを支えつつ、俺達の子を迎える準備も進める。


 赤ちゃんのために必要なものはみんなで買い物に行ってある程度前に準備をしている。

 そういえばお腹の大きくなった晴海さんと美海と三人で手を繋ぎながら外出した時、マンションの住人に俺達が三人で仲良く歩いている姿を見られたが、特に驚いている様子もなかった…… 気付かれていたのかな?


「それは……」


「ママがあれこれ言いふらしてるからよ『私の次は娘の番なのー』とか言っちゃって…… ママのせいでマンションのおばさま達にあれこれ冷やかされて大変だったんだから! この間なんて『美海ちゃんも頑張ってるんでしょ? 色々』って言われて、恥ずかしくて逃げてきたわ」


 えぇっ!? バレてるというか、自らバラしてるのか……


「だってぇ…… 遅かれ早かれバレるなら、今のうちに幸せアピールしたいじゃない、うふふっ、ねっ、そーくん?」


 母娘に手を出して、母親を孕ませて、次は娘も…… しかも働いている様子もない男、とんでもない男だと噂になってるんじゃないですか!? あぁ、どうしよう…… 外を歩けないよぉ。


「うふふっ、でもあまり驚かれなくてちょっぴり残念だったわ『晴海ちゃんと美海ちゃんなら姉妹に見えるから大丈夫よ』だって、それに私達より凄い人達が近くにいるみたいで、おばさま達はそっちの話題で持ち切りよ」


 お、俺達よりも凄いって、一体何が凄いんだ?


「私もその話聞いた事あるわ、確か……『四人の女の子を夜のお団子作りで満腹堕ちさせた』とか『その四人をお嫁さんにして同時に孕ませた』とか」


 よ、四人同時!? とんでもない男もいたもんだ…… 『満腹堕ち』って何?


「んっ! ……うふふっ、美海の時より元気、やっぱり男の子だからかしらね」


「ぽこぽこってしたわ…… ふふっ、お姉ちゃん達の話し声が聞こえたのかな?」


 ……よそはよそ、家は家、とにかく晴海さんが無事出産出来るよう全力でサポートしないとな!


「うふふっ、そーくん、今からそんなに張り切ってたら持たないわよ? ほら、補給口でも吸ってリラックスしたら?」


 そしてポロンと出てきた補給口…… パンパンで色も少し変わってしまったが、これはこれで…… うん、でも今はいいですから、晴海さんしまって下さい。


「えぇーっ! 今のうちじゃないと一人占め出来ないわよ? 赤ちゃんの補給口なんだから」


「大丈夫よママ、総一には私が代わりにしてあげるから」


「むぅー! そーくん? あっ、ほら、燃料が漏れてるから! 勿体ないよ?」


「じゃあ参考のために私が補給してあげるわ……」


「ひゃっ! ……うふふっ、甘えん坊さんね、美海」


 美海が晴海さんの補給口を…… ちょっといけないものを見ているようで、潜水艦が浮上しちゃいそう!


「うふっ、そーくんったら…… 美海、あれを見て?」


「んぐっ? ……ふふっ、総一ったら…… 仕方ないわね」


 ちょ、晴海さん? 美海? 何を……


「私達の上部トンネルでメンテナンスしてあげるから」


「そーくん、覚悟してね? うふふっ」


 あ、赤ちゃんが聞いてるから! あぁっ!


 お腹にいる息子よ、パパとママ、お姉ちゃんは凄く仲良しだからね…… 仲良ししているだけだから…… うっ!


「あはっ! 魚雷を撃ちたそうにしてるよママ」


「うふっ、そうね…… 早く撃てるようにたっぷりメンテナンスしてあげる」


 あぁっ! ……あっ、発射ボタン、押しちゃった。


「きゃっ!」


「あんっ! ……んふっ」


 …………メンテナンス、ありがとうございましたぁ。



 ◇



 その後も晴海さんを中心とした生活を続けていたが、ついに……


「あっ…… くっ、こ、これ…… そーくん、悪いんだけどタクシー呼んでくれない?」


「晴海さん!? 大丈夫ですか? ……まさか」


「う、ふふっ、きっとこれ、破水しちゃったんだと思うの」


「破水!? い、今すぐタクシーを手配します! み、美海! 美海ー! タオル! タクシー! あと、えーっと……」


「何よ総一…… 情けない声を出し…… ママ!?」


「うふふっ……」


「総一! 早く電話!」


 

 そして病院に到着すると……


「あー、もう産まれそうだね、分娩室にそのまま行きましょう」


 えっ!? も、もう!? えーっと、えーっと…… 


「付き添いされるならご家族の方も一緒にどうぞ」


 ……えっ、晴海さん、俺はどうすれば、美海、どうしよう……


「うふふっ、パパが情けない顔をしてちゃダメでしょ? ……っ、大丈夫、元気に産んで、すぐに会わせてあげるから、ねっ?」


 ……陣痛で辛いはずなのに、俺に心配をかけないように笑顔を作る晴海さん。


 ……そうだ、晴海さんが頑張っているのに、余計な心配をかけちゃ駄目だ!


「晴海さん、そばにいますから頑張って下さい」


「うふふっ、ありがと、そーくん」


「ママ、私も付いてるからね」


「ありがと、美海」


 そして、あれよあれよという間に分娩室へと入っていった晴海さん、そのあと少ししてから俺達も呼ばれ……


 陣痛の間隔が早くなり、辛そうにしている晴海さん。

 時々耐えられず大きな声をあげるたびに、晴海さんの手を握り応援していた。


「頭が見えてきましたよー! 赤ちゃんも頑張ってるから、お母さん頑張ってねー」


 助産師さんの声掛けにより、大きな声を出しながら息む晴海さん、必死に赤ちゃんを誕生させようとする母としての姿を見て、込み上げてくるものがあった。


「うぅっ、晴海さん、頑張って!」


「ママ、頑張って…… 総一、泣くにはまだ早いわよ! ママだって困るでしょ?」


 そんな俺達の様子をチラリと横目で見たのか、晴海さんは少し笑ってから、また必死に息み…… そして……






「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」


「あぁっ、あぁぁっ…… やっと…… 逢えたわぁ……」


「うぅぅーっ! 晴海さん、うっ、お疲れ様でし、たぁぁっ、ありがとう、ございます…… うぅっ、ぐすっ、良かったぁ、良かったぁぁ……」


「ママ、お疲れ様…… ぐすっ、おめでとう……」


 ポロポロと涙を流し喜ぶ晴海さんの横で、俺は大号泣。

新しい生命の誕生と、その生命を誕生させるため、十ヶ月もの間お腹で守りきり、無事誕生させた母としての晴海さんの偉大さに感動してしまい、堪えきれなかった。


 晴海さんの胸元で抱かれている新たな生命…… 晴海さんと俺の子供…… 


「うふふっ、ママですよ…… うふふっ、パパも見ているわよ……」


 その後、産後の処置のため赤ちゃんは助産師さんに連れて行かれ、色々検査をしてもらっている。

 俺達は分娩室に残り、晴海さんも産後の処置のために色々治療などをされ、俺達は少し会話をしながら待機していた。


「あぁ…… ビックリするくらいすんなり産まれてきてくれたけど、疲れたわぁ…… もう、そーくんったら私より泣いてるじゃない…… うふふっ」


「す、すいません……」


「でも…… そーくんもこんなに喜んでくれて、やっぱり産んで良かったわぁ」


「…………」


「あら? どうしたの、美海」


「ううん…… 出産ってこんな大変そうなのに、ママは私を早くに産んで、ずっと大切に育ててもらって…… ぐすっ、改めて感謝してるの」


「うふふっ『もうこんな辛いのイヤ!』って、その時は思うかもしれないけど、やっぱり我が子を見てると『産んで良かった』って思って、辛いことも吹き飛んじゃうの、美海もそのうちきっと分かるわ」


「うん…… 頑張る…… だって私も総一との赤ちゃん欲しいもん」


 そんな母娘の会話を少し驚きながら聞いていた助産師さんが、俺の方をとんでもない奴を見るような目で見ていたのが気になるが、今はそんな事はどうでもいい。


 晴海さんに何度も労い感謝して、その後……


 何日か入院になる晴海さんと共に、赤ちゃんの世話に関する様々な事を助産師さんに教えてもらった。


「うふふっ……」


 補給口に必死に吸い付く赤ちゃん…… ちなみに名前はもう決まっている。


「いっぱい飲んで大きくなってね、大海たいが


 俺達の子供の名前は『大海』ちなみに晴海さんと美海、二人から『海』の一文字をもらい、色んな意味で大きく元気に育って欲しいと、名前は大海と決定した。


「可愛い…… 目元は私達に似てるね」


「そうね…… 口元はパパかなぁ? 吸い方も似ているような気がするし」


「ふふっ、総一みたいにダメダメになっちゃ駄目よ、大海」


 失礼な…… 俺はそんな子に育てないよう頑張らないとな、反面教師として。


「ママも無事だし大海も元気に産まれた…… ふふっ、総一、次は私の番だからね?」


「えっ!? いや、しばらくは大海もいるし、もう少し落ち着いてから……」


「じゃあその次はまた私ね! うふふっ」


「晴海さん!? 気が早過ぎますよ!」




 子育て、妊活とこれからも慌ただしくも幸せな日々が続くだろう。


 一夜の(どころじゃない)過ちから始まり、恋人、夫婦、家族となり…… これからどんな関係になろうとも、俺達のラブストーリーは死ぬまで終わらない。

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