ふふっ……戦闘開始、だね?(2~3ヶ月目)
食事を終えた俺達は、その後リビングでダラダラとしながら三人で過ごしていて、鳴りを潜めていた巨大戦艦はやはり見逃してはくれなかった。
『総一、お風呂入ってきたら? ちゃんと綺麗にしてくるんだよ?』
『歯磨きした? トイレ行かなくても大丈夫?』
など、寝るための準備を細かく聞いてくる美海に、さすがの俺も気付いてしまう。
晴海さんはそんな俺達の様子で何かを感じ取ったみたいだが、そわそわしながらも見守ることしか出来ないでいる。
そして……
「じゃあママ、おやすみー」
「うん…… おやすみ」
「総一、行こっ?」
「あっ、うん……」
俺の手を引き、有無も言わさず自分の部屋に連れ込む美海。
その手は少ししっとりしていて息づかいも荒くなっていた、まるで戦闘を前に興奮しているように……
そして、部屋に入ると……
巨大戦艦は目標に向けて動き出した。
「ふふっ…… 戦闘開始、だね?」
今夜は激しい戦闘になりそうだ……
◇
戦況は厳しく俺は劣勢だ。
自慢の潜水艦は二つの海山に行く手を阻まれ、前進後退を繰り返している。
耐え切れず海山の間で魚雷も発射したが、巨大戦艦上部にあったトンネルに吸い込まれ、戦況を変えられず立ち往生している。
「ふふっ、まだまだ楽しませてよね……」
くっ…… 今の所、巨大戦艦にかすり傷一つ与えらていない、防戦一方だ…… この状況を打破せねば…… また負けてしまう!
いつもはそうして機動力を奪われた後、燃料、弾薬切れまで戦わされる。
巨大戦艦も一応はダメージを受けたり、荒波によって激しい水しぶきをあげながら船体を大きく揺らすこともあるが…… 戦況を覆すまでには至らない。
弄ばれる潜水艦…… 揺れる海山…… 船体を離さないよう狭まるトンネル……
「ほらほら、降参しちゃいなよ……」
うぅっ! ピュッ…… じゃなくて、ピッと白旗を掲げているのに、攻撃の手を緩めてくれないのは美海じゃないか!
「ふふっ…… その顔、堪らないわ…… じゃあハンデをあげる、好きなだけ攻撃してもいいわよ、ここに……」
ようやく二つの海山から脱出したと思ったら、今度は顔の前に深い海溝を近付けられる。
「ほら、この海溝を攻略すれば戦況は変わるかもよ? ……私も攻撃するけどね?」
きらきらと海水の流れる深い谷に探査艇を出発させ敵の状況を探る。
特に海溝のそばにある小さな丘を重点的に探査して…… っ!? せ、潜水艦がまたトンネルに吸い込まれる!!
「んふふっ……」
ま、またトンネル内で潜水艦が巨大戦艦の波状攻撃を受けている! 危険だ! 退避しろー!
「んふっ、ダーメ、逃がさないんだから…… んっ」
くっ、攻撃を止めさせるために、こちらも小さな丘を攻撃だ!
「んふっ、良い攻撃…… 被害が出ちゃいそう」
繰り返される激しい戦闘、二度目の白旗をトンネル内で掲げたにも関わらず、戦闘は終わらない……
「ふふっ…… そろそろ最終決戦かな?」
はぁっ、はぁっ…… 最終決戦…… 巨大戦艦に潜水艦を突撃…… 内部での戦いで決着をつける!
そして、巨大戦艦側から潜水艦に攻撃をしかけられ…… 巨大戦艦内部に突入した。
「ねぇ、総一…… あっちを見て?」
……あっちって、部屋の壁だよな? えっ? な、何で壁が少し動いて隙間が開いてるの? しかもそこから……
「…………」
は、晴海さんが俺達の戦闘を…… 覗いている!?
「ふふっ、やっぱり総一、あれを壁だと勘違いしてたんだ、あれ…… ただの
襖!? えっ? だって、壁紙と全く一緒で、取っ手すら見えないけど……
「部屋…… が、っ、広くっ、見えるように、私が昔、貼り替えたの! 凄いでしょ? 取っ手も、同じ色で、塗ったわ」
は、話しながらも攻撃は続くのか!
「…………」
晴海さんもずっと見てるし!
「隣はママの部屋、だからずっと、私達の戦闘を、襖を開けて、今みたいに覗いて、一人で水遊びしてたのよっ!」
水遊び…… ずっと? 美海が中○生だから…… 五、六年ってことだよな!?
しかも俺は五、六年もあれが壁だと思ってたのか。
「だからね? ……逆に、総一が部屋を、間違えて、ママと戦闘してたのも知ってたの」
それじゃあ何で止めなかったんだ!?
「……だって、ママも総一の事を好きだったみたいだし、総一ならいいかなって、よく考えたら総一がママに手を出してくれたら三人ずっと一緒に居られるでしょ? しかもママはもう一人産めるし、私も総一と別れなくて済む、私が産んでも、ママが産んでもみんなで子育てを協力してできるし、良いこと尽くめじゃない、だから…… ママが妊娠するまで何も言わず黙ってたの、まあ本来の予定よりも早くママと初戦闘してくれて私的には助かったけど」
……いやいや、情報量がまた多いな。
「話は簡単よ、どうせ総一は妊娠でもしないと優柔不断だから私達両方を選ばないでしょ? だから両方選ばざるを得ない状況まで待ってたってだけの話」
美海ちゃん、あなた…… さては策士だね? 俺や晴海さんの行動を読んだ結果が…… 今ってことか。
「そっ、利益を求めて先を読んで行動するのがトレーダーよ、私にかかれば株よりも二人の方が単純だから簡単だったわ」
……遅かれ早かれ、俺は美海の策略によって晴海さんと戦闘をしていたってわけか。
「さて…… ママ、見てるんでしょ? こっちに来たら?」
えっ!? 隣からガタガタと凄い音がしたけど大丈夫?
そして少しすると、襖を開けて晴海さんが美海の部屋に入ってきた。
「…………」
「ママ? ママはまだ戦闘出来ないだろうから…… 近くで水遊びしていて? 最後に魚雷の不発弾処理…… したくない?」
不発弾って…… 不発弾か!?
「美海……」
「私はまだ撃沈するわけにはいかないから今は我慢してね、ママが子供を産んで落ち着いたら…… その時は魚雷をいっぱい発射させて…… 私に命中させて、撃沈させてね? 総一……」
くっ! そ、そんな、いきなり激しく攻撃されたら……
「っ! ママっ! いいっ?」
「……う、うんっ!!」
魚雷を発射寸前、巨大戦艦は大きく舵を切り回避する、そして新たに現れたトンネルに吸い込まれ…… トンネル内に発射、魚雷は命中することなく、ゴクっと不発弾として処理され……
「…………ふぅっ、良い戦闘だったわ、ねっ、ママ?」
「うん…… ごちそうさま、そーくん」
「ふふっ、じゃあ今日は三人で寝よっか!」
は、はぁぁ…… 最後は援軍まで来て…… 完敗だ……
「いいの? 美海」
「うん、三人がいいの」
「うふふっ、ありがと、美海……」
その日から、俺達は毎日一緒のベッドで寝るようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます