第8話 大司教を倒したら女の子があらわれた!

 大司教を倒すためのアイテムを手に入れた俺たちは、ついにやつらの本拠地へ乗り込むことにした。


 大司教率いるヨージョ教の総本山は、大変洋の果てのロリヤルシカ大陸にある。


 ヒョーガキア大陸を出て航海すること一か月あまり。ロリヤルシカ大陸に上陸した俺たちは、ヨージョ教の信徒に変装して総本山へと向かった。


 上陸してまず驚いたのは、この大陸には一人も女性がいないということだ。いや、厳密に言うと、若い女の子がいない。いるのはいい歳こいたおじさんばかりなのだ。


 幼女を崇める邪教の総本山があるということで、それはもう大陸中の至る所に幼女がいるのかと思ったのだが、実際にはそうでなかったことにちょっとがっかりした。


 それより、なぜ幼女がいないのか。その理由は至ってシンプルなものだった。


 ヨージョ教の教えでは、幼女の偶像崇拝を厳しく禁止しており、三次元はおろか二次元までも、幼女にまつわるありとあらゆるものがここには存在しないのだ。


 幼女は信徒の心の中にのみ存在し、各自がそれぞれ心の幼女を崇め、祈りを捧げるのだという。そして心の中でなら、どんな妄想をしても構わないそうだ。


 これぞまさに信教の自由、究極の精神的自由というやつじゃないのか。


 俺はうっかり、この邪教の教えに共感しそうになったのだが、ギリギリのところで思いとどまった。


 よくよく考えてみると、リアルでメスガキをわからせることができないなんて、この俺には耐えられそうにないからな。


「三次元はともかく二次元も禁止だとは、拙者もこの邪教には賛同しかねるでござる!」


 二次元専門のトンズラもそう息巻いた。


 ダリンについては、いくら信徒の姿に変装しているとはいえ、女性だとばれたらマズいと焦ったのだが、ババアだからなのか何の詮索もお咎めもなかった。というより、みんな無関心だったという方が正しいかもしれない。


「ちょっと、その反応ってどうなのよ! わ、私だって心はまだまだ乙女なのに!」


 その発言自体がもうすでにアレなのだが、俺はダリンにほんの少しだけ同情した。


 そんなこんなで、ロリヤルシカ大陸に上陸してから半月ほど。俺たちはついに大司教がいるヨージョ教の総本山へとたどり着いた。


 中に入り大聖堂と思われる場所まで来ると、祭壇の前で一人の男が何やら両手を掲げ天を仰いでいる。


「私の妄想を邪魔するのは何者だ? 私はヨージョ教の大司教タンジュンショージであるぞ! 痴れ者め、ここはお前たちのような輩が立ち入ってよい場所ではない!」


 祭壇から語りかける男は、これまたカイセージポルキンにも勝るとも劣らない、長年子供部屋に引きこもった氷河期おじさんのような禍々しい姿をしていた。


 お前もなんかーい! 俺は心の中で思いっきり突っ込んだ。


「ねぇ、ちょっとそこのあんた! 私にまたあの呪いをかけてメスガキにしてちょうだい!」


 俺がタンジュンショージの問いかけに答えようとした矢先、ダリンが唐突にそんなことを叫んだ。


「はぁ? おまっ、いきなり何言ってんの??」


 総本山までの道中、やけにそわそわした様子で変だなと思っていたのだが、ダリンのやつ、そんなことを企んでやがったのか。


 呪いをかけられてまでまたメスガキに戻りたいって残念過ぎるだろう。


「ん? 貴様は確かロスジェーネのババアか。すると、あとの二人はコドジアとダンジュニのおっさんというわけだな。ふん、誰であろうと私の妄想を邪魔する者は許さん!」


 こうして俺たちはタンジュンショージとの戦闘になった。


 レベルがカンストの俺ならこんなやつ楽勝と思ったのだが、ところがどっこい、タンジュンショージは無駄にマッチョで、どれだけ攻撃してもなかなか倒せない。


 そうこうしているうちに、クソざこなトンズラとダリンはあっさり死んでしまった。


 ねぇ、こいつら一体何のために仲間になってついてきたの? 俺は心の中でそうぼやいた。


 それはともかく、通常攻撃で倒せないとなるとどうしたらいい?


 そこで俺は、大司教を倒すための特別なアイテムがあるのを思い出した。


 こうなれば一か八かだ!


「これでも喰らえ!」


 俺は《メスガキのUSB》を使った。


「ふははははは! そんなもの効かぬわ! ……むむっ? こ、これは!?」

「そいつはメスガキをあの手この手でわからせた画像が収められたUSBだ!」

「何っ? メスガキをわからせた画像のUSB……だと!?」


 幼女の偶像崇拝を固く禁じているヨージョ教の大司教にとって、これは絶対に触れてはならないヤバいブツだ。


「あぁ! こ、こんなおぞましいものを手にしてしまうとは! 破滅する……、この身が破滅してしまう!」


 USBを手にして見苦しいほど動揺するタンジュンショージは、精神的にかなりのダメージを負ったようだ。


 よし、今だ!


 俺は激しく身悶えるタンジュンショージに止めの一撃を加えた。


「む、無念……。だが、これで勝ったと思うなよ。この命と引き換えに我が妄想をここに……ごふっ!」


 こうして激しい死闘の末、ついに俺は大司教タンジュンショージを倒した。


 最後に意味深なことを言っていたのがちょっと気になるが、どうせそんなのは単なるハッタリだろう。


 俺は床に落ちた《メスガキのUSB》を拾い上げると、改めてその威力の凄まじさにぞくぞくっときた。


 まぁ、実際に中身を見たわけじゃないからわからないけどね。


 すると――。


「ねぇねぇ、そこの氷河期のおじさ~ん♡ それ、持ってるのって犯罪だよ~?♡」


 そんな声とともに祭壇の裏から一人の女の子が現れた。

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