第5話
家に帰ると、もの凄く暗い表情で肩を落としている両親の姿があった。
二人共全く口を開かず、お通夜状態になっている。
「…ただいま。お母さんどうしたの?なんかヤバい雰囲気だけど…」
そう聞くと、お母さんは死にそうな声でこう言った。
「例のライバル店が今日オープンで…、お客さんがウチに全然来てくれなかったのよ。今日来てくれたお客さん、全部で3人よ………。3人…。」
私はハッとした。
“そうだ。すっかり忘れてた。今日は園田さん家のパン屋さんのオープン日だった…。
小夜子さんの力が効果を発揮するまで、だいたい一週間前後はかかると言っていた。
小夜子さんには今日頼んだばかり。効果が出るまでの一週間は売り上げが落ちちゃうんだ…。”
私は両親に何と言ってあげればいいのか分からず、何も言えなかった。
ライバル店が現れた事による影響の大きさを目の当たりにしてショックを受けていたし、こんな気持ちでは園田さんと仲良くお喋りなんてとても出来る気分じゃないと実感した。
“小夜子さんの言う通り。やっぱり私の頭はお花畑過ぎて甘かったのかもしれない…。”
そう思わずにはいられなかった。
私も両親と同様にお通夜モードに突入し、三人で売れ残りのパンを食べた。
「あのお店、オープン価格で全品通常よりも2割引で売っていたんですって…。」
お母さんが今にも消えそうな声でそう言った。
私はテーブルに無造作に放置されていた園田さん家のお店のチラシを見てみた。
「本当だ。全品2割引って書いてある。こりゃお客さんもこっちに行っちゃうよ…。お店も商品もお洒落だし…。」
「そうよね…。いっそのことウチももっとお洒落に改装してリニューアルした方が良いのかしら?」
お母さんが放心状態でそう言うと、お父さんがバンっとテーブルを叩いて怒り出した。
「バカ野郎!なんでウチがあんな店に競り合って改装なんてしなきゃいけないんだ!ずっとこの店構えでやってきただろうが!しかも改装なんてしている間に完全に客取られちまうぞ!!」
「あなたったら、そんなに怒る事ないじゃない。ちょっと言ってみただけよ…。」
「何が“ちょっと言ってみただけ”だ!!もう二度とそんな事言うんじゃえねぇぞ、気分悪りぃ!!」
両親の言い争いを見て、私はさらにドンヨリとした気分になった。
園田さん家のパン屋さんのせいでウチの家庭の雰囲気まで悪くなっちゃってる…。
この感じだと、“園田さんが同じクラスに転校してきた。”なんて口が裂けても言える雰囲気じゃない。
『紗菜、佳菜子、舞衣と私に加えて園田さんまで仲良く…』なんて、やっぱり私は凄くバカな事を考えていたのだと思い知った。
“…いや、でも小夜子さんの力の効果が発動すれば、お客さんは戻って来てくれるに違いない!
とりあえず一週間耐えよう。一週間後にはお客さんは絶対にウチのパン屋に戻って来てくれるはず!!絶対に!!!”
私は小夜子さんの力を信じる事にした。
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