3 怪談…?
「何があったんすか?」
俺は晶さんの怪談に口を挟んだ。
「それが5種類ほどあってね……」
スラスラと怪談を諳んじていた晶さんが、オチになった途端パソコンを見始めた。カンニングすな!
「えーと、赤い服を着た女が不気味に笑っている……ありがちだなあ。それのコンパチみたいな奴が3種類ほど。あとは振り返っても何も無かったパターン。それと、受験生の幽霊がいたパターン」
「受験生の幽霊って何……」
ぶっちゃけちょっと怖くなっていたのに、オチがついてないのですっかり拍子抜けしてしまった。
「つーか、振り返っても何も無かったらただの不審なおっさんの話ですよね」
「いや、そうはならない」
晶さんは俺を振り返った。
「生徒はその後、自殺している。これは現実の話だよ」
「マジすか」
普通に死人が出てる怪談だったのかよ。怖い。…ってか不謹慎では?
「でもそれって、受験のストレスで死んじゃった生徒がいて、それに尾ひれがついた、みたいな話なんじゃないすか? 晶さんが首突っ込むほどじゃないでしょ」
「受験のストレスは普通に私の専門だけどね」
私を何だと思ってるんだ空くんは、と呆れ顔の晶さん。
「とはいえ、たしかに私はその進学校の担当じゃないから、もちろんそれだけじゃないよ」
「っすよね」
「今日、その学校で屋上から飛び降りた子がいたらしい。これで亡くなったのは3人目」
「ええー?」
3人目か。
1人ならただのありふれた自殺。もちろんあってはならないことだけど。2人なら、影響を受けた誰かがいたのかも。それだってとんでもないことだけど。それが、3人。
「偶然と片付けるにはそろそろ……ってとこですか」
「まあ、そんなところ。件の学校はまだ事を公にしてないみたいだね。異常事態だし」
「晶さんは、幽霊の仕業だと思ってんすか?」
俺は少しふざけて言ってみたが、晶さんは笑い飛ばすことも怒ることもしなかった。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、って言うよね」
黒いベーゴマは、今もまだ静かに回り続けている。ずっとずっと、回り続ける――。
「枯れ尾花を幽霊に変えてしまう誰かはいるかもしれない」
「…そんなヤツがいるなら、もうしばらくコレは続くってことですか」
俺は言いながら、面談用の椅子から腰を上げた。
だったら晶さんはさしづめ、俺を幽霊から枯れ尾花にしてくれた人か。もちろんそんなことを今更言いはしないが。
「行ってくれるんだね」
「気は進まないですけどね」
うーん、今回はどんな目に遭うのかなあ。あんまり危なくないと嬉しいな(死人出てるけど)。
「行ってらっしゃい。気をつけてね、空くん」
「行ってきます。母さん」
俺、辻上空は、義理の母親である辻上晶にそう言って、第二相談室を後にした。これくらいの時間を、逢魔ヶ時というんだっけ。
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