2 怪談
ある進学校で、遅くまで自習をしていた生徒が帰路についた。
夏休みも終わり、受験勉強は日々苛烈さを増し、彼の精神は軋みをあげていた。重くのしかかる将来の不安。思うように伸びない模試の成績。親からのそれとない圧力……。
逃げ場のない心を抱え、日の暮れ始めた人気の無い道路をとぼとぼ歩く。今日何度目なのか見当もつかないため息をつく。
ポツポツと街灯が点いた。
もうすっかり日が落ちるのが早くなった。このままどんどん寒くなって、自分はあと何ヶ月間か、こうして重たい気持ちのまま夜の道を帰るのだ。何度も。
果てしない気持ちになる。冬の寒さが一足先に背中を撫でたような気がして、身震いする。
街灯が、ブーン……と耳障りな音を立てる。
――ふと、前方から男が歩いてくるのを見た。
人気の無い道なので少し身構えたが、なんということはない、帰宅途中のサラリーマンだろう。スーツ姿の、さして特徴もない、少し疲れた顔をした男だ。生徒はむしろ親近感すら覚えた。
そのまますれ違おうとして、気づく。
男がこちらを見て目を丸くしている。生徒は突然のことにたじろぐ。
「あの、何か……?」
こんな歳上の知り合いがいるほど交流関係は広くない。校外で遊んでいる時間などほとんど無いのだ。だとすればやはり不審者……? すぐに逃げるべきか。
しかしその必要は無かった。
「ひ、あ、ああああああああああァァァァァ!!」
サラリーマンの男は生徒の背後を指差し、絶叫した。そしてそのまま身を翻し、全速力でもと来た道を走っていった。
生徒はしばらく唖然としていたが、それが意味することにようやく気づいた。
恐る恐る、自分の背後を振り返る。
そこには――
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