馬鹿と胸は使いよう
第7話 馬鹿と胸は使いよう
休日の昼間から青春真っ只中の高校生とは思えないほど贅沢な時間の使い方をしている。朝から既に四時間以上はゲームを続けている。
『…… そうか、こういう闘いもあるんだ』
「やったぁ! これで三連勝!」
「ムカつく! なんでこんな痴女に負けるのよ!」
ウサギは喜びながら俺に向けてピースサインを見せる。対して桜はそっぽを向いていた。
「ねぇ。痴女って、言い過ぎじゃない?」
「事実じゃん。ウサギに似て品性がない」
「なに? 負け惜しみ? 可愛くないなぁ〜」
「はぁ? 私はウサギよりカワイイんですぅ」
————まさか、また始めるのか?
今年の六月にも二人はゲームを発端に大喧嘩をした結果、俺と陸を巻き込んで喧嘩の決着を付けることになったのだが……。
「やめろ。六月みたいになるぞ。」
「黙って。それにアレは優柔不断な壱成が悪い」
「そう。イチがちゃんと判定してくれればね」
返す言葉もない。
どうやら桜とウサギの矛先は俺に向いたようで、二人は顔を見合わせると何かを相談し始めた。相談は直ぐに終わり、学習椅子に座る俺にゆっくりと迫って来る。
嫌な予感がした為、立ち上がろうとした瞬間に桜が俺に向かって飛び込んできた。避ける訳にいかず、抱きしめる。
「なら、決着をつけましょう」
「どっちが上か、ね?」
気づいた時には俺の両足は椅子の足に固定されていた。今度は桜とウサギに両手を何かで縛られた。
「私が桜の役でもよかったんじゃない?」
「縛る物はウサギが持ってたから仕方ないでしょ」
足に目を向けるとウサギが先程まで付けていたベルトで縛られていた。手は何で縛られているかわからないが、ウサギが着ているパーカーの紐がなくなっていることに気がついた。
桜とウサギは打ち合わせを始める。
聞こえ漏れて来る会話から俺の口から判定を出させることは困難なため、俺のリアクションで決着をつけることにしたようだ。
「なら、私が先行で」
ウサギは顎に人差し指を当て、ゆっくりと頭を左右に振る。そして顎にあった指が天井を指す。
「……う〜ん。これかな?」
あぁ、多分、ロクでもないことだ。
ウサギはパーカーのジッパーをゆっくりと降ろすと途中で止めた。パーカーの中から白い肌と黒いキャミソールが現れる。
ウサギが弾むように俺の前に立つと前屈みになる。揺れる胸、揺れる胸、揺れる胸、そして胸の谷間。
バレている。
それはわかっているが目線は自然とウサギの胸へと向かう。目線を逸らしたいが本能はそれを許さない。
更にウサギはしゃがんで俺を見上げる。
顔を傾け、組んだ腕が結果として————
胸をより一層大きく
「触りたい?」
「……あ、いや、それは……」
「だ〜めぇ。桜の前では、ねっ!」
顔が…、いや、全身が熱い。
「……はい、おしまい」
ウサギは立ち上がると俺に背を向け、桜に向かって前屈みになって俺に見せたように胸を見せつけた。
「桜にこれは無理だよねぇ? 無理だよねぇ〜」
俺の目の前にはウサギの小さなお尻が左右に揺れる。……多分、ここまでがウサギの計画だろう。
何が『はい、おしまい』だ。
油断させて、不意打ちなんて……。
ウサギの頭の回転の速さに脱帽した。
そんな俺の考えを否定するように桜はウサギに全面否定の言葉を並べた。
「本気でそう思ってる? 本気でそう思っているのなら本当に頭が悪いわね。『大が小を兼ねる』なんて故事を鵜呑みにするなんて哀れで仕方ないよ。ミニマム化のこの時代に取り残されるわ。古事記にも載ってんだから。一度、読んでみたら?」
支離滅裂にも程がある物言いに流石のウサギも怒ったのか。古事記の件にもツッコミさえせず、挑発を返した。
「……なら、お手並み拝見といきましょう」
「ふふっ。対等な条件にしてあげる。服を貸して」
二人は部屋から出て行くと、暫くしてウサギだけが部屋へと戻ってきた。いつも桜が着ているTシャツだ。Tシャツにプリントされた猫が3キロ以上は太っていた。
「ちょっとキツいのよね」
桜がいない間にまたしても胸の大きさをちゃっかりアピールして来る。
そんな中、桜が部屋へと戻って来た。
ウサギを押し退けて、俺の前に立つとウサギと同じようにジッパーを降ろす。肌と少しブカい黒のキャミソールが目に映る。
前屈みなるとキャミソールと胸の間には大きな空間ができて中には桜色の————
「お、お前! な、な、な、なんで!」
「ふふっ。焦りすぎよ。壱成」
ウサギは何が起こっているか察しがついたようで、桜には駆け寄ると俺と間に立って桜の胸元を覗きに込んだ。
「アンタねぇ!」
「私の勝ち!」
「やっていいことと悪いことがあるでしょっ!?」
二人の喧嘩は夜まで続いた。
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