第16話 束の間の時間
その後リーダーたちとオレたちはその作戦の詳細を確認し、それが終わると敵の総攻撃を告げるサイレンがなるまでオレたちは一旦解散する事となった。
リーダー達はこれから先程広場で提案したタイムマシンを見る代表者達を厳重な警備の元案内するための準備をするようだった。
一方の司令室に呼ばれたオレ達はリーダーたちと別れ、司令室を後にして、再び忙しない基地の中を進み、他の特殊作戦部隊の人たちとも別れ、オレたち五人は基地を後にした。
そしてオレたちはリアラインの総攻撃に向けて、街の防衛のための準備が人々の手によって着々と進められている街中を進んだ。
その街には恐怖もあるがそれでも互いに励まし合ったり、集中して覚悟を決めている人々がいて街の雰囲気は前向きなように感じた。
その中にはタイムマシンの実物を見たい希望者を集めて代表者を決めている集団も見ることができた。
おそらく他の場所でも同様に代表者を決めているはずで、オレたちが司令室で話をしている間にも代表者選びは行われていたようだから、そのうち代表者たちが決まってその人達がタイムマシンを見に行くはずだ。
それから少し歩いたところでライとルイも自分たちの家族のもとへと向かい、別れ、オレはリィナとジャックと避難居住地へ向かって街中を歩いた。
「あ、お姉ちゃん! お兄ちゃん!」
オレたちが避難民居住地へ入って数分もしない内に、エマちゃんはオレたちを見つけた。
オレたちはエマちゃんとエコー区から逃れた人々と合流した後、みんなと一緒にリアラインの総攻撃に備えて防衛準備を整え、装備の点検を行ったりしていた。
そしてデルタ区全体の防衛準備が大体終わり、日が暮れ、みんなが休憩を取り始めた頃、代表者達にタイムマシンを見せ、デルタ街の見回りと人々に対するねぎらい、声掛けをしている父達リーダー達が最後にオレ達の下へとやってきた。
父達はエコーから逃れてきた人々にもデルタ区の人々と同様に声をかけ、励ましていた。その事にエコーの人々は感謝し、お互いに良好な関係が築けているようだった。
「寝ちゃったみたい」
リィナがご飯を食べ終わった後、彼女の腕の中に身を預けていたエマちゃんの頭をなでながらそう言った。
その光景をタイムマシンの点検をしているシェイラ博士はいないが、避難民居住地にあるテントの中で座ってくつろいでいる父さん、エディさん、ソフィアさん、エリィ姉さん、ジャックが微笑ましく見ており、この場をランプの光が穏やかに照らしている。
エマちゃんが首から下げているお母さんから貰ったペンダントもランプの光に優しく照らされていた。
「なんだかまだリィナ達が小さかった頃を思い出すなぁ」
ソフィアさんがそう呟き、姉さん達はうんうんと頷いている。
ただ父さんだけは何か他の事も考えているように見えた。とオレが思っていたら父がみんなに言うようにも自分に言い聞かせるようにも言った。
「これで良かったのか?」
父さんは自分の思いを吐露しているようだった。
「俺はみんなに過酷で厳しい戦いに向かうように、逃げないように促した。そして特殊作戦を遂行する者にはさらに重い人類の命運を背負わせている」
父さんは自分を責めるようにそう言った。
父さんに限らず、上に立つ者へのプレッシャーはとてつもないものだ。
たった一つの判断で、全てが崩壊するかもしれないし、全てが上手くいって最上の気分を味わえるかもしれない。
上に立つ者は自分とみんなを信じて、決定を下すしかないのだ。
「オレが指揮官で良かったのか?」
父さんは再び自分にもオレたちにも問うようにそう言った。
「俺は良かったと思うよ」
父さんの問にエディさんが答えた。
「仮にもし他に何か見つけられてない良い方法が合ったとしても、ノアルじゃなくて他の人がリーダーだったとしても、今の状況は俺達が選んで全力を尽くした結果だからな」
エディさんの言う通り、父さんをリーダーにしたのは巡り巡って今まで生きてきたみんなの意向だ。
その父さんが判断したことはオレたちが選んだことだ。
「出来ることは全てやった。後は皆と自分を信じるしか無い。みんなも分かってくれているはずさ」
エディさんは父さんを励ますようにそう言った。
「オレもそう思う。皆、最善は尽くしたから覚悟は出来てると思う。オレも出来てる」
オレも父さんを励ますように自分の覚悟を伝え、それにここにいるみんなも同意するように頷いている。
「そうか、みんなありがとう。でもやっぱりこれから起こる事の一番の責任は俺にあるはずだから、俺は最後までみんなを率いて戦って責任を果たすよ」
父さんは少し微笑んでそう言った。
「無理は……してるかもしれないけど、しすぎるなよ。いつでも俺達を頼ってくれ」
エディさんが父さんにそう言って、みんなもうんうんと頷いている。父さんは感慨深く分かったと頷いていた。
父さんは一人で色々背負い過ぎだとまだ思う。それでも父さんの苦しみを少しでも取り除けていたら良いなともオレは思った。
「それにしてもまさか俺がみんなに命令するような立場になるなんて昔は思いもしなかったな」
そういえば父さんは昔は人前に立つような人ではなかったらしくて、最初からデルタ区のリーダーでもなかったと聞いている。
「レアン、もしお前が過去に行くことになればその時魂を繋ぐ先の人間に選ばれるのは高い確率で過去の俺になるはずだ」
父さんがそう言った。確かにシェイラ博士の話し通りならそうなる。
「その、過去の時代の俺は、心を閉ざしがちで最初からダメだとか、後ろ向きなことを言って諦めるかもしれない」
でも父さんは父さんだ。根幹の部分は変わらないはずだ。
「その時は過去の俺を無理やりにでも引っ張ってやってほしい」
父さんは苦笑しながらオレにそう言った。
「分かった、思いっきり引っ張るよ」
オレも苦笑しながらそう返した。姉さん達もその二人の会話を聞いて苦笑していた。
「姉さんも、みんなも私達のこと見てくれているのかな?」
姉さんはオレの母と、おそらく父さんや母さんたちと共にデルタ区を創設した仲間たちのことを思いながらそう呟いた。
「みんなきっと見てくれているさ」
エディさんが姉さんの言った人達を思うようにそう言った。
「母さんたちの事?」
オレが二人にそう尋ねると「そう」と姉さんが頷いて答えてくれた。
オレは母さんを亡くした時、父さんや姉さんと違ってまだ物心つかない子供だったから母さんのことを覚えてない。
「あなたのお母さん、私の姉さんはいつも前向きで明るくて最後まで諦めない人だった」
姉さんはオレの母さんの事を懐かしみ思い出していた。
「とても優しい人だった」
父さんも母さんの事を懐かしむようにそう言った。
「でもそんな母さんも皆の見えない所で悩んで、苦しんでいる時もあったんだ。だからお前も、なるべく無茶しすぎないようにな」
父さんはオレにそう言った。
「分かった。でもオレは大丈夫、無理してない」
「そっか、なら良い」
父さんは安心したようだった。
「母さんに会いたいな」
気づいたときにはオレはそう呟いていた。
「私も姉さんやみんなに会いたい」
「そうだな、俺も会いたいな」
と姉さんや父さん、みんなも今は亡き、大切な人達に会いたいという思いは同じのようだった。
「あ、でもレアンは過去に行ったら、若い頃の母さんやエリィ、デルタ区を一緒に創設した仲間たちにも会えるかもしれないな」
父さんはオレにそう言った。
そっか、過去に行ければ母さん達にも会えるのかもしれないのか。
「会えるといいね、姉さんに。私はまだその時は小さい子供だけど」
エリィ姉さんがオレに穏やかに苦笑してそう言い、「会えるといいな」と父さんもと穏やかにオレに言った。
それにオレはうんと頷いた。本当に、会えるといいな。
それからしばらく今は亡き、大切な人達に思いを馳せた後、「さぁ、もう俺達も休もうか。敵はいつ来るか分からないからな、それまでにしっかり休んで置くんだ」と父が言って、オレたちは互いに「おやすみ」と言ってテントに敷いてある寝具に横になって眠りへと落ちた。
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