第13話 父と息子
オレ達はデルタ区の人々の加勢に向かい、ロボットに気づかれないギリギリの範囲まで車両を走らせ、半壊している建物の横に車両を止めた。
「オレ達はデルタの救援に向かいます。みなさんはここで待っててください」
オレは助けたエコーのみんなにそう告げ、みんなは分かったと頷いてくれた。
「ちょっと待っててね。敵を倒したらすぐ戻ってくるから」
リィナもエマちゃんにそう告げたが、エマちゃんは心配でたまらない様子だった。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、必ず戻ってくるから。ここにいるみんなもあなたを守ってくれるわ。」
リィナはエマちゃんを抱きしめた。
「わかった、きをつけて」
エマちゃんもリィナに抱きついた。
「ありがとう、エマちゃん」
リィナは近くに座っていた子連れの家族にエマちゃんを預けると、オレと共に兵用トラックの荷台から降りた。その時ジャック、ライとルイももう一台の兵用車両から降りて、オレ達は合流した。
ただ彼らに続くようにエコーで共に戦った兵士の二人も車両から降りて、オレ達の元に来た。
「二人はここに残って、エコーのみんなを守ってください」
オレは二人の兵士にそう伝えたが、二人の兵士は首を縦に振らなかった。
「俺達も戦います」
「ですが、みんながーー」
「どのみち、デルタ区にもしものことがあれば俺達の行き場はありませんから。俺達も戦わせてください」
二人の兵士は覚悟を決めているようだった。確かに二人の言うとおりだが、もしここに敵が来るような事があったら……
「俺達は大丈夫です」
荷台の上で話しを聞いていたエコー区の男性がそう言った。それに続くように他のエコーのみんなも「私達は大丈夫です。なので助けに行ってください」「俺達のことは気にするな」等の声をオレやオレの隊のみんなにかけてくれた。
エマちゃんも不安げな様子だったが大丈夫だと言うように大きく頷いてくれた。
「みんな……」
オレは胸が熱くなるのを感じた。
「レアンさん、みんな大丈夫です」
兵士の一人もそう言った。
オレは決断した。
エコー区の一般人の人々のみをここに置いていく。危険だが一応銃を持った人はいるから少しの敵ならここに気ても彼らのみでなんとかなるかもしれない。
オレ達はエコーのみんなと別れを告げ、オレとオレの班の班員、エコー区の兵士の二人と、デルタ区の人々と敵のロボットたちが戦っている戦場へ向かった。
オレ達はその戦場へとたどり着いた。
そこでは激しい市街地戦が繰り広げられ、無数の銃弾が飛び交い、銃撃音が途絶えることがなかった。
オレは味方と敵の様子を確認した。
デルタ区へと続く検問所前で、敵の攻撃に備えて常時敷いてある防御陣地で応戦しているのがデルタ区の人々だ。対して街道を挟んだ逆側で人類を攻撃しているのが敵ロボットの一団だ。
戦闘は膠着状態。敵の数はデルタを落とせるほどの数ではないが、デルタの人々も決め手に欠け苦戦している。
ただ、敵はデルタの人々に釘付けでコチラに対しては無防備だ。
「オレ達は敵の側面を貫く」
オレは班員と兵士の二人にそう告げ、問うた。
「準備は良いか?」
その問いにみんなも覚悟を決め、頷いてくれた。
おそらくもうデルタ区の人々の死傷者数は少なくないが、さらにこれ以上増やすわけには行かない。
オレはタイミングを見計らい、機会を待った。
「今だ!」
オレ達は跳び出し、敵ロボットの側面から攻撃を仕掛けた。
一斉に銃撃を浴びせ、一気に敵を葬る。
その攻撃に多くの敵がひるんだが、体勢を立て直した敵は反撃してきた。
その反撃をオレたちは遮蔽物に隠れ、やり過ごすと、再び敵に銃撃を浴びせ、更に多くの敵を倒す。
それをさらに二回程繰り返した所で、オレ達に応戦する敵の数が増え、オレ達は身動きが取れなくなったが、それは敵のデルタ区側の味方への注意が揺らいだことを意味する。
その時、デルタ区の味方陣地で号令が駆け巡るのが聞こえた。
「今が好機だ! みんな、俺に続け!!」
その号令を上げた人と共に、デルタの人々が雄叫びを上げながら敵に激しい銃撃を浴びせ、突撃していく。
そのデルタの人々の渾身の攻撃に敵は不意をつかれた。
多くの敵が銃撃に倒れ、混乱が広がり、敵の体勢が立て直し不可能な程に崩れる。人々の犠牲も少なくはないが、それでも敵は着実に一体、また一体と撃破されていく。
そして遂に敵が撤退していくのをオレは確認した。
「やった!」
兵士の一人がそう言った。
ただその撤退してくるロボットたちの中に、オレたちの方に撤退し向かってくるロボット達がいた。
「みんな敵をここから通すな! 絶対に死守するんだ!」
オレはみんなにそう叫び、オレたちはその迫りくる敵に応戦する。
ここを敵に通すわけには行かない。ここを敵に抜けさせたらエマちゃんたちの元に敵が行ってしまう。
でもだめだ! 数が多くて対処しきれない!
まずい、エコー区の兵士の二人がピンチだ。
やられる。そうオレが思った時、エコーの兵士二人を狙っていた敵ロボットの頭部を銃弾が貫いた。
さらにオレ達の元へ向かってくる敵が、どこからか撃ち抜かれ、一体、また一体と倒れていく。
味方の狙撃手の援護だ。助かった。
オレ達はその狙撃手の援護もあり、デルタの人々がたどり着くまでの間なんとか敵を後ろに通すことは無く撃退し続け、デルタの人々がたどり着いた後はコチラ側へ撤退してくる敵を倒しきることが出来た。
そしてこの戦場から敵を撃退し、今回の戦闘は終わり、少なくない犠牲者を出しながらもデルタ区の人々の勝利に終わった。
すると歓喜に湧くデルタ区の人々はオレ達の方に向かい、歓迎の声で迎えてくれた。
そして街道の真ん中に導くように人道を開け、オレ達はその道を歩いた。
その先にはオレ達が作ったチャンスを見逃さず、反撃の号令を出したくれたこの基地の司令官がいた。
さらにその人の右横にはジャックの養父で、年齢は三十代前半、薄い褐色の肌に、黒髪、威厳がありつつも穏やかな顔立ちをした副司令官のエディさん。左横にはオレの叔母さんでさっきオレ達を助けてくれた狙撃手、年齢は二十代中盤辺り、白い肌に金髪、整った顔立ちのエリィ姉さん。年齢は三十代前半、赤毛の髪に、そばかすの似合う親しみやすいお姉さん的な顔立ち、リィナの母で司令官やエディさんを支えているソフィアさんもいる。
そして三十代前半で白寄りの肌に黒髪の司令官はオレを見つけると声をかけてくれた。
「レアン、よくやったな」
「父さん」
オレに声をかけたその人は、このデルタ区の人々を率いる司令官であり、オレの父だ。
「ノアルさん」
オレの父の名をオレの後ろにいたリィナが呼んだ。
「みんなも良くやった。よく戻って来てくれた」
父はオレの班員とエコーの兵士二人をねぎらうと、今度はここにいる全ての人々に向き直った。
そして父は一呼吸置くと、天高く銃を突き上げ、みんなに叫んだ。
「我らの勝利だ!!」
するとデルタの人々も父の叫びに呼応し、勝利の雄叫びを上げた。
オレや班員、エコーの兵士二人もそれに続くように雄叫びを上げ、地を揺るがすほどの人々の歓声が一帯を包み込み、薄れた曇り空から顔を覗かせデルタ区を照らす陽の光も、人類の勝利を祝福してくれているようだった。
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