~未来編~
第12話 現実と希望
オレ達は曇り雲の間から出る昼間の太陽に照らされた荒廃した街中を破壊されたエコー区から救出した人々共にデルタ区へと二台の車両で走り向かっていた。
もう人類に残された居住地はデルタ区ただ一つしかなくなってしまった。そのデルタ区にもロボットの総攻撃が来る日はそう遠くないだろう。デルタ区が侵略されれば人類は反撃の機会を失い、人類の未来は限りなく閉ざされてしまう。
「お姉ちゃん。私たち、これからどうなるの?」
オレとリィナの間に座っている先ほどエコー基地で助けた生存者の一人の小さな女の子が無気力な声でリィナに尋ねた。
「お父さんとお母さんが死んじゃって、助けてもらった司令官さんも死んじゃった」
オレは二人の様子を見守っていた。
「私も、皆も死んじゃうの?」
女の子はうつろな瞳でリィナを見ながらそう言った。
リィナは少しでもその女の子の心を支えられるように彼女の手を優しく両手で包み込んで尋ねた。
「そういえばまだあなたのお名前聞いてなかったね。教えてもらっても良いかな?」
「エマ」
女の子はエマと名乗り答えてくれた。
「エマちゃん。私はリィナ、そこのお兄ちゃんはレアン、改めてよろしくね」
リィナは自分とオレの名前を紹介し、オレも「よろしく」と明るい声でエマちゃんに言った。
「うん」
元気はなかったがエマちゃんは頷いてくれた。
「エマちゃん、正直に言うね」
リィナはエマちゃんに出来る限り安心できるような声色で話した。
「たしかに今のままだとエマちゃんの言う通りになる可能性は高くて、このまま皆死んでしまうかもしれない。それで私も諦めそうになることがあったの」
エマちゃんもリィナの話を真剣に聞いていた。
「でもそこのレアンにまだそうなると決まったわけじゃない、諦めない限りまだ終わってないって言われてね。私も頑張ってみようって思ったんだ」
その時リィナはオレの方を見て、再びエマちゃんの方に目線を戻した。
「だから私やレアンは最後まで皆を救う方法を考える。そして最後まで皆を、あなたを守るために戦うよ。だからエマちゃんにも少しでも良いから、希望を捨てないで生きることを諦めないで頑張ってほしいんだ」
他に話を聞いている人達も二人のやり取りを見守っていた。
「私達と一緒に頑張ってくれるかな?」
リィナは優しい声でエマちゃんにそう言った。
「お姉ちゃん、私……」
エマちゃんの声は震えていた。
その瞬間リィナはエマちゃんの体をやさしく抱きしめ包み込んで「ごめんね、怖かったよね」と言った。
その時エマちゃんも堰を切ったように泣き始めた。
それでも嗚咽を漏らしながらもエマちゃんは「私、頑張る」と言ってくれた。
「ありがとう、エマちゃん」
リィナはエマちゃんを抱きしめながらそう言った。
「エマちゃん、オレも最後まで皆もエマちゃんも守るよ」
オレもエマちゃんが少しでも安心できるように彼女の頭を優しく撫でた。
エマちゃんはリィナの腕の中で暫く泣き続けた。
その様子を生存者のみんなも静かに見守るように眺めていた。
守りたい、エマちゃんもみんなも。何か、何か方法は無いのか?
エマちゃんは泣き止んだ後もリィナと手を繋いでいた。
「そのペンダント、かわいいね」
エマちゃんがお母さんからもらったという事を知らないリィナはエマちゃんが首から下げている赤い綺麗なペンダントを見てそう言った。
「うん、これお母さんからもらったものなんだ」
エマちゃんはペンダントが可愛いねと言われた事は嬉しそうだったが、やはり悲しげな様子だった。
それでもエマちゃんはオレたちによく見えるように赤いペンダントを持って見せてくれた。
エマちゃんの答えを聞いて複雑な表情を浮かべていたリィナもすぐに切り替え、エマちゃんが安心できるように微笑み、お礼を言った。
「見せてくれてありがとう」
リィナがそう言うと、エマちゃんはうんと頷き、再びペンダントに視線を戻した。
「お母さん、これが私の事を守ってくれるって言ってた」
「えぇきっとそのペンダントもお母さん、お父さん、司令官さんもみんな、あなたのことを見守ってるよ」
リィナはエマちゃんに優しくそう言った。
「一緒に頑張ろうね」
エマちゃんはうんとうなずいた。
その時丁度、車両の前方が見渡せる比較的開けた場所に出た。
「あっ、あれがお姉ちゃんとお兄ちゃんの住んでる街?」
エマちゃんがデルタ区がある前方の街中を指差した。オレとリィナもその方向を見た。
「うん、そうだーー」
そうだよと言いかけてオレは気付いた。
「あれは」
そこにはロボットの軍団と激しい戦闘を繰り広げているデルタの人々の姿があった。
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