第11話 知ること
アリスさんのおばあさんの家は一昔前の少し立派な田舎の家という感じだった。
アリスさんは家のドアの鍵を開け、僕たちは家の中に上がった。
僕たちは昼間からずっと歩いて走っていたこともあってそのままリビングのイスとソファーに座って疲れを癒やした。
アリスさんのおばあさんの家の中は綺麗に整理されており、アリスさんの言っていた通り目立ったほこりや汚れ等も無かった。
「あっ、家族から返信来てる」
エディがスマホを見ながらそう呟いた。
「良かった、何事も無かったみたいだ。急に友達の家に泊りだから心配はされてるけど一応納得してくれてるみたい」
エディがそう言ってそれに「オレも」「オレも」「私も」とヒロとアルフとアリスさんも続いた。
みんな、ご家族に心配されているようだった。
急に友達の家にお泊りだから、皆のご家族が心配するのもしょうがない事だ。何とか納得してくれているだけでもありがたい。
「これからどうする?」
エディが皆に尋ねた。
「オレは昼飯軽くしか食べてないから、とりあえず何か買って食べたいかな」
ヒロがそう言うと、アリスさんが皆に尋ねた。
「それなら一応この家にも食べられる物はあるけどどうする? 買いに行く? それともここにあるものにする?」
「この家にあるものを頂いて良いなら、オレはそうさせて頂きたいです。結構歩いたり、走ったりしたからさ」
ヒロがそう言うと僕もみんなも「頂いて良いなら」とヒロに賛成した。
どうやら僕もみんなもこの家にあるもので夕飯にしたいらしく、それはアリスさんも同じだった。
というわけで僕たちは今日の夕飯はこのアリスさんのおばあさんの家にある食べ物をいただくことに決めた。
僕たちはアリスさんに連れられ、台所付近の棚や引き出しから夕飯分の缶詰や瓶詰めレトルト食品、水やジュースを取り出し、それらを机の上に置いた。
その間に外はほぼ太陽が沈んで家の中も暗くなってきていたためみんなでカーテンを閉め、電気をつけた。
それから夕飯の準備を終えるとみんな席について「いただきます」とした後、先ほど取り出したものの中から好きなものを皿に取って、コップに注ぎ、夕飯として食べて飲んだ。
みんなも僕も疲れてお腹が空いていたからかあまり感想なども喋らず夢中でご飯を食べていた。
「みんな、そろそろ約束してた話をしても良いか?」
皆が食べ終えてきた頃、僕の横に座っているレアンが皆の方を見て尋ねた。
みんなもうんと頷き、レアンの方を見た。
レアンは皆に昨日の朝から今日までの出来事や、自分が未来から来たこと、その未来の世界では人とロボットが戦争をしていること、自分の未来での記憶はまだあまり思い出せていないが寝るときに見る夢で未来の記憶を思い出す事があるという事、魂化と現体化のことなどのレアンと僕が今現在分かっていることを皆に話した。
その話を聞いてる間みんなは驚いているようだったが、それでも真剣に話を聞いてくれた。
「みんなにとってこの話がとても信じられないことだっていうのは分かってる。でも今のオレに話せることはこれで全部なんだ」
レアンが話し終えた後もみんなは戸惑っており、少しの間沈黙が続いた。
「レアン、とりあえず話してくれてありがとう」
そんな沈黙を破ったのはアルフだった。
「正直なところ、オレはまだレアンの話を信じることは出来ない。どう考えていいか分からないんだ」
アルフは正直な感想を言ってくれた。
「でももしその話が真実なら、オレ達は今の当たり前な日常が跡形もなく消え去る前に一刻も早くその戦争が起きないように何とかしなければならないってことだ。だからもしレアンがこれから何か思い出して分かった事があったら、オレにも話せるだけ話してほしい。そうしてくれればオレもレアンの話をどう考えれば良いか分かるかもしれないからさ」
アルフはレアンに自分の考えを話した。
「ありがとう、アルフ。何か分かったら出来る限りアルフやみんなにも話すよ」
レアンはアルフに感謝して答えた。
アルフはレアンの答えに頷いて「みんなはどうだ?」と今度はみんなにレアンの事をどう思っているのか聞いた。
「私はもっとレアン君自身の事を知りたいな。そうすれば話が本当なのかも考えやすくなると思うし、何より私はもっとレアン君、みんなの事も知って、仲良くなりたい」
アリスさんはみんなに穏やかにそう言った。
「オレもレアンのこと皆のことももっと知りたいな」
「僕もそう思う」
「私も、そうなのかな」
ヒロもエディも、一応レイラさんもアリスさんと同じ思いのようだった。
「僕もみんなと同じ考えだよ」と僕も皆に伝えると、アルフも「オレもそうだな」と頷いてくれた。
どうやらみんな、レアンの話を信じられるかは置いといてもレアン自身の事を知って、話を考えようとしてくれているみたいだった。
「みんな。オレ、ここにいても良いのか?」
レアンは皆に尋ねた。
「もちろん!」
みんなはレアンを歓迎して暖かく迎えてくれた。
その後僕たちは夕飯で出たゴミを捨て、皿やコップを洗って片付けていたが、みんなレアンの話しのことを考え込んでしまい、お互いの本音を話しあうという素晴らしいことだが勇気もいることをしていたからか少し恥ずかしくなってしまったのもあって、少し暗く気まずい何を喋って良いのか分からない空気になっていた。
そんな時ヒロが「トランプゲームをやろう」と鶴の一声を発してくれた。
それからみんなでしばらく雑談をしながら楽しくトランプゲームをして遊び、皆いつもの調子に戻っていった。
そしてそろそろ風呂に入ってシャワーを浴びようということになり、その順番はどうするか決めた。
その順番はまず先に女子二人が一人づつお風呂に入ることに決まり、その後男子が一人づつお風呂に入ることに決まったので、女子二人は一階にいて僕たち男子は二階の部屋で引き続きトランプゲームをしていた。
「そういえばノアル、レアン、後ここにはいないレイラさんもなんだけど。昨日、アリスさんのこと助けてくれてありがとな」
ゲーム中の手を止めてアルフが僕とレアンにお礼を言ってくれた。
ヒロとエディも「ありがとな」とか「ありがとう」と言って感謝を伝えてくれた。
「それはお互い様だ」とレアンは答えていた。
一方の僕は一応うんと頷いたが「レアンとレイラさんのおかげだよ、僕はあの時ほとんど何もしてなくて」と三人に伝えた。
みんな感謝してくれてとてもありがたかったがあの時は二人が頑張ってくれたお陰だ。
「三人はあのグループに立ち向かって仲間を守ってくれた」
それでもエディは僕の言ったことに対して首を横に振ってそう答えてくれた。
「僕たちはあの時音楽部の教室で集まって話し合っていて、アリスさんの事を知って駆けつけた時には全て終わってた後だったから、ノアルにもレアンにもレイラさんにも本当に感謝してるんだ」
エディが少し照れくさそうにそう言ってくれて、僕も照れくさかったけどそれ以上に嬉しかった。
さらに今度はヒロがあの時の事を説明してくれた。
「オレ達、特にアリスさんとは最近ずっとソフィアさんのことが合って以来疎遠になってしまっていたから、その事を昨日の昼久しぶりに集まってこのままでいいのか三人で話し合っていたんだ」
そうだったのか。やっぱり今の話にも出てきた今はいない音楽部メンバーのソフィアさんのことは気になる。
「でも今はみんなで集まってお泊まり会してるんだから、びっくりだよ」
エディは和やかにそう言った。
「ソフィアさんがいないのは寂しいけど、こうしてみんなと一緒に過ごすことが出来て、オレはありがたいし嬉しいんだ」
ヒロも少し照れながらも自分の思いをみんなに話してくれた。
エディもアルフもうんうんと頷いていた。どうやらみんな同じ思いのようだった。
「僕もみんなと一緒に入られて、ありがたいし嬉しいよ」
僕も恥ずかしかったが自分の思いを皆に話した。
僕は少しだけだがみんなの事を知ることが出来たような気がした。
でもやっぱりソフィアさんの話は気になる。みんなの間に何があったのか。
聞いてみるべきか、でも嫌なことだったら。でもやっぱり知りたい。みんなの事を知りたい。
「あの、みんなに聞きたいことがあって。良いかな?」
僕が尋ねると、みんな良いよと頷いてくれた。
「話したくなかったら全然大丈夫なんだけど。みんなとソフィアさんの間に何があったのかなって気になって」
僕がそう尋ねると、ヒロが言った。
「ごめん、やっぱ気になるよな。オレもそろそろソフィアさんのことをノアル、レアン、レイラさんにも話したほうが良いかなって思ってたんだ」
「確かにオレもソフィアさんの件は三人にも知っておいてもらったほうが良いと思うよ」
「僕も話したほうがいいと思う。アリスさんにとっても、ソフィアさんにとっても」
ヒロに続いて、アルフ、エディもソフィアさんのことを話すことに賛成してくれた。
「レイラさんはここにいないからまた後で話すけど。ノアル、レアン、聞いてくれるか?」
ヒロはソフィアさんの話を聞いてくれるか僕達に尋ね、僕達はうんと頷いた。
ヒロはここにいるみんなの承諾を得て、ソフィアさんのことについて話を始めた。
「もともと音楽部にはもう一人ソフィアさんっていう仲間がいるんだ」
ヒロの話を僕もみんなも集中して聞いた。
「ソフィアさんはアリスさんの幼馴染で音楽部ではキーボードとたまにボーカルを兼任していたんだ」
やっぱりそうだったのか、だから僕はいなくなってしまったソフィアさんのかわりにキーボードを任されたのか。
「そのソフィアさんがある日を境に学校の一部の奴らから、いじめを受けるようになった。ソフィアさんは真面目な性格の人なんだけど、そんなソフィアさんの優等生な性格がそれを良く思わない奴らに目を付けられてしまったことが始まりだったらしい」
おそらくヒロの言う学校の一部の奴は、一昨日の昼食時にレアンが懲らしめた人達のことだろう。
「アリスさんはソフィアさんがイジメられている事に気づいて、それからソフィアさんもアリスさんにはよく相談して、アリスさんもソフィアさんを精一杯庇ってたみたいなんだけど、それでもそのイジメの内容はひどくなっていって、二か月後にはソフィアさんは学校に来なくなってしまった」
普段温厚なアリスさんが、彼らと言い争っていた姿が思い出される。
それほど耐えられない怒りが彼、彼女らに対してあったんだ。
「その事をオレたちが知ったのはソフィアさんが来なくなってからで、アリスさんはソフィアさんからの頼みもあって虐められている事をオレ達には打ち明けられなかったみたいなんだ」
助けて、というのは以外に耐える事よりも難しいのかもしれない。僕もソフィアさんと同じ立場だったらおそらく言えない。
「俺達はソフィアさんにメールを送ってみたんだけど返信はなくて。家にも行ってみようかとも思ったんだけど、今は一人にして欲しいってソフィアさんにアリスさんが言われたらしいから、結局何も出来ないままだった」
確かに相手に無理をさせてしまう可能性もある。
「それとオレたちはアリスさんのことも心配だったから大丈夫かと聞いてたんだけど、アリスさんは大丈夫って返していたんだ」
アリスさんの性格だから、ソフィアさんがふさぎ込んでしまったときは深く自分の事を攻めたりしていそうだ。
「それ以来、俺達もなんとなく疎遠になってしまっていたんだ」
ソフィアさんに対するいじめは結果として、音楽部全体に大きな傷跡を残したんだ。
「そんな時、一昨日のアリスさんとあいつらの事を聞いて、アリスさんを助けてくれた三人の事も聞いた。それで俺達はまた知らないところで仲間を傷つけられて、失うのは絶対に嫌だって思ったんだ」
ヒロはそう言って、続けた。
「だから皆で再び集まろうってアリスさんにも連絡して、そしたらアリスさんは仲間を救って、俺達皆に再び繋がるきっかけを与えてくれたノアル、レアン、レイラさんを連れてきてくれた」
そして今に至ると言うことか。
「俺達は本当に君達に救われたんだ、ありがとな」
ヒロは僕とレアンにお礼を言ってくれて「ありがとな」と「ありがとう」とアルフやエディもお礼を言ってくれた。
「あ、いや、うん」
僕は照れくさかったが嬉しかった。
「俺達はこれからソフィアさんとアリスさんの事を尊重して慎重に、でも少しでも支えになれるように行動して行くつもりだ」
ヒロがそう言ってアルフとエディもうんうんと頷いていた。
「今回の文化祭にアリスさんがソフィアさんを誘ってくれてるみたいだから、もしかしたらソフィアさんが俺達のライブを見に来てくれるかもしれない。その時にソフィアさんが楽しかったって気持ちを思い出して、また戻ってきたいって思えるようなライブにしたいんだ。そして俺達はまたソフィアさんを迎い入れて全員で音楽をやっていければ良いなって思ってるんだ」
ヒロはそう言って「良かったらノアル達も力になってくれると、ソフィアさんが戻って来たときには温かく迎え入れてくれると助かるよ」と僕たちに頼んだ。その頼みに僕とレアンは固く頷いて「もちろん」とか「分かった」と伝えた。
みんな、大切な仲間を心から支えたいと思っている様子だった。
僕もアリスさんとソフィアさんを、二人だけでもなく、この温かい場所に僕を導き迎えてくれた優しいみんなの心の支えに少しでもなりたいと思った。
そうか、こうやって少しづつ人の事を知っていくんだな。
レアンと出会うまでの僕は無意識のうちに自分の方にばかり意識を向けていて、全然人のことを知ろうとしていなかった。だから全然他の人の事を知らなかった。というよりその事にすら気づいていなかった。
でも今はレアンやアリスさん、皆の方にも意識が向いて、話をしているから知ることも知られることも多いんだ。
当たり前のことなのかもしれないけど、やっと気づけたような気がする。
僕は自分や家族以外の人のことを全然知らない。だからこれからは外の方にも意識を向けて、自分以外の人の事も知るよう心がけてみよう。
僕がそんな事を思っていると、僕たちの部屋のドアが軽く三回ノックされた。
「上がったよー」とドア越しからアリスさんの声がした。
アリスさんとレイラさんがお風呂から上がって、その事を僕たちに知らせに来てくれたのだ。
それから僕たちは女子二人と入れ替わる形で部屋を出て一階に移動し、一人づつお風呂に入って行った。一方の女子二人は二階でおそらく雑談したりトランプで遊んだりしている。
そしてみんながお風呂を済ました後は、再び一階で雑談しながらトランプゲームを少しやって、時間も時間になった頃、寝る準備を済ませた。
それから僕たちは「おやすみ」と互いに言い合った後、三部屋にアリスさんとレイラさん、ヒロとエディとアルフ、僕とレアンと分かれ、それぞれの部屋で寝ることにした。
「じゃあおやすみ。ノアル」
レアンが僕にそう言った。
「おやすみ」
僕もレアンにそう言った。
僕とレアンは電気を消してそれぞれのベッドの上に横になった。
そして僕の意識は今日色々あったからか、疲れもあるからなのか、さほど時間はかからず眠りにつくことが出来た。
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