第10話 別世界
「すっげー、まるで別世界みたいだ」
ヒロがその先の光景を見てそう言った。
「ここだけ時が止まってるみたいだよ」
エディもそう呟いた。
僕たちが階段を降りた未知の領域には、橙色の照明が朽ち果てた古い家や店をうっすらと照らし、使われず捨て置かれた昔のレンガや木材などの材料や看板、生活用品などが辺りに散乱していた。
それでも一応道と言えるようなものはあり、散らかっているが人が通れないほどではなかった。多分この道を僕たちはこれから通ってアリスさんのおばあさんの家に向かうのだろう。
アリスさん以外のみんながこの別世界のような雰囲気のある古びた地下都市のような場所に驚き感嘆していた。
その様子を見ていたアリスさんは嬉しそうに微笑んでいた。
僕たちはアリスさんに続いてその中を道に沿って進んで行った。
「ここって、この町の観光名所でもある地下都市の一部か?」
アルフがアリスさんに聞いて、アリスさんが答えた。
「うん、そのとおりだよ」
「どういう場所だっけ?」
ヒロが辺りを興味津々に見渡しながら聞いた。
「ここは昔焼失して暫く忘れられてた街だよ」
アリスさんはこの廃地下都市の説明をしてくれた。
「今から大体百二、三十年前にこの街で大きい火事があって、死者は出なかったらしいんだけど街が焼失しちゃって、その後街を再建する時に此処より高い位置に再建したから、ここに残っていた建物は暫くの間忘れられてたんだけど、数十年前に保護されて観光地化したって、ここの地下都市の観光スタッフさんから聞いたよ」
「そっか、じゃあオレたちは今その観光地に助けられてるんだな」
ヒロがありがたそうにそう言った。
確かに、ここがなければ今頃僕たちは上にあるいつもの街をロボットたちに見つからないようにしながら移動するしか無かった。そうなってたらかなり厳しかっただろう。
「その地下都市がアリスさんの家と繋がってるのはどうしてなんだ?」
再びアルフがアリスさんに尋ねた。
「それは私達が住む前のかなり昔の家の人が、この地下都市と繋がるように家を作って使ってたからなんじゃないかって観光スタッフさんに聞いたよ。スタッフさんによるとその前の家の人が亡くなった後、時が経つ内に家が改修されて、それ以来ずっと忘れられてたんだけど、偶然私達が見つけたってことらしいんだ」
「凄い確率だな、そんな凄い秘密がある家に住むなんて」
「うん、私もこの家にそんな凄い秘密があるって知ったときはびっくりしたよ」
アリスさんは苦笑していた。
「そっか。それならアリスさんの家がこの地下都市と繋がっていることは、此処のスタッフの方は知っているのか?」
再びアルフがアリスさんに聞いて、アリスさんが頷いて答えた。
「うん、ちゃんと一部の場所は通っても良いって許可も取ってるよ。なんなら今から通る場所の整理も私や私の家族と一緒にしてくれたんだ」
アリスさんはそう言って、昔を懐かしむように微笑みながら話してくれた。
「私の家の隠し床の下は観光ルートとは少し離れたところにあったから、最初は歩けないくらい色々散らかってたんだけど、家族みんなで少しづつ物を整理して、照明もつけていったりしてたんだけど、そしたらスタッフさんも手伝ってくれて、最後には今向かってる出口まで通れるようになったんだ」
説明をしているときのアリスさんの表情は穏やかだったが、少し寂しさも含まれているように僕には見えた。
今、僕たちがここを通れるのはアリスさんとそのご家族、観光スタッフさんのおかげなんだな。
「あっ、後、さっきのスライド棚と隠し床も家族皆で作ったんだ。父がそういうの好きだったから」
アリスさんは説明をした後、そう付け加えた。
「「好きだったから」」過去形なのか。何かアリスさんのお父さんにあったのかもしれない。
「そっか。じゃあアリスさんの考えはこの町の観光名所にもなっているこの地下都市を通って、おばあさんの家まで行こうってことか?」
アルフは再びアリスさんに聞いた。
「うん、そういうこと。ただこの地下都市が続いているのは隣のトンネルだから、私たちは地下都市を通ってトンネルに出て、そこから隣の草原地帯を歩いて私の祖母の家に向かうって感じかな。向こうの町にはまだロボットがいないから祖母の家にも比較的安全にいけるはずだよ」
アリスさんは色々なことを説明してくれた。
「なるほどな、それならいけそうだ」
アルフは感心しているようで、それは僕もみんなも同じようだった。
「アリスさん、本当に助かったよ。ありがとう」
レアンがアリスさんにお礼を言って、僕も「ありがとう、アリスさん」と伝えるとアリスさんは「どういたしまして」と頷き微笑んだ。
それからレアンは意を決してみんなに大事な事を尋ねた。
「みんな、多分気になってると思うんだけど、オレやさっきのロボットの事は一旦アリスさんのおばあさんの家についてからゆっくり話すでも良いかな?」
そのレアンの頼みをみんなは快く承諾してくれて、レアンはホッとしているようだった。
ひとまずロボットやレアンのことは保留となった。
それから僕はこの地下都市をみんなと歩きながら襲ってきたロボットの事を考えていた。
僕を襲ってきたロボットは全部、新型だった。逃げている時に旧型とすれ違う事はあったけど旧型は追って来なかった。
その理由が何でなのかは分からないけど、やっぱりロボットの生みの親であるリアラインが何か企んでいるのかもしれない。
レアンの夢でもリアラインが関係している確証は無いけど、ロボットが人を攻撃していたし、僕を襲ってきた理由はレアンが関係してるのかもしれない。
ただもしそうだったとしても今はとりあえず身を隠して、その後色々考えたほうが良さそうだ。
……それにしてもこの地下都市を歩いていると不思議な気持ちになる。
百二、三十年前、ちょうど開拓時代ぐらいか。
かつてはこの場所も上にある町のように人が住み、栄えていたはずなのに今ではひっそりとその姿を残している。
僕たちが住んでいる町もいずれはそういう風になるのだろうか。
いつかこの世界から人がいなくなって、人が生きていたあらゆる痕跡もこの場所のようになり、いずれ消えていくのだろうか。
もしそうなら、僕一人の生きていた証なんてすぐに消えてしまいそうだ。
そう思うと少し寂しいような気持ちにもなる。
それでもこうして昔の人々に思いを巡らせられる場所をみんなと歩いていられる今が特別でありがたいことのようにも感じられた。
あ、でも夢で見るレアンの記憶通りなら人がいなくなるのはそう遠くない話かもしれない。そうならないようにしたいな。
「それにしても、良く迷わず歩けるな。アリスさん」
ヒロが感心したようにアリスさんに言った。
「うん、でも今ちょっと迷ってる」
「えっ?」
そのアリスさんの一言で一気に皆と僕の顔から血の気が引いた。
「ごめん、冗談。ここ何回も通って覚えてるから、安心して!」
アリスさんがそう言ってくれて皆と僕の顔にも再び一気に血の気が戻った。
「勘弁してくれよー」とか「終わったかと思った」とみんなは苦笑しながら口々にそんなことを言って、アリスさんもごめんごめんと言いながら苦笑していた。
僕も終わったかと思ったが、どうやら終わってなかったようだ。
それから僕たちは大体二十分くらい歩いて、この地下都市のおそらくいくつかある内の一つの出口にたどりいた。
その出口はフェンスの扉で塞がれていたがアリスさんが鍵師に頼んで創ってもらったらしい鍵を取り出し、鍵穴にその鍵を差し込み扉を開いた。
僕たちはその扉の先に会った階段を上り、再びフェンス扉が合ったので同じように鍵を開け、少し歩くと、あるトンネルの中へと出ることが出来た。
そのトンネルはとても長そうで一方の出口の方は遠くにありその出口の大きさが小さく見えたが一方の出口の方は近くにあり、外の光が差し込んでいた。
僕たちはその近い方の出口に向かい、アリスさんの後に続いてトンネルの端っこを歩いて先へ進んだ。
そして遂にトンネルの出口から外の景色を眼下に見渡すことが出来た。
そこには昼下がりの陽の光に照らされた、緑、黄緑、黄色からなる秋の色が自然に混ざりあった美しい大草原が見渡せた。
その草原の真ん中にはこのトンネルからはるか遠くまで通じている大きな道が通っており、その道の途中で所々で分岐している小さく細い道の先には民家や牧場関係の建物などの人工物があったり、小さな田舎町もあり、ここに住んでいるの人々の家畜と思われる牛などの動物達も見ることが出来た。さらに遥か遠くには海も見え、この大草原を囲むようにいくつも連なる山々もそびえたち、遠くの山々には野生の草食動物らしき群れの姿も時折見ることが出来た。
まさにここは雄大な自然が織りなす大絶景という感じで、僕もみんなもその光景に魅了されていた。
こんな近くにこんな場所があったなんて、知らなかったな。
「凄いでしょ、絶景なんだ」
アリスさんは誇らしげに皆にそう言った。
「ちなみにこのトンネルをいま出てきた方向とは逆の方向へ歩くと、私たちの街へと出ることが出来るよ。後、あの町はここら辺だと一番大きい町なんだ」」
アリスさんは僕たちがいま出てきた山々の下に通じているトンネルの方を指さして教えてくれた後、草原の方に向きなおり、遠くに見える街を指して教えてくれた。
「アリスさんのおばあさんの家はどこにあるんだ?」
アルフが尋ねた。
「それは……着いてからのお楽しみって事で!」
「はいはい」
アルフはしょうがないなと苦笑した。
それから僕たちは再びアリスさんに続いて草原に敷いてある大きな一本の道に沿って、アリスさんのおばあさんの家を目指し歩き始めた。
最初は下り道の傾斜が少しあったが歩いていくうちに緩やかになっていった。
「アリスさんはよくここに来るの?」
エディがアリスさんに尋ねた。
「うーん、昔はよく家族皆でここに来ていたんだけど今は来る回数も減っちゃったかな。でもこの前の夏季休暇の時にしばらく滞在してたから、今回はすぐ来たことになるよ。あっ、だから家の掃除とかしなくても多分キレイなまま使えると思うよ」
「おっ、それはありがたい」
ヒロは助かると言った様子だ。
確かに今日はもう色々合ったし、掃除しなくてもいいのは本当に助かる。
それにしてもここの空気は一時間ほど地下にいたのもあるかもしれないが、より新鮮で解放感に溢れているように感じられる。
そんな自然の雄大な空気と景色を感じながら僕達はアリスさんのおばあさんの家を目指してしばらく歩いた。
「あれが私の祖母の家だよ」
アリスさんが一本道から外れた道にある家を指差してそう言った。
僕たちはそのアリスさんのおばあさんの家に向かって今まで歩いてきた大きな道からそれて小さな道に沿って少し歩いた。
そして日が傾き始め、辺りが少し暗くなり始めた頃に、僕たちはようやく目的地のおばあさんの家にたどり着くことが出来た。
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