第37話 君のもとへ
その一瞬の後、敵の弾が僕の頭上を飛んでいったが、僕は間一髪机に隠れていたため敵の弾丸は当たらなかった。
僕が投げたピストルはレアン達のいる窓ガラスへと飛んでいく。
その様子を、おそらくアリスさんもシンヤ博士も敵ロボットも追っていた。
もちろん僕も祈るような思いでその行方を見守った。
そしてそのピストルが窓ガラスに当たると思われたその時、現体化したレアンのその手に僕が投げ渡したピストルが収まった。
その瞬間、レアンは素早く僕やアリスさんの周りにいる敵ロボット達の頭部めがけて五発の弾丸を発射し、一瞬にしてその五発の弾で五体の敵を倒してしまった。
更にレアンは机に向かって滑り込み、二体の敵から撃たれた弾から隠れ、その撃ってきたロボット二体にも撃ち返し倒した。
レアンは僕が魂化出来る範囲に入ったのに気づいて、魂化し、窓を抜けて現体化し銃をつかんだ。そして一瞬で敵を倒したのだ。
やっぱりレアンはすごい。
そのレアンは僕の机に向かって走り、僕の反対側から机を飛び越えて隣に身を隠した。
「ノアル、助かったよ!」
それは僕のセリフのような気もするけど、まあ良いか。
「こちらこそ、レアン達が無事で良かったよ」
僕がそう言うとレアンはニッと笑った。
更にレアンはアリスさんに向かって来ていたロボット二体に対して銃撃しその二体を速攻で倒した。
「オレは敵を倒しながらケント博士を助けに行ってくるから、ノアルはシェイラ博士を助けてくれ。シェイラ博士の部屋の鍵は部屋の前にかかってるあれだから、その後はここで待っててくれ」
レアンはそう言って、僕が了解したのを見ると机から飛び出し、アリスさんの方へ向かった。
そしてレアンはアリスさんのもとにたどり着き、アリスさんと少し話した後はシンヤ博士を助けに向かって行った。
「ノアルくん」
アリスさんが僕の元へやってきた。
「アリスさん、助かったよ。アリスさんと博士が敵を引き付けてくれたからレアンの魂化の範囲まで入ることが出来た、ありがとう」
僕はアリスさんにお礼を言った。
「ノアルくんもナイスだったよ」
アリスさんもニッと笑って返してくれた。
本当によくここまでみんな、上手く出来たものだと僕は思った。
「シェイラ博士を助けに行こう」
僕はレアンに言われた鍵を持って部屋に閉じ込められているシェイラ博士のドアの鍵を開け、シェイラ博士を解放した。
「ありがとうございます、ノアルさん、アリスさん」
シェイラ博士は閉じ込められていた部屋から出て、僕たちにお礼を言ってくれた。
「レアンさんから話は聞いてます。今回のこと、未来のことも、すみません」
シェイラ博士は僕たちにお礼を言ってから謝ってもくれた。
「いえ、博士は知らなかったわけですし大丈夫ですよ」
僕がそう言ってもシェイラ博士は申し訳無さそうに頭を何回か下げていた。
そこにレアンやシンヤ博士も到着した。
「シェイラさん、もう話は聞いてるみたいだね」
シンヤ博士はシェイラ博士に聞いた。
「ハイ、聞いてます」
シェイラ博士は頷いた。
「君を巻き込んでしまって本当に済まない。私はどんな理由があってもしてはならない許されない事をリアラが、レアンくんが来なければ違う世界の私のようにきっと行っていた」
シンヤ博士の話をシェイラ博士、みんなも真剣に聞いている。
「私は間違っていた。今はその間違いを気づかせてくれたみんなに、その間違いに対する責任に対して少しでも償いをするために私はここにいる。本当に済まなかった」
シンヤ博士はシェイラ博士に謝罪と今の自分の気持ちを伝えた。
「シンヤ博士、私はあなたのことを尊敬していましたが今は尊敬することが出来ません……でも私はまたあなたのことを尊敬したいです」
シェイラ博士はそう言った。
「私もあなたの償いに協力します。だからもう一度、私が尊敬した博士になってください」
シェイラ博士は厳しいが優しさも包んだ言葉でそう言った。
「シェイラ博士、ありがとう」
僕もシンヤ博士も違う世界の同じ自分のやったことに対して、精一杯の償いをするために絶対にリアラインを止めなければならない。
「ノアルくん、これはノアルくんが使ったほうが力になると思うから、渡しておくね」
アリスさんは僕にピストルを差し出した。
「私は彼らの銃を使わせてもらうよ」
アリスさんは倒した敵の銃を指差して答えた。
「ありがとう」
僕はアリスさんからピストルを受け取った。
アリスさんとシンヤ博士とシェイラ博士は倒れている敵ロボットのゴム弾銃を取り、僕たちはできるだけ多くの弾倉をロボットたちから回収した。
「レアン、君も僕とリアラインの事は知ってるんだよね?」
僕はレアンに聞いた。
「あぁ、知ってる」
レアンは頷いた。
「ノアル、大丈夫だ。オレはオレの世界の父さんと、この世界のノアルを信じている。オレもアリスさんもシンヤ博士、シェイラ博士も、みんなお前の味方だ」
そうレアンは言ってくれて、僕たちの話をなんとなく聞いていたみんなもうんと頷いてくれていた。
「オレの世界のリアラインは人を大勢殺したが、この世界のリアラインはまだ誰も殺していない。だから取り返しがつかなくなる前に、オレたちで、みんなで、独りで苦しんでいるリアラインを助けに行こう」
正直リアラインの正体を知ったレアンが僕のことをどう思っているのか不安だった。
でもレアンもみんなも僕を受け入れて信じてくれている。その信頼に少しでも答えたい。
僕たちは敵からのマガジンの回収を終え、これから先を進む計画を練り準備を整えた。
これでアリスさんや博士たちも威力は劣るがゴム弾銃で戦えるし、僕とレアンの実弾銃のマガジンも元々多めにバッグに持って来ていたため、まだ戦える分には残っている。
僕達はリアラインを止めに、そして孤独の苦しみからも救うために彼の元へ向かった。
僕たちはレアンを先頭に二号館を進んだ。
さっきまでの戦闘で二階の敵はあらかた倒したようで順調に進む事が出来た。
そして僕たちは一階へと降りたのだが、その瞬間敵からの激しい銃撃を受けた。
やはり一階で出待ちしていたのだ。
「リアライン! 君と話がしたい! 答えてくれ!」
僕はおそらくこちらの様子を伺っているリアラインに対して聞く。
すると敵ロボットの銃撃が止んだため、こちらも反撃するのを止めた。
「ノアル、よく来れたな」
リアラインが館内のスピーカーから答えてくれた。
「この前話した時はえらく動揺していたのに、何か答えが見つかったのか?」
リアラインは皮肉交じりに僕に聞いた。
「答えは、まだわからない」
答えはわからないけれど。
「ただ僕は君と話をして、一緒に答えを探したいんだ。誰も犠牲者を出したくない、これ以上君に苦しんでほしくない」
リアライン、拒絶しないでくれ!
「そうか」
リアラインは少し考えた後、答えてくれた。
「それならオレの元まで来い、オレのもとまでたどり着けたら話しをしよう。それが出来なければ話すことはない、戦い続けるだけだ」
そうリアラインが言った直後、静止していたロボットたちが再び銃撃してきた。
「ごめん、ダメだった」
僕はリアラインと今、話ができるか試みる計画を立てていたがそれはダメだった。
「いや、良くやった。少なくともリアラインのもとにたどり着ければ話は聞いてくれるらしいからな」
レアン、皆も前向きに捉えてくれている様子だった。
「とりあえず次の作戦に移ろう」
レアンはリアラインの元まで辿りつくための作戦の決行を決めた。
僕たちは各自配置に付き準備をした。
「行くぞ」
そのレアンの合図とともに僕とレアンとアリスさんは右に少しづつ移動しながら前に進み多くの敵と戦いつつ、敵の注意を右に向けさせた。
逆に博士たちにはその場に残りつつ、出来るだけ残った敵の攻撃を引き付け耐えるようにしてもらっている。
レアンは移動しつつ戦いながらも隙きができるタイミングを伺っていた。
「レアン、まだか?」
やはり前に進むに連れ敵の銃撃が激しくこちらも苦しくなってくる。
「まだ、もう少し」
レアンはまだ機会を伺っている。この作戦の一番はレアンの感が頼りだ。
だが、僕たちも前に進めなくなり、敵に押されそうになっていた。
「レアン!」
僕たちが抑え込まれそうになった。その瞬間レアンが呼びかけた。
「今だ!」
レアンが前に跳び出した。
僕もその後ろから少し遅れて跳び出す。
レアンは右に引きつけられた敵たちと博士たちに釘付けの敵たちの間を狙って走っている。
その間は敵の数が少なく、唯一突破できそうな隙きが出来ていたからだった。
僕たちは全力で走りながら、僕たちの突破に気づいた敵たちと撃ち合う。
こうなれば後はどれだけ早く、敵の中を突破できるかだ。
次のチャンスはない。
アリスさんと博士たちも各々の敵を今だ引きつけてくれている。
行け!
そしてついに僕とレアンは敵の配置の隙間を掻い潜り、リアラインのいる部屋へと通じる渡り廊下までたどり着いた。
僕たちはリアラインの元へ向かって、渡り廊下を走る。
敵は僕たち二人がリアラインの元へ行くのを阻止しようと僕たちに襲いかかる。
その隙きにアリスさんと博士たちが合流し、僕たちに釘付けになり背中を見せている敵たちに銃撃を浴びせ倒してくた。
それでも全部は倒しきれずまだ多く残っている敵たちは僕らの後ろを追って撃って来ている。
その敵ロボット達に追いつかれないように僕は後ろの敵ロボット達に撃ち返しながらレアンは前方で廊下を守っている数体のロボットたちを素早く撃破しながら進んでいた。
そしてついにリアラインとタイムマシンがある大実験室の扉をくぐれた。
そこには十体以上の新型ロボット、タイムマシン、そしてリアラインがいた。
「一旦、横に逸れる!」
レアンはそのままリアラインに突っ込むのは無理と判断して僕にそう呼びかけた。
僕たちは階段を登り、左方にある制御室に入り、制御室の壁や机に隠れ、後ろから追いかけてくる敵と交戦しながら回り込むようにしてリアラインの元を目指した。
僕とレアンはふと、その部屋の窓から大実験室の様子を見た。
そこには十数体の敵ロボットが二手に分かれ制御室へつながる二つの階段を登り始めているのが見えた。
「レアン! どうする!?」
僕は敵と交戦しながらレアンに聞いた。
後ろから追いかけてくる敵は前から追いかけてくる敵より大勢だが通路と階段が狭いため敵が固まり対処はしやすく今のところ何とかなっている。
でもこのままだと前からこちらへ迫ってくる敵と後ろから迫る敵に僕たちはいずれ挟み撃ちにされてしまう。
「ここでゆっくりしてても仕方ない」
レアンは敵の様子を見て、少しの間考えていた。
そして決断した。
「ノアル、正面を突破するぞ! まずは後ろの敵をひるませて、それから行く先の前の敵を蹴散らしてリアラインを目指す!」
レアンは僕にそう呼びかけた。
「了解!」
僕たちは後ろの敵に向かってピストルの弾倉内全ての弾丸を浴びせた。
その銃撃により後ろの通路から追ってきているロボットたちの勢いが止まった。
「行くぞ!」
僕とレアンはすかさず向きを変えリアラインの元へ向かって、制御室内を走って進む。その間に銃のリロードも済ませた。
「オレが敵の注意を引く! その隙きにノアルがリアラインへ向かってくれ!」
レアンは僕にそう言った。
「了解!」
やるしかない!
僕らの前方に階段を登り終えた二体の敵の姿が見えた。
「オレがやる!」
レアンは僕の前方に出てその二体の頭部を撃ち抜き、速攻で倒す。
そして制御室の階段出口にたどり着いたその時、レアンは階段の横の手すりに上り、そのまま大実験室の内側に向かって勢いよく高く跳んだ。
そのジャンプは階段付近にいたロボットたちの意表を付いた。
一、二秒後レアンは前転して衝撃を和らげ、軽々着地した。
そしてすぐさまレアンは階段付近の敵ロボットに銃撃を浴びせつつ、次の敵の反撃から身を守るため机に向かって走った。
この銃撃で僕の前にある階段下付近の敵は倒された。
一瞬意表を疲れた大実験室の殆どの敵ロボットたちはレアンに向かって反撃した。
レアンは間一髪で机に隠れ、何とか身を守ることに成功したようだ。
レアンのお陰で敵の僕の方への注意が薄くなった。
今だ!
僕はレアンに気を取られている階段の途中にいる三体のロボットを倒した。
そして一気に階段を駆け下り、僕は敵を倒しつつリアラインの元へ向かった。
敵ロボットたちは二人に同時に攻められ自分はどちらを優先して撃つべきか混乱が生じているようだった。
その混乱で敵の連携が悪くなった。
その混乱に乗じてレアンも机から跳び出し敵を倒しながらリアラインの元へ向かって走り出した。
リアラインまでもう少しだ。
僕は思いっきり走った。
行け!!
そしてリアラインへと手を伸ばした。
届け!!
その手の指先がリアラインの球体の体に触れた瞬間、僕は違う世界に飛ばされるような感覚に陥り、意識が吸い込まれた。
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