第34話 信頼
僕たちはアリスさんの家を後にして研究所へと向かった。
ただレイラさんにはアリスさんの家に残ってもらった。
一人は全員の状況を把握している人がいた方が良いと言う話でレイラさんには残ってもらうことになった。
僕とアルフとレイラさんは分かれて行動した時のために、前に研究所に侵入した時と同様にイヤホンマイクを付けている。
僕とアルフは現場での作戦実行とその状況の報告、状況に応じた判断をする役目をこなし、レイラさんは僕とアルフからの状況報告を聞いて、双方に状況の伝達をし、色んなアドバイスを送る役目をお願いしている。
これらのことが上手くできれば僕たちはお互いの状況を知れて、落ち着いた環境で状況を把握している人からアドバイスを受けることが出来るので判断もしやすいというわけだ。
街には停止している旧型ロボットの姿が所々にある。
それもあってか、いつもより余計に街は夜明け前の薄暗い静けさに包まれているような気がした。
そんな街中をアルフとヒロ、エディはアリスさんやそのご家族から借りた自転車を押して歩いていた。
さらに彼らには同様の理由でフード付きの服を来てもらっている。三人にはこの自転車で活躍してもらう事になっている。
もう数時間したら日の出だ。そうなればリアラインシステムの異常にもみんなが気づき始めてしまう。
それにリアラインのシステム書き換えまで後半日ほどだ。その前にリアラインの元へたどり着いて説得しなければ戦争が始まってしまう。
それだけはここまで希望を託してくれた人たちのためにも絶対に阻止しなければならない。
遂に研究所の前まで来た。
アルフ、ヒロ、エディの三人はその近くの物陰に自転車を止め戻ってきた。
僕たちはリアライン社の様子を物陰から覗き見てみた。
「やっぱりゴム弾性の銃を持ってるな」
アルフがつぶやいた。
研究所の敷地内にいる新型のロボットは殺傷用の銃とは一部色が違う非殺傷用の銃を手に持っている。
それはこの間僕たちを襲撃した件で殺傷武器の配備は保留となったからだ。
運が良かった。前の世界みたいに殺傷武器がここに送られ、新型ロボットに配備されていれば正直作戦を成功させる事はほぼ不可能な話だった。
それでも作戦を成功させることが難しい事だということは変わらないけど。
「でも、多いな」
アルフがそう呟いた。
「厳しいか」
僕は自分にも問いながらアルフに聞いた。
「それでもやるしかない。大丈夫、俺達で半分は引き離してやるさ」
アルフがそう言ってくれて、ヒロとエディも「任せろ」と言ってくれた。
「頼む」
僕は昨日レアンと別れる際に貰っていたパイプ爆弾をアルフに渡した。
僕とアリスさん、博士は物陰に隠れた。
その間にアルフとヒロ、エディはフードを深くかぶりリアライン社の前の壁に隠れていた。
アルフは物陰に隠れている僕に「準備は良いか」と合図し、僕は「OK」と答える。
「皆、始めるぞ」
そのアルフの合図と共に、アルフ、ヒロ、エディの三人はパイプ爆弾の導火線に火を付け、リアライン社の施設内にいる新型ロボットに向けて投げ入れる。
そのパイプ爆弾は見事、研究所の敷地内に入った。
ここら一体に爆発音が鳴り響き、敷地内のロボットたちが倒れていく。
一応三人にもパイプ爆弾は危険だから火を付けたらタイミングを見計らうのではなくすぐ投げるように言っていたが、僕のところから見ただけでも十体近くのロボットを倒せたように見えた。
爆発から逃れたロボット、オフィスにいたが出てきたロボット達が三人に気づき、三人に向かって走り出す。
当のアルフ、カイ、エディは敵を少しでも引き付けるため空になり軽くなった爆弾の袋を持ち用意してきた自転車に乗っている。
「後は頼んだぞ、ノアル」
そうアルフはマイク越しに言って、三人は自転車で駆けだしていった。
「アルフも気を付けて」
僕もアルフ越しに三人にそう伝えた。
「了解」
三人が猛スピードで駆けだした後を大勢のロボットたちが敷地内から出て追っていった。
三人には囮をやってもらっている。自転車で逃げ回ってもらって、多くの敵を引き付けてもらう役目だ。
ただいつまでも逃げ切れるわけじゃないのでもう一つ切り札を用意しているが、それを実行できるかは僕ら次第だ。
もう彼らの姿は見えなくなり、最後尾のロボットたちしか見えなくなった。
ただこの爆発音と三人とロボットたちのチェイスの音や様子にこの街の人々も反応して外に出てくるだろう。
それもあってロボットと人々からなるべく正体を隠すために三人にはフードをかぶってもらっている。
僕とアリスさんと博士は彼らの無事を祈りつつ新型のロボットたちがいなくなり、容易に入れるようになったリアライン社の敷地に入り、オフィスを出来るだけ早く進んだ。
オフィス内は街の旧型ロボットと同じようにシステムを書き換えられている途中の旧型ロボットが停止しており静かだった。
レアンやシェイラ博士はやはり研究所の方に捕らわれているのだろうか。
レイラさんからは今のところアルフ達も何とか上手くやっていると教えてもらった。
でもいつまでも逃げ切れるわけじゃない。速く僕たちが作戦を成功させる必要がある。
僕たちはオフィスの中の管理室へたどり着いた。
「博士、お願いします」
博士は頷き、早速管理室にあるPCを使い作業を始める。
博士には特定の旧型ロボットの再プログラムをやってもらっている。
その特定の旧型ロボットとは試験的に速く投入されていた旧型ロボットのことだ。
この街の半分ほどの旧型ロボットは数年前、配備されるときに他の場所よりも試験的に速く投入されていた。
このリアライン社にもそのロボットは半分ほど含まれている。
その旧型ロボットの管理権限だけはここの管理室が一番上に設定されている。
つまりこの書き換えさえ出来ればその特定の旧型ロボットがアルフや僕達の味方になってくれるのだ。
「出来そうですか?」
僕は博士に尋ねた。
「何とか。ただ五分、十分程時間はかかりそうだ」
博士は僕にそう答えた。
「それまで、お願いします」
博士を僕たちを見上げてそう言った。
「ハイ、こちらも何とか防いで見せます」
僕とアリスさんは頷いた。
「行こう」
博士にはこのまま作業を進めてもらい、僕とアリスさんは研究所から増援に来るであろう敵を撃退するために管理室から出て、少し歩いた先にある中庭に通じる出口付近の窓の下に移動し、適当な間隔を取って隠れた。
僕たちは中庭の様子を眺める。この中庭の先に見える別館が研究棟だ。
おそらくリアラインも囚われてるレアンもシェイラ博士もそこにいるはずだ。
まだ敵は研究棟から出てきてないが時間の問題だろう。敵が研究棟から出てくれば僕とアリスさんはこの中庭で食い止めなければならない。
この中庭は中心に大きな木が立っており、その周りを囲むように椅子がある。
ただ幸いなことにそれ以外に体全体を隠せるような遮蔽物は少ない。大木以外の木もまばらに生えてはいるが、体全体を隠せるような他の木木は隅にしかなく、さらに隅の方にある机や椅子が少し厄介だが、あとは整備された芝生と歩道が敷かれているだけだ。
地形的にはこちらの方が有利なはず。
それに僕たちはここで構えて撃退するのに対し、向こうは攻め込まなければならない。人数は圧倒的に僕たちの方が不利だが少しの時間耐える事だけなら勝機はあるはずだ。
アリスさんも神妙な面持ちで中庭を眺めていた。
アリスさんはここに来る前のみんなとの作戦会議の時に、一応銃の扱い方を昔お父さんに一通り習った事があるから私も一緒に戦うよと言ってくれて今、僕と一緒にここにいてくれているのだ。
その時に僕とアリスさんは銃の扱い方と絶対に守る決まりごとを確認していた。
その時アリスさんは拳銃を手に持って見て、苦笑しながら言っていた。
「当てるだけなら出来るかもしれないけど、まだ私はこれを撃ったことがないから。レアン君やノアル君みたいには出来ないかもしれないけど、やれるだけやってみる」
アリスさんはそう言っていたが僕にとっては一緒にいてくれる人がいるだけで心強かった。
「大丈夫?」
僕はアリスさんの方を見て聞いた。
「うん、でもちょっと怖いかな」
アリスさんも僕の方を見て答えた。
「そうだよね、僕もさっきから少し手が震えているんだ」
僕は恐怖と緊張で少し震えている手をアリスさんに見せた。
「私も」
アリスさんも微笑んで同じように震えている手を見せてくれた。
「アリスさん、もし銃を撃つのが難しかったら撃たなくて良いから。無理はしないで」
僕はアリスさんにそう言うとアリスさんはうんと頷いた。
「それと状況がヤバくなったらここから退いて、安全な隠れ家に向かって」
僕は更に付け加えた。
「私だけはダメだよ、ノアル君が退く時、私も退くから」
アリスさんはそう言った。
「大丈夫、もうやるしかないから。さっき家で話し合ったことができれば大丈夫。あとはみんなと自分を信じよう」
アリスさんは微笑んで前向きにそう言った。
「分かった、僕も信じるよ」
研究棟から三体のロボットが出てきた。
手にはゴム弾を発射する様々なピストルやショットガンサブマシンガン、アサルトライフルなどの銃を持っている。
そのロボット達がこちらに向かって歩いてくる。僕たちは身構える。
「僕が左と真ん中を撃つよ、アリスさんは右を撃って」
アリスさんは頷いた。
僕はピストルを構え照準を左のロボットの頭部に合わせ、引き金に手を置く。
アリスさんも同じようにして右のロボットを狙う。
僕は息を整え少しでも自分を落ち着かせる。
始めるぞ。
僕は引き金を引いて、戦いの火蓋を切った。
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