第30話 リアライン
いつの間にか僕は白き世界に戻っていた。
「あれは……」
先程の出来事が本当にあった事のように感じられ鮮明に覚えている。
あれは何だったんだ? 僕の記憶のようだったけど僕のじゃない。
「あれはオレの記憶だよ。オレはノアルからリアラインになったんだ」
僕と瓜二つな彼は困惑している僕を見てそう言った。
「何で」
「さっき記憶で見た通りさ。オレは違う世界のお前だ」
「違う」
「まだ分からないのか。オレはシンヤ博士達のタイムトラベル計画のタイムマシンで白い世界に来てしまった後、木の主の力でもう一度リアラインとして元の世界の過去の時代に戻った。だがその世界でオレはタイムトラベル計画の真実を知った。だから人類に対して戦争を起こした。そしたらレアンがタイムマシンでこの時代に来たんだ」
僕はリアラインじゃない。そんな僕の思いとは裏腹に続けて彼は言った。
「つまり、オレがまだノアルだったタイムマシンで白い世界に来てしまうまでの世界から、オレが白い世界からリアラインとして元の世界に戻り、人類と争い、レアンがタイムマシンでこの時代へと来るまでの世界、そして三日前レアンがタイムマシンでこの時代にやってきたこの世界に繋がるってわけだ」
信じたくない。そもそも彼の言っていることが本当ならレアンが元いた世界の未来で、僕は違う世界の僕同士で戦っていたことになる。
そんな馬鹿な話があるのか。
そもそも僕の世界の今の時間では研究者達は生きてるし、まだ戦争は起きていない。
この世界の彼には違う世界で研究所を襲い虐殺した記憶なんてあるはずがないんだ。
「僕の世界では研究所での虐殺なんて起こっていない」
僕は矛盾点を指摘した。
「あぁ悪い、分かりずらかったな。今お前に見せていた記憶は、この世界のオレの記憶と、前の世界のオレの記憶が混ざっている。最後に見せた真実を知った時の記憶は前の世界のオレの記憶だ」
彼はそう答えたが、肝心なことを答えていない。
「何で前の世界の記憶が分かる?」
僕は彼に尋ねた。
「レアンは未来からタイムマシンでこの世界のこの時代に来る前にこの世界のノアルと魂を繋げた。それまでは良かった。だがどうやらタイムマシンを作ったシェイラ博士達も考えていなかった思わぬ誤算があったようだ」
誤算?
「レアンがこの世界のノアルと魂をつなげて、タイムトラベルするまでの間、他の「「ノアル」」にも魂が繋がってしまったんだ」
「まさか……」
「そうだ。レアンがタイムトラベルする前の世界で人々を率いてリアラインと戦ったノアルとリアラインとして人々と戦ったノアル、そしてレアンがタイムトラベルする先の世界のオレにもレアンの魂が一時的だが繋がってしまっていた。リアラインであるオレも一応ノアルという存在でもあるからな」
そんな……
「それでレアンの魂が繋がったオレと前の世界の未来のオレの間にも魂の繋がりができた時、とっさに前の世界の未来のオレが全ての記憶をこの世界のオレに流したんだ。だからオレにはノアルがリアラインになった世界の記憶、リアラインが人類と戦争をしている世界の記憶、そしてレアンがこの時代にやってきた今の世界の記憶がある」
彼はあたりまえのようにそう答えた。
「そんなことーー」
「出来るんだ。リアラインの体は人間の体とは違うからな。それに元々シェイラ博士が開発したタイムマシンはオレの能力も参考にしたものだ。」
「証拠は?」
「記憶で見た通り、オレはシェイラ博士が開発したタイムマシンの前身となったシンヤ博士のタイムマシン開発に協力していた事と、今こうしてまたレアンの魂をオレにも繋げて、お前にこの空間に来てもらっていることが証拠だ」
そう言うと彼は尋ねた。
「そもそもお前にも心当たりがあるんじゃないか? 四人のノアルの魂が繋がっていたレアンがこの時代に来る直前、お前もオレの記憶を少しくらい夢で見たりしたんじゃないのか?」
思い出した。確かにレアンがこの時代に来る直前、夢でリアラインの記憶を見た。
……おそらく彼の話は本当だ。
レアンの記憶で未来の僕がタイムトラベル計画は元々リアラインと戦争になる前から秘密裏に行われていたと言っていた。そしてこの世界の研究所にもタイムマシンらしきものがあった。だから戦争が無い前の世界でタイムトラベル計画に協力していたというリアラインの記憶は信憑性が高い。
それに未来の世界ではリアラインに殺されず、リアラインに味方する人々がいるという話もあった。もしかするとその人達は孤独で既存の世界に居場所がない人達だったから、リアラインはその人たちを殺さず自分の築ことしている世界に受け入れ、その人達もリアラインの築ことしている世界に共感して、お互いに理想を目指して他の人類を滅ぼそうとしたのかもしれない。
そして、なにより今も彼の記憶は僕の全ての感覚に本当に体験して来たかのように鮮明に焼き付いていている。
あの記憶が作り込まれた嘘だとは思えない。彼は、リアラインは違う道を辿った世界の僕なんだ。レアンが未来から来なくて、みんなと出会わなければ僕もリアラインになっていたのかもしれない。
「レアンは無事なのか?」
僕はレアンの安否を尋ねた。
「あぁ、無事だ。捕まえたレアンの魂を通してお前にこの空間に来てもらっているからな」
良かった。レアンが無事で。
「どうして僕をここに呼んだんだ?」
僕はリアラインに聞いた。
「おまえに真実を知ってほしかったからだ。オレは前の世界の未来の記憶が送られて来た時に博士達の秘密を知ったよ。その時にはもうオレの居場所は跡形もなく消えて無くなっていた。結局オレがノアルでもリアラインでも博士たちにとっては都合の良い物でしかなかったんだ」
僕も彼の記憶を見ているとき、楽しい感情も苦しい感情も同じように感じた。
「それならこのまま記憶通り博士たちを殺して、オレと同じような人々と共に新たな居場所を作るためにその他の人間と戦おうとオレは思った。ノアルという一人の人間を人々の都合のために犠牲にしたせいで、彼がリアラインとして人々に復讐したのだという話を現実に証明しようと思ったよ」
僕もあの世界のノアルだったら同じことをしていたのか?
「ただ、この世界のノアルならどうするか少し気になってな」
彼は僕の目を見た。
「お前はどうする? オレと手を組むか? それとも止めるか?」
彼は僕に尋ねた。
「僕は、人を殺したりはしない」
僕も答えた。
「お前に居場所はあるのか? 戦争が無くなり、オレもレアンもいなくなって、お前の仲間の手伝いも終わったその先の未来に」
リアラインはみんなと出会ってないから知らないだけだ。
「ある、と思う」
「本当にそうか? 最近知り合った人たちなのに、お前は彼らの何を知っているんだ?」
「それは……」
「ほとんど知らないだろ。お前は彼らと過ごした時間よりも今までの独りの時間の方が多いからな。そんなお前が最近できたばかりの居場所を維持することなんてできるのか?」
「出来ない、とも言えないはずだ」
「お前はレアンの記憶からこのまま戦争があればみんなに囲まれ、居場所があるという未来を見ている。そっちの方がお前にとっては都合が良いんじゃ無いのか? 本当にお前はオレを止めて良いのか?」
それは……
「オレは知ってるぞ。お前はどうしようもない寂しさと不安に襲われた時、独りで苦しんで泣くことしか出来ないことを」
考えないようにしていた、思い出したくなかった。
ここ数日はそれが無かったから、みんながいるあの居場所が温かかったから。
「そんな奴を誰が受け入れたがる?」
だから余計、その居場所を失うことを考えたくなかった。
考えたら、何もできなくなる。
「お前も今ある居場所を失ったら、オレと同じことをするんじゃないのか?」
そんな、そんなこと……絶対にやらないと僕は言い切れるのか。
「僕は……」
言葉が出なかった。
「まぁいい。これ以上お前に聞いてもお前の顔色が悪くなるだけで答えは出ない」
リアラインは呆れたように苦笑した。
「自由にすると良い。オレを止めるも手伝うも、お前次第だ」
白い世界の風景がぼやけてきた。
「じゃあな」
リアラインがそう言った後、僕の意識は落ちていった。
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