第25話 対面 

 オフィス館内を抜け出すと中庭に出た。

 中庭には中心に一本の木が立っておりその周りを椅子が囲んでいた。

 他には椅子や机が置いてあり、小さく細い木々がまばらに生えていた。

 隅の方には外からの視界を遮るような木々が生い茂り、地面の芝生の上には歩道が敷いてある所もあった。

 その歩道の中には奥の建物に通じるものもあった。

 おそらくその建物が研究棟だろう。

 僕たちは一応敷いてある歩道を歩くことはせず、芝生の上を歩き、周りに生えている木を伝いながらなるべく目立たないようにして中庭を進んだ。

 けれでも此処の警備はほぼないようなもので簡単に奥の建物の前までたどり着くことが出来た。

 ただこの建物のドアは前の建物とは違いセキュリティレベルの高いカードキー認証型だった。

「じゃあ、かざしてみるよ」

 僕はレイラさんにもらったカードキーを取り出した。

「了解」

 レアンは一応身構えていた。

 イヤホン越しにレイラさんと皆も固唾を飲んで見守ってくれていた。

 僕はカードキーをドアの横に付けてある読み取り機器にかざしてみた。

 その瞬間ピッと音がなり、ドアが開いた。

「開いた」

 僕はレアンと顔を見合わせお互いに良かったと頷いた。

「レイラさん、本当に助かったよ」

 レイラさんにも感謝を伝えた。

「無事開いて良かった」

 レイラさんも安堵し少し嬉しそうな声色だった。

 これで研究棟へと行くことが出来るようになった。

「ノアル、行こう」

 僕たちはリアラインのいる研究棟へと入っていった。

 この研究棟は、オフィス館と違って研究施設という感じで、廊下を進んでいくと、大中小からなる部屋があり、部屋には実験で使われそうな機械や、机、その上にあるパソコン、何かの資料などが置いてあった。

 この研究棟はレイラさんの情報によると監視カメラは着いていないらしい。

 僕は慎重に目的の場所へと進むレアンの後ろをついていった。

 この施設は廊下の天井に付いている薄暗い最低限の照明の光と窓から差し込むかすかな光だけで暗かった。

「気を付けて。その先の左の曲がり角からロボットが歩いてそっちに向かってる」

 レイラさんがそう言って、レアンが答えた。

「了解。部屋に隠れてやり過ごそう」

 僕たちは廊下から、近くの部屋の机の裏に隠れた。

 暫くするとロボットの足音が聞こえ、遠くなっていった。

「行ったか」

 レアンがロボットが過ぎ去った方を確認した。

「進もう」

 この調子で僕たちはレイラさんの助けを借りながら、なるべく巡回しているロボットたちをやり過ごし研究棟の中を一階、二階へと進んでいった。

 そして二階を探索して歩いていると渡り廊下を見つけた。

 僕たちはその渡り廊下を渡って研究棟の二号館と思われる建物に移動した。

 渡り廊下の窓からはいつもの平和な街の夜景が見えた。

 それから渡り廊下を抜けて少し歩くと、今まで人の気配が無かったこの研究棟に明るい照明の光が付いている部屋があった。

 誰かが何か話しているような声がする。

 僕たちはその部屋の中にいる誰かに気づかれないように慎重に近づき、窓ガラスからこっそり中を確認してみた。


 そこには二人の白衣に身を包んだ男性一人と女性一人がいた。

 その二人にはどこか見覚えがあった。

「シェイラ博士」

 レアンはそうつぶやいた。

 思い出した。女性の方はレアンの記憶に出てきたシェイラ博士で、癖っ毛の黒髪に、白い肌、眼鏡をかけており、細身体型の男性の方はテレビに出ていたヒロのお兄さんのシンヤ博士だ。

 シェイラ博士もこの研究所の職員だったんだ。

 その二人の職員は深夜まで残って何やら話しているようだった。

 僕たちはその二人の会話を少し聞いてみた。

「時間大丈夫か? 君は優秀だけどまだ新人だ。無理するなよ」

 シンヤ博士はシェイラ博士を心配していた。どうやらシェイラ博士は今は新人という立場らしい。

「ハイ、でも私は研究することが好きで、残りたくて残っているんです」

 シェイラ博士はそう答え、ケント博士に尋ねた。

「博士の方はどうですか? タイムマシンの開発の方は進んでますか?」

 タイムマシン!?

「そうだな。最近はみんな、研究以外のことも多いからあまり進められてないけど、でももう少しで実験段階までいけそうだ」

 シンヤ博士はそう答えた。

 確か前の世界の未来の僕は元々進めてあったタイムマシンの開発をシェイラ博士達が引き継いで、レアンが利用したタイムマシンを開発したと言っていた。

 それならレアンが利用した前の世界の未来のタイムマシンはリアライン研究所で開発されていたタイムマシンをベースに作られたという事だろうか?

 多分、シンヤ博士の言う研究以外のことって言うのは僕たちを襲った最近の新型ロボットの件だと思うけど、タイムマシンの事はまだよく分からない。

「楽しみですね! 私も早く認めらてタイムマシンの開発に参加できるように頑張ります」

 シェイラ博士は純粋なやる気に満ち溢れていた。

「頼もしいな。でも君はどうしてタイムマシン開発に参加したいんだ? 特別な理由でもあるのか?」

 シンヤ博士はシェイラ博士に理由を尋ねた。

「タイムトラベル計画は画期的です。今までもこの研究所はたくさんの人を助ける良い発明をしていますが、もしタイムマシンの開発に成功したら世界が変わります」

 シェイラ博士の思いは真っ直ぐのようだった。

「たくさんの人に喜んでもらえる」

 シンヤ博士も微笑ましい表情でシェイラ博士を見ていた。

「そんな歴史に残るかもしれない素晴らしい研究に私も携わってみたいんです」

 前の世界の未来のシェイラ博士も人々のためという思いとこの熱意があったから、未来でタイムマシンの開発を引き継いで完成させることが出来たのかもしれない。

「そうか」

 ただ一瞬シンヤ博士はどこか複雑な表情をしているように見えた。

 そんな博士をシェイラ博士も不思議そうに見ていが、シンヤ博士はすぐ前向きな様子に戻った。

「応援してるよ、シェイラさん。みんなにも君が良い人材になるかもしれないと私の方から推薦しておこう」

 シンヤ博士がそう言うとシェイラ博士は嬉しそうに「ありがとうございます!」と言っていた。

 二人は会話を終え、再び作業に戻った。

「行こう、ノアル。この世界のシェイラ博士はオレたちとは面識がない」

 レアンは務めて平静な口調でそう言っていたが、少し寂しさを堪えているようだった。

「必ず使命は果たします」

 レアンは二人を見つめながら小さな声でそう呟いた。

 僕たちは博士達のいる部屋の窓際の外からそっと離れ、再び目的の場所を目指した。

 二階を進み、一階に降りて更に進んだ。

 そして遂に僕たちはこの施設の一番最深部らしき部屋の前までたどり着いた。

 その部屋の前にもカード認証用のドアがっあった。

 そのドアの横にカードを当てるか番号を入力して開ける形式の機器があり、厳重なセキュリティによって守られていた。

 ここを開ければリアラインがいるかもしれない。

「開ける?」

 僕はレアンにカードキーを再び取り出して聞いた。

「頼む」

 レアンは僕に頼み、身構えた。

 僕はカードキーをカード認証用機器に当てた。

 するとドアが横にスライドして開いた。

 僕たちはなるべく足音を立てないように慎重に短い階段を昇り、この部屋を覗いてみた。


 その覗いた先にはたくさんの実験機器や、資料、そして研究部屋の中心に黒い金属のような謎の球体型の物体があった。

「あれがリアライン?」

 僕は小声でレアンに聞いた。

「あぁ、見るのはオレも初めてだが未来で博士がああいう色の球体の形だと言っていたから間違いない」

 あれが、未来で多くの人を殺す殺戮マシーンなのか。 

「リアラインは今も起動しているのか?」

 僕がレアンに聞いて、レアンは頷いた。

「恐らくシステムは稼働しているはずだ。でも反応が無さそうだからリアライン自体はスリープモードにでもなっているのかも知れない」

 レアンはそう言いながら、この作戦のために用意した手榴弾を取り出した。

 ん、あれは?

「レアン、あの奥に何か大きな機械があるみたいだ」

 僕はリアラインよりさらに奥の部屋から一部分しか見えないがそれだけでも大きいと分かる機械を指差した。

「あれは、タイムマシンか? 全体は見えないけどオレが使ったタイムマシンにも似ている気がする」

 僕たちはリアラインに気を取られ、奥にあるタイムマシンらしきものに今頃気がついた。

 あれがさっき博士達が話していたタイムマシンなのか?

「まぁ、今はリアラインに集中しよう」

 レアンがそう言って、僕たちは注意を謎の大きな機械からリアラインに切り替えた。

「ノアルは少し下がっててくれ。オレが破壊する」

 僕はレアンに言われた通り、階段を少し下り、一応レアンと距離を取った。

 レアンは再び階段の壁から少しだけ顔を出し、リアラインを確認した。

 その後、顔を戻し手元に視線を映すと、レアンは手榴弾のピンを抜き、二秒間待った後、リアラインに向けてその爆弾を投げつけた。

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