~現代編~

第23話 決意 

 僕は三度目のレアンの記憶の夢から目を覚ました。

 壮絶な夢だった。本当に僕もあの場にいたかのように戦い、仲間を、大切な人を失ったように感じた。

 おそらくあの夢の後、レアンはこの時代の僕の元にタイムトラベルしたのだろう。

 あの世界の人々の希望を背負って、人々を救うために。

 僕は近くにおいてあったスマホを手探りで探し当て、時間を確認した。

 どうやら丁度起きようとアラームを設定していた時間の少し前に起きたようだ。

 僕はアラームの設定を解除して周りを見渡してみた。

 するとレアンが体を起こし頭を抱え呆然としていた。

 僕が体を起こすと、レアンは僕の方を見た。

 レアンは深い悲しみをどうにか受け止めようとしているように僕には見えた。

「暗いな、開けるよ」

 レアンは部屋の窓を指してそう言った。僕はうんと頷いた。

 レアンは窓まで歩いて行って、カーテンだけではなく、窓も開けた。

「きれいだな」

 レアンはその窓から見える景色を見てそう呟いた。

 僕もなんとなくその景色が見たくて、風でひらひらと揺れているカーテンがついている窓から外を見渡しているレアンの隣まで歩いていった。

 そこからは沈みかけの夕日に照らされた草原や山々等の風景が見え、部屋に吹き込んでくる風が心地よかった。

 平和だ。今はまだ。

 僕はふとレアンの方を見た。レアンの瞳から一筋の涙がこぼれていた。

 レアンは自分が涙をこぼしていることに気づいてなさそうだった。

 僕はレアンに何か声をかけようとしたが、なんて声をかければ良いのか分からなかった。

 そんな僕の様子で気づいたのか、レアンは涙をこぼしていたことに気づき、すぐに涙を拭き取った。

「大丈夫だ、ノアル。オレのやるべきことは変わらない」

 レアンはまだ悲しみを堪えているようだがいつもの前向きな調子にも戻ろうとしていた。

「オレはみんなのためにもリアラインを破壊して未来に起こる戦争を止める」

 レアンは決意を語った。

「だから心配するな」

 レアンは僕を心配させないためか軽く微笑んでそう付け加えた。

 そんなレアンを見て、未来で戦う人々の姿を見て僕もある決意をした。

「レアン、僕も君と一緒に行きたい。リアラインを破壊して未来に起こる戦争を止めたいんだ」

 僕がそう言うとレアンは少し驚いたように僕の方を見た。

「僕も君の記憶を見てきた。その記憶の中で未来の人々のことを知って、彼らと一緒に過ごした」

 もう知らないふりは出来ない。

「僕は未来の人々が懸命に生きて、戦って、希望をここまで繋いでくれた姿を見たんだ。だからもう僕にとっても他人事じゃない」

 未来の人々が必死に繋いでくれた希望を無駄には出来ない。

「僕は未来の人々のためにも君のためにも、もちろん自分達のためにも戦争を止めたい」

 僕がそう言うとレアンは僕を止めようとした。

「ノアル、危険だ」

 レアンはそう言っていたが、僕も気づいたことがある。

「大丈夫、今の僕ならいくらかはレアンとも一緒に戦えると思うから。レアンの記憶を夢で見ているうちに、今の僕にも夢の中のレアンの感覚が残っているような気がするんだ。……だから少しは役に立てると思う」

 レアン本人に比べたら僕なんて到底敵わないが、それでもレアンの戦いの感覚は残ってる。だから戦えるはずだ。

「……でも」

 レアンは考え悩んでいた。

「ダメかな」

 レアンはさらにしばらく考え悩んだ末に答えてくれた。

「分かった、でも無茶はしないでくれよ」

 レアンは微笑んで承諾してくれた。

「ありがとう、ノアル。よろしく頼む」

 レアンは僕に手を差し出し、僕はその手を握った。

「こちらこそ、よろしく」

 僕達は固い握手を交わした。

 それから僕とレアンは今回の夢で分かった事をまとめた後、リアラインを破壊し、未来に起こる戦争を止めるため、部屋を出てリビングへと向かった。


 僕とレアンは部屋から出て、皆のいるリビングへと降りて行った。

 リビングでは皆と必要な荷物、作戦の最終確認をした。

「ノアル、レアンにスマホは渡したか?」

 アルフが僕に作戦で使うスマホのことを聞いてきた。

「それが、僕も一緒に行くことにしたんだ」

 僕がそう言うと、みんな驚いていた。

「だから誰か一つオレにスマホを貸してくれると助かります」

 レアンはみんなにお願いした。

「それはもちろん良いけど……やっぱりオレも」

 アルフも皆も僕たち二人にほとんど任せることに申し訳無さそうな表情をしていた。

「ありがとう、でも大丈夫。僕は夢でレアンの記憶を見ているから、その夢の中でのレアンの戦いの感覚が少し残っているみたいで。だから僕はレアンと一緒に戦えるんだ」

 僕はみんなにそう伝えた。レアンほどではないけど僕も戦えるはずだ。

 皆は浮かない顔で迷っていた。僕が同じ立場でもおそらく同じ反応をすると思う。

 でもみんなにはもう充分すぎるくらい助けてもらった。

「ごめん、二人に全て任せてしまって」

 ヒロが僕とレアンに対してそう言った。

 僕は「全然気にしないで」と言って、レアンも「気にしないでくれ」と言った。

「皆にはオレ達の事を家で見守っていてほしい」

 レアンがそう言うと、皆は頷いて一応僕とレアンで研究所に向かうことを受け入れてくれた。

 僕はアルフからスマホを受け取った。

 それから僕たちは作戦を実行するための荷物を持ってこの家を出た。


 微かな風に草木が吹かれ、空には雲が出始め、辺りはほぼ日が暮れてすっかり暗くなっていた。

 僕たちは月と星々の薄明かりに照らされた草原を歩いて、トンネル、地下廃墟都市を通りアリスさんの家へと向かった。

 そして予定の時間通りに僕たちはアリスさんの家の下にたどり着いた。

 僕たちは階段を上がり、床扉を開けてアリスさんの家の中へと入った。

「みんな、なるべく私の家族を起こさないようにお願いします。特に私のお母さんは心配症だから、心配かけたくなくて」

 アリスさんが小声で僕たちにそう呼びかけた、僕たちは了解と頷いた。

 僕たちは静かに隠し部屋を抜けて、リビングに移動し、そのまま通って玄関に移動した。

 僕たちに気づかないことを鑑みるに、アリスさんのご家族は予定通り寝る部屋で寝ているようだった。

「ノアル、行けそうか?」

「うん」

 レアンは僕に尋ね、僕は大丈夫だと答えた。

「じゃあ、行ってくる」

 僕達は玄関前で皆に別れを告げる。

「いってらっしゃい」「気をつけて」

 皆も僕達に励ましの言葉を色々かけてくれた。

 僕とレアンは皆に温かく送り出されながら玄関を開けて外へ出た。


 外へ出ると薄暗い月明りと外套の明りに照らされ少し肌寒い空気に包まれた。

 僕とレアンは今日の昼、武器庫で調達したブルートゥースを耳につける。

「レイラさん、聞こえる?」

 レアンが通信が繋がるかの確認を兼ねてレイラさんに尋ねた。

「うん、しっかり聞こえてる」

「僕の声も大丈夫?」

 僕もレイラさんに尋ねる。

「うん、大丈夫」

 どうやら通信の問題はないようだ。

「こっちの声も聞こえる?」 

「うん、聞こえる」

 レアンが答えた。

「後ろの皆の声は聞こえた方がいい?」

 レイラさんは尋ねた。

「そうだな。一応後ろのみんなの声も聞こえるようにお願いします」

 レアンはレイラさんに頼んだ。

「分かった」

 レイラさんは了承し、音声の設定をいじってくれた。

「出来た。みんな喋ってみて」

 レイラさんがそう言うと、みんなの大きすぎない声もイヤホン越しに聞こえてきた。

 みんなはアリスさんの家のリビングで僕たちの様子を静かに見守っているはずだから、アリスさんのご家族を起こさないように大きな声を出さないようにしているのだ。

「どうかな、音大きすぎたりしない?」

「ちょうどいいよ。ありがとう、レイラさん」

 レアンはレイラさんにお礼を言った。

「じゃあ、早速リアライン研究所の施設に向かうよ」

 僕たちはリアライン研究所へ歩いて向かった。

 僕とレアンはお互いのスマホにレイラさんがヒロのお兄さんのパソコンのデータから取り出したロボットの位置情報付きのマップデータをもらっていたのでそれを確認しながら進んでいた。

 新型は昨日の僕たちへの襲撃の件で回収されておりいないはずだが、なんとなく旧型に見つかるのも避けたかったのでスマホで旧型の位置を確認し、なるべく避けながら目的地へ向かった。

 道中レアンと僕で話し合い、皆の意見も聞いたりしながら進むルートを決めて、みんなで協力しながら進んだ。

 そして僕たちは街中のロボット達に見つかることなく、リアライン研究所敷地前にたどり着くことが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る