第22話 託された希望
「レアン、レアン」
誰かに呼ばれている。
「レアン」
この声はジャックか。
オレは何を……!?
「みんな!」
オレは飛び起き、周囲を見渡した。
オレは車両の後部座席に乗っており、運転席でジャックが車両を運転していた。
「ジャック、みんなは?」
オレはジャックに特殊作戦部隊の皆の事を聞いた。
「皆は敵の前線基地で戦ってる」
エディさん達はまだ戦っていて、姉さんやルイとライ、他のみんなはもう……
「そして俺たちはデルタ基地に向かっている、タイムマシンに使う燃料も持ってな」
ジャックは燃料が入ってるバッグを指さしてそう言った。
「レアン、具合は大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
ジャックはオレの具合を確認した後、一息ついて言った。
「俺たちは特殊作戦部隊唯一の十六歳以下の生き残りだ。そしておそらく父さん達も長くは持たない」
みんな死んだ、エディさん達も残って戦っているが全滅は避けられない。
「レアン、俺は君を全力で守り抜くから。君は必ず過去に行ってくれ」
ジャックはオレに決意を滲ませながら頼んだ。
「オレは必ず過去へ行くよ。タイムマシンで過去に行って、戦争を止めて見せる」
オレも決意をジャックに語った。
オレはみんなの、いや、人類の命運を背負っている。必ず過去に行くんだ。
それからオレ達は空に登ろうとしている日の光が夜の暗闇を照らし始めている中、車両を走らせデルタ基地へ向かった。
しばらくするとデルタ区の方から銃声や爆発音が聞こえてきた。
まだデルタ区のみんなが戦ってくれている。
でもおそらく敵の大軍はデルタ区をそれなりに囲み始めているはずだ。
オレ達はなるべく敵と出くわさずに早くタイムマシンの元までたどり着くために、まずデルタ区の側面を回り込むようにしてデルタ区の裏側に回り、そこからデルタ区に入った。
そのルート取りは普通にデルタ区に入るより少し時間を要したが、敵に見つかることはなく、俺たちはそのまま車両でデルタ区の街中を進んで行った。
街の裏側はオレ達が来るのを予想してか、敵が来る方角でもある街の前面や側面の防御を優先しているためか、あまりバリケードなどの障害物もなく、車両でもなんとか進めた。
敵は今のところ見当たらなかった。
おそらく多くの敵はこの区街の前面や側面の同じく多く配置してある味方と戦っているのだろう。
だが油断は出来ない。いつ敵がこちら側へも何体か回して、攻撃を仕掛けてくるか分からない。
「もう少しだ」
ジャックがそう呟いた。
その瞬間、俺たちは前方右斜め前にいる敵七体ほどを見つけ、敵もこちらに向かって振り向き気づいた。
「敵だ!」
オレがそう叫ぶのとほぼ同時にジャックはハンドルを左に切り、前方にいる敵の銃撃を交わした。
「このまま突っ切る!」
ジャックはそう言い敵のいない方にルートを取りつつ、銃撃を躱しながらもデルタ基地に向かって車両を全力で走らせていた。
オレも車両の窓から銃口を出して敵に銃撃し応戦した。
もう少しだ!
そうオレが思った時、視界の左端に敵十体ほどの姿が見え、その左の敵達もこちらに向かって銃撃してきた。
その敵の銃弾はオレたちの車両に数発辺り、破裂音のような音がした。
タイヤがパンクしたのだ。
ジャックはハンドルを左右に切りながらなんとか車両を前へ走らせていたが、車体は大きく左右に揺れ、スピードも減速して来ていた。
このままではいずれ敵の格好の的になってしまう。
「だめだ!」
ジャックも多分それを察してそう言った。
「ジャック、もう歩いていくしかない! 降りるぞ! いけるか?」
オレはジャックに尋ね、ジャックは頷いた。
「今だ! 跳べ!」
オレ達は車両が壁に激突する前に敵のいない方に車両から跳んで降りた。
「くっ!」
ジャックが呻くのが聞こえた。足を撃たれたのだ。
オレは上手く横に転がるように受け身を取って側の壁に隠れ、すぐに足を撃たれたジャックの方を向こうとした。
その時、目の隅に薄く光る小さなものが一瞬写った。
オレはそちらを見た。
「ぁ……」
そこには地面に倒れ込んだまま動かないエマちゃんとそのエマちゃんを守るように覆いかぶさっているリィナとソフィアさんの三人がいた。
薄く光っていたのはエマちゃんの母の形見であるペンダントだった。
さらにオレが奥の方に視線を向けるとその先にはエコー区のみんなが倒れていた。
リィナ、エマちゃん、ソフィアさん、みんな。
丁度ここは彼女達が守っていた場所の近くだった。
「レアン!」
ジャックが叫んだ。
我に帰り辺りを見渡した時にはもう遅かった。オレ達は敵ロボット達に完全に囲まれていた。
しまった! やられる!
そう思った時、ロボット達の方が銃撃を受け数体が倒れた。
「二人を援護しろ!」
父さんと七人の兵士がデルタ基地から跳び出して来た。
父さん達は敵に銃撃を浴びせ倒しながら、オレ達の方に向かっている。
オレは足をけがして動けないジャックのもとに向かい、彼の側で共に迫りくる敵を撃ち倒した。
「レアン! ジャック!」
「父さん!」
オレ達と父さん達は無事合流できた。
「ジャックが足を撃たれた」
オレが父さんにそう言うと、父はジャックの応急手当を兵に命じ、ジャックは手当を受けていた。他の兵たちは迫りくる敵を一体、二体と倒し、敵の進行を食い止めてくれていた
「二人ともよく戻って来てくれた。燃料はあるか?」
父はオレ達に尋ねた。
「この中に!」
オレがジャックの背負っているバックを指差しながらそう言うと、父は頷き、今度はジャックの手当をしていた兵士に聞いた。
「ジャックは、動けそうか?」
その父の問にジャックの手当をしていた兵士は首を横に振った。
「ノアルさん、オレに構わず行ってください」
ジャックが父にそう言った。
そんな……
父も迷っている様子だ。
「オレはここに残って時間を稼ぎます。その隙にレアンをタイムマシンまで連れて行ってください」
ジャックは覚悟を決めている。
「俺達もここに残ります。二人でタイムマシンまで行ってください」
敵を足止めしてくれる兵士もそう言い、他の兵士もここに残ると続いて言った。
「……分かった。レアン行くぞ」
みんなの覚悟に父も腹をくくったようで、燃料の入ったバッグを背に背負っていた。
でもオレは……みんな死んでしまった。ジャックまでも失ってしまうのか。
「ジャック……」
「レアン、みんなのためだ」
ジャックはオレを見て、父さん、周りで敵と戦っている人たち、そして死んだリィナ達を見た。
「分かった。オレは行くよ」
オレはここをみんなに任せ、父さんとタイムマシンまで向かうことを決めた。
「みんな、ここは頼んだ」
父がそう言うと、ジャックやみんなは短くも威勢の良い返事を返した。
「ジャック」
「レアン」
オレ達はお互いの名を呼ぶと「また会おう」と別れを告げた。
オレはジャックと別れを告げ、父さんと共にみんなが敵を足止めしている間にデルタ基地へ走り、基地の入り口に入って、タイムマシンのある倉庫に向かった。
オレと父さんは基地の通路を通って、タイムマシンのある研究倉庫に向かっていた。
至る所で激しい戦闘音がしている。
倉庫に向かっている間、父はオレに特殊作戦部隊のみんなことを尋ねることはなかった。それは大体の彼らの状況が予測出来たからだろう。
とりあえず今のオレに出来ることは父さんとともにタイムマシンの元にたどり着き、過去へ行くことだ。
よし、後もう少しだ。
その時オレたちの目と鼻の先に敵の一団が現れた。
こんなところにまで入ってきているなんて。おそらくどこかの人類の防衛網を突破してきたのだろう。
敵も俺たちに気づいた。でもここで止まっている暇はない。
「突っ切るぞ!」
父はそう言って、オレも頷いた。
オレたちは敵中の突破を図る。
オレはまず近くにいた二体の敵の頭部を撃ち抜き倒した。それに続いて父さんも同じく二体の敵を倒す。
すぐに敵の内の三体がこっちに向かって反撃してきたがオレたちは左右の壁に隠れてその銃撃をやり過ごした。
この通路は狭い。だから今態勢の取れてない敵は全員で火力を集中させた一斉射撃が出来ない。
敵の銃撃が一瞬止んだ。
敵は今まで俺たちを撃っていた敵とこれから撃とうとしている敵と配置を入れ替えをしようとしている。
「今だ!」
父の呼びかけと共にオレ再び父とともに通路に飛び出し、敵に銃撃を浴びせる。
オレたちは連携しながら通路にいる敵を倒し進んで行く。
オレは敵を一体、二体と倒し、父さんも一体倒した。
しかしまだ敵は三体残っている。
オレは敵に素早く狙いを合わせ引き金を引いた。
それで一体倒し、父さんも一体倒したがもう一体が間に合わない。
まずい、撃たれる。
一体残った敵の銃口がオレ達に向けられる。
その時敵のロボットの更に後ろの方から数発の銃声がした。
最後に残っていた一体の敵ロボットが倒れた。
「レアン! ノアルさん!」
オレたちを救ってくれたのは他でもないシェイラ博士だった。
「シェイラ博士!」
シェイラ博士がピストルで敵を撃って倒してくれたのだ。
そのシェイラ博士はオレたちのもとに駆け寄って迎えてくれた。
「良く来てくれました。燃料はありますか?」
博士はオレたちに尋ねた。
「あります。この中に」
父さんは背に背負っている先程の戦闘後、ジャックから貰い受けたタイムマシン起動に必要な燃料が入っているバックに触れて苦笑しながらそう言った。
「本当にありがとうございます」
博士はオレたちにそう言った。
「こちらこそ。それに俺達がここまで来れたのはみんなのおかげですから」
父さんがそう言うと、博士は感慨深く頷いた。
それからオレと父さんはシェイラ博士に続いてタイムマシンのある倉庫に向かった。
そしてようやく人類の希望であるタイムマシンのある倉庫にたどりついた。
そこには本当に過去へ人を送るためのタイムマシンがあった。
「燃料を」
博士に父さんは燃料を渡した。
「早速準備します」
シェイラ博士は燃料を受け取るとタイムマシンのもとに走り、タイムマシンを起動するための準備を始めた。
その間にオレ達は通路から来る敵を撃退し続けなければならない。
オレ達はこの倉庫内にある武器や弾薬が置かれている場所へ向かった。
そこにはもう多くの物は無かったがそれでも敵を少しの間足止めするには足りそうな量の弾薬とグレネードランチャーとその弾一発があった。
「レアン、使うか?」
父はランチャーを見て、オレを見た。
オレはうんと頷き、ランチャーを手に取る。
「良い物あったな」
父さんばオレの持ってるランチャーを見て苦笑しながらそう言った。
「一発だけだけどないよりは断然良い」
オレも苦笑した。
オレ達は弾薬を補給し、準備を整えた後、倉庫の入り口は付近に向かい、すぐ横の壁に隠れた。
「レアン、いよいよだ」
父さんはオレにそう言って、念のためと確認した。
「分かっているとは思うが、博士の準備が終わったら、お前は俺に構わずタイムマシンに向かうんだぞ」
分かってる、そうしなければならない。
「みんなのためだ、頼んだぞ」
父さんは念を押すようにそう言い、オレは了解と頷き言った。
「必ず過去へ行って、戦争を止めてみせるよ」
オレがそう言うと父さんも頷いた。
それからオレと父さんは二人で敵が来るであろう通路を見張っていた。
「来た」
父さんがそう言った時、オレは構えていたランチャーの狙いを敵に定め引き金を引いた。
発射されたその弾は通路にいる敵の集団に向かって飛んでいき、その集団の中で爆発した。
その不意打ちの爆発で敵は数体倒れたが、すぐにオレの攻撃を逃れた敵が体勢を立て直そうとしている。
そこにオレと父さんは銃撃を浴びせ難を逃れた敵が体勢を立て直す前に倒した。
何とか敵の一集団を倒せたが、これからもまだまだここへ来るだろう。
「博士出来るだけ急いで!」
父さんは博士にそう言った。
「了解!」
博士も急いでタイムマシンマシンの設定をしていてくれている。
「来た」
再び通路に敵の集団が現れた。
オレと父さんはその敵の集団に銃撃を浴びせ、その不意打ちでかなりの数の敵ロボットは倒せた。
しかし敵も今度は体勢を立て直し、激しい反撃をしてきた。
オレと父さんはこのタイムマシンの倉庫に押し寄せて来る敵と激しい銃撃戦を繰り広げた。
オレたちは撃っては隠れ、撃っては隠れを繰り返しかなりの数の敵を倒したが時間が経てば経つほど敵の数は増えていき、こちらがキツくなってきた。
その時だった。
「レアン! 準備が出来た! 位置について!」
博士がオレに叫んだ。
博士はタイムマシンを起動させるための起動設定を終わらしてくれていたのだった。
オレは父さんの方を見る。すると博士の報告を聞いた父さんもオレの方を向いて言った。
「行け、レアン」
「了解!」
オレは博士が設定を終わらしてくれたタイムマシンに向かい、タイムマシンの足場に登った。
その間にも父さんは敵と激しい銃撃戦を繰り広げ、時間を稼いでくれている。
「レアン、あなたに課せられた任務と前に説明した注意事は分かるね」
博士はタイムマシンの起動準備をしながらオレに言った。
オレはそれらを頭に浮かべて確認した。
「はい、博士」
オレが頷くと、博士はさらに続けて言った。
「後もう少しでエネルギーの充電が終わる。それが終わったらすぐ起動するから準備してて」
オレは深く深呼吸をした。
オレに全てがかかっている。みんながここまで繋いでくれた希望を無駄には出来ない。
「レアン、ごめんね。あなたに重い使命を背負わせてしまって」
博士は申し訳無さそうにそうに言った。
「博士、大丈夫です。オレは必ず任務を成功させて人類を救います」
大丈夫、オレなら出来る。絶対に。
「だから気にしないでください」
「ありがとう、レアン」
オレは気にしないように博士に言ったが、博士の表情はまだ申し訳無さそうだった。
「来た!」
博士が手元の恐らくタイムマシンのエネルギー充電をしめす機械を見て言った。
「レアン、始めるよ」
「お願いします」
博士はタイムマシン起動のレバーを引いた。
するとタイムマシンの足場に立っているオレの周りから白い光が発生し、その光がオレを囲み始めた。
発生する白い光の数が増え、光自体の強さも増していき、オレの視界は見えなくなっていく。
オレは限られた視界から、博士、そして父さんの方に視線を向けた。
父さんが守っている入り口にゾクゾクと敵が押し寄せて来ている。
父さんと敵の距離が近い。
父さんが敵を一体撃って倒したがすぐに後ろから敵が来る。
ついに格闘戦となった。父はその取っ組み合いになった敵を倒した。が、倒した敵の後ろからさらに敵が出てきて、その敵が父の後頭部を銃で強打した。
「父さん!」「ノアルさん!」
オレと博士は父に向かって叫んだが、父が倒れるのが光の隙間からオレには僅かに見えた。
「レアン、過去の私によろしく言っといて」
博士は意を決したようにオレにそう言った。
「博士!」
出口から出てきた敵のロボットたちが博士とオレの方に銃口を向け、引き金を引こうとしているのが見える。
「後は頼んだよ!」
「博士!」
その瞬間、タイムマシンが発する激しい光に包まれ、オレの視界は完全に塞がれ、意識もその光に吸い込まれていった。
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