第8話 音楽部
教室の中にはマイクを持ったアリスさんがいて、他にもギター、ベースを持った男子がそれぞれ一人、ドラムの隣にいる男子が一人いた。
どうやら見た感じ、演奏するための準備をしている途中のようだった。
「あっ、ノアル君。おはよう!」
アリスさんが僕を見つけるなり挨拶をしてくれた。
「お、おはよう」
僕もぎこちなくだが何とか挨拶を返すことが出来た。
すると「始めまして」とか「おはよう」と他の人も挨拶をしてくれたので、僕も同じような挨拶だがそれを何とか口にして返し答えることが出来た。
そして皆自分の楽器を置いて、僕の方へ寄ってきて、自己紹介をしてくれた。
「じゃあ、私から。私はボーカルのアリス、改めてよろしくね」
「オレはアルフ、ギターを弾いてるよ。よろしく」
アルフは暗い金髪で整った顔立ちをした賢そうな少年だ。
「オレはベースのヒロ、よろしく!」
ヒロは明るい黒髪に、健康的な肌で、元気の良さそうな雰囲気がある少年だ。
「僕はドラム担当のエディ、よろしく」
エディは薄い褐色の肌に、黒髪、穏やかな顔立ちをしている少年だ。
一通り音楽部の方が自己紹介してくれた。次は僕の番だ。
「ノアルです、キーボードが一応出来ます。よろしくお願いします」
僕が自己紹介すると「よろしく!」と音楽部のみんなも返してくれてさらに歓迎の拍手を送ってくれたので、僕も感謝を込めて拍手を返した。
「後、今はいないけどもう一人ソフィアさんって子で全員かな」
そうアリスさんが言った時、少し悲しげに見えた。
そっか、そういえば僕はその子の代わりに呼ばれたんだった。
その子がどうして来なくなったのかは気になるけど、聞いてほしくない事だったらまずいし、今は聞かないでおこう。
「えっと、ノアル君の事は呼び捨てで呼んで良いのかな? 後タメ口でも」
ヒロ君がそう僕に尋ねた。
「うん、全然大丈夫」
「OK! ノアルもオレ達のこと呼び捨てで良いからな」
僕は分かったとうなずいた。
その後少し沈黙が流れ僕は焦ったが「じゃあ、早速練習するか?」とアルフがみんなに尋ね、みんなもうんと頷き、無事何とかなった。
早速僕も音楽部のみんなも文化祭で発表するための曲を練習するため、楽器の準備、調整を始めた。
「ノアルくん」
アリスさんがキーボードの調整をしている僕のところに来た。
「実は今日、音楽部のみんなで集まって活動するの久しぶりなんだ。だから今日はノアルくんもみんなもとりあえず演奏に慣れようって感じかな」
アリスさんは僕に苦笑しながら現状の音楽部の事を教えてくれた。
とりあえず僕もやれるだけやってみよう。
「良い感じだな、ノアル」
これまでの僕とみんなのやり取りを見ていた魂化しているレアンが和やかにそう言ってくれたので、僕はレアンと目線を合わせて軽く頷いた。
そしてみんなの準備、調整が終わるとついに演奏をすることになった。
音楽部のみんなも僕もお互いに視線を交わした後、外からは他の部活動の生徒たちの声や活動の音が聞こえ、朝の光と穏やかな微風が窓から入り込み温かさに包まれた音楽部のこの教室で僕たちは演奏を始めた。
午前中の活動の終わりを意味するチャイムが鳴った。
「もうこんな時間か」とアルフがつぶやいた。
僕たちが演奏とその演奏の話し合いを夢中で繰り返しているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、昼の時間になっていたようだ。
「今日はここまでにしよっか」
アリスさんがそう言うとみんなも了解と頷いた。
僕たちは自分の楽器と学校から借りている機材の片付けを始めた。
そんな中ヒロが片付けをしながらみんなに尋ねた。
「そうだ、今日久しぶりにみんなで昼飯食べに行かないか? ノアルも来てくれたことだからさ」
そのヒロの提案にみんな賛成し、僕も了承し、僕はみんなとお昼を食べに行く事になった。
僕は片付けを終えると、楽器はみんなと同じように学校に置いて、みんなと一緒に音楽教室から出て、廊下を渡り、階段を降り、再び廊下を渡って、学校の玄関へと向かった。
そして学校の玄関にたどり着いた際、アリスさんが僕を呼んだ。
「ノアルくん、今日はありがとね」
アリスさんは僕にお礼を言ってくれた。
「どうだったかな? 楽しかった?」
「うん、とても楽しかったよ。こちらこそありがとう」
僕がそう伝えると彼女は「良かった」と笑顔を浮かべてくれた。
僕はあることを決めた。
「アリスさん、僕で良ければライブに出るよ」
僕はアリスさんにそう伝えた。
「ほ、本当に、ありがとう!!」
アリスさんはそう言うと、めちゃくちゃペコペコと頭を下げてくれたので、僕もそれに答えられるようにめちゃくちゃペコペコと頭を下げた。
その時「おーい、アリスさーん、ノアルー」と少し先に行っていて、いつのまにか校門の手前にいる音楽部のみんなが僕とアリスさんを呼ぶ声が聞こえた。
アリスさんと僕は顔を見合わせ微笑んだ。そしてうんと頷き、皆の方へ走って学校の玄関を出た。もちろんレアンも魂化しながら僕たちについて来た。
「みんな! ノアルくんライブ出てくれるって!」
アリスさんは走りながらみんなにそう伝えた。
すると皆も嬉しそうで、僕たちがたどり着いたときには「じゃあ、今日はノアルの昼飯をみんなで奢らなきゃな」とアルフが言い、みんな賛成していた。
「いや、悪いよ」と僕が言っても「いやいやいや」と皆首を横に振ってくれて、結局僕は奢ってもらうことになった。
それから僕たちはどこに食べに行くかを話し合った。
僕はここ最近食べに行くことが無かったのでどんな場所があるかほとんど思いつかなかったが、みんなが色んな候補を出してくれた。
そして結局ここから少し歩いたところにあるレストランで昼ごはんを食べることに決まった。
そのレストランに決めた理由は少し人気が少ない場所にあり、席が空いてることが多いわりには、味が良く、値段も優しく、のんびりもしやすい知る人ぞ知る良いお店だからということらしかった。
僕たちは学校の校門を出て、真昼の太陽がこの街を温かく照らす中、その例のレストランへ向かった。
僕たちがそのレストランへ向かって歩いていくと皆の言っていた通り、学校のある都市部よりも人気が少なくなり、街並みの様子が落ち着いていった。そこにさらに昼の温かさも加わって、ここら一帯はより静かでのんびりとした空気に包まれていた。
その中を僕は皆と話したり、話を聞いたりして歩いていると、レアンがある重大な事に気づいた。
「あれ、オレこのままだと昼飯食えない?」
あ、そういえばそうだった。
彼も僕たちが昼飯をどこにするか話していたときに楽しそうに聞いていたが、言われてみればそうだった。
僕はレアンの方をチラ見してみた。
「ノアル、オレも何か手を考えるから! 君も何か手を考えてくれ!」
それに気づいたレアンは僕にも頼んできた。どうやらレアンは自分の昼飯に必死な様子だ。
僕は皆にバレない程度にレアンの方を覗きながら分かった、分かったと軽く頷き、レアンの昼飯の件をどうするか考えた。
どうしたものかなぁ。
「あ、レイラさん」
僕がレアンの昼飯のことを考えていたら、アリスさんが前の交差点の歩道で信号が変わるのを待っている少女、レイラさんを見つけて呟いた。
あ、この間の不良の足を蹴って、アリスさんを助けた子だ。
僕たちはそのレイラさんの方に歩いて向かった。
レイラさんは一部分に赤色のラインが入った黒髪に、白い肌、切れ長な眼をしている少女だ。
「こんにちは」
アリスさんがレイラさんに声をかけた。
「どうも」
レイラさんも近くに来た僕たちの方に向かって軽く頷いた。
「レイラさんは、今からどこかに行くの?」
アリスさんがレイラさんに尋ねた。
「昼飯を買いに」
「それなら、もし良かったら私達とお昼ごはん食べに行かない? この間のお礼もしたいし、お代は私が出すから。どうかな?」
アリスさんはレイラさんを昼ごはんに誘った。
「……あなたにも皆にも悪いよ」
レイラさんがそう言うと、「全然そんなことないよ」とヒロが答え、他の音楽部のみんなも頷いていた。
「えっと……」
レイラさんは戸惑っているのか迷っているのか決められないようだった。
「無理はしないで、レイラさんが嫌じゃなければで良いから」
その様子を見たアリスさんはそう付け加えた。
僕はなんとなくだがレイラさんも、さっきの音楽部の教室に入る時の僕と同じように一歩踏み出したいけど迷っているように見えた。
「一緒にご飯食べるだけでも、どうかな? もちろん無理はしない範囲で」
僕もレイラさんを誘ってみる。
レイラさんは少しうつむき考えていた。「じゃあ一緒にーー」とレイラさんが答えながら顔を上げた、その時だった。
「後ろ!」
レイラさんが驚きの表情で僕の後ろを見て叫んだ。
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