~現代編~

第7話 勇気 

「ビビビッ」

 僕は部屋で鳴り響いている目覚ましの音で目覚めた。

 ベッドの上でまだぼぉっとする頭と気怠い体を起こし、僕は昨晩のリアルな夢について考えた。

 今回の夢はこの前の夢よりもはっきり覚えている。

 まるで自分が本当に体験しているかのような夢で、まだあの夢の時の感覚が残っているような気がした。

 それに夢の中にレアンが出てきた。

 あの夢はレアンの未来の世界での記憶なのか? あの壮絶な出来事は未来で実際に起こったことなのか?

 そう僕が考え込んでいると、トントントンと僕のいる部屋のドアが外側から軽く叩かれた。

「入って良いか?」

 声の主はレアンだ。

「どうぞ」

 レアンはドアを開け、僕の部屋に入って来た。

「おはよう」

「おはよう」

 部屋に入ってきたレアンは何か落ち着かないよう様子で、僕たちはさっと互いに挨拶を交わした。

「ノアル、昨日夢とか見なかったか?」

 レアンはそわそわしながらも慎重な面持ちで僕に尋ねた。

「見たよ、レアン達人間とロボットが戦ってる夢」

「ノアルもあの夢見たのか!」 

 僕は頷いた。

「多分あれ、オレの未来での記憶だ」

「あれは本当に起こったことなのか?」

「ああ、あの夢はオレが未来で実際に体験したことだ」

「そう、なのか」

 もし、本当にそうなら実際にあの夢の中の出来事は未来で起こったことになる。

 嘘だと思いたいが夢のこともあり、レアンの存在もあって、僕はレアンの言うことを信じてきていた。

「他に夢で見たこと以外で思い出せたことはある?」

 僕はレアンに尋ねた。

「いや、思い出せてない」

「じゃあ、戦争を止めるためにどうすれば良いのかはまだ分からない感じか」

「うん、でもオレは昨日ノアルが言ってたリアラインが怪しいと思うよ。この街に関係しているしロボットも作ってるからな、まぁ確証もないけど」

 確かにロボットといえばリアライン研究所とリアラインだ。

「もっと未来の記憶を思い出さないとな」

 今のレアンはどこか辛そうな様子を見せていたが、それでも受け答えはしっかりしていた。

 夢の中でレアンは傷ついて、悲しんでいたけど、今はもう切り替えて自分がするべきことを考えている。

 おそらくレアンのいた未来ではそうしなければ生きていけなかったのだろう。

 僕は夢で見ただけでも結構きついのに。

「レアン、僕に出来ることがあれば言ってよ。まぁ大したことは出来ないと思うけど、役に立てることもあるかもしれないからさ」

 僕はレアンにそう言った。

「ありがとな。何か手伝ってほしいことがあったら頼るよ」

 まだ苦しげな表情は少し残っていたが、レアンは本当に嬉しそうに感謝してくれた。

 僕も何か彼の役に立てると良いが、とりあえず今は少しでもレアンの悲しみを癒やすことが出来たのなら良かった。

「じゃあこれから僕は学校に行くけど、レアンはどうする?」

 僕はレアンに尋ねた。

「やっぱりまだ記憶は思い出せないことのほうが多いし、分からないことだらけだからな。オレもノアルについて行くよ」

 確かにレアンの言う通りまだ分からないことだらけだから、それが良いかもしれない。

「その間にオレも記憶を思い出せるかもしれないし、学校での練習が終わったら怪しいリアラインのことも調べてみる」

 というわけで僕達は昨日のアリスさんとの約束を果たしに学校に行くことにして、その間にレアンにはなるべく未来を救うために役立つ記憶を思い出してもらうことにした。

 僕たちは昨日と同じように準備をしたが、今日は演奏をしに行くので僕はキーボードも忘れずケースに入れて手に持って、玄関の扉を開けた。

 外に出ると、昨日の夢とは打って変わって、心地よい朝の光と風に包まれた平和な街並みに僕とレアンは迎えられた。

 僕たちはその中を歩いて学校へと向かった。


 僕は学校へ向かっている間も夢の中での出来事のことや、これからのことで頭がいっぱいだった。

 レアンと出会った昨日から、色んなことが起きすぎだな。

 その魂化しているレアンも記憶を思い出そうと集中しているのか、昨日の夢が引っかかっているのか僕の横を魂化しながら静かに歩いていた。

 僕はなんとなく昨日のレアンの明るい表情に、少しずつ悲しげだった表情が戻っていっているような気がした。

 ただ僕もレアンもこの街を徘徊している警備ロボットとすれ違うときには昨日の夢のこともあり、目線を当てて警戒してしまうのだった。

 今、僕たちが歩いているこの街もこのまま何も変わらないと未来ではレアンの夢で見た光景みたいになってしまうのだろうか。

 そんなことを繰り返し考えたりしていたら、いつのまにか学校の校門の扉が目の前の視界に入ってきていた。

 どうやらもう学校につくようだ。

 はぁ、やっぱり緊張してきた。

 僕たちはその学校の門を通って、玄関にたどり着き、廊下を通って、階段まで行き、階段を例の音楽部の教室がある階まで登った。

 後は前方に見えるあの教室に入るだけだ。

「……」

「ん? なんで止まってるんだ?」

 レアンは僕がその教室がある階の階段の壁付近で立ち止まっている理由を聞いてきた。

「ちょっと心の準備をしたくて。だからちょっと待ってくれ」

 僕は壁に寄りかかりながら深呼吸をした。

 それからゆっくりと壁に添いながら、でももし見られても変だと思われないように出来るだけ自然な感じで進み、例の教室の中を覗こうとしたが、結局教室の中にいる人に見つかるのも恥ずかしいと思ったので見れずに再び階段付近に戻ってきた。

 僕は深い溜め息をついた。

「緊張してるのか?」

 レアンはいつもの調子で尋ねてきた。

「うん、とても」

 レアンの言う通りとても緊張している。

 上手くやれるだろうか、何か失敗してしまうかもしれない。

 あの教室の扉を開けたら、後はもう引き下がれない。

「オレはあんまりこういうことで緊張したこと無いから分かんないけど、やってみないことには始まらないと思うからさ」

 僕が考え事をしているとレアンはそう言った。

「少し勇気を出して頑張って見るのも良いんじゃないか?」

 レアンは僕を後押しするようにそう言った。

 なんだかとても良いことを言われたが、実際その通りだと思う。

 やってみなければ始まらない。

「そうだね、少し頑張ってみることにするよ」

 僕がそう言うとレアンは頷いた。

「大丈夫、きっとみんな、アリスさんみたいに優しい人だと思うよ」

 レアンは僕を励ますように言った。

「こういうことは楽しんだほうが良い。楽しもう、ノアル」

「分かった」

 レアンのお陰で少しだけだが僕の緊張もほぐれた気がする。

 よし、もうやるしかない。

 僕は再び深く深呼吸してから、廊下を歩き例の教室へと向かった。

 そして例の教室の扉の前に立ち、ドアノブに手をかけ、ドアを開けた。

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