第6話 脱出
オレは物陰から、一階の階段付近に移動しているリィナの方を覗いた。
そのリィナは移動を終えるとEMP手榴弾を祈るように手に取った。
EMP手榴弾はロボットの動きを五秒ほど停止させることが出来るが、材料が希少で作られる数は限られている。
そのEMP手榴弾をリィナは意を決し、ロボット達に向かって投げた。
投げられたEMP手榴弾は見事ロボット達の元へ届き、先ほどオレが投げたグレネードよりもさらに広範囲に電磁波を発生させ、おそらく十体ほどの敵ロボットの動きを一瞬だけだが停止させることに成功した。
その瞬間、オレと司令官は生存者たちに「今だ!」「走れ!」と叫んだ。
生存者たちは簡易バリケードから一斉に跳びだし、リィナのいる階段に向かって全力で走った。
銃が無く戦えない人達は小さい子供達を抱きかかえたり、手を繋いで一緒に走り、高齢者のおじいさんにも手を貸して一緒に走っていた。
銃を手にしている戦える人は、その他の生存者達を囲み移動速度を彼らに合わせながら守るように移動し、オレと司令官は最後尾でみんなの様子と敵の様子を確認しながら走っていた。
オレとリィナと司令官、そして銃を手にした一般人の人は走りながら停止している敵を撃ち抜き、出来る限り多く倒していた。
でもそろそろ倒せていない敵が回復するか、いや、それよりも。
オレがそう思った瞬間、停止しているロボットが回復するよりも先に一階の入り口から新たな増援の敵ロボットが現れた。
その敵が見えた瞬間、リィナもその敵に反応し、敵の頭部に一発弾丸をお見舞いして倒してくれた。
「みんな、急げ!」
オレはみんなの様子を見た。
先頭で走っている生存者がリィナの元へたどり着き始め、他の生存者も後に続いている。
よし、もう少しだ。
しかし生存者全員がリィナの元へ辿り着く前にさらに入り口から二体の敵が出て来るのが見えた。
リィナはその二体も素早く倒してくれたが、そろそろ倒せていない停止している敵も回復しそうだ。
オレはみんなの方をもう一度見る。
その時、生存者の集団の最後尾にいた一人の女の子が転ぶのが見えた。
先ほどお母さんから赤いペンダントをもらっていた女の子だ。
女の子は焦って急ぎ過ぎてしまった母の走る速さに追いつけず、お母さんと繋いでいた手を離してしまい、転んでしまったのだ。
まずい。転んでしまった女の子は丁度後ろにいるオレと司令官、前にいるお母さんと兵士のお父さんの隙間にいて、存在が目立ってしまっている。
オレは敵が来るであろう方向を見る。
その時、新たに敵五体が入り口から出てくるのが見えた。
その新たな敵の注意はころんだ女の子に向けられる。
オレは女の子の方に向かって走りながら、敵ロボットに向かって銃撃する。
それで敵二体を倒し、司令官、リィナも一体倒したが、一体の敵が残った。
オレはその敵にも銃撃したが、その敵はすでに女の子に向けて引き金を引いていた。
間に合わない!
その時、手を離してしまった女の子のお母さんと、自分の娘が敵に狙われている事を察知していた兵士のお父さんが我が子の前に飛び出し敵の弾丸から庇うように女の子を守った。
撃たれたその二人は女の子の目の前で倒れた。
「お母さん? お父さん?」
女の子は目の前で何が起こったのか分からず、動かなくなった二人をただ眺めている。
オレは銃のスリングを使って銃を背中に背負いながら女の子の元に走り、その子を抱きかかえ全力でリィナのもとに走った。
間に合え!
しかしその瞬間、停止していたロボット三体が復活しこちらに銃口を向けてきた。
その時、すぐ後ろにいる司令官が復活した敵を一体、リィナが二体倒してくれた。
助かった、後もう少しだ。オレがそう思った時さらに入り口から新たな敵の集団が増援として出てくるのが見えた。
その続々と出てくる敵の増援に司令官とリィナが銃撃を浴びせ、合計四体倒してくれた。
しかし二体倒せなかった敵が出てしまい、その敵の銃口がオレに向けられるのが見えた。
撃たれるーー
そうオレが思った瞬間、後ろから司令官がオレと女の子をかばうように突き飛ばした。
その突き飛ばされたオレの横を敵の放った数発の弾丸がかすめて通り過ぎていった。
オレは抱きかかえている女の子を庇うように壁に激突して座り込んだ。どうやら司令官も同じようにすぐ後ろの壁に激突し座り込んでいるようなのが気配で分かった。
オレ達は壁に激突したがお陰で階段の柵を挟んで敵との射線を防ぐことが出来た。
オレたちを撃ってきた二体のロボットはオレたちを撃てる場所まで移動するため前進して来ていたようだが、すぐさまリィナがその二体を倒してくれた。
オレは女の子の様子を伺った。女の子は虚ろな表情をしているが外傷はなさそうだ。
次にオレは助けてくれた司令官の方を見た。
司令官は壁に持たれ、苦しい表情を浮かべながら座り込んでいる。彼の左脇腹と右足から血がたくさん流れているのが見えた。
「司令官!」
彼は撃たれたのだ。
「リィナ! この子を二階に連れて行ってくれ!」
オレはコチラに向かってきており、一階での戦闘を一通り見て女の子の置かれた状況も把握しているはずのリィナに、抱きかかえていた女の子を二階に連れて行くように頼んだ。
リィナは了承し、先程のオレと同じように銃を背中に背負い、女の子を抱きかかえ、二階に向かってくれた。
その間にオレは司令官の元に向かい様子を見た。
司令官は重症だ。
「さらに新たな敵、四体!」
二階に残り、何とか二階の脱出ルートを確保してくれていた班員の一人、ジャックが続々と出てくる一階と二階の敵の増援を何とか倒し続けてくれていたが一人ではすぐに限界は来る。
オレは司令官の特にひどい脇腹の出血を抑えるために、バンダナを取り出した。
「司令官、これで脇腹の怪我したところを抑えてください」
オレは司令官にバンダナを渡した。それで出血箇所を押さえた司令官は苦しそうなうめき声を漏らした。
「司令官、ここから移動します」
オレは司令官に呼びかけ、司令官を立たせようと肩を貸し手で支える。
「くっ!」
司令官がよろめく。
「お願いします。時間はありません、立ってください!」
ここでオレ達が止まっている時間は無い。
「立って!」
オレは司令官を抱え何とか立たして、肩を貸し、手で支えながら司令官とともに階段を登っていった。
二階につくと、女の子を守りながら二階を敵から抑えてくれていたリィナとジャックも合わせてそのまま出口に向かった。
それから出口にたどり着くと、オレはジャックに出口付近で後方から来る敵の撃退を頼み、彼が敵を撃退してくれている間にオレと指令官、リィナと女の子は通路を進んだ。
すると先程の銃を持った兵士の二人が必死な表情で戻ってきて、オレに叫んだ。
「敵が、敵がこの本部を出るまでの退路にも押し寄せて来ている!」
「今は戦える人で食い止めてるけど、早く脱出しないとまずい!」
その時彼らも司令官の容態に気づいた。
「司令官、そんな」
オレは彼らに他の人の状況も聞くため一旦司令官を敵の射線が切れている壁に寄りかかるように座らせた。
「戦えない人たちは、脱出しましたか?」
オレは兵士の二人に尋ねた。
「あぁ、彼らは君の仲間の一人が誘導して上手く本部を脱出したみたいだ」
「そうか、なら二人は司令官を運んで、とりあえず前の人達とーー」
オレがそういった時、オレの足を掴んで司令官が言った。
「レアン、俺を置いていけ」
司令官は手を離し、荒い息を吐きながらも更に続けた。
「俺がいたら脱出出来ない。脱出できたとしてもデルタまで持つか分からない」
「司令官……」
オレも駆けつけてきた二人もその司令官の願いどおりに決断することは出来ずにいた。
オレはさっき司令官に助けられた。司令官を置いて行きたくない。でもこれ以上犠牲者を増やすわけにもいかない。
「お姉ちゃん、私、お母さんとお父さんを助けに行く」
リィナと手を繋いでいる女の子がそう言って、ジャックのいる出口の方に戻ろうとした。
「待って!」
リィナが手を引いて慌てて止める。
「ごめんなさい、もうあなたのお母さんとお父さんのもとには行けないわ」
「いやっ! お母さん、お父さんと離れたくない!」
「私が一緒にいるから! 私があなたのお姉ちゃんになるから! だからお願い、戻らないで」
リィナがそう言うと、女の子はリィナに胸に飛び込み「私のせいで、私のせいで」と泣いていた。そんな女の子をリィナは優しく抱きしめ「あなたのせいじゃない、あなたのせいじゃないわ」と頭をなでていた。
「レアン! ここも長くは保たない!」
先ほどオレ達が出てきた大広間の出口付近で敵を食い止めてくれているジャックの声が聞こえてきた。
後ろも、おそらく前も限界に近い、早く決めないと!
「俺が時間を稼ぐ。その間にみんなは脱出しろ」
オレたちと同じくジャックの声を聞いていた司令官は覚悟を決めた表情でみんなにそう言った。
「オレは……」
「レアン、あの子のためにも、みんなのためにも、頼む」
司令官はリィナが抱きしめている女の子を見て、周りを見てそう言った。
「……分かりました。司令官、あなたをここに置いて行きます」
司令官の覚悟を無駄には出来ない。オレは決断した。
司令官はそれで良いと言うように頷いてくれた。
「ジャック! こっちに戻ってくれ!」
オレは後ろで敵を食い止めていてくれたジャックに戻るよう指示し、「司令官をここに置いていく。二人は前の方に行って、前にいる人達に加勢してくれ」と駆けつけた兵士の二人にもそう言った。
二人は悲しい表情をしながらも頷き「司令官、すみません」と司令官に伝えた。
「いいんだ、気にするな」
司令官は二人を安心させる様な声で言った。
「みんなで支え合うんだ。さぁ、行ってくれ」
司令官も二人に別れを言った。
「オレたちを助けてくれて、ありがとうございました」
二人も司令官に別れを言った。
二人は前で戦っている人たちのもとへ向かい、入れ替わりでジャックが戻って来た。
「司令官をここに置いていく」
オレがいま来たジャックと一応リィナにもそう伝えると二人とも苦しげな表情をしたが「オレを置いて行ってくれ」と司令官が言うと、二人も心を決め分かったと頷いた。
「手榴弾はあるか?」
オレはリィナとジャックに尋ねた。
「持ってる」
ジャックが手榴弾を取り出し、オレはその手榴弾を受け取った。
「司令官……」
オレはその手榴弾とフォルスターに差していたピストルを司令官に渡した。
「司令官さんも、死んじゃうの?」
リィナが抱きしめている女の子が司令官の方を向いて、嗚咽混じりにそう言った。
「そうだね、でも君は生き延びる。お姉さんとお兄さんが守ってくれるから。だから大丈夫だよ」
司令官は優しく女の子にそう言った。女の子はうんと頷いた。
「レアン、三人共、みんなを、その子を頼む」
司令官はオレ達にそう言い残した。
オレとリィナとジャックは頷いて「必ず守ります」と伝えた。
「行こう」
オレはリィナ、リィナが手を繋いでいる女の子、ジャックと共に、前で戦っている人たちのもとへと通路を走って向かった。
それからしばらくして、後ろから爆発の衝撃音が聞こえてきた。
ごめんなさい、司令官。
オレたちは前で横の通路から迫ってくる敵と戦っている人たちの元へたどり着いた。
「みんな、撤退だ!」
オレはみんなに呼びかけた。
「この基地から出て街を抜ければオレたちの車両がある! そこを目指すんだ!」
絶対に脱出するんだ! 司令官のためにも!
班員の一人、ライが戦陣を切って、戦ってくれていた生存者たちを誘導し撤退へと導いてくれた。
オレ達三人も最後尾で女の子を守り、敵と応戦しつつ、女の子の走るペースに合わせながらこの基地の出口へと向かい、ようやく基地の出口にたどり着き、外へ出ることが出来た。
オレたちは自車両の元へと走ったが、今にも基地の出口から増援の敵が出てきそうだった。
その時「レアン、リィナ、ジャック、走れ!」と先頭で銃を持った人達を率いていたライがオレ達に呼びかけ、オレたちの背後にある出口に向かってグレネードランチャーを放った。
最後尾のオレとジャックとリィナと女の子は全力で走り、ライが放ったグレネードは見事出口から出て来ていた敵を吹き飛ばしてくれた。
そのおかげで時間が稼がれ、オレ達は二台の車両の元へたどり着き、先に辿り着いていた生存者達と彼らを案内していたもう一人の班員、ルイと合流することが出来た。
ジャックは兵用車両の上に付いている銃座につき、ライとルイは二車両のそれぞれの運転席に、オレとリィナと女の子は生存者たちの確認をするため兵用トラックの荷台に乗り込んだ。
リィナは生存者たちが十五人いるか確認し、オレは班員に無線で全員いるか確認した。
そしてその両方の確認が取れるとオレは撤退の指示を出した。
「よし、トラックから順に出せ! ジャックは後ろの敵を撃ち倒してくれ!」
後ろから追いかけてくる敵に対応するためオレたちの乗ったトラックから順に撤退を始めた。
しばらくはエコー基地、街から敵が追ってきてオレたちを撃とうとしていたのだろうが、ジャックが銃座から敵を銃撃し、敵が撃ってくる前に撃退してくれた。
その後、敵の追撃を振り切ったとジャックから無線連絡があり、ようやく戦闘が始まってからずっと響いていた争いの音が止んだ。
オレはトラックの荷台から遠くに見えるようになった侵略されたエコー区を眺めた。
オレや調査班、生存者のみんなもそのジャックの連絡に安堵はしても、街や基地が破壊され司令官やエコー区の大勢の人が殺された悲しみ、そして今は生き延びることが出来たとしても次の総攻撃がまた来るだろうという疲労感と絶望感に包まれていた。
司令官、ひとまず生き延びましたよ。
生存者と調査班を載せた二台の車両は曇り空から太陽の光が少し多く差しこむようになり、当たりを薄く照らしている大地を走り、デルタ区に向かって進んで行った。
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