21世紀には3回目も起こっていましたね
「ともあれ、これから世界も日本もどんどん間違った方向に進んでいきます。
恐ろしい世界大戦がもうすぐ2回も起こります。
21世紀には3回目も起こっていましたね。この前見てきたら」
「俺も参戦できればいいんじゃがのう」
永倉がそういうと、冬華はゆっくりと首を横に振った。
「それは永倉さんの役割ではありません。あなたは学校で若者を良き心を持つように育てる事に尽力してください。
決して富国強兵などという邪悪に惑わされないように……」
「ああ。それはわかった。任せておけ。
でも俺自身も参戦したいのう……」
「そんなに力試ししたいなら、死んだ後で出雲さんと手合わせできるように、それとなく交渉しておいても良いですよ?」
「本当か!? ていうかお前さんじゃなくて出雲健か?」
「はい。どうせ戦うなら最強とが良いでしょう? 出雲さんはわたしよりもずっと強いです。
神通力も全力で使った時のわたしでも、出雲さんには逆立ちしても勝てませんから。何回地に打ち臥せられたか分かりませんよ」
「日本武尊に島根――じゃなくて冬華くんの話だと伊勢の国の五十鈴川か――で一撃で斬り殺されたのに、竜神であるお前よりもはるかに強いのか出雲健は?」
「あれは出雲さんのお人好しが暴走した結果です。ちゃんと斬り合いしていれば一撃で真っ二つになっていたのはオウス君よ。間違いなくね。
お人好しを適度に制御できるようになった今の彼は、八百万の神々のほぼ全員を瞬殺できるほどの実力を見せつけています。わたしたちに。
男の天照様に
『出雲健は出会った時から完璧だったよ。太陽神から見てもな』
とまで言わせた男は出雲さん彼ひとりしか見たことないわね……」
「ふうん。冬華くんみたいな竜神でも子供扱いされるほどの出雲王国最後の王と剣術勝負か……。それは楽しみじゃのう……」
狼の目をしている。
彼の目を見て、冬華がそう思った、その刹那――――
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「水鏡の女。結構下界に情報を流しすぎたのではないか?」
部屋の入り口から、そんな男の声が聞こえてきた。
聞き覚えがある声だ。いやこの声は覚えがあるどころではない――
そう思い、ハッと振り返った冬華の目には、白を基調として唐草模様の施された服に身を包んだ清潔な男が映った。
「うっっっ――ウガヤ様!?
もっ申し訳ございません……わたし口が重いと思っておりましたが、つい……」
そう漏らし、思わずその場で土下座する冬華。
「誰じゃいなこのにーちゃんは!」
「お前さん。冬華ちゃんのご友人というので通したんですよ。でも見る限り、単なる友人って雰囲気でもない感じねえ」
土下座している冬華の後頭部を見ながら永倉の妻がそうこぼすが、ウガヤと呼ばれた男はマイペースな感じで冬華を見つめている。
「そうかしこまることもないぞ水鏡の女。それは合理的ではないな」
「おいにーちゃん、お前まずはちゃんと名乗ったらどうだ?」
ややきつい目つきで、永倉。どうやら彼の姿が傲慢に映ったらしい。
「我らは自ら名乗って権威を見せつけることはルールで禁止しているのだ。我が父である男の天照――天火明命が3億2千万年前にそう決めた。邪神以外は全員この縛りを守っている。
悪の神が名乗りまくって権威主義バリバリでくさいのとは対照的だな、と自らを評しておこうか。合理的だな」
「いけすかんにーちゃんじゃのう!」
正直な感想をまっすぐぶつける永倉。そんな彼に、冬華は、
「あの、永倉さん! 彼とは死んだ後で否が応にも一度相対して審判の時を迎えるので、その時まで完全な正体は我慢――」
「いいや! まずはこの場での無礼を詫び――」
「ウガヤ?――って、天津日高日子波限建鵜草葺不合命? もしかして……この男前なお兄さんが……?」
永倉の妻が、そんなことを口にする。それを耳にして、永倉はいささか混乱した様子を見せる。
「な……んんん!? なんじゃそれは。それ名前か? 呪文みたいな名前じゃのう! どこが名字でどこが名前なのかすらわからんぞ!? 映画俳優か?」
「ある意味映画俳優かもな」
永倉の言葉に無意味に乗ってみるウガヤ。そんな彼を、冬華は呆れた顔で見上げた。
「ウガヤ様……あなたって人は」
「ふっ。それでだ、水鏡の女。ご歓談の所悪いが、妖怪春女がお前を呼んでいるぞ。行ってこい」
「能天気春女が? ていうか聖上をメッセンジャーにするとか、どこまで無礼なのあの子は……!?」
さらに自分の表情を呆れた感じに崩して、冬華がやや首をかしげつつその感情を漏らす。
「このにーちゃんも十分無礼じゃがな」
「いやあの、永倉さん。それはわたしの顔に免じてどうか許していただけると……」
「えらい弱腰じゃのういつも強気なお前が。このにーちゃんがくらおかみなのか? お前の上司の竜神の」
「竜神てとこは合ってますが、直接の上司じゃないですね……そもそも闇霎様は女だし」
「闇霎という時点で女だとわかりそうなものだが。今の下界はわたしが開発して貴様らに与えてやった言語というツールもだいぶ劣化しているのか?」
「お前が開発したとかずいぶん偉そうじゃのうにーちゃんよ?」
「あの、だから、ケンカはやめてくださいホント……」
ちょっと泣きそうな顔で、冬華がそう訴える。
「ふむ。水鏡の女の涙に免じてここはもう少し柔らかくなってやろう」
「冬華くんの涙に免じて引いてやるわい」
「泣いてませんよ!? ちょっと泣きたい気分にはなりましたけれども!」
ふたりに抗議の声をあげるが、ふたりともあまり聞いている感じではなさそうだった。
「ふふふふ…………!」
そしてその様子を見て、永倉の妻は思わず笑いをこぼした。
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