バトルマニアですかアンタ

「性格から予想はついていましたが、結局それが目的なんですね……永倉さん。バトルマニアですかアンタ」

 思わず呆れている態度を隠すことも忘れ、冬華はそうごちた。永倉は横文字に慣れない様子で、

「バトルマニアてなんじゃいな。今の世でも横文字はまだ慣れんのじゃ俺は」

「せんとーきょーって意味ですよ。戦闘狂。誰かを守るとかそういうのよりも、まず強いものに会いに行くのを最優先するタイプの男です!」

 手の甲を向けて、ひらひらと振る冬華。手に負えないわよっていう意味の彼女のサインだ。

「まぁ、正直永倉さんの龍飛剣は習得したいと思わないでもないですが……」

「教えてやるよ?――実戦でな!」

「そう来ると思いましたよ……遠慮します。腰痛めているあなたと切り結んだとあれば、あなたの奥さんと子供さんに怒られますからわたしが」

「怒りゃせんて! 大丈夫大丈夫! ちょっとだけな!」

「遠慮しますってば! 新撰組最強のあなたでも奥さんと子供には弱いんでしょ!? 絶対わたしも怒られるわよ……」

 語気をやや強くして断りの言葉を出した後、冬華は思わずそれとなく闇霎から禁止されている――幸せが逃げるからと――ため息をついてしまった。

「あなたって人は……本当に剣術一筋の人生なんですね」

「今頃気づきおったか。遅いわ! はっはっはっは!」

「うふふ…………」



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「――で。冬華くんはこれからどうするんだ?」

 それから1時間以上話をつづけた後、永倉は竜神の巫女にそう尋ねた。

 彼女は、やはり色々と逡巡した顔を浮かべながら、

「難しいですね」

 そうごちた。

「何がじゃ? 今後の予定決まっとらんのか?」

「いえ……これからすることは決まっているのですが……」

「じゃあ何に迷っとるんじゃお前さんは。面白い女じゃのう! すること決まってるならまっすぐ突き進めば良いのに!」

 そんな彼のセリフを聞いた途端、彼女は思わず笑みをこぼした。

「あなたは、今でもまるで少年のようですね。永倉さん。いつもいつまでも真っすぐ」

「それが俺じゃからの。はっはっは!」

「うふふ……」

 ひとしきり笑いあってから、永倉は改めて聞き直した。

「で、どうするんだ?」

「そんなに興味がおありですか? わたしたちがすることに」

「……単独で動くわけじゃないんじゃのう」

「そうですね。基本神の使命を受けている状態ですので」

 冬華は、自分の横髪を指にくるくる巻きつけていじりながら、迷いつつも口に出し始めた。

「まずはニコラ・テスラに会いに行きます」

「にこ…てす? なんじゃそら?」

「発明家ですよ。エジソンなんかよりアインシュタインなんかよりもずっと凄まじい稀代の発明家です。火星生まれで今地球にいる彼は、地上にいながら我ら天の者と同質の意識は物質や確立に影響を与える――つまり量子を操る力を自由に使いこなし、古典物理を足蹴にするかのように現実の存在の確率を操作することにより――」

「あーあーわかった! いや全然分からん! 俺の超~苦手な分野だなそれは! そこは流してくれていい!」

「そ、そうですか……わかりました」

「とにかくなんか南蛮人の発明家に会うっちゅーことだな。会ってどうするんじゃい?」

「ABCDEFを悪用されないようにと対策を促しに行きます」

「えーびー…なに?」

 混乱した様子の永倉をとりあえずそのままにして、冬華は

「今の時点ではABC兵器と言われています。Aは原爆です。アインシュタインがそれの開発のきっかけの一端を担います。いや、彼自身は原爆には反対なのですが、可能性を皆に見せてしまったという点では完全な無関係ではありませんね……。

 Bは生物兵器。Cは化学兵器。ばけがくの方ですね。

 それに21世紀になるとD――デジタル兵器。E――ニコラテスラを暗殺した者が彼の発明を悪用した未来の結果の気象兵器、人工台風人工地震など。Fは……」

「ちんぷんかんぷんじゃ……」

 そんな様子の永倉を見て、水鏡は苦笑いを漏らした。

「あ~……まぁ、未来に出てくる悪魔の兵器の開発を阻止しに行くって事です。

 環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約が、え~っと……今から67年後、ベトナム戦争後の1977年に結ばれるのですが――――

 あぁ、思い出した。環境改変兵器禁止条約です。ベトナム戦争後にこれが結ばれます。

 いや、67年も未来の話に対して思い出したってなんか不思議な表現な気が我ながらするんだけれど。未来を思い出したって。

 ――ともあれ、人口削減アジェンダを推し進める人に化けたトカゲ人間どもは、条約を無視して21世紀でもニコラテスラの気象兵器を使い続けていますし……。

 阻止できるかどうかもわかりませんが……」

「竜神の巫女にできないわけないじゃろ。お前さん俺の目の前で神通力何度も見せただろ。お前はその気になればこの星そのものも一撃で消し飛ばせるだろうに、あの感じだと」

「能力のあるなしではなくて、世を神の手により操作しすぎないように、できるだけ下界の人の自主性を信じてやんわりと良い方向に修正できないかという事です」

「なんか色々と難しい制約があるようじゃの。神に仕える天人とやらも」

「大変ですよ? あまり破りすぎると神本神にボコられますからね」

「へぇ? むしろ直接対決するためにわざと粗相をしてみたいのう」

「怖いもの知らずですね……」

 冬華は、彼の豪胆さに何度目かの苦笑いを漏らした。

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