第24話 リリム・リア・クラウン
ある少女の話をしましょう。
彼女の名前はリリム・リア・クラウン。子供のいなかったクラウン王家に生まれた初めての赤子。
だけど、彼女には兄がいました。
血の繋がらない兄、アルシュ・ドラグニカ・クラウン。王位継承権が与えられた特別な養子。
王家に縁のない者に継承権が与えられるなど普通はありえないことですが、彼は神からクラウン王家に授けられた子供だったのでそれでもよかったのです。
ですが、わたくしの両親は悩みました。王位を誰に引き継がせるべきかを。
元々は兄アルシュに王位を継承させるつもりでした。
神から与えられた子供を2人は自分たちの本当の子供として育てていたのですから。
だけどわたくしが生まれたことで、自分たちの血を引く子供にも王位を継いでもらえたら、そんな気持ちがほんの少しでも思い浮かんでしまったのでしょう。
悩んで、悩んで、2人はとっても残酷な方法を思いつきました。
兄アルシュと妹リリム、その2人を結婚させればよいと考えたのです。
いえ、あなた達はそれでいいですよ?
子供たちがずっと自分たちの手元に残ってくれるなんて嬉しい限りでしょう。
でも少し冷静に考えたら恐ろしいことです。
物心がつく頃には将来結婚する相手が決まっている。
一生に一度の選択が、気付いた時には取り上げられている。
それはとても恐ろしいことなのです。
なのにわたくしは、なぜあんなにも嬉しかったのでしょうか?
お兄様、アルシュが自分の将来の相手だと知った時、わたくしは意味もわからずに喜んでいました。その日はとても嬉しくて眠れなかったのを覚えています。
優しい、兄でした。強い、兄でした。
わたくしをいつもお姫様のように扱いながらも(お姫様なのですけど)、いつだってわたくしの手を引いて小さな冒険に連れ出してくれました。
家来たちに見つからないようにお城の中でかくれんぼ、城下町の子供たちみんなを交えての鬼ごっこ、川釣りも焚き火も、自分の子供時代の楽しい時間にはいつもあの人がいました。
それはとても幸せな日々でした。
わたくしに
騎士の訓練中に起きた事故で大ケガをした兄の姿を見て、その力は目覚めました。
わたくしは気付いた時には1日前に遡って、そのケガをなかったことにしていたのです。
1000年に一度生まれるという時代渡りの巫女。その力は、伝説以上に絶大でした。
時間・時空に干渉する力。
過去に戻って、失敗をなかったことにできる。
未来に渡って、これから起きることを知ることもできる。
過去や未来に影響を与えることによって生じる矛盾、タイムパラドックスすら無視する、魂の比重が優先される主観的な時間干渉能力でした。
だから、知ってしまったのです。
お兄様の魂の奥にある、遠い過去を。
ここではないどこか。いまではないいつか。
知らない世界、知らない平和、知らない家族。
だけど知っている、わたくしが大好きなあの人と同じ笑顔。
そこにいた小鳥遊龍弥という人間は、暖かい世界で育ち、微笑ましいほどの青春を送り、当たり前のように恋をしていました。
そして異世界に渡り、苦しみ傷つき、長い流浪の果てにその肉体は砕け散ります。
わたくしの目の前にいるのは、その魂の最果て。
わたくしが愛したのは、その魂の流転輪廻。
この世界に転がり生まれ、巡り合うことのできた奇蹟の運命。
だからわたくしは愛します。傷つき疲れた、はかない鳥を。
だからわたくしは知っています。翼をもがれた貴方が、今も帰りたいと願う場所を。
それでもわたくしは聞きたいのです。
それを知ってなお、わたくしは貴方に問いたい。
この世界では、ダメですか?
わたくしでは、ダメですか?
どうか許してくださいお兄様。
わたくしは貴方の苦しみを知りながら、それでも貴方に側にいて欲しいのです。
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