第4話

「くっそぉー……ノノさんったら、私のことナメくさってからにぃ……。そりゃ私は、どうしようもないくらいに落ちこぼれ忍者だけどさ……。わ、私にだって、プライドってもんがあるんだからね? 面と向かってあんなこと言われたら、ヘコむっつーの!」

 昨日のことを思い出して、忌々いまいましそうに忍者装束の足袋で地団駄じだんだを踏む忍。

「だ、だいたい……この業界の人って、とりあえず『ニンニン』って言っとけば全部許されると思ってる節があるよね⁉ 『もしも』のことがあったら『ニンニン』って……私、何されちゃうんだよっ⁉ 怖ぇーよっ!」


 とはいえ。

 上司からの忍に対するそんな低評価は、全くもって正当なものだ。今も彼女は隠密行動を忘れ、大声でグチをこぼしてしまっているのがその証拠だろう――幸いにして、耳が遠いツルノには気づかれていなかったが。

「ま、どうせ期待されてないんだったら、いつもみたいに適当にやりますよーだ!」

 そして落ちこぼれ忍者の忍は、サプライズニンジャ業務を開始した。




「忍法口寄せの術! ドロン!」

「あらあらぁ……大きな猫ちゃんだねぇ。野良かな?」

「い、いや、これは野良猫じゃなくて、本部からレンタルしてきた化け猫で……」

「お味噌汁のダシにつかった煮干し、食べるかね?」

「あ! ダ、ダメです! この子は、専用のエサしかあげちゃいけないことになってて……ちょ、ちょっとコラ⁉ お前も、食べちゃダメだってば! おい! 変なもの食べさせると、私が怒られるんだから……」

「おー、よしよしよし……」

「あ、あー、もおー……」



 しかし、そこは落ちこぼれ忍者の忍だけあって……。



「忍法、分身の術!」

「あらぁー? ケンちゃんかい?」

「え? ケンちゃんって、依頼主の息子さん……?」

「今日は、小学校のお友だちもたくさん来たねー?」

「息子さん、確か五十代くらいって聞いてたけど……もしかして、何十年も前の記憶とごっちゃになってる?」

「ひい、ふう、みい……お菓子が足りなそうだから、買ってくるねぇー?」

「あ、いえ。それは、大丈夫なんで……そ、それよりも、分身の術で私が増えてるの、すごくないです? 結構ビックリしないですか? いやー、実は私、昔からこれだけは得意で……」

「あ! 私、お婆ちゃんちのよくわからないお菓子って好きなんだよねー!」

「は?」

「うむ。ちょうどわれも、食べたいと思っていたところである」

「ちょ、ちょい⁉」

「ではわたくしは、お菓子に合うほうじ茶でも、淹れさせていただきますわね?」

「お、お前らー⁉ 全員私の分身のくせに、勝手に動くんじゃなーい!」

「うふふ、仲良しだねぇー……」



 ツルノの身に、『もしも』のことが起こるどころか……。



「ああ、もうネタがないよ……今日はどうしよ……? えっとー……に、忍法、縄跳びの術! ……な、なんちゃってー」

「あらあら! ケンちゃん縄跳び上手だねぇー? おばあちゃんに、もっと見せておくれよ」

「……あ、あれ?」

「すごいすごい、ホントにすごいねえ? どうして、今までこんなすごいこと隠してたのお?」

「う、嘘でしょ……今までで、一番ウケてる?」

「おばあちゃん、こんなにすごいの初めて見たよお?」

「い、今までの私の忍術、ただの縄跳び以下かよ……。ああ……悪気のない言葉が、私のプライドをエグる……」

「ケンちゃんは、将来は縄跳びのオリンピック選手になれるねえー」

「は、ははは……」



 結局。

 上忍ノノの期待通り、いつまでたっても自分の望むようにツルノを驚かせることが出来ない忍なのだった。

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