第27話 なんかどっか行くみたいですね。




 人体実験が公認の下行われ、今日も要塞の一部から悲鳴が聞こえる。

 ネレアの警告により仮想戦域センターを使用できなくなった強慈郎とラスティは仲良く格闘ゲームをしていた。



「おい、ラスティ。お前、なんでそんな強いんだ」


「だって俺……このゲームやり込んでるもん」


「くっそ……次は負けねぇからな」



 白熱した戦いは、ラスティが勝利したところで幕を閉じた。彼は伸びをしながら強慈郎に話しかける。



「強慈郎!そろそろ行こうぜ。新しい任務の発表があるぞ!」


「おぅ、今行く」



 二人は部屋を出ると、そのまま指令室へ向かう。その道中でラスティはふと思い出したかのように口を開く。



「そういえばさ、お前ってなんでこの要塞に来たんだ?」


「ん?あー……強いて言うなら、気に食わねぇ奴を徹底的に叩き潰したくてな」


「はははっ!お前みたいな野蛮人はそれで十分だ!」



 二人は雑談に花を咲かせながら歩みを進めると、中央管理棟最高司令室へと辿り着いた。彼らが部屋に入ると既に残りのメンバーが揃っていたようで、皆緊張した面持ちで待機していた。彼らの到着を確認し終えると、ライナスが口を開いた。



「……全員集まったな。では始めよう。今回の任務は……」



 彼らは最高司令官の言葉を待つ。部屋が静寂に包まれた頃、彼は口を開いた。



「惑星『オリオン』との交渉だ」



 それを聞いた瞬間、空気は一変した。彼らの顔には明らかに不安と動揺の色が滲んでおり、司令官を見つめる目は真剣そのものであった。彼らの様子を満足そうに眺めながら、ライナスは続けた。



「現在太陽系第三転移座標は我々『トリリオン』が抑えている。銀河連邦との大戦に向け、主要ルートを抑えておくのが目的だ。だが、転移座標は維持するだけでは意味を成さない」


「現在『オリオン』はどの惑星にも所属していない独立自治区です。そして、彼らの惑星に付近にも転移座標があります。今回はそこのに新たな要塞を設立するための交渉になります」



 ネレアが補足し、ようやくこの任務の意味を全員が理解した。だが、同時に彼らは不安を募らせる。彼らの中には交渉の経験を持つ者はほとんどおらず、そもそも上手くいくかさえ分からないのである。

 そんな彼らの様子を見かねたかのようにラスティが声を上げた。



「大丈夫だ!俺たちなら出来るさ!」



 彼の言葉は根拠こそないものだったが、以前と違った活気に満ちた姿は不思議と説得力があった。皆の表情に希望が見え始めたところで、ライナスが話を続けた。



「今回は『オリオン』との交渉にネレアとMr.ケイの2名を派遣する。イリシウムには『ヴィーナス』の制御を……ミザリィとラスティは不足の事態に備えて、戦闘部隊の指揮を頼む」


「はっ!」



 2人は声を揃えて返事をする。ライナスは満足そうに頷くと、隣に控えていたジェシカに目配せをする。


 それに応えるように、彼女はパネルを操作して立体ホログラム映像を表示させた。そこに映っていたのは惑星『オリオン』であった。



「これが今回の任務対象の惑星だ。切り替えてくれ」


 ライナスが促すと画面が切り替わり、そこには赤を基調とした軍服を着た人々の姿があった。そして映像中央には、椅子に座った黒いフードを被った男がいた。



「彼が『オリオン』の最高権力者、『スメラギ』です」


「『オリオン』は銀河連邦との大戦で重要な拠点となる惑星だ。その交渉が成功すれば、我々も動きやすくなるだろう」



 ライナスはそう言うと、2人に向き直る。そして真剣な眼差しで二人を見つめた。



「……ネレア、ケイ。お前たちに託すぞ」



 2人は静かに頷く。


 すると、突然強慈郎が口を開いた。



「なぁ……ちょっといいか?」



 彼は疑問を感じたのか、司令官たちに問いかける。



「戦闘部隊を配置するのか?交渉だけなら必要ないんじゃねぇか?」


「それに関してだが……」



 ライナスはそれだけ言うと言葉を濁す。代わりにネレアが口を開く。



「……今回は護衛が必要です」



 彼は真剣な顔でそう答えた。彼女の言葉に続けてジェシカも発言する。



「現在の『オリオン』は独立自治区ですが、裏を返せば銀河連邦に属さない星間国家、しかも奴らの要地となりうる場所と言えます」



 2人の説明を受けて、強慈郎は納得したように頷いた。そして再び司令官たちに問いかける。



「てことは、護衛対象は『オリオン』の連中か。……敵が怪しい動きをしてるってことでいいか?」



 彼は無言で頷く。その動作を見て納得したのか、強慈郎は再び席に着いた。すると、今度はラスティが問いかける。



「でもさ、『オリオン』の連中は信用できるのか?」


「それは……分かりません。ただ、銀河連邦と対立関係であるのは確かです」



 ネレアは少し言いづらそうに答えると、司令官たちの方に向き直る。



「我々は交渉を成功させなければなりません。必ず、どんな手を使っても」



 その言葉を受けてライナスは深く頷き、口を開く。



「その通りだ。今の我々の最優先事項は、大戦への準備を進めることだ」



 彼はそう言うと、その場の全員に指示を出し始めた。



「『ブラックジャックス』、『ヴィーナス』を率い、ネレア艦長とMr.ケイは、独立自治区『オリオン』へ赴き、スメラギとの交渉を。トリリオンの諸君は惑星間航行準備を開始。既に銀河連邦の勢力が『オリオン』に向かっている可能性も加味し、任務を遂行せよ」


「了解!」



 一同は声を揃えて返事をすると敬礼をする。そして、それぞれの仕事に取り掛かったのだった。



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