第28話 大事な作戦の前に告白ってあれだよね。




「なぁ……強慈郎」



 強慈郎の個室で、出航準備をするその背中にミザリィは声をかけた。



「どうした?」



 彼はいつも通りぶっきらぼうな口調で答えると、荷物から視線を外し彼女の方へ向き直る。彼女は少し俯きながら続けた。



「あのさ……お前って今独身だったよな?」


「この前言っただろ」



 彼女の真意がわからず困惑するが構わず、ミザリィは続けた。



「……えっと……その……」



 彼女の様子は明らかにおかしかった。いつもの彼女ならば、ここまで言い淀んだりはしないだろう。

 強慈郎はその姿を見据えながら黙って待つことにした。数瞬の沈黙の後、意を決したかのように口を開くと、こう言った。



「お前って……好きな人とかいる?」


「……は?」



 それを聞いた瞬間、彼の時が止まったような気がした。彼の反応を見て、ミザリィはさらに続ける。



「あっいや!無理に答えなくていいんだ!ただちょっと気になっただけで……」



 彼女は慌てて取り繕うとするが、彼は無言のままだ。その表情からは感情が読み取れない。


 ミザリィは居た堪れなくなり、部屋から出ていこうとしたが腕を掴まれて引き留められた。彼は無言のままだ。やがて、ゆっくりと口を開くと、こう言った。



「誰の指示だ?俺の弱みを聞き出すためか?」



 それはあまりに無頓着で真っ直ぐな言葉だった。ミザリィは一瞬言葉を失いかけるがすぐに正気を取り戻すと、慌てて反論する。



「いや、違う!勘違いすんなよ!?別に……誰かの言われてとかそんなわけじゃ……!」



 彼女は混乱している様子だったが、彼は気にした様子もなく言葉を続ける。



「まぁいい。とりあえず落ち着け」



 そう言うと、彼は掴んでいた手を離した。ミザリィは深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、改めて強慈郎に向き直る。



「えっと……その……」



 彼女は再び言い淀むと俯いてしまった。だが今度はすぐに顔を上げ、意を決したように口を開く。そして、はっきりとした口調でこう言った。



「お前の……ことが好きなんだ」


「……はぁ?」



 彼はそれだけ言うと再び沈黙する。ミザリィは不安げな表情で彼の様子を窺うが、その表情からは感情が読み取れない。彼女は恐る恐る問いかけた。



「お前は……どうなんだ?」



 強慈郎はしばらく考え込んだ後、静かに答える。



「……悪いな」



 それを聞いた瞬間、ミザリィの目から涙が溢れ出したかと思うと嗚咽し始めた。彼女はそのまましゃがみ込むと泣きじゃくり始める。強慈郎は無言でその様子を見つめると、彼女の頭にそっと手を置き、優しく撫でた。



「泣くな」



 彼はそれだけ言うとミザリィの頭から手を離した。彼女は泣き止もうとするが、なかなか上手くいかないようだ。そんな彼女を見て、彼は小さくため息をつくと口を開く。



「そういうのはよくわからん。あとお前のこともそこまで信用してない」



 それを聞いた瞬間、ミザリィは顔を上げた。そして涙で濡れた顔で強慈郎を見つめると、震える声で言う。



「ぐすっ……それでも……私はお前と一緒にいたいんだ」



 彼女の目は真剣そのものだった。強慈郎はそんな彼女の目をしっかりと見据えると、諦めたように首を振ると静かに口を開いた。



「……わかった。好きにしてくれ」


「ありがとう……」



 ミザリィは泣きながらも笑顔を浮かべると、再び彼の胸に飛び込む。強慈郎は彼女を優しく抱き留める。


 陰から覗き込む執事とメイドが仲良くガッツポーズをしていたのだが、強慈郎には知る由もなく。


(……どうしよこれ)


 ただただ、目の前の少女を宥めるしかなかった。



 ―――




 それから数時間後。強慈郎達は『ヴィーナス』の甲板に居た。未だ離れようとしないミザリィを引き連れ、渋そうな顔をしている。


『ヴィーナス』同様、準備が整ったもう一隻の戦艦『ブラックジャックス』のデッキにも人影が見える。。



「ネレア艦長。お気をつけて!」



 ネレアに向かって手を振るのはジェシカとゾルザルだった。彼らは見送りのために港に来ていたのだ。2人に手を振り返しながら答える。



「ああ、行ってくる。留守は任せたぞ」



 トリリオンの乗組員たちに見送られながら、二隻の宇宙船は『オリオン』へと向かい飛び立った。

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