第26話 主人公いないところで新キャラ出すなよな。
熱い友情を育んだ二人を他所に、イリシウムたちは訓練場に向かっていた。
「ネレア、強慈郎に任せて本当に良かったのですか?」
前を歩くブロンドの髪を揺らしながら歩く軍服姿の女性に、イリシウムが話しかける。ネレアは振り返ると、悪戯っぽく笑った。
「あぁ、私はこれでも見る目は確かさ。戦況を見紛えたことも一度もないよ」
謎の自信。その表情にはなんとも言えない説得力があったが、イリシウムは突っ込まずにはいられなかった。
「そうはいっても、引き篭もってしまったようですけど?」
「あぁ、君たちと初めて会った時の話をしているのかい?」
「えぇ、自分で言うのもなんですがかなり乱暴をしました。正直こうして理性的に話しているのが不思議だとは考えています」
「あの戦闘はラスティにはいい経験になったと思う。もちろん、我々傭兵団にとっても。君たち二人を恨んでいる人間なんていないさ」
あまりに、飄々と言い切るので納得してしまう。
「……そうですか。ならいいのですが」
「着きました。こちらにどうぞ」
青雲斎がそういうと、3人は扉の前で足を止め、案内されるままに入室する。
まず目につくのは特大のモニター、次に座席シート。まるで講堂のような造りで、円形型に広がった座席は操縦席の様にも見える。
ミザリィが興奮気味に声を上げた。
「おいこれ、S.D.C.O.で見たことあるぞ!」
「えぇ、訓練室の情報をキャロルに復元してもらい、仏滅大殺界神社に提供しました」
青雲斎が説明をするが、全く頭に入って来ない約2名。
ネレアが困惑している様子に疑問を抱いたイリシウムは問いかける。
「ネレア、提案したのは貴方でしょう?何故驚いているんですか」
「ウチの技術担当に話だけは聞いてたんだが……まさかこんな施設になっているとは思っていなくてね」
二人は顔を見合わせたのち、ため息をついた。
二人が困惑していると、訓練室の扉が開く。
鬼ヶ島の整備士主任『黒井』、その後ろにはメイド服姿のキャロル、もう一人白衣姿の見慣れない男が入室してきた。
「やぁ、待っていたよ」
黒井の挨拶に対し、ネレアは軽く手を挙げて答えると、最後に入ってきた男に声をかけた。
「これはどういうことか説明してくれるかい?随分と話が違うじゃないか、Mr.ケイ」
Mr.ケイと呼ばれた男は何も答えず、ただ微笑むだけだった。その態度に少しイラッときたの小言を言い始める。
「君、そういうとこだぞ。私は仮にも君の上官だ、きちんと言葉にしたまえ」
「……失礼しました。艦長には強慈郎殿とイリシウム殿を連れてきていただく、この訓練場の情報をお伝えしました。もちろん、私も関わっています」
「Mr.ケイが関わってるなら問題はないけど……なぜイリシウムさんを?」
その問いに対しても彼は微笑むだけであった。答えようとしない彼にイライラが増したネレアだったが、当のイリシウムはというと、こちらに近づいて来た黒井に話しかけていた。
「あの……これ、大丈夫なんですか?私が銀河連邦のデータを確認した時には黒箱として使用非推奨となっていましたけど」
ネレアの様子を見ながら小声で話す二人。
「ボスの指示の元、キャロルくん、Mr.ケイ、それと要塞側の技術開発部で協力して作成ました。もちろん最低限の安全装置は取り付けてあるよ」
「……廃人になるようなことはないんですね?」
「えぇ。しかし、私もこの施設に関しては素人。なので整備や調整には時間がかかってしまいまして」
「だから、私が呼ばれたと?」
イリシウムが問いかけると、黒井が答えた。
「その通り。貴方が造り変えた機体、戦艦のデータを勝手に解析したが、適任者はイリシウムくん、君しかいないだろう。というか君がやってくれないと訓練生が最悪、死ぬ」
「危険なのは知っていて造ったんですね?」
その言葉に、ぴくりと肩が震え黒井は年若き艦長の顔を気にしながら、イリシウムの耳元で囁く。
「この要塞の兵力はあまりにも低すぎる……このままじゃこの先の戦いにとても耐えきれない」
「あまり近づかないでくれます?それにしたってこの装置は人の心を軽く見過ぎています」
「ひどい……僕なりの配慮なのに……」
「貴方は正常な考えを持ち合わせていないでしょう。……見殺しにするのも心苦しいですね」
イリシウムは少し考え、納得したように頷くと、ネレアに向かって声をかけた。
「ネレア!この訓練場は私が管理しますね!」
「えぇ……まぁいいけど……?」
彼女の勢いに押されながらも了承するが、この施設の危険性にはまだ気づいていない様子だった。
「では、早速始めましょう……あれ?あぁ……それで」
モニターを確認しながら、イリシウムは何かに気付いたのかミザリィに目をやる。
「なんだよ、じろじろ見て」
「いえ、ミザリィさん。貴方も被験……訓練生として登録されているみたいですよ」
「おい、今何か言い間違えただろ」
「何も言ってませんけど。ところで、傭兵団と要塞の訓練生達は?」
イリシウムの問いに、後ろに控えていたキャロルが口を出す。
「彼らは既に訓練を開始しています。座席にカバーが降りているところです」
そう言いながら訓練室の前方を示す。確かに何席か、カバーに包まっている様だった。
「へぇ……初めて見る仕組みですね。ミザリィ、座ってみてください」
関心しながら無邪気に促してくるネレアの言葉に、ミザリィは苛立ちを覚え始めていた。
(こいつら、そろいも揃って私を実験体扱いしやがって……!)
だが、ここで暴れても意味がないことは察していた。ミザリィは思い出したくもない地獄の特訓が頭によぎり、それを手で振り払う。
「……分かったよ!やればいいんだろ!」
「はい、お願いしますね」
と微笑む黒井を見て、彼女は更に怒りを募らせたのだった。座席に座ると、青雲斎にタブレットを渡される。
「これを使用して操作してください。起動後はシートが自動で降ります」
「おい、お前らはやらないのか?」
「私はキャロルと共にサポートに回りますので、えぇ。」
「青鬼と万が一の際のバックアップです!ミザリィ様ファイト!」
「……そうかよ」
彼女は乱暴に端末を受け取り、中を確認する。そこには訓練の内容や諸注意事項などが書かれていた。その険しい顔をみて何かを察したのか、ネレアは後ずさりをしながら口を開く。
「……では、私はこれで失礼する。諸君、頑張ってくれたまえ」
それだけ言うと、足早に部屋を出ていった。
「相変わらず、逃げ足の速いお方だ」
Mr.ケイが残念そうに呟くと、イリシウムが窘めるように耳打ちする。
「Mr.ケイ。今後、強慈郎を嵌めるようなことをしたらその整った顔、ぐちゃぐちゃにしてやりますからね」
「……以後気を付けましょう」
と彼は少し怯んだ様子で答える。しかし、その顔は僅かに微笑んでいたように見えたのは気のせいだろうか。ネレアを見送った後、科学者達は自身の好き勝手に実験……訓練を指揮するのだが、それはまた別の話。
「うわぁっぁぁぁぁっ……出せ!出してくれえっ!」
「いやだぁぁぁくるなぁぁっっ」
「ぐぁぁっぁ、頭の中に入ってくるなァァッ!」
「ふふ、いいですね。仮想空間ですから何でも出せるじゃありませんか」
「このシステム……非人道的だが、なかなか興味深い」
「このデータを元に新しい機体を……」
「「「ふふふふふ」」」
「「……お労しや、ミザリィ様」」
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