第21話 伝説を継ぐ最強の男VS謎に包まれた伝説の女戦士
『Fight!!!』
観客席からの無数の叫び声と共に、試合開始の合図が鳴り響く。
しかし、二人は動かない。お互いの間合いを計りつつ、相手の動きを読む。
(この女……ふざけた格好したくせに、強い)
(……簡単には詰ませてくれなさそうね)
熱気に背を押されながらも慎重に想像戦を繰り広げる。
『さぁ始まった!両者睨みあい!果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!』
実況の声が響き渡るが、その声も二人にとっては雑音でしかなかった。ただ静かに相手の動きを見極めようと神経を集中させる。
(……仕掛けてみるか)
先に動いたのは強慈郎だ。彼は一気に距離を詰めると拳を繰り出す。だがジェシカはそれを紙一重で回避すると、彼の腕を摑み、投げ技を仕掛けた。
「「ッ…!」」
しかし強慈郎もそれを予測していたのか、腕を振りほどくとそのまま跳躍し彼女から距離を取る。
『なんだあれ!すげぇ!』『どこの惑星の格闘術だ!?』『見たことねぇぞ!』『きょうちゃーん!』
会場からは驚きの声が上がる。それほどまでにジェシカの動きは素早く鮮やかなものだったのだ。彼女は観客たちの反応を見て嬉しそうに微笑む。
強慈郎は呆れた顔で腕に目をやる。掴まれた場所は、ほんの一瞬だったのにもかかわらず赤黒い手形がついていた。
「化け物が」
二人の攻防は続いていた。彼女の攻撃は一発も当たらない。だが、強慈郎の攻撃も全て避けられる。
『おおっと!女戦士の動きはまさに達人のそれだぁぁ!』
『強慈郎選手も負けていませんね。攻撃の手が止まりません』
実況の声が響くと同時に観客たちも驚愕の声と喝采を上げた。
「いい目をしてるじゃねえか」
強慈郎は少しイラつきながら、次なる攻撃を繰り出す。しかしそれもまた躱されてしまう。
「ふふ、その程度で最強を名乗るなんてね」
「名乗った覚えはねぇ……」
余裕の表情で挑発してくるジェシカに対して強慈郎は歯を食いしばる。
『対する強慈郎選手!余裕の表情です!』
『最強の名を持つとはいえ、対する彼女もまた我らが誇る伝説の戦士の一人ですからね』
解説の言葉に観客たちはさらに盛り上がりを見せた。
「ほら、どうしたの?かかってきなさいよ」
ジェシカは挑発するように手招きをする。だが強慈郎はその挑発に乗ることはせず、冷静に彼女の動きを観察する。
(こいつの弱点は……)
彼はある一点に目をつけていた。それは彼女の足である。先ほどから彼女はぴょんぴょんと跳ねて、踊るように攻撃を仕掛けてくるのだが、そこで彼は一つの事実に気づいた。
(胸が……デカい。……だが、それ故に足元への攻撃への反応が鈍い)
その女の胸は豊満であった。
対になる魅惑の果実と奇抜な仮面も相まって僅かにだが、足元への攻撃に対する反応が鈍くなっている。
「あぁくそ!どこ見てんだ俺は!」
その事実に気づいた彼は頭をぶんぶんと左右に振り雑念を取り払うと拳を繰り出す。
「ふふ、やっと隙を見せたわね」
しかし彼女はひらりとかわすと観客に脚線美を掲げ、彼の頭部を蹴り落とした。強慈郎は地面に叩きつけられ、コンクリをぶち壊すような音と共に実況の声が響く。
『女戦士の攻撃が決まったぁ!!』
その瞬間観客席からは大きな歓声が上がった。解説が興奮した声で叫ぶように伝える。
『いえ、彼をよく見てください!腕でガードをしています!』
強慈郎は腕でガードを固め、頭部への直撃を防いでいた。地面を砕くほどの一撃だが、何とか耐え切ったようだ。しかし彼の額からは血が流れている。
『なんと!あの攻撃を受けてまだ意識があるとは!さすがは最強の男だぁ!』
『情人であれば命を刈り取るような鋭い一撃でした……。ですが、あの一瞬で咄嗟に防御姿勢を取ったとは……信じられません』
実況と解説が興奮しながら叫ぶ。観客たちはその戦いに釘付けになっていた。
ジェシカは余裕の笑みを見せながら、ゆっくりと彼に近づいていく。そして再び蹴りを放つと今度は彼の腹部に直撃した。
『再び女戦士の蹴りが決まる!その美脚に気を取られていたのか反応が遅れてしまった強慈郎選手、大丈夫か!?』
(くそ、気が散る実況だな!)
今度は蹴りを防ぐことなくまともに喰らったように見えたが、彼の身体はまるで鋼鉄で出来ているかのようにびくともしない。
「ちィッ!馬鹿みたいに硬いのね!」
「はッ!逃がすかよ!」
彼女は再び距離を取ろうとするが、彼はそれを許さなかった。彼女の腕を掴みそのまま投げ飛ばす。そして倒れた彼女に馬乗りになると拳を振り上げた。
しかしその瞬間、観客席から大きな歓声が上がる。
『おおっと!ここで強慈郎選手の攻撃が止まった!』
「ふふ」
彼女は不敵に笑う。
『なんと!女戦士の胸に!そのデカい、あまりもデカい禁断の果実に!拳が埋まっているぅぅ!!』
『『『うおおおおおっぱい!!』』』『『さいてー』』
彼の拳は彼女の広大の谷間に捕らわれており、その渓谷は衝撃で大きく揺れていた。観戦モニター越しにも分かるほどである。
その感触に彼は少しだけ興奮してしまったようだ。彼はゆっくりと手の力を強める。同時に彼の顔が赤くなるのを会場にいる誰もが確認しただろう。
『おっ?どうしたことでしょう!』
実況の声が響き渡ると同時に観客たちの間から笑い声が聞こえた。
『ぷ、はははっ!まじかよあいつ!』『流石鬼ヶ島の血筋だな』『おい見ろよあの顔』『強慈郎……飢えてたんですね』
その様子を見ていた彼女は驚いたように目を見開きながら口元に手を当てる。しかしどこか楽しんでいるように見えた。
(こいつ……)
彼は彼女に手元を誘導されてたことに気づくがもう遅い。ジェシカは彼の表情を見ると、さらに笑みを深めた。そしてそのまま彼の腕を掴み返すと絡みついてきた。
「私、超近距離戦のほうが得意なの」
ジェシカは妖艶な笑みを浮かべると、そのまま彼を押し倒した。そして馬乗りになり、彼の首に手をかける。
「ねぇ、このまま殺し合いましょうよ。貴方も嫌いじゃないでしょう?」
ジェシカはそう言うと妖艶な笑みを浮かべたまま、強靭な握力で彼の首を絞め上げていく。まるで万力に掛けられているかの様だ。しかし彼は顔色一つ変えることなく彼女を見つめていた。その目はどこか虚ろで焦点が定まっていないように見える。
(……ぶっ壊してやる)
彼女は彼の目を見ると背筋がゾクリとした感覚を覚えたがすぐに笑みを浮かべるとさらに力を込めた。だがそれでも強慈郎の表情は変わらない。
「あははっ、凄いわね貴方。苦しくないのかしら?」
彼女は少しだけ驚いた後、さらに力を入れていくがやはり表情は変わらないままだ。その様子を見て観客たちも驚いているようだ。
『どういうことでしょう?なぜ平然としていられるんでしょうか?』
『……ちょっとまずいんじゃ』
といった声が聞こえてくる中、ジェシカは楽しそうに笑った。強慈郎は拳を握り込むと、彼女に向かって殴りかかった。その拳を彼女は避けることもなく受ける力を込めるが、やはり彼の顔には苦悶の表情一つ現れない。その様子を見てジェシカは少しだけ意外そうな表情を浮かべる。
「貴方って本当に人間なの?まるで化け物ね。今は上手く力が入らないようだけど」
「うる、せぇ……」
彼は掠れた声でそう言うと再び拳を構える。
「お前みたいな奴が……なんで……」
ジェシカはその質問に少しだけ驚いた表情を見せると、すぐに妖艶な笑みを浮かべた。そしてゆっくりと口を開く。
「強い人を探してるのよ。私を満足させてくれる人」
「それを探すため……?」
「えぇ、そうよ。でも貴方みたいなのが近くにいるなんて知らなかったわ」
「……そうかよ」
彼は目をつむり、両の拳を握りしめる。その様子を見て尚も力を込めながら、首を傾げる。
「あら?もう御終いかしら。もっと楽しませて欲しいわ」
「……悪いが他を当たってくれ」
その言葉と同時に彼は目を開き、力を解き放つ。凄まじい勢いでジェシカのボディに向かって拳を放ち、マウントポジションを取っていた彼女を吹き飛ばす。
『強慈郎選手!ついに反撃開始だぁぁ!』
実況の声が響くと同時に観客たちが一斉に沸いた。
「驚いた。でもこの程度?もっとよ!もっともっともっと!!」
ジェシカは立ち上がり、飢えた猛獣のように目を輝かせ、涎をまき散らす。遠吠えのも似た叫びをあげると同時に強慈郎に飛びつき肉を抉り取るように掴みかかる。彼の腕に触れた瞬間、まるで受け流されるかのように、そこに強力な相反する磁力があるかのように、弾かれる。すかさず彼女が掴む。彼は更に弾く。
掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。掴む。弾く。
そのやり取りは加速していき、あまりの速さに二人の腕が見えなくなると風が巻き起こり始めた。
『す、凄まじい攻防です。会場は現在超局地的な台風に包まれています!強風注意報に従い安全に観戦してください!』『我々も吹き飛ばされてしまいそうな勢いです。両者の力が凄まじく、更に拮抗しているからこそ起こっている様な奇跡的な状況です!』
雑音が聞こえる中、戦場では二人きりの世界に突入していた。周囲を置き去りに、強慈郎は目の前の戦士と繋がるような感覚に落ちていく。徐々に速度が上がり、二人は視線を合わせ穏やかな表情になる。
無限に思われたその対話に、やがて終わりが来た。
「静かだ」
「えぇ。静かね」
二人きりの静寂に包まれた世界で、言葉を交わしたその一瞬。勝負は決した。ジェシカの速度を追い越した強慈郎の拳撃が彼女の腹に深々と突き刺さる。
――ドスンッ
重く、鈍い音が会場に落ちる。静まり返る観客。ゆっくりと女戦士は倒れ、強慈郎は拳を掲げる。
そして一つの音で、静寂は破られた。
『き、き、ききき、決まったああああぁぁっぁぁぁッッ!!』
『『『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッッ!!!!』』』
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