第20話 いやぁ、今どきのAIって凄いんだね。伝説って?あぁ!
ゴングが鳴ると同時にイリシウムとゾルザルの二人は動き出す。ゾルザルが一気に距離を詰め、拳を突き出す。しかしイリシウムはその攻撃を見切り回避する。そして蹴りを繰り出した。ゾルザルは咄嗟にガードするが衝撃を殺しきれず後方に吹き飛ぶ。しかし体勢を立て直すと再び攻勢に出た。拳や蹴りの連続攻撃を繰り出し続けるが、イリシウムは巧みにそれをいなしていく。会場からは大歓声が上がった。
『さすがゾルザル選手!これは力強い!一方、イリシウム選手の動きも素晴らしい!的確に攻撃を見極めております!この試合展開どう見ますか解説のリュシオさん』
実況が熱の入った口調で語り始める。
『二人とも素晴らしい戦いぶりですね。イリシウムさんの方がスピードに分がありますが、ゾルザルさんには経験と技術がありますからね。それに体格的にもリーチがあるので有利です』
リュシオの解説にも熱が入り始める。
『さあ、両者一歩も譲らず激しい攻防を繰り広げております!』
実況の言葉と共に試合は続いていく。
(なんだよアイツ。無駄に性能がいいだけじゃなかったのか)
強慈郎は観客席からリングを見つめながら心の中で感心する。
「はぁ……お前がそんなに動けるんだったら組手でも頼むんだったな……」
強慈郎は溜息を吐きつつも口元が僅かに緩んでいることに気付く。彼は表情を引き締め、観戦に集中し直した。
『おおっと!ここでゾルザル選手の拳がイリシウム選手の顔を掠める!』
『これは少し驚きましたね。さすがのイリシウムさんでも今のはヒヤッとしたことでしょう』
実況の声と同時にゾルザルの動きが変わった。それまで様子見していたのだろう。彼の攻撃に迷いがなくなり、スピードが上がったのだ。
「これまでは様子見をしていたということです」
隣でジェシカが冷静に言う。
「……なるほどな」
強慈郎はそう呟くとリング上のイリシウムを見つめた。
ゾルザルの攻撃を避け続けていた彼女だったが次第に追い詰められていく。ついには防戦一方になってしまったのだ。しかし彼女は余裕の表情を崩さない。
「そろそろ、私のターンです」
そして反撃に出た。両腕を広げ、叫ぶゾルザル。
「こい!イリシウムさん!」
「あ!あのバカザル!すぐそういうことする!やめろって言ってるのに!」
冷静に試合を見ていたジェシカが思わず声を上げ目を覆う。
次の瞬間、彼女の鋭い蹴りがゾルザルの腹部に深々と突き刺さる。
「ぐはッ……!」
彼は苦痛に顔を歪めるがすぐに体勢を立て直すと再び攻撃を仕掛けた。
「まだまだぁッ!!」
「今のでダウンしないのは、正直驚きました」
しかしイリシウムは冷静に見切り、その一撃を避ける。
「これで、終わりです!」
そして反撃に蹴りを放つと彼は凄まじい音と共にリング上に叩きつけられ、倒れ伏した。そして、なんとか起き上がろうと、手足に力を振り絞るが力が入らない。
「く、くそ……力が……」
『ゾルザル選手ダウン……!!』
「う、うぐ……」
カウントを取られる声をぼんやりとした頭で聞きつつも、なんとか粘る。が、ゾルザルの意識はそこで途切れた。
『こ、これは……決まったぁ!決まりました!勝者はこのスーパー美少女イリシウム選手です!イリシウム選手に拍手を!』
実況者が勝利宣言をすると会場からは大歓声が上がる。観客たちは惜しみない拍手を勝者に向けて送った。その様子を見て強慈郎は安堵の息を漏らす。
(ゾルザルという男……なかなか強かったな)
「さて、次は俺の番か」
彼は少し期待を膨らませながら、歩き出した。
一方のイリシウムはリングから降り、控え室へと向かっていた。しかし途中で足を止める。彼女が見つめる先には先ほどの対戦相手であるゾルザルの姿があった。まだ完全には立ち上がれず医療班に肩を借りている状態であったが、どうやら彼は勝者に挨拶をしに来たようだ。
するとゾルザルは軽く微笑むと口を開いた。
「ありがとう、イリシウムさん。良い試合だったよ」
その言葉に彼女は笑顔で答える。
「こちらこそ、ありがとうございました!また機会があればやりましょうね!」
「ああ、もちろんさ」
ゾルザルは微笑むとイリシウムに握手を求める。彼女もそれに応え、二人は固い握手を交わした。
「ではまた後で」
彼はそう言うと医療班に担がれながらも、その場を去っていった。イリシウムは手を振りながら見送り、観客席へと戻っていったのだった。
(さてと、強慈郎の相手は誰なんでしょう?この要塞最強を用意するとは言っていましたが……)
彼女は少しワクワクしながら次の試合を待つことにした。
一方その頃、リング上に立つ強慈郎の前に奇抜な恰好をした人物が現れた。仮面の下に隠された表情は読み取れず、マントの下の身体のラインは優雅に曲線を描いていた。
「女……か?」
「えぇ、女よ」
その存在は不気味でありながらも、どこか魅惑的なものを感じさせ、リング上に立つ彼女の存在は、静寂をもって迎えられた。
観客席からは先ほどまでの興奮はありつつも、謎の人物が登場したことによる興奮と緊張感が漂い、その場の空気が締め付けられる状態となった。
実況者が興奮気味に言い放ち、スポットライトが彼女を照らす。
『この瞬間トリリオン歓迎会のリングにおいて、歓迎を行うのは伝説の女戦士!幾多の戦場で我々の窮地を救い!その存在は長きに渡り語り継がれ、謎に包まれていた。だが今!ここで!我々の前に姿を現した!』
『まさかこんなところで拝めるとは!』『なんて日だ!』『えっろ』『うおおおおぉぉぉ!!』
先ほどまでの静けさが嘘のように割れんばかりの歓声が木霊する。強慈郎は知ったことでないが、目の前の存在を観察し、その背丈や雰囲気、足運びや細かな挙動からその正体に気が付いていた。
(……なんで参謀長が変な恰好してんだよ)
少し視線をあげ、先ほどまでいた観客席を見るとライナスが一人。案の定先ほどまでいたジェシカが姿を消していた。
代わりと言ってはなんだが、イリシウムがこちらに向かって手を振っている。
「強慈郎ー!頑張ってー!」
「……能天気な奴」
確認したことを後悔しながら、目の前の謎ではなくなった女戦士に向き直る。
『さて、伝説の戦士に対するは、あの大英雄『鬼神』の血を引いた者、鬼ヶ島ぁぁぁぁッ強慈郎ぉぉぉぉッッ!!』
『強慈郎さぁん!応援してます!!』『強慈郎ぉぉーッ!』『きょうちゃーん!』『うおおおおおぉぉぉ!!』
先ほどのジェシカに浴びせられた歓声に負けず劣らず、観客の声が響き渡る。その中には聞き覚えのある様な声もあり、強慈郎の顔が引きつる。
(三馬鹿のうち二匹とババアの声が聞こえた気がしたが……)
ぐるりと会場を見渡すと、最前列にその見知った顔が並んでいた。いつのまに作ったのか強慈郎の顔を印刷した団扇まで掲げている。
(……なんなんだよもう)
天を仰いだ彼の様子を勘違いた実況がさらに叫ぶ。
『強慈郎選手も「俺が最強」と言わんばかりの立ち振る舞いです。気合は十分といった所でしょうか』
解説がそれに続く。
『えぇ、彼は初の銀河連邦との『C-X』戦では生身で戦い勝利を収め、初の宇宙戦闘ではとんでもない盤外戦術を見せ一夜にして伝説を作り出したと聞いております。さらには『鬼ヶ島』が誇るマッドサイエンティストによる
『これは「最強」という概念ですら逃げたしたくなる男!はたして我らの伝説は通用するのでしょうか!』
(す、好き放題言いやがってこいつら……)
滅茶苦茶な実況解説を聞きながら、半ば諦めたように腕を組んだ。その様子を見てジェシカが話しかける。
「ふふ、そんな顔しても殆ど事実でしょう?」
「あ?からかってるつもりか?」
「あら怖~い。ふふ」
強慈郎にガンを飛ばされるも、彼女は余裕の表情だ。そんな二人の雰囲気を察したのか実況が進行を開始する。
『さてリング上の二人は一触即発の雰囲気だ!!観客も辛抱たまらんといった様子!では皆さん、準備はいいですね!』
『早くしろー!!!』『待ちきれねぇぞ!』『きょうちゃーん!』『うおぉぉおぉっ!!』
会場の熱に中てられた観客たちが更に大きな声で盛り上がりを見せる。
『大変お待たせしました!いえ、お待たせし過ぎたのかもしれません!熱気が熱気を呼び灼熱に包まれた会場!さぁ、参りましょう!両者、拳を合わせて!』
実況の声に合わせ、強慈郎とジェシカは拳をぶつけ挨拶を交わす。
「せいぜい楽しませてくれよ。伝説の女戦士さん」
「ふふ、こちらこそよ。自称最強の強慈郎さん」
二人の目から紫電が奔り、バチバチと音を立てて燃え盛る。更に会場は燃えた。噴火前の活火山の様な雰囲気の中、カウントダウンが始まった。
『『『3!』』』
『『『2!』』』
『『『1!』』』
『『Fight!!!』』
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