第19話 一応彼ら宇宙で戦闘してきたんですけど、続けざまに戦うなんてどうかしてますよ。byどこかの博士




 ライナスの案内のもと、ある場所に連れてこられた強慈郎とイリシウム。


 そこは闘技場のような場所だった。中に入ると観客席が円形に広がっており、特に上段には高そうな椅子が配置されている。


 ライナスはその中の一つに座ると口を開いた。


「照らせ」


 その言葉と同時に薄暗かった会場の照明が点灯し、周囲が見えるようになる。そして、モニターにはカウントタイマーの様なものが映し出され、暗がりに息を潜めていた観客たちが一斉に歓声を上げる。



『待ってました!』『おぉ、これは面白いものが見られそうだ!』『あれが噂のイリシウムちゃんか!?』『あいつは!あのめちゃくちゃなパイロットも出てくるのか!』『うわ、押すな押すな!』



 観客たちの様相は軍服姿や迷彩と私服のならず者の様な輩、家族ずれの一般人すらも散見される。様々な言葉が飛び交い、会場は熱気に包まれていた。

 一方、強慈郎は観客席の一番上に座りながら、その様子を眺めていた。そして、隣にいるやる気満々でストレッチを始めるイリシウムに声をかける。



「おい。イリー」


「なんです?そんな変な顔して」


「お前が戦うのか?てか、いつ着替えたんだよ」



 変な顔、もとい状況が呑み込めない様子で彼は問いかけると、プロレスラーのような衣装姿の彼女は微笑みながら答える。



「強慈郎が先に出たらメインの前にデザートをお腹いっぱい食べさせられる気分になりますよ。私の衣装はいつでも換装可能です」


「その例えはよくわからんが……なんだ換装って……」


「イリシウム様にお任せあれ!」



 彼女は明るい声で答え、ニヤリと笑みを浮かべる。



「粗方、察してると思うが彼女の次には君にも戦ってもらう。そのつもりで居てくれ」



 ライナスが強慈郎に話しかけると、嫌そうな顔で少し考え口を開く。



「俺の相手は、お前らの中で一番強い奴か?」


「あぁ、もちろん。期待してくれ」


「そうか。ならいい」



 その言葉を聞くと司令官は参謀に目をやり頷く。



「それではイベント運営へ指示を送ります。イリシウム様はリングへお願いします」


「えぇ、わかりました」



 会場の運営チームが慌ただしく動き始め、イリシウムは観客席から飛び降りるとリングへと着地した。それと同時にライナスも立ち上がる。彼は余裕の笑みを浮かべながら口を開いた。



「では、歓迎会パーティを始めようか」



 その言葉と共にアナウンスが流れる。



『突発的ではございますが、記念すべき第1回宇宙要塞トリリオン歓迎会を開催いたします!実況は私、 通信部放送局長のアベルが務めさせていただきます。解説は戦略部門のこの方!』


『ご紹介に預かりました。戦術部門本部長のリュシオと申します』


『よろしくお願いします。さて、早速ではありますが前半試合対戦カードはこちら!』



 モニターに映し出されたのはイリシウムと見覚えのある銀髪の男だ。



『今回、最初の対戦は『鬼ヶ島』所属、美少女型スーパーAIイリシウム様!』



『うおおおぉかわいいい!』『視線ください!』『イリシウムちゃーん!!』



 会場は大盛り上がりで、観客たちの声が響き渡る。



『そしてお相手は我らが最高司令官の右腕、『トリリオン』の参謀兼副司令ゾルザル・ハーベンフォース様だ!』



 画面に映し出された男の顔はとても整っており、爽やかな印象を与えるものだった。身長も高くスタイルも良い。とても女性受けが良さそうな雰囲気だ。


 彼は微笑みながら手を振る。



『ゾルザル様ァー!』『きゃー!こっち見てーー!!』



 女性達が黄色い声を上げると、彼は手を振って答えた。そして爽やかな笑顔のまま口を開く。



「皆の期待に応えられるように頑張るよ」



 その言葉と同時に観客達から歓声が上がった。

 ジェシカはそれを冷たい目で見つめる。すると不穏な雰囲気を察したのか司令官ライナスが口を開いた。



「ゾルザル副指令は場を盛り上げようとしているだけだ。殺気を彼に刺すのをやめたまえ」


「はっ!失礼いたしました」


(……あぁ、こいつの旦那だったかアレ)



 横目で強慈郎はその様子を見ていたが、すぐにリングへと向き直る。


 実況者アベルによってルール説明が行われようとしていた。


『では、本交流会ルール説明をいたします!頼れるのは己の身体能力と技術のみ!武器や防具の使用は厳禁です。試合はリング上で行われ、勝利条件は相手をノックアウトするか、もしくはどちらかが降伏宣言をするまでの一本勝負となります!さあ、観客の皆さん、選手たちの熱い戦いをお楽しみください!』


「禁止技はなしか?ほぼ何でもありバーリトゥードだな……」



 そう言いながらも強慈郎は思い至る。



「イリーは身体そのものが武器じゃねぇか?」



 その疑問に答えるようにジェシカが口を開いた。



「武器の形を取らなければ観客われわれは納得しますので、大丈夫ですよ」


「そうか?まぁ、それならいいが」


ゾルザルうちの旦那に武器が効くとも思いませんがね」


「あ?それはどういう」



 強慈郎の声が実況の声に搔き消される。



『さぁ、会場のボルテージも最高潮!両者、拳を合わせて!』


「よろしくお願いします」


「お手柔らかに頼むよ、イリシウムさん」


 言われるままに、拳を合わせる戦士たち。その様子を見て、会場は盛り上がる。



『さぁ!みなさん、準備はいいですか?では、カウントダウンを始めます! 』


『『3!』』


『『2!』』


『『1!』』


『Fight!!!』

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