第16話 きっもーい宇宙怪獣。でもなんかロボットっぽい。




(なんでこんなことに……)



 変態くろいによって作り出されたC-Xシクス、『黒鬼』の操縦席で強慈郎はとても嫌そうな顔をしていた。


 彼の身体を包むスーツは、鮮やかな色彩と硬質な質感を持ち、表面には細かい装飾やラインが施されている。


 頭部には特徴的な鬼のような面が取り付けられており、鋭いラインと凹凸が彫り込まれ、胸部にはエンブレムが装着されており、手には特殊なグローブが装着されている。


 彼の姿は正義の化身のようだった。



「派手な見た目の割に、動きやすいのがムカつくな……」


「強慈郎、早く行きましょうよ」


 

 強慈郎が不満を漏らしていると、副操縦席から急かすような声が聞こえた。イリシウムはというと、瞳を輝かせ興奮に満ちた笑みを浮かべながら、『黒鬼』の装置やシステムを興味津々で調べている。



「……あまり騒ぐなよ。あと勝手にボタン押しまくるな」


「大丈夫です。クラッキング済みですから、大体わかります」


「そうかよ」



 興味がなさそうに『黒鬼』の加速装置を踏み込む。応えるように装甲が展開された。彼は操縦桿を握りしめ、目標地点をモニターで確認する。



「なんだこれ」



 モニターに着信通知が表示され、払いのけようとすると耳障りな叫び声が聞こえてきた。



『イリシウムくん!!僕のAI消えてるんだけど!?あと勝手に限定解除しないでくれないかな!?データが』


「うるさいです黒井」



 慌てた声に全く取り合わず彼女は無表情で通信を切った。その様子を見て珍しく強慈郎が褒めた。


 天気予報には槍が降るとは言われていない。



「やるじゃないか、イリー」


「貴方の傍に私以外のAIは要りません」


「なんかお前時々怖いよ。どんな顔して言ってんだ」


「ふふ、二人っきりですね。強慈郎」


 艶っぽいイリシウムの声に応えるように、強慈郎が笑顔で振り向く。


「黙れ」


「はい」


 二人は何事も無かったかのように、目的地へ向けて機体を動かした。


 目的地へ向かう途中、二人は軽い作戦会議をしていた。



「目標は1体か?少ないな」


「しかし、デブリ帯から『C-X』のパーツを吸収した機械生命体だそうです。厄介な相手ですね」


「こいつを試すにはちょうどいい」


「そうですね」



『黒鬼』が加速し、漂う瓦礫達へと突入した。


 強慈郎は機体を加速させ、敵との距離を縮めていく。そしてついに敵の姿が見えた。


 それは『C-X』と並ぶほど巨体で不気味な生物だった。その頭部は丸く、目や鼻といったパーツはなくのっぺりとしていて、腕と足は長く伸びており、指先には鋭い爪が生えていた。背中には巨大な翼が生えており、不規則に羽ばたきながら移動している様は異様としか言いようがない。


「なんだありゃ……生き物なのか?気味が悪ぃな」


『C-X』が吸収したパーツを利用し進化した姿なのだろう。その姿は常識を外れており見たものの嫌悪感を掻き立てる。



「とっとと仕留めて帰るぞ」



 彼はそう言うと加速装置を踏み込む。一直線に突撃していく。そして、勢いに乗ったまま敵の胴体に向けて蹴りを叩き込んだ。

 確かな手応えを感じたが、機械生命体はすぐに何事も無かったかのように反撃を繰り出す。



「うぉ!なんだこいつ!」



 強慈郎は驚きながらも攻撃を避け、再び蹴りを放つがやはり効いていないようだった。


 そして怪物は腕を振りかぶる。



「強慈郎!防御を!」



 その声に咄嗟に防御姿勢をとるが、その衝撃に耐えきれず吹き飛ばされてしまう。



「ぐあっ!」



『黒鬼』は叩きつけられ、そのままデブリに衝突した。


 イリシウムは冷静に状況を分析する。



「あの機械生命体は再生能力があるようですね」


「あぁ?再生機能だと?他には!」



 強慈郎は機体を体勢を整える。モニターを見つめたイリシウムは素早く操作を繰り返しながら、不思議そうに呟いた。



「機械生命体と聞いていたんですが、機械の割合が多すぎる気がします」


「どういうことだ?」



 強慈郎が問いかけると彼女は情報をモニター上に表示する。



「あれは、意図的に人間が作りだした兵器ですね。後から宇宙生物の細胞を無理やり組み込んだように見えます」


「あぁなるほどな、通りで」



 彼も何か違和感を感じていたのか、そのセリフに納得しつつ、再び攻撃を開始した。


『黒鬼』は走り出し、相手に接近すると跳躍し、蹴りを放つ。が、易々と腕で防がれてしまう。


 そのまま着地すると強慈郎は再度加速装置を踏み込む。そして目にも留まらぬ速さでを右腕部の操縦桿を押し込むが、打撃が繰り出されることはなかった。



「あ?なんだこりゃ」



 強慈郎が不思議そうにアームの動作確認をするが、しっかりと動く。それを見たイリシウムが声を荒げた。


「あのクソ眼鏡……ッッ」


「うわ、なんだよ。急に怒鳴るな」


 彼は動きを止めずに敵の猛攻を避けつづるが、相変わらずその腕は強慈郎の拳に反応することはなかった。


「すいません。強慈郎、ゆっくり殴れますか?」


「あ?なんでだよ」


「いいから早くしてください!!」


「遅くするんだか早くするんだか……ほらよッ」



 イリシウムに急かされ、渋々ながら速度を落として腕を振るう。


 するとようやく『黒鬼』に反応があった。


 目の前の怪物は咄嗟に防御姿勢を取るが、その黒い拳はガードをすり抜け胸部の装甲を破壊する。



「ん?今度は殴れたな」


「追って!」


「おう」



 すかさず追撃を加えるべくスラスターを点火し加速する。相手は逃げずに立ちふさがると、爪を振り下ろした。


 しかし彼はそれを華麗に交わすと、素早く操縦桿を握り込む。そして拳は放たれ敵の顔面を殴り飛ばした。



「はっはァ!遅いなァ!」



 強慈郎の乗る『黒鬼』は既に敵を圧倒していた。機械生命体はその攻撃を受け止めようと必死に応戦するが、その度に攻撃の威力に押され後退していく。


 その様子を見たイリシウムはストップをかける。



「強慈郎、少しいいですか?」


「追撃しろとか待てとか、今日は注文が多いな、イリー」



 彼は不機嫌そうに答えるとモニター上に無数のコマンドが表示様々な武装データが表示された。


「な……なんだこりゃ」


 強慈郎は困惑しながらその一つ一つに素早く目を通す。そして理解したのか再び機体を動かした。


「これを使えってことか」


「はい!試しに起動しましょう!サポートします」


(……たく、しょうがねぇな)



 と彼は心の中で悪態をつくがすぐに切り替えて攻撃を再開した。



「操縦桿のαスイッチをON、そのまま半回」


「たく、なんだってこんなボタンが多いんだ」


「いいからいいから!今の動作をしながら、足元のジオパッドを踏んで、リンクを確立。ターミナル・ノードに接続。βスイッチを3回弾いて、フレイム・ゲージが頂点に達したら、γスイッチを押しながらリリース!」



 イリシウムの指示通りに滑らかに高速でレバー入力しながら、指定されたタイミングで足元の装置を踏み、更に操縦桿の先についているスイッチを順序良く指で弾いた。



「……俺の星には、成せばなるって諺があるんだ」


「えぇ、強慈郎ならできると思っていました」



 すると、飾り気のない『黒鬼』の腕から無数の銃口が飛び出し、赤い粒子が舞い収束し始める。



「フレアプラズモイド充填完了!衝撃インパクト解放リリース!!」


 イリシウム宣言に反応し、直感に従い強慈郎は化け物に拳を放つ。



「おらッ!」



 拳が触れた瞬間、紅光と共に弾丸が一斉に撃ち込まれる。

 それを喰らった敵は溜まらず怯み、距離を取るために跳躍しようとする。すかさず強慈郎は操縦桿を強く握り締めるとブースターを噴射し一気に加速する。



「逃がすかよ」



 そして敵機の目の前まで迫ると拳を振り抜いた。その衝撃で敵は大きく吹き飛び地面に叩きつけられる。



「これすげぇな……」



 彼は感心したように呟くと再びレバーを操作する。



「まだまだありますよ!」



 意気揚々とイリシウムがパネルとスイッチを乱打する。


『黒鬼』の背中に付いていたユニットが外れ、に回転し始め、推進力を得たその鬼は凄まじい速度で敵との距離を縮めていく。



「強慈郎!これを!」



 イリシウムが力強く宣言すると同時にモニターにコマンドが表示される。



「ハッ、これなら死ぬほど打った」



 強慈郎は笑い、素早く動作をなぞる。


 その動きは滑らかで洗練された美しいものだった。

 強慈郎の動きに呼応し、『黒鬼』は構えを取る。



「岩石粉砕拳ッ!」



 そして、その豪腕は化け物を刺し貫くのだった。


 機体の駆動音と振動、そして自身の荒々しい息遣いだけが耳に残る中、彼は無言だった。


 やがて静寂が訪れた時、強慈郎は大きく息を吐き出すと彼女に話しかけた。その声はどこか嬉しそうだ。



「……イリー」



 しかし返事はない。彼はもう一度呼びかける。



「おい、イリー」



 やはり返事はない。そして彼は怪訝な顔になり、ついには振り向きざまに怒鳴りつけた。



「無視するなイリシウム!」



 するとそこに彼女の姿はなく、コクピット内に響くようにイリシウムの声が響く。



『うるさいですよ!』


 彼女は怒りを含んだ口調で返事をしたのだった。

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