第15話 狂気の白衣の黒井!マジカル少女、イリシウム!仮面ライダー強慈郎!




 それから、強慈郎とイリシウムは会議室を出て、宇宙要塞のドックへとやってきた。



「これからどうするのですか?」



 イリシウムが問いかけると彼は面倒くさそうに答える。



「状況はなにも変わってない。ババアがしゃしゃり出てきたのは予想外だったが……銀河連邦を潰す」



 彼の言葉を聞いた途端、彼女は嬉しそうに微笑む。そして手を差し伸べると握手を求める。しかし彼はその手を取ることはなかった。



強奪しパクった機体に乗るから、お前には乗らん」


「そんなぁ……私の乗り心地、よかったでしょ?」


「語弊があるだろ、その言い方は」


「それとあの『C-X』、今は味方の機体ですよ?流石に我が物顔で乗れないのでは?」


「……仕方ねえな」



 その言葉にイリシウムは、笑顔になる。



「強慈郎、私は貴方について行きますよ」



 その言葉に彼は鼻で笑うと歩き出す。イリシウムはその後を追いかけると彼の隣に並ぶようにして歩く。



「お熱いね、そこのお二人さん」


「ぶっ殺すぞ。……誰だテメェ」



 強慈郎は声の主を睨みつける。そこには長身痩躯の眼鏡をかけた胡散臭い男が立っている。彼は不敵な笑みを浮かべると自己紹介をする。



「『鬼ヶ島』所属、整備士主任メカニックリーダーの『黒井』だ。よろしくな」


「ああ、そうかよ」



 彼は興味なさそうに返事をすると、そのまま立ち去ろうとするが、それを制止するように声をかけてきた。



「おいおいつれないな~強ちゃん」



 馴れ馴れしく話しかけてくる男に対して苛立ちながらも答えることにした。



「略すな、俺の名前は強慈郎だ。……何の用だよ?」



 すると男は気味の悪い笑みを浮かべ、眼光を怪しげに光らせる。揺らめくその光は、正気のものでは無かった。



「強慈郎くん、僕はね。最強に対応した最高の作品を作りたいんだよ」


(こいつは……)



 強慈郎は直感的に感じた。この男には到達点への執着、狂気がある。そして、信用できない相手だと……だが同時に興味もあった。



「面白そうだな」



 そう言って強慈郎は笑うと、黒井もニヤリと笑みを浮かべた。



「ワクワクするだろう?君の話、戦闘データを見た時から僕は興奮が収まらなかった」


「まぁ、否定しないが気持ち悪いぞ」


「ふふふ、不快不気味不愉快ってのは僕にとっての褒め言葉さ、強慈郎くん。君には協力して欲しい。一緒に銀河連邦をぶっ潰そう」



 強慈郎の言葉に彼は笑みを浮かべると、イリシウムが引きつつも口を挟む。



「流石に胡散臭すぎます。というか、貴方の情報もかなり怪しいものしかありません」


「おや、もう見たのかい?君のデータも見たよ、イリーちゃん」


「……イリシウムです」


「二人ともニックネームは嫌いなのかい?」



 黒井は首を傾げながら問いかけると、二人は顔を見合わせる。そして同時に答えた。



「嫌いです」「どうでもいい」



 二人の嫌そうな顔を見ると、黒井は嬉しそうに微笑む。そして、手を差し出した。



「ならイリシウムくんだね……よろしく!」



 彼はそう言って握手を求めるが、イリシウムは無視を決め込むことにしたようだ。それを見て強慈郎も苦笑するしかなかったのだった。



「それで協力して欲しい事ってのはなんだ。話くらいは聞いてやる」



 強慈郎は尋ねると、黒井は真剣な表情になる。そして答えた。



「僕の最高傑作(の試作機)に乗って欲しい」


(小声でなんか言ったな)



 彼は黒井の言葉に違和感を覚えたが、気にしないことにした。そして話の続きを促すように視線を向けると、彼は語り始めた。



「鬼ヶ島強慈郎くん、君は(身体機能)最強のパイロットだ。だから、データが欲しい」


(……またなんか言ったな。胡散臭すぎる)



 その言葉を聞いた瞬間、強慈郎はそう思ったが口には出さなかった。だが顔に出ていたのだろう、イリシウムに肘で小突かれるのだった。



「それで?その最高傑作ってのはどんな機体なんだ?」



 彼が問いかけると、黒井はニヤリと笑みを浮かべる。



「それは見てのお楽しみだ」



 その言葉を聞いた瞬間、強慈郎は思ったが、この胡散臭い男が作る機体……そしてそれが銀河連邦を潰す一手になる可能性があることには興味が湧いた。



「……いいだろう」



 彼はそう答えると、差し出された手を握るのだった。




 ―――――





『ブラックジャックス』の格納庫では整備士たちが慌ただしく作業を行っていた。そんな中、強慈郎たちは案内されるままに格納庫へとやってきた。



「強慈郎くん、こちらです」



 そこには一機の巨大な『C-X』が鎮座していた。それは人型をしており、装甲は黒く塗られていた。頭部には二本の角が生えており、背中には大きな翼のようなパーツがついている。そして右手には剣を携えていた。その見た目はまるで悪魔のようだった。



「これが……」



 イリシウムは思わず感嘆の声を上げると、黒井はその機体を見上げるようにしながら口を開いた。



「『鬼ヶ島』専用機……名を『黒鬼』と言います」


「強慈郎、乗ってみてください」



 イリシウムは目を輝かせながら言う。



「ああ」



 彼は短く答えると、コクピットに乗り込む。そして操縦桿を握ると機体が起動するのを感じた。モニターには『黒鬼』の文字が浮かび上がると同時に音声認識システムが作動した。



「パイロット登録完了……ようこそ強慈郎くん。僕は君のサポートAIを務めることになった『黒井』だ」



 彼の声と共にコンソールに映像が表示される。それは先ほど会ったばかりの胡散臭い男だった。その男と数秒見つめ合い、操縦席から立ち上がるとコクピットから身を乗り出す。



「おい。そこの馬鹿。聞いてるかそこの白衣の馬鹿眼鏡」


「ひどいなぁ。僕はこれでも天才科学者だよ?」


「なんでお前の同じ顔と同じ名前のAIが載ってんだよ」



 彼は吐き捨てるように言うと、黒井は愉快そうに笑う。横でドン引きするイリシウム。



「強慈郎その悪趣味な機体から早く降りてください」


の最高傑作だからね。僕がいるのは当然だろう?」


「「気持ちわるっ」」


「どうもありがとう。ふふふ、僕は君たちに最高の機体を提供したかったのさ」



 黒井はそう言うと、眼鏡越しにウインクをする。それを見て強慈郎は鳥肌が立ったのだった……。



「まて……君たちってのはどういうことだ」


「おや?気づかなかったのかい?その『C-X』は二人乗りだよ」


「二人乗り?」



 強慈郎は驚愕の表情を浮かべると、黒井は笑みを浮かべる。そしてコクピット内に戻り、操縦席の後ろを見ると、そこには一人分のスペースがあった。



「おいおい……まじかよ」



 彼は呆れ、顔が引き攣る。



「戦闘データを見るとイリシウムくんの操縦技術はかなりのものだった」


「当然です」



 イリシウムは胸を張って答えると、黒井は続ける。



「そこで考えたのが、この『C-X』だよ。二人で操縦する前提で作られているから、二人で乗る分には問題ないはず。というか二人じゃないと操縦出来ない」


「ロボット作る奴は馬鹿しかいねえのか……?」


「わーい!強慈郎!これで一緒に戦えますね!」



 彼女は嬉しそうにはしゃいでいるが、彼は溜息をついた。



「お前がこれに乗るなら、誰がイリシウム本体を動かすんだよ」


「え?ミザリィですよ。そもそも頭以外はミザリィが載っていたC-X『O-VIIオーセブン』を改修したものですし、元より新しく組み替えるつもりでしたからちょうどいいです!」



 彼女は当然のように答えると、強慈郎は頭を抱える。そして黒井を見ると、彼はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。



(こいつ……)



 彼は心の中で悪態をつくが口には出さなかった。だが表情に出ていたのか、黒井はさらに笑みを深めるのだった。



「さて、あとはパイロットスーツの着用だね」



 そう言って黒井が指を鳴らすと、二人の目の前に黒いパイロットスーツが現れるのだった。それは全身タイツのようなデザインをしており、頭部もヘルメットではなく、ヘッドギアのような形をしていた。



「これは?」



 イリシウムは不思議そうに尋ねると、黒井は答える。



「それは『C-X』専用、そして君達に合わせたパイロットスーツだよ」



 彼はそう言いながらコンソールを操作すると、自動的にミザリィはパイロットスーツを装着されるのだった。



「すごい!ヒーローの変身みたいです!見ましたか!」



 その見た目はとても可愛らしく、まるで魔法少女のようだった。無表情で変身をスルーしていたのだが、その姿を見た瞬間、強慈郎は思わず吹き出した。



「ブフォッ……!?おい馬鹿眼鏡……なんだこのデザインは」


「ん?可愛いだろう?イリシウムくんは地球の文化にも詳しいみたいだし、趣味趣向に合わせたものだよ」



 彼は腕組みをしながら何度も頷き、イリシウムは興奮からか頰を赤く染めながら言う。



「こ、これは!あの伝説の戦士プリ……動きやすいから良いですね!ナイスです黒井!」



 黒井に親指を立てるイリー。強慈郎は中指を立てたい気分だった。



「俺が知ってる地球の文化にはこんなのねぇ……よ?」



 彼はそこまで言って言葉を止める。


 なぜなら、イリシウムがこれなら自分のスーツはどうなっているのか、と思い至ったからだ。



「強慈郎、貴方も着替えた方がよろしいかと」



 彼女はニヤニヤしながら言うと、彼は顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。



「ふざけんな!俺は着ないぞ!」


「えぇ……せっかく可愛いのに……」



 イリシウムは残念そうに言うが、彼は断固として拒否するのだが、黒井は溜息をつき口を開くと挙手をする。



「仕方ないね……じゃあ僕が着ようかな」



 それに続くイリシウム。



「いやいや私が」



 それに続かない強慈郎。



「芸人みたいなことはしねぇよ。普通のスーツはねえのか?」


「強慈郎くん、君は何を言ってるんだい?」



 黒井は呆れたように言うと首を傾げる。そして再び同じことを強慈郎は念を押す様に言う。



「別に、普通のスーツでいいだろ?」



 すると今度はイリシウムが口を開く。彼女は小馬鹿にする様な笑みを浮かべると言い放った。



「え?もしかして着れないんですか?」



 それを聞いた瞬間、彼の額に青筋が浮かぶのだった……。



(こいつ……)



 彼は拳を握り締めるがなんとか堪えることに成功する。しかし、次に放たれた一言で彼の理性は吹き飛んだ。



「あれぇ?もしかして恥ずかしいんですかぁ?」



 その言葉を聞いた瞬間、彼はコクピットのハッチを開け外に出ると、大声で叫んだ。



「上等だ!着てやるよ!」



 そしてパイロットスーツを摑むと更衣室へと駆け込んだのだった……。数分後、そこにはパイロットスーツ姿の強慈郎の姿があった。その姿はとても似合っており、まさにヒーローといった風貌であった。しかし当の本人は少し恥ずかしそうにしていた。そんな彼を見てイリシウムはニヤニヤと笑うのだった……。



「強慈郎……似合ってますよ」



 彼女はからかうように言うと、彼は舌打ちをする。そして黒井を見ると口を開いた。



「おい黒井……」



「まさか、君もヒラヒラのスカートがよかったなんて言わないよね?流石にそこまでの趣向は汲み取れなかっ」


「んなわけねぇだろうが。俺が言いてぇのはなァ!」



 彼は怒りに震えながら拳を握りしめるが、イリシウムが慌てて間に入った。



「ちょ!落ち着いてください!」


「うるせぇ!てめぇも同罪だ!」



 彼はイリシウムを羽交い締めにすると、そしてそのまま床へ押し倒した。



「きゃあああ!!強慈郎のえっち!!あ、ちょ、いくらんでもそっちに関節は曲がらないです!!」



 彼女は顔を真っ赤に染めながら叫ぶが、彼は気にすることなく関節を決めながら叫ぶ。



「なんでこんな某ライダースーツみたいになってんだよ!!!」



 それを見て黒井は爆笑するのだった。


 強慈郎は怒りで我を忘れそうになるがなんとか堪えることに成功した。そして深呼吸すると、改めて黒井を睨みつける。



「てめぇ……人をおちょくりやがって、覚悟はできてんだろうなぁ?」



 ドス黒いオーラを纏いながら低い声で言われると、黒井は冷や汗を流しながら答える。



「い、いやほら人は誰しも一度はヒーローに憧れるものだろう!?」



 その言葉にイリシウムも同意するように叫ぶ。



「そうですよ!なんで私だけこんな目に!」


「黙れ」


「痛いです!」


 彼女は涙目になりながら訴えるが、強慈郎はイリーの頭を足で小突く。そして黒井に詰め寄った。


 彼は拳を握り締めると、殴りかかろうと振り上げるが、イリシウムに止められる。



「やめてください!流石に死んじゃいますよ!」



 彼女は必死に止めるが、強慈郎は止まらなかった。そして拳を振り上げた瞬間だった。突然警告音が鳴り響く。



「なんだ!」



 彼が動きを止めると、艦内放送が流れる。



『敵勢存在を確認。全艦、警戒態勢へ移行。戦闘準備を整え、対応せよ』



 それを聞いた瞬間、黒井はコンソールを操作し、あたかも先程までの流れが無かったかの様に明るい笑顔で言い放つ。



「よし!強慈郎くん!出撃だ!」


「あ?本気か?」


「どうやら敵は要塞を狙っているわけではないみたいだし、偵察ついでに試運転さ!」


 そのいい加減な言葉に怪訝な顔をするが、御構い無しにイリシウムが急かす。



「早く試したいです!」


「あのな、イリー。今さっき紹介されたよくわからん奴のよくわからんロボなんかに……」


「「あれ?怖いんですか?」」


「……帰ったら覚えとけよお前ら」


「ほら!行きましょう強慈郎!」



 イリシウムに背を押され、しぶしぶと強慈郎は『黒鬼』のコックピットに乗り込むのだった。

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