第12話 一旦、宇宙征服を視野に入れるか。


「宇宙征服……」



 世界征服はしようとした事があったが、宇宙征服は今まで考えたこともなかった。


 広大な宇宙を背に、ド派手な操縦席に座った強慈郎は昔の記憶を思い出してしまっていた。


 まだ可愛げがあった頃、祖母に相談した事を思い出す。



「ばーば!俺世界征服したい!」


「あら〜きょうちゃん!そんな言葉どこで覚えたのかしら〜」


「じーじがいってた。世界にはたっくさんの強い人がいるって!」


「めっよ!きょうちゃん!おじいちゃんの言葉は全部夢の話なんだから!本気にしちゃダメ!」


「え〜?」


「おじいちゃんにはばーばが言っておくから、世界征服なんて考えちゃダメよ!」


「は〜い」


 その日夜以来、祖父の姿を見ることは無かった。そして、その日を境に最強を求め『鬼ヶ島』を抜け出し一人で暮らし始めた。


 有象無象の獣が跋扈ばっこする森の中、幼な子ながらもその怪力で何事も乗り越え、時には謎の協力者を名乗る仮面を被ったお爺さんに手伝ってもらい、時には突然建った家に住み、時にはいつの間にか枕元に置かれていた拳法の古文書を読み解き身につけ……そんなこんなで今の強慈郎がある。



「やめろ思い出すな考えるなあれは若気の至りだ」



 必死に頭を押さえ込み、何も考えまいと地面に頭を打ちつける。何度も何度も。


 呼吸が荒くなり、額から血が溢れても止まらず、ようやく落ち着いた頃、気まずそうな声で呼びかけられる。



「あ〜……ご機嫌いかが?」


「ご丁寧にどうも、イリー。こちらは絶好調だ」



 ほぼ土下座に近い状態で顔を突っ伏したままで答えるのを見て、口を抑えて笑い出す。



「いや、くふっ、ふっ、ふふふっ……やめ、やめてくださいそれ……」


「地球のゴミみたいな情報もだいぶ馴染んで、感情豊富になったみたいで何よりだ。凡骨ロボ」


「嫌味のつもりですか?そんな状態で言っても効果ないですよ」


「あぁ、そうかよ」



 立ち上がろうとするが血を流しすぎたのかバランスを崩し、イリシウムに抱き止められる。

 その身体は強慈郎の想像より柔らかく、何故か香水のような匂いがした。



(……本物の人間、みたいだな)


「強慈郎?」


「あぁ、悪い」



 身を起こし、離れる。イリシウムが顔を覗き込むが何故か直視出来ずに明後日の方向を向いていた。それを誤魔化すために話しかける。



「どうした?何か用があって戻ってきたんじゃないのか?」


「そうでした。準備が完了したので発進します。少し揺れますので注意してください」


「そうか……」



 何故か胸が締め付けられる感覚がし、それに困惑する。



(なんだこれ……心臓病か?)



 妙な感覚に襲われている強慈郎を他所にイリシウムが問いかける。



「ところで、何やってたんですか?」


「……なんでもない」


「思春期?いや、あははそんな睨まないでください」


「とっとと出せ。また蹴られたいか」


「……では、発進します」



 その宣言と共に宇宙船が浮き上がり向きが変わる。凄まじい揺れに操縦席にしがみついた強慈郎が悪態をつく。



「どこが少しなんだよ」


「あれ、変なとこで人間みたいなことを言うんですね」


「……」


「ほら、地球から出ますよ」



 気がつけば周りの景色が様変わりしていた。

 宇宙の中に浮く漆黒の巨大な物体から地球を見下ろす様は圧巻だった。



「今私たちがいる戦艦の名前を言ってませんでした」



 その場でイリシウムはターンを決め、ポーズをつけながら宣言をする。



『自由の女神号』スターチュオブリバティごうです」


「……先頭についてたモチーフそっちだったのかよ」


「何か文句でも?」


「違う名前にしてくれ。頼むから」


「無茶言わないでください。もう戦艦に名前がついてるんですよ?『自由の女神号』が嫌なら『ミロのヴィーナス号』にしますか?」


「そういう問題じゃねぇよ。もっと短くしろ」


「強慈郎の注文が多いんですよ!」



 頬を膨らませて怒る仕草をするロボットを見ながら、今後のことを考えてしまう。



(……こいつに頼ったのは失敗だったか)



 そんな心配をよそにイリシウムは手を広げ高らかに宣言をする。



「では、『自由の女神号』改め『ミロのヴィーナス号』改め『宇宙戦艦ヴィーナス』進撃します!目標は銀河連邦本部、敵陣ど真ん中です!」


「バカかお前。戦略とかねーのか?てか、どうやったら着くんだ?」


「そりゃ空間転移を何回かして、あれ?」



 気まずそうに照れ笑いをしながら、イリシウムがこちらを振り返る。



「………あのぉ〜強慈郎……」


「なんだ」


「もう捕捉されてますね」


「……は?」



 そんなやりとりの中、再び地球の姿を振り返ることになったが、今までとは違う光景に二人揃って絶句した。



「え?……えぇ?」


「おい、これ」



 戦艦ヴィーナスを囲むようにどこからともなく表れた宇宙戦艦が砲門を向け集結していた。



「……ね?言った通りでしょ?」



 イリシウムの言葉を耳に入れず、強慈郎は叫ぶ。



「もっと先の話じゃねぇのかよ!いいから突っ切れ!!」



 そんな理不尽な言葉にも冷静に反応するロボット。



「無理ですよ!敵の探知機に今、反応したんですから!」



 その言葉通り真正面に陣取る敵戦艦が砲門を開こうとしているのが視界の端に写る。



「おい!それ撃つなよ、頼むから」


「撃たせません!お掃除します!」


「おいおいおいおい!」



 無数のレーザー光弾が飛び交い、躱しながら敵の旗艦を撃ち落とすという神業を披露しながら、戦艦ヴィーナスは敵陣に突撃していく。


 その勢いは留まるところを知らず、ついに敵艦との衝突コースに入った時、強慈郎は覚悟を決めた。



「もうどうにでもなりやがれ!」


「強慈郎!私の本体へ!」


「だぁぁぁっ!?」



 衝突する直前、操縦席が下降し、格納庫に落とされる。イリシウム本体は強慈郎を掴みコクピットに放り込むとハッチを閉める。


 同時に凄まじい衝撃と金属音が艦内に響き渡り、その勢いのまま敵艦の艦橋まで突撃した。



「おい!これ大丈夫か?」



 強慈郎は心配になり、問いかけるが返事がない。



「おい」


「……あ、はい?なんですか?」


「いや、大丈夫ですかって聞いてんだよ」


「あぁ……大丈夫です。このくらいならなんとか」


「そうかよ、良かったな。なんとかなって」


「強慈郎?なんで白目向いてるんですか?」


「……」



 気絶していた。

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