第11話 ど派手な空飛ぶ海賊船。ついでに宇宙にも行こうかな。




「とりあえず、面倒事あいつらはババアに押し付けたから、家に帰る」


「そういうと思って、門の外に本体を待機させてます」



 イリシウムがそういうと『鬼ヶ島』の門が開き始めた。それを聞きつけた『鬼ヶ島』の人間が騒ぎ始めたのを察すると、強慈郎は飛び出した。



「捕まる前に急ぐぞ」


「かしこまりました」



 強慈郎の服にいつの間にか取り付けられていた装置からホログラムで映し出されたイリシウムの姿が消えるのをみると、門まで一直線に走り抜ける。



「……まぁ、言いたいことはあるが」


「細かいことは気にしない性質たちでしょう?」



 手を差し出す格好のイリシウム本体に乗ると、後方から鬼ヶ島房子の声が聞こえてくる。



「強ちゃーん……!またねー……!」



 よく見ると屋敷の前で房子が元気に手を振ってる姿があったのだが、そちらには見向きもせずに、ハッチが開いたイリシウムの胸部から操縦席に乗り込んだ。



「あれが『鬼ヶ島房子おにがしまふさこ』……いいんですか?強慈郎。挨拶もせずに」


「ババアのことも知ってんだな。……あれに捕まると数日潰れるぞ。いいから出せ」


「痛ッ」



 乱暴に操縦桿を蹴られ、声を上げたイリシウムは高度をあげ、鬼ヶ島を後にするのだった。



「いっちゃった」


「「行ってしまいました」ね」



『鬼ヶ島』に取り残された『カラーズ』はどこか物悲しそうにそう呟くのだが、強慈郎に届くわけもなく、黒い『C-X』の姿はどんどんと小さくなっていく。



「さて、貴方達はこれから『鬼ヶ島』地獄の特訓コースに参加してもらうから、覚悟しなさいな」



 見えなくなるまで、手を振っていた房子は振り向き、三人の顔を見る。顔は笑ってはいたものの、三人には本物鬼はこういうのなんだなぁっと諦めと絶望が入り混じった感想しか浮かばないのであった。






 ―――






「そういえば強慈郎」


「なんだ」


「『鬼ヶ島信玄』には結局会えたんですか?」



 イリシウムの問いに、強慈郎は煩わしそうに答える。

 その顔には疲れが色濃く浮かんでいた。

 ドサリと座席にもたれ掛かる強慈郎に、イリシウムは謝罪を述べる。



「見たらわかるって奴ですね。すみません」


「……お前が俺の神経を逆なですることに関してはプロだってのは十分わかったぜ」



 苛立ちを隠さない強慈郎に対してイリシウムは何事もなかったかのように受け流すと話を続けた。



「とりあえず『鬼ヶ島信玄』の事は分かりました?」


「もうあの老害ジジイのことはどうでもいい。結局探りに行ってこれだったからな」


「そうですか。……あ、家に到着しましたよ、強慈郎」



 イリシウムがそう言うと、操縦席のハッチが開き外気が入り込んでくる。その空気を吸い込むと強慈郎はゆっくりと立ち上がり、庭にそびえ立つ『カラーズ』の宇宙船だったモノといつの間にか現れたイリシウム分体を見る。



「……これもお前の趣味か」


「はい?何がですか?」


「宇宙船ってもっとメカメカしいもんだろうが!」



 強慈郎の目の前には、中世ヨーロッパの城塞のような装飾が施された『宇宙戦艦』がそびえ立っていた。銀色に金の縁取りのされた装甲には花や草花が描かれており、威圧感の中に優雅さを感じさせる造りになっていた。しかしよく見ると主砲と思われる砲台には女性の姿が刻まれていた。……それも全裸でだ。



「……美しいですねぇ」



 イリシウムの声を無視しながら周囲を見渡すが、どうやらここに降り立ったのは強慈郎一人だけのようだ。



「……あと二体あっただろ。どこにやった」


「あぁ、二号機と三号機は調整中でして。今現在、試運転もかねて宇宙を偵察中です」



 その言葉を聞き、強慈郎がため息をつく。



「二、三……?……まぁ、いいか。それで何か考えがあるのか?」


「宇宙に行きませんか?」



 あまりにも自然に、明日の天気を聞くような軽いノリでそんなことを言うイリシウムを強慈郎が睨み付ける。その圧力の凄まじさに気圧されながら、どもりながら話し続ける。



「ま、まぁ、宇宙に出たほうが私も色々とやりやすくてですね……ふふ」


「そうか。ならいい」



 そう言うと宇宙船の中に入っていく。その後を追っていくと操縦席にたどり着いたのだが、そこで強慈郎は違和感に気づく。


 操縦席はどことなく高級そうな雰囲気を醸し出しており、壁は赤く統一されている。なんというかクソド派手だった。



「……何を参考にしたらこんなことになるんだ」



 頭を抱えつつも、前方に映された大画面のモニターに目を引かれた。そこには宇宙が映っていた。地球から見える星空とは違い、恒星や惑星などの肉眼で見れない程の距離が投影され、地球から見る以上の広がりを見せていた。


 そのあまりの美しさに思わず息を吞む程に圧倒された強慈郎だったが、イリシウムはそんなことお構いなしに話し出す。



「これが銀河連邦本部の本拠地です」



 すると、映像が投影され始めた。そこには鬼ヶ島の映像もあった。宇宙から映されているのか、惑星や宇宙空間などがいくつも映し出された映像が次々と切り替わる。


 そして、その映像の中に一際大きな球体の星があった。

 それは地球の数倍、数十倍は大きく、周囲の星がそれを取り囲むように存在している。


 強慈郎はその光景を食い入るように見つめ、思わず声を漏らした。



「これは……」


「銀河連邦本部『スターゲイザー』、通称『宇宙の灯台』と呼ばれる惑星です」


「スターゲイザー……。地球と似ているな」


「そうですね、この星は地球にとてもよく似た環境をしています。ですが、その規模があまりにも違いすぎるのです」


「どういうことだ?」


「この星には地球にあるような酸素や窒素といった元素の他に、様々な物質が存在しますが、それ以上に重要なのは『魔素』という物質です」


「魔素?なんだそりゃ」


「魔素とは魔法を使うために必要なエネルギーのことです。そしてこのスターゲイザーには、その魔素が満ち溢れています」


「……つまり、地球にはない資源が大量にあるってことか?」



 強慈郎の言葉にイリシウムは大きく頷く。



「その通りです!しかもそれだけではありません!」


「まだあるのかよ……」



 うんざりした様子の強慈郎を他所に、興奮気味に話を続ける。



「なんと!この星の大気中には魔素以外にも『魔力』と呼ばれる概念が存在します!そもそも地球には『魔力』という概念は存在しないのですが、このスターゲイザーではそれが存在するんです!」


「……どうでもいい。で?それがなんだってんだ」



 どうでもよさげな強慈郎に対して、イリシウムが力説する。



「地球上であれば問題なかったでしょう!ですが銀河連邦の本拠地がある星ですよ!?パワーバランスに影響を与えかねませんし、なにより星の資源をフル活用できるというのは大き過ぎるメリットです!」



 鼻息荒く説明するイリシウムの様子に、強慈郎はただ一言だけ伝えた。



「そうか」



 あっさりと引き下がったことに拍子抜けするイリシウムであったが、それでもなお言葉を紡ごうとする。



「で、ですが強慈郎!このメリットは大きいですよ!特に他国や他星への牽制にもなりうるような技術が手に入ります!」



 その言葉を聞き、またもつまらなそうに返す。



「一旦落ち着けよ」



 あまりにも薄情な態度に唖然とするイリシウムだったが、それでも説得を続けようとする。



「強慈郎……!!」


「なんだ」



「お宝は目の前にあるんですよ!それを無視して引き下がるのですか!?これを見過ごすなんてそれこそ宇宙の損失ですよ!?」



 必死に引き留めようとしてくるイリシウムに対して、表情を変えずに言葉を返す。



「……別に俺は利益だとか損失だとかそういうもんには興味はねぇからな。ただ、銀河連邦とやらが気に食わねぇだけだ」



 その言葉にニヤリと笑みを浮かべると、ある提案をした。



「銀河連邦を打ち倒した暁には他の宇宙本部にも戦争をしかけましょう」


「……」



 あまりにも荒唐無稽な話に絶句する強慈郎だが、すぐに考えを改める。



「お前、宇宙征服でもするつもりか?」


「そっちの方が強慈郎も楽しいでしょう?今のうちに他の連邦組織の情報も集めておきますから、適当に遊んで待っててください」



 そういうとイリシウムは、部屋を後にするのだった。

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