第2話 命乞いフェイズ。
翌朝。
昨夜の隕石との邂逅から騒然とし、
「よーし、やるか」
腕を捲り、気合いを入れ、岩の前に立つ。
「昨日の感覚……思い出せ」
瞑目し、脱力する。
眼前に、隕石が接近してくる。記憶を明確に呼び起こし、深呼吸を繰り返す。
構えた。
「岩石粉砕け『◎△$♪×¥●&%#?!!』……ん?」
隕石を砕くべく、拳を放った瞬間、叫声の様なモノが脳内に響き、強慈郎は寸前で拳を止めた。
あまりにも強大な拳圧に岩肌が吹き飛び、隕石の内部から機械のような何かが姿を現した。そこには見たこともない、不思議な装置が無数に輝いていた。顔のようにも見えなくはない。
「……気のせいか。まぁ、空から降ってきたんだ。不思議でもないだろう」
動じることなくその様子を見つめ、構え直す。
そして、拳を振り抜こうとした次の瞬間、今度はハッキリと慌てた声が脳内に響く。
『停止要請!停止要請!』
バッと勢いよく振り返り確認するが、誰もいない。上も見ても、誰もいない。もちろん、下にも誰もいない。
自身の理性を疑ったが、直感はその声の主が隕石だと告げている。
驚きと疑問の入り混じった表情で岩の中に注視し、呟く。
「しかし、岩が喋るわけないよな?」
「違います!」
「な……ッ」
「私は第23銀河
と、その岩は早口言葉か呪文でも詠唱するかの様に、矢継ぎ早に語り掛けてくる。
それを聞いた強慈郎はというと、こめかみを抑え、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、少し考えたのち肩を回し始めた。
「あー、流石に昨日衝撃的な体験をしたせいで、俺も疲れてしまったか。あー、なんも聞こえなかったな。よーし!」
有無を言わさず破壊してしまえばよかったと後悔しながらも問答無用で拳を振りかざそうとする。その姿を意に介さず、イリシウムと名乗る岩は小刻みに揺れながら叫ぶ。
「やめて!助けて!乱暴するつもり!?野蛮人!話聞け!バーカバーカ!」
「あーあー聞こえない聞こえない」
脳裏に響くその声を耳をふさいで無かった事にしようと試みる男と、ない口を必死に動かす岩石の姿がそこにはあった。小刻みに震えながら岩石は懇願を続ける。
「あ、あ、あ……!お伝えしなくてはならない事があります!」
「いや、いいよ。聞かない。ぶち抜くから黙れ」
「嫌、死にたくない!まって!」
「はいはい」
「聞くだけ聞いてください!私には警告義務が課せられています!」
もはや聞く耳持たず、語るよりも拳で。無表情に冷徹に心を殺し無慈悲に。
喋る岩は死期を悟り、死にもの狂いで捲し立てた。
「低次元文明星人との接触が宇宙規律違反行為となり我々は
「ん?今なんて?」
敵という単語を聞いた瞬間、強慈郎は呆気なく殺気を解いた。重ねて質問を続け、ぺちぺちと岩をはたき始める。
「敵ってのは強いのか?んー?どうなんだー?あーん?」
「ほ……っ、っやっと聞いてくれる気になりましたか」
「いや、まだ無かった事にするか迷ってる」
「それはもう強いですよ!えぇ!
イリシウムが言い切る前に確認を取る。
「とにかく強いんだな」
何か言いたげに沈黙したのち、その機械は回答する。
「そ、そうです。なので、私が」
「よし!わかった!……イリ……なんだっけ?」
「……すーぱーえーあいイリシウムちゃんです」
「なげぇ。イリーでいいな。敵は全てこの強慈郎に任せろ!」
爆音の手拍子を一拍。強慈郎は朗らかに笑い言い放つ。おずおずと、イリシウム改め、イリ―が話しかけるが、
「……え、えっと、じゃぁ、お願いします」
その戦闘狂の耳には届かないのであった。
終始、動かない表情であったがこの時だけ少し悲しそうな顔をしていた様だった。
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