第9話 このまま君を連れていくよ。雑に。新鬼ヶ島。



「ここは『鬼ヶ島』のラボ、『仏滅大殺界神社ぶつめつだいさっかいじんじゃ』さ」


(うっわ、帰りてえ……)



 そう言われて約一名を除いた三人は驚きを隠せなかった。なぜなら、研究所らしき場所は自分達の知っている技術とは全く違うものだったからだ。


 そして、改めて周囲を見回すと確かに神社のような作りになっていることに気づいた。房子は微笑みを浮かべ、年甲斐もないセクシーポーズをする。



「この若々しい身体は『鬼ヶ島』のテクノロジーによるものだよ」


「じゃあ……ここが『鬼ヶ島』?」



 ミザリィの問いに房子は微笑みながら答える。



「そういってもいいかもねぇ?ようこそ仏滅大殺界神社へ♪」



 そう言って両手を広げると、そのままくるりと回って見せた。その姿はまるで少女のようだったが、その目は老練な魔術師のように見えた。


 三人は困惑しながらも房子の言葉を待った。しかし、それよりも先に強慈郎が口を開いた。



「ジジイの居場所はどこだ?」



 そう言うと房子は苦笑しながら答えた。



「わかってるよ……でもその前に検査しないとね?三人ともそこに横になってくれるかな?」


「……いきなり殺されたりとか……」


「しないしない」



 三人は困惑しつつも指示に従った。すると房子が機械を操作すると、三人の身体にコードのようなものが巻き付き始めた。そして次の瞬間には無数のモニターが展開されると同時に様々な数値が表示されていった。



「あの……」



 キャロルはおずおずと手を挙げて尋ねた。



「私達は一体……何をされているんでしょうか?」



 すると房子はにっこりと微笑むと説明を始めた。



「これはね、貴方達の身体検査みたいなものだよ」



 そう言ってキーボードを操作すると画面上に様々なデータが表示される。その数値を見て三人は驚いた表情をした。それは自分たちの知らない未知の技術だったからである。



「このデータは鬼ヶ島のテクノロジーのほんの一部でしかないけどね?『鬼ヶ島』の技術は宇宙の中でも最高水準なのさ」



 房子は自慢げに語った。



「でも貴方達が望むならもっと詳しく教えてあげることもできるんだよ?どうする?」



 そう言われて三人は顔を見合わせた。しかし、強慈郎だけは興味がないといった様子でそっぽを向いている。



「いや……やめとく」



 ミザリィは断ることにしたのだが、房子は気にすることなく話を続けた。



「そうかい?まあ気が向いたらいつでも言っておくれよ」



 そして一通りの検査が終わると房子が言った。



「さてと……結果が出たみたいだね……」




 そう言いながらパソコンを操作するとモニターに結果が表示される。



「ふむ……なるほど……これなら境内けいだいでも大丈夫そうね」



 房子は難しい表情を浮かべて呟く。その表情から三人は何も言えず黙って待つしかなかった。



「さて、それじゃあ改めて『鬼ヶ島』について説明しようかね」



 そう言って姿勢を正す房子に対し、三人もまた真剣な表情になった。強慈郎を除き、これから何が始まるのかと緊張した面持ちで見守る三人だったが、続く言葉は予想外のものだった。



「それじゃ、簡単に説明するとね?『鬼ヶ島』っていうのは宇宙に存在する独立国家の最終兵器だったのさ」




 その言葉に三人は驚愕した表情を浮かべたが、強慈郎は特に反応しなかった。



「『鬼ヶ島信玄』が銀河連邦に対して反逆を犯したのは知ってるね?」


「え、えぇ……それは有名ですから」


「でも、それは数百年も前の話で……『鬼ヶ島信玄』は銀河連邦に屈して逃走したと……」



 ミザリィがそう言うと房子は首を振った。



「そうじゃないよ……実はね、その事件自体は単なる茶番パフォーマンスに過ぎなかったのさ」


「パフォーマンス……?」



 キャロルの呟きに房子は頷いた。



「『鬼ヶ島信玄』の力を恐れた銀河連邦は、反逆者の濡れ衣を着せ、連邦から追い出したのさ」


「どうして銀河連邦がそんなことを……?」


 房子はそう言うとモニターに映像を映し出した。そこにはパイロットスーツを着た男性が映っており、その隣には巨大なロボットのような物体があったのだ。



「これは『鬼ヶ島信玄』が乗っていた人型兵器……通称『鬼神』と呼ばれるものさ」



 その映像を見てミザリィは首を傾げた。



「『鬼神』?」



 房子はミザリィの質問に答えることなく話を続けた。



「若い頃のお爺ちゃんは、その有り余る力を抑えきれずに機械を使うことでその力を緩和させていたのさ。そして、『鬼神』に細工を施した銀河連邦は機体に閉じ込めることに成功した」



 モニターを操作し、画面を切り替えながらも続けて語る。



「それでも銀河連邦では『鬼神』の脅威を恐れ、それに対抗すべく、人型兵器の開発を進めていたんだよ」



 そう言って画面を切り替えると今度は宇宙服を着た4人が映った映像が映し出された。そしてその背後には巨大なロボットのようなものが佇んでいるのが見える。



「これが『鬼神』を原型にし、作成された人型兵器」



 と言って房子はさらに別の映像に切り替えた。そこに映っていたものは先ほどの映像にも登場したロボットのような機械だった。



「これが『鬼神』のプロトタイプ……『機動機械暴虐神MobileMacineTyrantRoad……『M.M.T.Rモモタロー』と呼ばれる機体だよ」


「ももたろう……」


「『鬼神』に捕らわれた『鬼ヶ島信玄』はその力を十二分に奮えず、『M.M.T.R』との戦闘に敗北し、致命傷を負った」




 そう言って画面を切り替えると、そこにはコックピット内で重傷を負った男性が映し出されていた。彼はこちらに向かって手を伸ばしながら何かを叫んでおり、次の瞬間には彼の姿が消えた。


 そして別の映像が映し出された。そこには宇宙空間を漂う『鬼神』の姿があり、その目からは光が失われていた。

 房子は淡々と語り続けた。



「そして、信玄の庇護下にあった独立国家『鬼ヶ島』は銀河連邦によって殲滅された」



 そこで映像が切り替わり、場面が転換した。そこには無数のクレーターと破壊された建物、そして死体の山があった。

 その光景を見てミザリィたちは言葉を失った。房子はさらに話を続ける。



「しかし、銀河連邦の一部の上層部には『鬼ヶ島』の内通者がいた。そして、一連の情報は秘匿。内通者の働きによって地球に拘留される処置に留まった信玄は」



 房子は一呼吸置いて言った。



「『鬼神』の復活と銀河連邦の壊滅を企んでいる」



 房子の説明に三人は戸惑いながらも、必死に理解しようと頭を働かせていた。しかし、あまりにも衝撃的な内容で思考が追いついてこないようだった。



「つまりは……どういうこと?」



 ミザリィが絞り出すような声で尋ねる。房子は無言で微笑むと、再び語り始めた。



「まぁ、平たく言うと銀河連邦の連中はこれから泣きを見るってことよ。貴方達が探していいる『鬼ヶ島信玄』は、最終調整に移行してるの」


「最終調整……?」



 房子は笑みを浮かべながらキャロルを見た。



「そう、『鬼神』の復活と銀河連邦の壊滅の為には莫大なエネルギーが必要でね?その予兆を感じ取った銀河連邦は必死に阻止しようと動いているようね」



 突然のことに三人は言葉を失った。まさかここまで壮大な展開になるとは思ってもいなかったのである。



「それで、『鬼ヶ島』のテクノロジーは銀河連邦の兵器に応用できるの。だから貴方達のデータを取ったわけ」



 房子はそう言ってミザリィたちを見た。



「つまり……私達にその技術を提供しろってことですか?」



 キャロルが尋ねると、房子は頷いた。



「そういうことになるね」



 ミザリィは強慈郎の方を見ると、彼は黙って話を聞いていたがその表情からは何を考えているのか読み取れなかった。しかし、彼の視線は房子のパソコンに注がれていた。



「さて、それでどうするかい?まぁ強制はしないけど」



 房子はそう言うと、再びモニターを操作し始めた。すると今度は別の映像が映し出された。それはどこかの島の全体像を写したものだったが、その大きさは想像を絶するものだった。



「これが『新鬼ヶ島』だよ」



 房子はそう言うと説明を始めた。



「『新鬼ヶ島』のベースは貴方達が見た『鬼神』の残骸だよ。『鬼ヶ島信玄』の力と『鬼神』の心臓部を動力源とした惑星間航行宇宙船なのさ」



 その大きさに三人は圧倒されていた。圧倒的なスケールを誇る超巨大兵器を見て、自分達がちっぽけな存在にしか思えなかったのである。



「どうだね?銀河連邦を相手にするには申し分ない戦力だ。君達の安全は保障するし、悪くない条件だと思うんだが?」



 ミザリィたちは戸惑っていた。あまりに話が急すぎる上に、あまりにもスケールの大きな話だったからだ。しかし、房子の目は本気だった。



「どうする?決めてくれるかい?」



 房子はそう言うと、三人に向かって手を差し出したのだった。

 ミザリィたちは考え込んだ末に決断を下した。


「わかりました。協力させてください」



 ミザリィがそう言うと、房子は嬉しそうに笑った。そして手を差し出し、握手を求める。戸惑いつつもその手を握り返したのだった。



「よし!それじゃ早速準備を始めようか!」



 房子はそう言って立ち上がると、奥の部屋へと消えていった。残された三人は顔を見合わせるが、お互いに何を言っていいのかわからず黙り込んでしまう。しかししばらくして強慈郎が口を開いた。



「おい」



 その声に反応して二人は強慈郎の方を見ると、彼は相変わらず無表情でこちらを見つめていた。



「な、なんだよ?」



 ミザリィが尋ねると、彼は淡々とした口調で言った。



「なぜ協力する?」



 その質問の意図がわからず、ミザリィは首を傾げた。すると強慈郎は言葉を続けた。



「お前らは帰れればそれでいいんじゃねぇのか?第一、あいつの話は嘘かもしれねぇ」



 その言葉にミザリィたちは顔を見合わせたが、すぐに反論した。



「でも……もし本当なら私たちにも責任がある」



 その言葉に強慈郎は少し考えるような仕草をした。



「責任?」



 強慈郎はミザリィの方を見た。すると少し恥ずかしそうにしながらも話を続ける。



「私達は組織の新参者だが違反者になった。……何も知らない地球の人たち、それに、私達の星の仲間たちが、このままだと危険にさらされるかもしれない。……少しでも、その人たちの助けになるなら」



「だから協力するのか?」



 強慈郎の言葉にミザリィは強く頷いた。



「オ、オレは正義感が強い方ではない……けど、それでも自分の行動に責任を持ちたいんだ」



 その答えを聞いた強慈郎はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。



「そうか……」



 強慈郎はそれだけ言うと立ち上がり、部屋から出て行った。ミザリィたちはその様子を不思議そうに眺めていたが、やがて顔を見合わせた。


「とりあえず、どうしますか?」



 青雲斎の言葉にミザリィは少し考え込んだ後言った。



「まずはあの人の指示に従って動くしかない。キャロルは出来るだけ力になれるように情報提供の用意をしてくれ」



 その言葉にキャロルも同意したように頷く。三人は房子が消えていった部屋のドアを見つめていた。



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