第8話 とある所にお婆さんがいました。お爺さんは知りませんけど。
強慈郎達は森の中を歩いていく。その道中で青雲斎が話しかけてきた。
「それでどうやって行くんですか?」
「歩いてだ」
その言葉に三人は驚きの声を上げる。
「歩いてですか!?」
青雲斎が思わず叫ぶと、強慈郎は面倒くさそうに答える。
「文句があるなら着いてくんな」
そんな会話をしていると金髪メイド、ミザリィがおずおずと手を上げる。それを見て強慈郎は少し驚いた顔をする。しかし、すぐに平静を取り戻して続きを促すように顎をしゃくる仕草をする。するとミザリィはゆっくりと口を開いた。
「……私達が知る限りでは、個人の座標を割り出す方法はありません」
「つまり?」
強慈郎の問いにミザリィは言いにくそうに答える。
「『鬼ヶ島信玄』は銀河連邦でも正確な所在を掴めない、辿り着けない場所に身を隠している可能性があります」
その答えを聞き、強慈郎は思わず舌打ちをする。青雲斎とキャロルも困惑している様子だったが、ミザリィだけは申し訳なさそうに俯いていた。その様子を見た強慈郎は小さくため息をつくと口を開く。
「わかんねぇなら黙ってついてこい。ジジイが唯一信頼していた奴に会いに行く」
その言葉に三人は黙って従うしかなかった。
しばらく歩いていると、強慈郎は突然立ち止まった。それに気づき、三人も足を止める。
「ど、どうしたんだよ?」
ミザリィが尋ねると、強慈郎は道の先を鋭く睨みつけながら答える。
「強者の気配だ」
「な、なにかいるのか……?」
恐る恐る視線の先に目を向けるが、何も見つけられない。
「……いや、案内役のつもりらしいな」
そう言って森の中を歩き始めるので慌てて追いかける三人だった。
幾つかの山を越え、ようやく立ち止まることになる。なぜなら目の前に大きな崖が現れたからだ。
ただの断崖絶壁ではなく……そこには巨大な門があった。その大きさたるや、『
「これは……」
青雲斎が驚きの声を上げると、強慈郎は無表情で答える。
「ここだ」
そう言って門の前に立つと、ゆっくりと手をかける。そして一気に押し開いた。鋼鉄が打つかり合い、軋む様な音が辺りに響く。
豪快に門が開いた先には、広大な庭園が広がっていた。木々や池があり、色とりどりの花が咲き乱れている様子はまさに幻想的という言葉が相応しいだろう。
「すげぇ……」
「行くぞ」
ミザリィは思わず感嘆の声を漏らすほどだった強慈郎はさほど反応することなく進んでいく。
しばらく歩くと大きな屋敷が見えてきた。その外観はまるで城のようだ。しかし、それは決して豪華なものではなく質素な雰囲気を漂わせていたのだが……それでも見る者に荘厳な印象を与えるには十分だった。
「帰ってくることになるとはな」
そう言うと、強慈郎は躊躇なく門の中に入っていき、
「お、おい!待ってくれよ!」
「お、お邪魔します……?」
「立派なお屋敷ですね……」
それに続くように三人も中に入っていったのだった。
屋敷の中は外観に比べ、かなり質素な造りだった。必要最低限のものしか置かれていないようだ。
強慈郎達は玄関に到着すると真っ直ぐに客間へ向かっていく。途中、何人かの使用人らしき女性達とすれ違ったが、皆一様に強慈郎達にお辞儀をしていったので内心かなり驚いた三人である。
「あの……もしかして、お前の実家か?」
ミザリィが思わず尋ねると、強慈郎は面倒くさそうな表情をしながら答える。
「そうだ」
(この
ぶっきらぼうな返事にミザリィは決して笑うまいと顔を伏せ身を震わせる。
それ以上は何も聞くことはなかった。と言うより、腹を捻じ切る勢いで摘んでいたせいで聞けなかった。
そして、客間に入ると強慈郎は椅子に座るように促した。三人はそれに従い座ると強慈郎も座った。
「それで……『鬼ヶ島信玄』の居場所を知ってる方というのは?」
青雲斎の言葉に反応するように強慈郎が口を開いた。
「知りたかったら自分で聞いてみろ」
「……わかりました」
そう言ってからしばらく沈黙が続いたが、やがて部屋の外から足音が近づいてきて襖が開かれる。そこには、床に届来そうな長さで、曇天の様な髪。家紋だろうか、立派な刺繍が施された着物を纏った小柄な幼女が立っていた。
「あらあら……元気だったかい?きょうちゃん」
その幼女は柔らかい笑顔を浮かべながらゆっくりと部屋に入ってくると、強慈郎の隣に座った。それを見て三人は慌てて姿勢を正す。その様子を見た女性はくすりと笑った後、自己紹介をした。
「私は
「あ……はい!よろしくお願いしますデス!ミザリィデス!」
「キャロラインと申します……す、すいません」
「招待もなしに突然の訪問申し訳ありません。
三人は緊張した面持ちだったがなんとか返事をすることができた。その様子を微笑ましげに見ていた房子は優しい声音でいう。
「そんなに緊張しなくていいんだよ?」
キャロルが恐る恐る口を開いた。
「あの……『鬼ヶ島』さんなんですよね?」
その言葉に房子はにっこりと微笑むと頷いた。
「そうだよ?私は鬼ヶ島家の現当主でねぇ……まあ、当主といっても名ばかりの当主だから、あまり気にしなくて大丈夫だよ」
(……あ、これ、終わりましたぁ)
その言葉に三人は驚きの表情を見せ、新たに現れた脅威に震え、強慈郎だけは当然の如く特に反応しなかった。
「それで『鬼ヶ島信玄』の居場所を知ってる人というのは……」
青雲斎の言葉に房子は不思議そうな顔をした。
「きょうちゃん……貴方、何も説明しなかったの?」
その問いに強慈郎は答えない。それを肯定と受け取ったのか、房子は困ったような表情を見せる。そこでミザリィが口を開いた。
「あの……私達は鬼ヶ島さん……強慈郎さんの命令でここに来たんですけど……」
その言葉を聞いた瞬間、房子の表情から笑みが消え去った。そして軽蔑したような眼差しを向けつつ再び口を開く。
「命令?鬼ヶ島の人間は命令なんてしないよ。ただ導くだけ」
その冷たい言葉と異様なプレッシャーに三人は呆然と固まってしまう。しかし、強慈郎は興味なさそうに口を開いた。
「ババア。どうでもいいだろそんな事」
そう言うと、房子は可笑しそうに笑った後、口を開く。
「ふふっ……そうねぇ……貴方達はお
房子の言葉に困惑した表情を見せたが、強慈郎だけは違ったようで不機嫌そうに舌打ちをした。そんな様子を気にすることもなく話を続ける房子に対して、強慈郎が苛立たしげに問いかける。
「それで……ジジイはどこにいるんだ?知ってんのか?」
その問いに房子は妖しい微笑を浮かべながら答えた。
「あら、知りたいの?でも、貴方達はまだ死にたくないでしょう?」
そう言ってから再び笑い出すのだった。その様子を見て三人は背筋が凍るような思いだったが、強慈郎だけは動じなかった。
「……ババア」
その一言で場の空気が変わった。房子の顔から笑みが消え、強慈郎のことを睨みつけた。しかし、強慈郎は全く動じることなく言葉を続ける。
「遊んでないで早く答えろ」
その言葉を聞いた瞬間、房子は愉快そうに笑い出したのだった。
「ふふ……ふふ……あははははははははっ!!あ〜面白かったぁ♪あんまりにも怯えるものだから、ちょっとした悪戯よ」
「何がちょっとした悪戯だ。ババアのは嫌がらせだろ」
房子はさらに愉快そうに笑った。
「ふふふ♪貴方は相変わらずねぇ……」
そう言うと、再び真顔に戻る。
「まあ良いわ……教えてあげるからついてきなさい」
そう言って立ち上がると部屋を出ていくので三人も後に続いた。その後を強慈郎が続く形で廊下を歩いて行く。
「強慈郎さんのお婆様ってことですよね……?」
「多分そうだけど……地球人って歳取らないんだっけ……?」
「いえ、そんな筈はないですが……歳を取らないとしても若過ぎる……」
三人が肩を寄せ合いひそひそと話していると、房子は足を止めて振り返った。
「何かな?」
三人はびくっとして後退りした。どうやら聞かれていたらしいと思い、三人は冷や汗を流す。
(ヤバい……絶対怒ってる)
ミザリィとキャロルが怯えている中、強慈郎だけは無言で睨み返していた。房子はそんな三人の様子を楽しげに見つめていたがやがて口を開いた。
「ふふっ……心配しなくても大丈夫よ」
と言ってまた歩き出すのでほっと胸をなで下ろす三人だった。房子の後ろを歩くこと数分。ある部屋の前で立ち止まると、襖を開けた。そして中に入るように促され、指示に従う。
そこは先ほどまでの和風な様相と打って変わって、研究所のような場所だった。床や壁は白いタイルで覆われており、天井からはモニターの様なものがぶら下がっている。部屋の隅には机が置かれており、その上にはパソコンの様なものが数台。部屋の中央には大きな祠の形をした機械が置かれており、そこからいくつものケーブルが伸びていた。
「ここは……?」
青雲斎が問いかけると、祠の上に掲げられた看板を指差しながら房子は答えた。
「ここは『鬼ヶ島』の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます