第6話 地球滅亡の危機。こっちはホウレンソウを怠った馬鹿。




 話の流れを断ち切り、台所に立った強慈郎は熊を捌きながら先ほどまでの話を整理していた。



「つまりアイツ等は警察みたいなもんで、ジジイは昔そこにいたと……」



 次々と流れるように熊を捌く。



「んで、鬼ヶ島って名前から『鬼』と名付けられた。うん、もうわからんな」



 丁寧に、慎重に、しかし素早く、野菜を鍋に敷く。



「なんでジジイの話になってんだよ」



 捌いた肉を更に切り分け、綺麗に、高々と盛り付ける。



「……昔、ジジイが言っていたな。星を落として、悪い奴らから身を潜めてるって。多少はホントの話だったってことか」



 鍋というにはあまりにもデカいそれに蓋をし、担ぎ上げ庭に向かう。



「奴らも事情がありそうだが、あの様だしな。……次が来るのも時間の問題か」



 庭ではミザリィと金髪女と青雲斎はイリシウムに正座させられていた。



「なんで私まで……」


「お黙りなさい」



 結局尋問を受けていたのだが、強慈郎が熊鍋を運んできたことで中断されていた。


 そして今はその続きをしているという訳だが……。



(金髪女は起きたのか。律儀に正座までして……なんだこの光景は)



 強慈郎は心の中で悪態を吐きながら熊鍋を配膳していく。その様子を三人はじっと見つめている。



「とりあえず食え」



 強慈郎はそれだけ言うと、熊足に齧り付く。それを見ていた三人は口を開こうとしない。



(……うま)



 強慈郎は黙々と熊肉を食べ続けるが、三人はただ俯いているだけだ。その様子に痺れを切らした強慈郎が口を開く。



「……で?お前らこれからどうすんだ?」



 その言葉に青雲斎と呼ばれた男が答え始める。



「私達はこのまま銀河連邦に自首をします」


「そうか……って、ん?」




 強慈郎は頷きかけて止まる。



「自首ってどういうことだ?」



 その言葉にはミザリィが答えた。



「銀河連邦未所属の惑星での任務失敗した場合、勾留、尋問されたのち処分が下される。逃亡した際には文字通り宇宙の果てまで追いかけられ、殺される」



 言い淀み、代わって青雲斎が続ける。



「本来、私たちは『鬼ヶ島信玄』の情報を持ち帰る為に来ました。まさか、それ以外の『鬼ヶ島』にたどり着くとは思ってもいませんでしたが」



 そう言って自嘲気味に笑う。強慈郎はそんな様子に首を傾げる。



「なんでこの赤いのは『鬼ヶ島』って聞いて驚いてたんだよ」


「それは……その……」



 ミザリィは言い淀むが、青雲斎が代わりに答えた。



「私の監督不行き届きです。初任務後ということもあって、伝えるのが遅れてしまいました」


「なるほどな……ってなんでだよ!」



 強慈郎は青雲斎に食って掛かるが、それをイリシウムが制する。



「落ち着いて下さい。今は食事中ですよ」


「お前らは食ってねぇだろうが……」



 渋々引き下がったのを見て、ミザリィと金髪女は安堵の表情を浮かべる。しかし、強慈郎はというと、まだ納得していないようで不機嫌そうに熊鍋を食べている。


 そんな様子に青雲斎が気まずそうに口を開いた。



「今回の任務はあまりにも急過ぎました。突然、とある星の監視役から定期報告が途絶えたとのことで……それがあろうことか『鬼ヶ島信玄』の監獄だとは……」


「あぁ、それは私のせいですね」



 涼しげな顔をしたイリシウムがさらりと言う。強慈郎はいぶかしげな顔で見る。その視線に答えるように説明を始めた。いや、始まる前に自身の本体である頭によじ登り、登壇する。



「私は地球もとい『鬼ヶ島信玄』の情報を定期的に観測、そして、銀河連邦政府本部に報告をしていました。しかし!ある時!不慮の事故によって!それが!途絶えてしまったのです!」



 やけに仰々しく演歌歌手のさながら、そして得意げに語りきったのをみてはち切れんばかりの青筋を立てた強慈郎が叫ぶ。



「やっぱりお前が原因じゃねぇか!!」


「「「えぇ……」」」



 その言葉に『カラーズ』三人衆はイリシウムを信じられないといった顔で見ているが、強慈郎は無視して続ける。



「ボケカスポンコツロボットがよ!とりあえず降りろ!」


「宇宙最先端のAIには感情も搭載されてるんです。そんなに言われたら、泣いちゃいますよ。……ほろり」



 降壇を命じられた女は涙の様な液体を流し、よよよと地面に女座りをしながら舞い降りる。呆れた強慈郎はツッコむのをやめた。



「………………はぁ、ジジイの居場所が知りてえってことか?」


「端的に言えばそういうことですかね」



 ホコリを軽く払いながら立ち直る三文芝居女イリシウム。茶番を見せられる三人。考え込む強慈郎。


「ジジイとは3年くらい……か、その間一度も会ってねえからな」


「え?反応自体はこの付近から観測されていたのですが、まさか知らないんですか?」



 今度はイリシウムが驚いた顔をする番だった。強慈郎は怒鳴りあげる。



「だから!俺はジジイがどこにいるか知らねぇってんだよ!そもそも、日本にいるのかもわかんねぇんだぞ」



 イリシウムは、今度はミザリィ達を見るが、



「……知らない」



と、赤鬼



「……し、知りません。すいませんごめんなさい殺さないでください」



と、黄鬼



「そもそも我々は今回の任務がなければ『鬼ヶ島信玄』が実在することすら知りませんでした」



最後に青鬼といった具合で、三人とも首を横に振る。


それを見て強慈郎が血管が引き千切れた。



「凡骨供が!監視対象って言ってただろ!何で知らねえんだ!犯罪者なんだろ!そっちからしたら目離したら何するかわかんねえやつなんだろ!なにやってんだ手前ら!!」



 ミザリィ達は、そんな強慈郎の様子に怯えている。イリシウムはやれやれといった様子で口を開く。



「戦闘が終わる頃には分かっていたのですが、『カラーズ』は地球よりちょっと都心寄りの田舎の星団代表らしいです。『鬼ヶ島信玄』も情報統制によってほぼ機密事項なので知らないのは無理もありませんね〜」


「お前は知ってたんだろうが……」



 強慈郎は怒りを通り越して呆れていた。だが、青雲斎が何かを思い出したかのように口を開いた。



「……この流れで出すのも、大変、恐縮なのですが……信玄の血族を発見した際の対応策案書も送られていました」



 その言葉にイリシウムが反応する。



「それは本当ですか?」


「キャロル、お願いします」


「は、はい。えっと、たしか……」


 キャロルと呼ばれた給仕姿の女がもぞもぞと谷間に手を突っ込み懐を探り始める。そして、取り出したのは電子端末だった。それをイリシウムが受け取り一瞬目を通した後、強慈郎に渡す。


 そこには『鬼ヶ島信玄』の監視方法とその血族及び共犯者を発見した際の対処法について書かれていた。



「お前……これマジか?」



 その内容を確認した強慈郎は呆れ果てる。



「平たく言いますと、地球滅亡の危機といった所ですねっ」



 星が飛ぶような鮮やかなウインクをし、ピースサインをするイリシウム。



「……頭イかれちまったのか?いや、そこじゃなくて……あー、もういいわ」



 強慈郎は諦めたように首を振る。そして三人に向き直る。



「まだ読んでなさそうだし、お前らも覚悟しとけよ?」



 その言葉に三人は首を傾げるが、強慈郎は気にせず話を続ける。



「これによるとだな……」




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