第4話 噛ませの青と黄色。尻赤鬼。




 強慈郎が修行を開始し数日が経っていた。


 何だか余裕な気がしてきたイリシウムは強慈郎の修行を遠目に観察し、強慈郎の修行を解析、その身体能力や思考パターンなどを分析していた。



(やはり彼の身体能力は普通ではありませんね)



 と改めて認識するのだった。当の強慈郎はというと……。

 いつものように岩の前に立ち、拳を振るう。ただ違う点と言えば、いつものラフな格好ではなく道着を着て、手足にはイリシウム特製の鉄の重りを付けていることだ。ちなみに岩もイリシウムの手によって特殊な加工が施されており、『C-Xシクス』同等の硬度並みに仕上がっていた。

 それは彼がこの数日で編み出した独自の修行だった。


 拳を岩にぶつける度に、火花が散る。そして、その拳は岩を徐々に削り取り、止まることはない。それどころか次第に動きは加速していく。



(!?)



 イリシウムはその異変に気づくのだった。

 強慈郎が拳を振るい始めてから数時間、彼の体はボロボロになっていた。全身は飛び散った破片により打撲や裂傷で赤黒く染まり、道着も所々破れ、重りさえも壊れかけている。

 しかし、その眼には力強い光が宿り、ただ一点を見つめていた。

 視線の先にあるのは巨大な岩だ。それは強慈郎が拳を振るう度に少しずつ削れていき……そしてついに砕ける。



(この短期間で力が格段にあがっている?あんな方法で?……なぜです)



 イリシウムはその圧倒的な力を目の当たりにし、驚愕するのだった。再び解析を開始する。そして、強慈郎の身体能力を数値化し、その異常な値に再び驚愕するが、イリシウムはどこか納得していた。いや、解析した結果を理解はしていたが受け入れ難いと感じていたのだ。



(宇宙怪獣でこんな数値の奴がいた気がしますね……。図体さえ大きければ完璧でしたか……あはは)



 そう考えつつも、彼には伝えなければならないことがあった。それは、鬼の襲来まで残された時間が少ないという事だ。

 イリシウムは覚悟を決めると、強慈郎に呼びかけるのだった。



「強慈郎!」


「なんだ!」



 岩を砕き終えた強慈郎が振り向く。その顔には疲労感が滲んでいるもののどこか満足気だった。そして、その眼には爛々らんらんと輝く光が宿っている。まるで獲物を狙う肉食獣の様に……。



(これで人間の細胞で構成されてるんですから不思議です。なんですかこいつ)



 そんな疑問を抱きつつも言葉を続ける。



「強慈郎、貴方の修行は素晴らしいものです。その力、そしてその進化は私の予測をはるかに超えています。しかし」



 イリシウムは慎重に言葉を選びながら続けた。



「鬼の襲来までの時間はわずかです。対抗するためには強慈郎の力は必要不可欠。ですが、その前にしなければならないことがあります」



 強慈郎は不思議そうな表情でイリシウムを見つめた。



「何があるってんだ?」


「それ以上のその力を引き出すのは危険です。強慈郎の能力を戦闘で最大限に発揮するためにも、今は体を休めてください」



 強慈郎はしばらく黙って考え込んだ後、うなずいた。



「わかった。そっちもできるだけ早く準備を整えろよ。俺は待ちくたびれたってんだ」


「えぇ。わかりました」



 イリシウムは深く頷き、そのまま強慈郎の前から姿を消した。


 ここ数日の修行によって、その力を飛躍的に高めていたが、潜在的な危険も感じ取っていた。まるで、心身共に蝕まれていき、最後には自分でなくなるような感覚だった。


 しかし、彼にとっては、我武者羅に修行していた頃には掴めなかった力であることには間違いなかった。


 修行の邪魔、面倒ごとを持ち込む疫病神としか思っていなかったが、今はイリ―との出会いには感謝の念すら湧いてきている。


 それが大人しく忠告を聞きいれた理由でもあった。



「帰るか」



 自身の心境の変化に違和感を持ちながらも、悪い気はしないと修行場を後にした。



 ―――



 少し時間が経ち、強慈郎と別れたイリシウムは自身が墜落した場所で襲撃に向けての準備を行っていた。



(現星人に接触した場所を観測されているとしたら、襲撃場所も……)



 遠隔操作を行っていたパーツを集結し組み換え、対『C-Xシクス』様に装備を整えていると、





 空が割れた。





「予測より早いですね」



 驚いた様子もなく、装置を展開するが、空の裂け目は広がり、巨大な宇宙船が顔を出す。


 眩い光と共に薄紫のドーム状のシールドが展開されると、瞬時に広がり、周囲一帯を包み込んだ。



「……強慈郎と合流しなければ」


「呼んだか」



 あるはずもない声に驚き、振り向くとそこには準備万端といった様子の強慈郎が佇んでいた。



「……ッ、何故いるんですか」


「家で休んでいたんだが、予感がしてな。修行の気配を感じた」



 どこか嬉しそうな顔で、空を見上げる強慈郎にたじろぐイリシウム。



「修行の気配……?いえ、そんなことより予測より早く『鬼』が来てしまった様です。準備も完了はしていませんが……」


「俺は出来てる」


「待ってください」



 準備運動をするようにその場で何度か跳ねながら、今にも敵に飛び掛かって行きそうな雰囲気を感じ強慈郎の肩を掴む。


 大気を揺らし、強大な宇宙船が全貌を現したかと思うと、間延びした音と共に、気の抜けた声でアナウンスが流れた。






 ―――ピンポンパンポーン



「えー、我々は宇宙規律統制機構所属『カラーズ』。この辺りは包囲されている。大人しく出てきなさーい」



 それを聞いた強慈郎の顔がみるみるうちに険しくなり、先ほどとは違う怒鳴り声がする。



「こんな辺境の星で変なエネルギー反応まき散らしやがって!とっとと出てこい!駆除してやる!」



 窘めるように声が続く。



「お二人とも適当過ぎます。記録だって本部に後で送るんですよ……」



「あー、マイク切れてないよ?」



「あっ」




 ―――ブチッ






 慌てた様子でスイッチを切った音共に、アナウンスは鳴りやんだ。険しい顔で黙って聞いていた強慈郎は、ゆっくりと振り返る。


 イリシウムを睨み『カラーズ』と名乗る宇宙船を後手に指差した。



「おい、本当にか?」



「こちらで観測した通信回線、所属識別信号では『S.D.C.O.エスディコー』で間違いないのですが、『カラーズ』という船の情報がまるでありません。急に湧いて出たかのような……」



 いつの間にかパネルを展開していたイリシウムは当惑した様子で答える。スクリーン上には目の前の宇宙船の姿が表示されてはいるが、名称と全長の数値以外はろくに情報が出ていなかった。パネルを操作し、次々と画面を切り替えながら告げる。



「恐らくですが、新規で所属した星団の可能性があります。少し引いて一旦体制を整えましょう。数分あれば……」



「とはいえアレは待ってくれなさそうだ。何か来るぞ」



 強慈郎が不穏な気配を感じ向き直ると、宇宙船の下部がゆっくりと開き、中から三つの巨影が飛び出した。


 徐々に近づくそれは赤、青、黄とそれぞれの色で統一されており、その肩には『C-X』とデカデカと刻まれている。



「粒子兵器に実弾兵器、通常武装にしては……って、過剰武装にも程があるでしょうが」



 イリシウムが声を上げたように、それはビームやミサイルランチャーを幾つも生やした『人型』の戦闘機だった。強慈郎が目を輝かせた。



「デカいな!」


阿呆あほですか!相手も本気です!来ますよ!」



 驚愕の声と共に警告を発すると、『C-X』から威勢のいい声と共に発射されたいくつもの光弾が飛び交った。



「出てこいやぁッ!!!」



 それを見た強慈郎は両腕を突き出し構えを取る。目を瞑り、修行を思い出す。深呼吸をし、ゆっくりと動き出すと敵を見つめた。



「ぶっつけ本番だが……流水流転拳!」



 その技は隕石を砕けなかったことで生まれた柔の技。脱力した両の掌を突き出し、円を描くように回す。降り注ぐ、無数の光弾を受け流し、弾く。

 そして、攻撃を捌ききると不敵な笑みを浮かべた。



「練習台にしては悪くないな」


「……危ないですから、遊ばないでもらっていいですか?」



 しかし、イリシウムは忠告も聞かず強慈郎はそのまま迎撃に向かおうとする。



「待ってください。私も全力でサポートします」



 イリシウムが宣言すると同時に、装置が浮かびあがり強慈郎を取り囲む。

 4枚のシールド型装置が青白く発光すると、強慈郎の身体が高く舞い上がった。



「ついに俺も飛べるようになったか……」



 自身の体を見つめながら感慨深そうにつぶやくが、脳内にイリシウムの声が響く。



『違います。私が重力制御を行うので、強慈郎は戦闘に専念してください』


「うわ、直で話しかけてくんなって!」



 そう言われると若干のラグがあったが、イリシウムの声質が変わる。



「……装置のスピーカーから話しかけています。これでいいですね」


「おう。出来るなら最初からそうしとけ」


「この……。まぁ、いいです。急造ですが、その装置である程度は跳べるはずです」


「なんか知らんがそっちはそっちで頑張ってくれ」



 何も言えなくなったイリシウムを無視し、強慈郎は敵に向き直る。


 三機の『C-X』は驚き宙に舞う人間の姿に驚きながらも、迎撃のために銃を構える。それを見た彼は空中で何度か跳ねると、その場から姿を消した。



「消えた!?」



 青の『C-X』から驚いた声が上がる。



「遅いな」



 次の瞬間には、強慈郎に呆気なく背後を取られていた。



「後ろです!近接装備を」



 二機は即座に銃を捨て、黄色の『C-X』が慌ててビームブレードを構え、強慈郎は拳を構える。



「な、なんだですかこいつは……ッ!?」


「弾きますッ」



 青色の『C-X』がそう言いながら盾を構える。それと同時に強慈郎が腕を振り抜く。



「ば、化物……ッ」



 一機が大きく吹き飛ばされ、そのまま岩に直撃し沈黙する。



「もういっぱァツッッ!!」


「な、なんですかこの馬鹿力……ッ!?」



 もう一機はブレードを使い拳撃を受け止めるが、威力を殺しきれず弾き飛ばされ、そのまま岩に直撃した。



「え、え……こんなに早く使うことになるの?」



 残り一機になった赤の『C-X』は小声で喋りながらも牽引用フックの付いたアームを射出し、大きく飛び上がり空中で停止した。



「なんだよ?もう終わりか?」


「……え、こわ」



 若干引き攣ったイリシウムの言葉に合わせ『人型』は変形を始める。



「え、えっと……あった。『三色混ざり我色鬼に也てここに降臨する』合体……ッ」



 中央の一回り大きい赤の『C-X』が後方に下がると光を発し、青と黄色が連結し始め、二機が重なると大きなシールドを展開する。



「強慈郎……あれは……」


 イリシウムがそれを眺めながら、心当たりのあるような声をあげる。


 『C-X』は形状を大きく変えると、もはや『人型』ではなく巨大な戦艦が直立し、無理やり手足をくっつけた様な形となっていた。


 目前の敵からは視界を外さずに、イリシウムに問いかける。 



「なんだ?あの不細工ロボット知ってるのか?」


「あ、いえ、似た機体を見たことあるだけで勘違いしました。あんな不格好で品性の欠片もない合体ロボットは知りませんね」


「中々辛辣じゃねぇか」


「それほどでも。来ますよ」


「褒めてねぇよッと」



 その戦艦の腹部から大量の銃身が露出されると、銃弾を巻き散らした。


 凄まじい速度で射出されたそれは岩に着弾し、大爆発を起こす。爆風に煽られながらもなんとか体勢を整えた強慈郎だったが、イリシウムは冷や汗を搔いている。



(凄まじい弾幕ですね……。強慈郎は兎も角、私の身が危ない。……あっ)



 模索しながら、何か見覚えのある物体に気が付いた。それはイリシウムの頭部だ。どうやら先程の戦闘で強慈郎の家から転がり落ちてきたようだった。


 強慈郎も気が付いたのか、地上に降り立つ。そして、それを……おもむろに担ぎ上げた。



「あ、あの強慈郎?一体私の本体で何を」



 嫌な予感がしたイリシウムは感覚を本体に切り替え、直接、強慈郎に話しかけるが、その獣はにやりと笑い、砲丸投げをするかの様に構える。



「ま、まさか、人の頭を」


「ちょっと借りるぜッ!」


「あ、ちょ、馬鹿野郎ォォォォッ!!!!」



 イリシウムの悲惨な絶叫と共に上空へ投げ放たれたそれは、巨大化した『C-X』の頭部に吸い込まれるように直撃する。


 眩い閃光と共に衝撃音が周囲に響き渡り、激しく揺れる。



「うわ!?メインカメラが……ッ」



 驚き動揺する『C-X』を他所に、強慈郎は己が力の高まりを感じていた。



「イイ感じじゃないか……ッ!」



 強慈郎が笑みを浮かべた次の瞬間には、その機体は衝撃によってバランスを崩し地上に落ちる。



「せ、制御が効かないッ!……乗っ取られたッ!??」



 慌てた様子のパイロットにお構いなしで近くにあった残骸を拾い上げると『C-X』へ向けて蹴っ飛ばす。



「オラオラオラァ!これが暴力ってんだァッ!」



 残骸は衝撃で粉砕され散弾銃の様に『C-X』のシールドに激突。凄まじい衝撃音と破片を撒き散らしながら、そのシールドをバラバラに吹き飛ばした。



「この馬鹿!私の本体があるんですよ!」



 イリシウムが興奮した声を上げ、強慈郎が動きを止めとぼけた声で返す。



「お、忘れてたわ。わりぃわりぃ」


「こんのやろぉ……」


 破壊された『C-X』は何事もなかったように、立ち上がると再びシールドを展開し、牽制するように銃を放つ。が、強慈郎は拳撃でそれらを撃ち落とし、距離を詰める。



「よくもやってくれましたね!」



 の怒号と共に不格好な合体をしていた機体は、青白い光に包み込まれる。光が収まると精巧で巨大な人型の機体へと変化した姿がそこにはあった。

 先ほどと打って変わった洗練されたフォルムに思わず感心する。


「お?最終形態ってやつか?」


「この野郎ッ!ぶっころしてやるッ!!」



 何故か目の前の『C-X』からイリシウムの怒声が聞こえ、周りに膨大なエネルギーが漂うと、その光を纏った巨大な拳で殴りかかってきた。



「しぃぃぃねぇぇぇッッッ!!!」


「危ねえッ!?」



 その巨体から繰り出される一撃を躱すと、足元に潜り込み、強慈郎は敵の足を掴むとそのまま体を捻り上げ、ジャイアントスイングのように振り回す。



「ぶっ飛ばしてやらァッ!!!」



 周囲の岩が割れ、木々が吹き飛び、砂塵を巻き上げたかと思うと、大きく弧を描いた。



「オラァッ!」



 そんな掛け声と共に、まるで木の葉のように軽々と放り投げる。宙に舞った巨体目掛けて跳躍すると、落下の速度と回転を加えながら殴りかかる。


「喰らえッッッ」


「誰がタダで喰らうものですかッッ」



 が、『C-X』は空中で腕を振りかぶると、その拳を振り下ろした。強慈郎もそれに合わせ腕を突き出す。



 ――ドゴォォォンッッッ



 エネルギー同士が衝突し、眩い閃光と轟音と共に衝撃波が周囲を覆った。その衝撃で周囲の物が吹き飛び、砂塵に包まれる。



「今のを受け止めるのか……」


「……ッ!」



 巨大な『C-X』は態勢を立て直すように、手近な岩を引き寄せ自身の腕に装着する。



「器用だな」



 敵の腕から岩石が放たれ、強慈郎は不敵に笑う。正面から向き合い、拳を放つと同時に発射した衝撃波によって相殺させる。


 一拍おいて、イリシウムの頭にげ替わった『C-X』から不満げな声が聞こえてきた。



「…………少し冷静さを欠いていました、強慈郎」


「おん?イリーか?」



 殴りかかろうとして、その声を聞き動きを止める。その様子を見て、落ち着いた様子で状況説明を始めた。



「そうです。この機体の制御を奪うことに成功しました。若干のアクシデントがありましたが、乗っていた『鬼』は既に戦線離脱。もう戦う必要はありません」


「何でだよ!折角の組手だ、最後までやり合おうぜ!」


「嫌です!」



 イリシウムは両腕を上げ味方相手に降伏する、という可笑しな構図になった。



(これ以上やったら殺される……それだけは避けなくては……)


「こ、これだから戦闘狂は……。『鬼』は機体を放棄し、帰艦しているんです」


「これからが良いとこだってんのに。まぁいい、あそこだな」



 それを聞いたイリシウムが止める間も無く、強慈郎は飛び上がると敵の戦艦に蹴りをお見舞いし、内部に侵入した。



「もう無茶苦茶です……。分体を再出力しますから、一人で行かないでください」


「よっ、と」



 船内には様々な機器があり、まるで宇宙船の様だったが戦闘の衝撃によってあちこちから火花が散っている。


 少し進むと操舵室と思われる部屋にたどり着く。中にはひときわ大きな椅子があり、そこの足元には赤服を着た人間が一人気絶していた。



「……たく、逃げた上に気絶してんのかよ」



 強慈郎は椅子にどかりと腰を下ろす。気が付くのを悠々と待っているのか、特に何をするわけではなかった。



「なにしてるんですか。……ん?」


(随分と小柄な……)


 後から追いついてきたイリシウムはその背後からそっと覗き込む。どうやら先ほどとは性格が違うようだと思い至るが、今更どうしようもないので考え込んだ末に諦めた。



「う、うわぁぁぁッッッ!?」


「逃げんな」



 赤服は目を覚ますと、目の前にいた拳鬼に驚き飛び起きようとするが、強慈郎は胸倉を摑み強引に引っ張りあげる。その勢いに目を白黒させる。


 強慈郎の拳が目の前に来ると、反射的に目を閉じた。


「ひッ……」


 が、いつまで待っても衝撃は来ず、恐る恐る目を開けると、赤服は困惑した。


 拳は顔の前で止まり、ただじっとこちらを睨んでいたからだ。



「ひぇッ……」


「名前は」


「え、あ、……え、っと」


「名前を言え」


「……ミ、ミザリィ。機士名『O-VIIオーセブン』のパイロットだ」



 気圧された様に答えたミザリィは強慈郎の体を凝視する。



「あ、あんたら一体何者なんだ……まさか既に『鬼』が派遣されてたのか?」


「……強いて言うなら地球人だ」



 ミザリィはそのぶっきらぼうな返答に口を開けて呆然とするが、すぐに我に返ったのか目を吊り上げて胸倉を掴まれながらも怒鳴りだした。



「馬鹿を言うな!俺の何倍もでかくて、『鬼』そのものじゃないか!」



 思いもよらず一瞬場が凍り付く。



「……ハッハッハ!物怖じしねぇで活きがいいじゃねぇか!お前がそう思うんならそういうことにしとけ」



 強慈郎は快活に笑うと、ミザリィの体を担ぎ上げた。



「な、なにをする!」


「大人しくしろッ」


「ひゃッ!?」



 豪快に尻を平手打ちをして黙らせたのち、イリシウムに向き直る。



「こいつの話は帰ってから聞く。連れて帰るぞ」


「ちょっと待ってください!あ、強慈郎!」


「お、お尻触られた……」


 ミザリィは赤面し、イリシウムは止めようとするが、有無を言わさぬ強慈郎に従うしかなかった。



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