月光放ちし

 グンク・アレクサン・ダイヘンキョーは血走った眼で、王都中央のモニュメント〝グレイプニルの祠〟へやってきていた。


「レッドウルフのパイロットに馬鹿にされ、観客たちにも馬鹿にされ……なぜだ!? 余は偉いんだぞ!!」


 横にいた巨人は何も答えない。

 それでもグンクは呪詛のように言葉を吐き続ける。


「強さだ! 力が余に足りないからだ!! そうだ、アクアも言っていたじゃないか!! もっと力を持って、早く王になれと!!」


 こんなときでも思い浮かぶのがアクアの顔だ。

 もはやグンクの生きる目的は、アクアへの愛になっていた。

 もっとも、そのアクア本人はグンクのことを愛していないのだが。


「余はアクアのために、早く王にならなければならない……。だけど、父が――ボジソン王が遠征から帰ってきたら、今回の失態を知られてしまう……。その前にやるしかない……」


 目の前のグレイプニルの祠に眼を向けた。


「我がアレクサン家の名を冠した、守護獣アレクサン……! 本来ならもっと調査して封印を破りたかったが……。行け、YXよ! そのモニュメントを壊せ!! そして、再び世界を救うのだ、守護獣アレクサンよ!!」


 巨人は言われたとおりにモニュメントを殴り、破壊し始めた。

 それはただの白い石かと思われたが、ヒビが入ると黒い瘴気のようなものが噴き出してきた。


「これは……? 何か……が……? ちゅ、中止だ!! もう殴るな――」


 遅かった。

 モニュメントのヒビは中から押し広げられるようにされ、ビキビキと音を立てながら崩れた。

 その瞬間、地震が起こり、地下から巨大な何かが出てきた。

 YXすら小さいと思える、蠢く複数の脚を持つ巨大な黒い存在。


「ひぃ!? 守護獣アレクサン……様ですか!?」

『ギィィィィィィィィ……』


 目も耳も無く、人の姿でもないし、動物の姿でもない。

 惑星上の生物で近いものをあげるのなら――蟲だろうか。

 粘液に包まれた複数の口のようなモノが振動して、ギチギチ、チチチチチ、カカカカカカカとそれぞれ複数の音を鳴らして、耳ざわりな声のように聞こえる。

 それが急に光り出し、黒い粒子の線を放った。

 巨人に向けて一薙ぎ。

 ズルリと下半身から上半身が滑り落ち、巨人だった肉塊は臓物を撒き散らしながら倒れた。


「ち、違う……こんなの……守護獣じゃない……。何なんだ、これは!? 死にたくないぃぃぃ!?」


 グンクは守護獣アレクサンの触手に掴まれ、涙目で怯えていた。




 ***




 ――一方、空を飛んでそろそろ帰還しようとしていたレッドウルフのコックピット内。

 一人乗りのシートに、二人乗っているのだから無理が出る。

 仕方なくイクサの膝の上に、エリが乗る形となっている。

 イクサとしては恥ずかしすぎて死にそうなシチュだが、エリはそんなことお構いなしに大興奮だ。


「イクサが生きてた!!」

「あ、ああ……」

「イクサが私を助けてくれた!!」

「ま、まぁ……そうだな……」

「ん? イクサ? どうして顔を逸らすの? エリのこと嫌い……?」

「そ、そうじゃない!」

「本当……? だって、エリはこんなだから……」


 エリは自分の身体のことを言っているのだろう。

 それは過去にグンクからされたであろうことが原因で、エリは悪くない。


「寿命ももう少ないし、生きるためには自分が自分でなくならないといけないらしいし……そんな私が……イクサみたいな未来ある人の横に、一秒でもいちゃいけないよ……」

「そんなことは――」


 全力で否定しようとした瞬間――レッドウルフの斜め下方向に何かを感じ取った。

 音や光といった定義できるモノではない、ただの直感だ。

 瞬時にレッドウルフに回避行動を取らせた直後、攻撃アラートが鳴り響いた。

 先ほどまでいた空域を黒いビームのようなモノが通過していた。


「なんだ!?」

【地上に適性反応。カメラに映します】


 モニターの一部分でアップに映し出された黒く、巨大な蟲のようなバケモノ。

 その触手に掴まれているグンクも見えた。


「グンクか……何をやっているんだ」


 大方、グンクがしでかしたことだろうと察してしまった。

 心情的にはこのまま帰還してもいいかと思ってしまうほどだ。

 グンクに人生を壊されたエリが横にいるのだから尚更だ。


「エリ、どうする?」

「え?」

「お前の決着は、お前が決めろ」


 グンクを見殺しにするか、それとも助けるか。

 エリにはそれを決める権利がある――いや、エリにしかないと思ってしまったのだ。


「私は――」


 エリはこれまでの辛い記憶が蘇ってきた。




 ***




 これは私――エリ・ヴァレンの古い記憶。

 この地方では何の面白みも無い奴隷の子供として産まれた。

 周囲には奴隷の子供なんて溢れていたし、その他大勢の一人だった。


 ただ、あるときからわかったのだが、私は物覚えがよく、喧嘩もすぐに強くなった。

 周囲からは『天才』だとか言われたけど、その言葉を嬉しく思えず、陳腐だと考えるくらいには頭がよかったのかもしれない。

 だって、そうでしょ?

 こんな奴隷のたまり場のようなところで中途半端に頭がよくても、結局は奴隷だ。

 貴族がいるこの世界では生まれた頃から付きまとう『血』というのは払拭できない。

 私が〝正しい答え〟を導き出したとしても、大人や、立場の偉い人間が素直に言うことを聞くか? 聞かないに決まってる。

 私は子供で、奴隷なのだから。

 バカでいたかった。

 他者と違って無駄に回る思考なんていらなかった。

 皮肉だ。

 普通なら天才として生まれたら大喜びだったはずなのにな。

 私は空を見上げた。

 この仄暗い奴隷のたまり場の世界と違って、鳥達が自由に飛び回れる、青雲のたなびく美しい世界。

 旅人たちが語るおとぎ話――この空の向こうには、様々な世界があるという。

 エリはおとぎ話ではないと思っている。

 小さな虫や、人間だっていくつも『世界』というコロニーや、環境を持っている。

 たぶん、私たちが認識しているヘンキョー星というものも、その一つでしかない可能性が高い。

 自由な世界、未知の世界、広い世界――何もかもが羨ましかった。


 だが、私は奴隷の未来を知っている。

 男の奴隷は主に労働力だ。

 死ぬまで酷使され、何の楽しみもなく人生という一生を終える。

 まだ地面を這う働き蟻の方がマシかもしれない。


 女の奴隷は少し複雑らしい。

 そういうのに詳しい人間に聞いたのだが、女を嬲るのが趣味の貴族が多いらしい。

 まだ労働力というのなら理解できるが、なぜ人に対してそんな酷いことをして楽しいのか? 理解ができない。非効率だ。

 もう一つの使い道が、子供を産ませることだ。

 こちらに関しては多少は理解できるが、それでもいちいち奴隷に産ませる意味などあるのだろうか?

 立場がある者同士で子供を作れば、その子供も立場がある人間となって幸せだろうに。

 無駄で非効率、上の人間というものは理解できない。

 奴隷なんて、ただその日生きるのすら大変なのに。

 安全な寝床があって、健康で、その日の食事がある。

 この基本的な幸せを忘れているのではないだろうか。

 だから、私が売られたときにそのことを伝えれば、きっと貴族もわかってくれるに違いない。

 奴隷と違って、強要がある頭の良い存在らしいから。

 きっと、こんなところで『天才』とおだてられている私よりも、理性的で頭が良い人間に違いないのだ。

 安全な寝床があって、健康で、その日の食事もあって、そんな状態で教育を受けられている。

 そのような考えが、ずっと頭の中にあった――実際にグンク・アレクサン・ダイヘンキョーに出会うまでは。




 私を買いに来た男――グンクはヘンキョー王国の第一王子だ。

 まだ子供だが、成長すればこの国で一番の権力を持つ存在になるだろう。

 そんな存在が奴隷を買いに来たのだ。

 我先にと、自分を買ってくれとアピールをする他の奴隷達。

 だが、グンクは私を指名してきた。

 不思議だったので、不敬だとは思いつつも、なぜかというのを聞いてしまった。


「グンク殿下、なぜ私なのですか? 殿下も他の貴族様と同じように私を嬲ったり、子を産ませる目的なのでしょうか?」

「はぁ? 汚らわしい奴隷の子供に触れるのも嫌だっつーの! ……いや、風呂に入らせれば意外と見た目は悪くないか? って、違う! 余は奴隷勇者を求めに来たのだ!」

「奴隷勇者……?」


 それは奴隷達にとって聞き覚えがない単語だった。


「この奴隷の子供と、まぁ数合わせで威勢の良さそうな奴隷の子供を何人か見繕っておけ」

「はっ!」


 グンクの護衛が奴隷の子供を次々と選んでいき、奴隷の子供たちは第一王子に選ばれたと大喜びしていた。

 私は何か嫌な予感がしていた。




 地獄という概念は知っていた。

 でも、それは実際に体験するのとは別だ。

 ここには本当の地獄がある。


 エーテル鉱脈は毒として知られている。

 長い時間近づくと様々な悪影響を人体に及ぼす。

 有効な加工方法は見つからず、坑夫達の間では邪魔者扱いだ。

 今、それに――子供達が――強引に縛り付けられている。


「ぎゃあああああああああああ痛い痛い痛い痛い!!」

「気持ち悪い寒い寒い寒い」

「あ……ああ……」


 人体への悪影響は様々だ。

 痛みを訴える者、悪寒を訴える者、白目を剥くもの。

 私も同じように縛り付けられているが、度し難い影響を受けているというのはわかる。

 筆舌に尽くしがたいが、敢えて言うのなら『魂が腐っていく感覚』だろうか。

 激痛、悪寒、意識の混濁。

 すべてが絶え間なく襲ってくる。

 だけど、私は他の子供達のように表に出さない。

 無駄に体力を消耗して死が近付くからだ。

 泣いても、叫んでも誰も助けてくれないのだから無意味だ。

 どんなことをしても、見張りの男が近くでニヤニヤと見ているだけだ。

 今までは知らなかったが、こういうのを見て楽しいと感じる人間もいるのだろう。

 衣食住が満ち足りた人間というのは意味がわからない。


 食事と睡眠を取るときだけ、エーテル鉱脈から離される。

 糞尿は垂れ流しなので、強烈な臭いだ。

 それでも唯一休める時間だ。

 食べ物は奴隷の時より良い物が与えられている。

 なんと肉だ。

 栄養だけは与えて、長くこれをやれということなのだろう。

 ただ、野菜などでバランスを取ることもなく肉だけだ。

 このときから肉以外の食べ物を胃が受け付けなくなった。

 肉以外は吐き気を催しながら詰め込むことになる。

 いわゆる偏食だ。


 寝て起きる。

 このタイミングで死んでいる子供が多い。

 エーテル鉱脈で苦しんでいるときより、この気を抜いた瞬間に生命力が切れたかのように穏やかに死ねるのは幸せかもしれない。

 もっと早くに死にたいので自殺も試したのだが、魔術による『奴隷契約』というもので、主人の命令には絶対となっている。

 自殺もできないし、見張りの男の目を盗んで脱走も出来ない。

 それでも懇願する。


「もう殺してください」


 見張りの男はニヤニヤしているだけだ。

 もしかしたら災害獣というものより、人間の方がよっぽど恐ろしいのだと気がつき始めた。

 苦しみ、食べて、寝て、苦しみ、必死に食べて、浅く寝て、苦しみ、食べて吐いて、寝れなくて、苦しみ――無限とも思える繰り返し。

 いつの間にか、周囲には腐敗した死体が並び、生き残っているのは私だけになっていた。

 皮膚は醜く腐り落ち、エーテル鉱脈から離れても全身が痛み、痒み、爪は水飴のようになり、舌は苦み以外感じなくなっていて、魂を犯されているような不快感がずっと続く。

 気が狂いそうというのは通り越し、喜怒哀楽という人間の感情が剥離したような存在になってしまっていた。


 グンクがやってきた。

 腐肉にたかるハエを手で払い、異臭に鼻を摘まみながらも、私を見て満足そうだ。


「お、生き残ってるじゃないか。全部くたばっていたらまた素材を探しに行かなきゃだったからなぁ~。ほら、そこの奴隷勇者。名前は?」

「な……まえ……??」


 思考にモヤがかかっていた。

 親から付けられた名前があったはずだが、思い出せない。

 それどころか親の顔も、生まれ育った場所も、今横に転がっている仲間の生前の姿さえ思い出せない。


「わから……ない……」

「まぁ、名前なんていらないよなぁ。奴隷勇者に。……ほれ、ワンと鳴いてみろ。余がご主人様だぞ」

「……ワン」


 犬の鳴き真似をさせられても、何も思わなかった。

 エーテル鉱脈による拷問よりマシ……というわけではなく、もう感情が動かないのだ。

 それはまるでピースが足りないパズルのように、割れた水瓶のように。

 心という大切らしいモノは、形も、役割も成していなかった。


「ギャハハハハ! 醜くて従順、このような下品な生物はペットですらないなぁ! 人間以下の使い捨て兵器、それが奴隷勇者!!」


 ……私も人間になりたかったな。




 ***




「私はグンクを殺したい」


 エリの目には殺意が籠もっていた。

 部外者であるイクサからしたらわからないが、きっとそれに値する行いをされたのだろう。


「でも……でもさ……イクサ……」


 グンクを睨み付けるエリ。

 ふと表情が緩み、無理やりに笑い、彼女の目には涙が浮かんでいた。


「ここで見殺しにしたら、私……グンクと一緒になっちゃうよ……。せっかく助けてくれたイクサに顔向けできない人間になっちゃうよ……」

「エリ……」


 たぶん、人間で一番強い〝殺意〟という感情を理性で必死に抑えているのだろう。

 まだ幼い少女が、そのように壮絶な何かを経験し、決断しているのだ。

 イクサは、彼女のことを素直に尊敬した。

 敬意を払うに値する存在だと。


「大人だな、たぶん俺よりもずっと」

【それだけは保証します】

(……シリアスシーンで出てくるなよ)


 イクサの膝の上で、エリが震えている。

 それを抱き締めて落ち着けてやることにした。


「大丈夫だ」

「イクサ……」

「別にグンクは死ななくても、もうこんな状況じゃ死ぬより辛い責任追及とかが待ってるだろうしな。今は助けてやって、そういうのを見て笑い飛ばせばいいさ」

「うーん……? 陰険?」

「陰キャだからな!」

「でも、また何か悪いことをしたら――」

「そのときは俺がどうにかしてやるさ。エリは何一つ気にしなくて良い」

「……私のことを気遣って……優しい」


 エリが何かをボソッと呟いたが、小さすぎてイクサには聞こえなかった。


「ん?」

「何でもない! イクサに――任せる!」

「任されたさ」


 エリに人殺しをさせなくて済んだ。

 殺意を持たせなくて済んだ。

 今はそれで良しとしよう、大人なんだから。


「オペ猫、気分が上がるロボット物の主題歌でもかけてくれ」

【突然、何を言ってるんですか】

「ジョークだ」


 エリは『???』と頭に浮かべているが気にしない。


「それじゃあ、主役として活躍するか!」


 小型ライフルの八尺瓊勾玉の照準を合わせる。

 狙いはグンクを掴んでいる触手だ。


「着地くらいは自分でやってくれよ、王子様」


 発射される赤く細い線。

 触手に命中して切断することに成功したが、明らかにYXの装甲に対してよりも時間がかかった。


「手応え的にYXより強いぞ……アレは……。いったい何なんだ?」

【魔力などではなく、エーテル反応が検出されています】

「エーテルということは、エーテル・コア搭載のYXなのか?」

【いえ、この黒い波形は災害獣――それも真の意味での】

「どういうことだ……?」

【惑星上のモンスターなどに災害獣と名付けられているのは、過去に出現した人類の天敵を基準にしたものです。本来は宇宙の彼方から飛来してきたと言われる存在――それが災害獣】


 イクサはそれに覚えがあった。

 隠しENDで最後に理不尽に現れ、星を食った存在。

 アレに比べればかなり小さいが、同じ雰囲気を感じ取れる。


【推定、国級災害獣】

「たしか、あそこは守護獣アレクサンのモニュメントがあったところだよな? なんであそこから国級災害獣が……」

【先ほど、随分と古い形式でのデータがあそこから自動発信されました】

「なに? 誰からだ?」

【第710地球移民船団、ヘンキョー艦長】

「ヘンキョー……」

【内容からすると、どうやら初代ヘンキョーと呼ばれるイクサの祖先ですね】


 いきなりご先祖様の名前が出てきて混乱してしまうイクサだったが、下方から敵の黒いビームが飛んできたりしているのでそれどころではない。


「手短に頼む!」

【了解。大昔に初代ヘンキョーが惑星を開拓し、副長の初代アレクサンがヘマをして国級災害獣を呼び寄せてしまい、それを何とかして封印したというところですね。そこから時代が進みアレクサン家が反旗をひるがえして、歴史捏造でヘンキョー王家から簒奪した――というところでしょうか】

「ろくでもねぇな!」

【これより敵を国級災害獣アレクサンと呼称。殲滅を推奨】

「ちなみに放置したらどうなる?」

【この規模の災害獣だと、その名の通り国が滅びます】

「ヘンキョー領も含まれているよなぁ……。エリの依頼をこなす前に、ちょっとだけ時間をもらうぞ」


 エリはキョトンとした表情で、わけもわからずコクコクと頷いていた。


「行くぞ、レッドウルフ!」


 照準を優先するために、最小の動きで回避できるものは回避、それ以外は盾である八咫鏡で防ぐ。

 黒い粒子が青空に四散していく。


「周囲に住人はいないな?」

【生体レーダーで確認できません。どうやらグンクが事前に大きな音でも出していたのではないでしょうか】

「不幸中の幸いというやつだな。だが、なるべく建物は破壊したくはないな。あそこは――エリとの思い出もあるしな」

「イクサ……」


 エリが嬉しそうな声を出しているが、今は戦いに集中しなければならない。

 エーテル・コアがあるであろう、国級災害獣アレクサンの中心を狙い撃つ。

 赤い光は一直線に照準通りに向かっていくが、何本かの触手を犠牲にしてガードされてしまう。

 その触手もジワジワと再生をしていく。

 現代で言うと、敢えて装甲を犠牲にする爆発反応装甲リアクティブアーマーの再生バージョンといったところだろうか。


「一発ですべて吹き飛ばさないと被害が広がりそうだな……」

【こんなこともあろうかと用意しておきました。お待ちかねの武装の強化形態です】

「……試し打ちしたいとか言ってたような」

【強化モードの解除キーは――】

「また音声認識かよ!」


 だが、使わないと時間がかかりそうだ。

 仕方なくオペ猫の思惑に乗ってやることにした。


「龍すら滅す星の輝き、今ここに王威を示せ――」


 その言葉を発すると、レッドウルフの腕部と脚部に付いていたパーツが、小型ライフルの姿をしていた〝八尺瓊勾玉〟に装着されていく。

 ライフルとは呼びがたい、奇妙な形をしている。

 敢えて形容するのなら、それは巨大な聖剣だろう。


「――〝月光放ちし八尺瓊勾玉ムーンバスター・エーテルランチャー〟!!」


 放たれたのは斬撃のような青いエネルギーだった。

 おとぎ話に出てくる騎士が、聖剣の輝きで邪悪な魔物を倒す。

 そんなファンタジーな光景だ。

 ただ――それが巨大なだけだった。


 エーテルの飛翔刃は国級災害獣アレクサンの触手を呆気なく斬り落としながら進み、本体であるエーテル・コアをも真っ二つにしていた。

 直後、悪あがきで周囲を巻き込む自爆をするも――


「〝八咫鏡〟」


 力場の膜によって、黒い爆発は縦方向へと広がるだけだった。

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