大商人とのツテ

「助けて頂き、ありがとうございます……」


 貴族服に戻したイクサは合流して、助けた商人と共に王都へ到着していた。

 改めて商人からのお礼の言葉があったのだが、どことなく引きつった表情だ。

 STAR4は初の実戦で気分が高揚しているのか、それに気が付いていない。


「当然のことをしたまでだ。これくらいの正義ができなければ会社の跡は継げないだろうしな」

「撃ちまくれてスカッとしたぜ!」

「ふっ、魔術がある世界のモンスターというのも他愛がないものでした」

「つまんないな~。もっと新兵器を使いたいよ~」


 商人としては助けられた形になるが、STAR4が暴れなければ被害は広がらなかったのだ。

 流れ弾で死にそうになるし、積み荷も燃えてしまった。

 それでも謝礼として金貨を約束してくれたし、王都へ入る際も簡単な手続きで済んだ。

 どうやら、かなり顔の利く商人らしい。

 先に進んでしまう暢気なSTAR4を放っておいて、イクサは商人へのフォローをしようと思った。


(こっちの印象まで悪くなってしまうしな……。ヘンキョー領なんて小さなところ、商人のネットワークで評判が悪くなったら終わりだし……)


「あの、彼らに巻き込まれて大変でしたね……」

「え? 先ほどの四人のお仲間ではないのですか?」

「俺は従者二人と、彼らを王都まで案内していただけです」

「従者二人……ああ! 私を助けてくれて、戦闘でもフォローしていたお二人ですね!」


 どうやら商人の方は場数を踏んでいるらしく、戦局を正しく見ていたようだ。


「それに比べてあの四人は……場を引っかき回すだけ引っかき回して、自分たちは正義だの何だの青臭いことを言って……。おっと、失敬。助けて頂いたのに」

「巻き込まれて殺されそうだったとも聞いています。冷静さを失っても仕方がないですよ」

「その年でとても人間ができている……。そういえば紹介がまだでしたね。私は王都で商いを営んでおりますリッケ・ファルツァと申します。以後、お見知りおきを」


 ファルツァ商会というのは聞いたことがある。

 王都の大商人がやっている、老舗の大手だ。

 たしか、ゴブリンのお宝にも書類などが紛れ込んでいた。


「失礼ですが以前にも、ゴブリンに積み荷を奪われたことはありませんか?」

「ええ、はい。山の近道のルートでゴブリンに積み荷を奪われてしまったことがあります。それで今回、安全で遠い街道のルートで運んでいたのですが……まさかこんなことになるとは」

「ゴブリンの巣に以前の荷物らしきものがあったので、あとでうちの傭兵団に運ばせます」

「えっ!? いつの間に……。よろしいのですか? そんなものは正直に言わないで、自分の物にしてしまえるのに……」

「このイクサ・ヘンキョー。貧しいヘンキョー領の嫡男ですが、そこまでは腐っていませんよ」


 そこでオペ猫からツッコミが入った。


【最初、普通に頂こうとしてましたよね?】

(……いや、アレは……その……)

【商人に媚びを売っておいた方が良いという打算、とても人間的でステキですね】

(か、過程はどうあれ、元の人のところに戻るなら良いことだろう!)


 そんなことを知ってか知らずか、リッケは感銘を受けたような表情をしていた。


「戦闘での手腕、そして領地の酷い環境でも腐らずにいる人格……。我々の間ではヘンキョー領は評価が低かったのですが、それは改めなければならないようですな。何かあればいつでも仰ってください。力になりますよ」

「あ、それなら今度ヘンキョー領で新たに作物を増産する計画があるのですが――」


 何だかんだで大商人とのパイプができてしまった。

 どうやら王都はグンクが無茶をやっているらしく、食糧が高騰してきているらしい。

 そのためにリッケは喜んで協力してくれるそうだ。

 収穫の時期が楽しみだ。


(それにしても、食糧が高騰ってどういうことだ? 周辺諸国や天候の影響というより、グンク一人が何かをやらかしたニュアンスだったぞ……)

【大飯食らいの傭兵でも雇ったのでは?】

(そんなに食う奴がいるかよ……)


 そのときはイクサも冗談交じりで言っていたのだった。




 ***




(いたかもしれない……)


 王都の内部は、前世で見慣れたファンタジー世界の街と言った感じだった。

 城門に〝巨人〟がいる以外は。

 それを見たパーヴェルスが驚きの声をあげていた。


「あ、アレは……ザクセンの巨人……!?」

「いや、YXじゃないな……正真正銘のモンスターだ」


 遠目から見ればYXに見えなくもないが、近付いてみれば継ぎ接ぎの鉄板を鎧にしている生身の存在だとわかる。

 巨人系のモンスターだと思うが、鎧で中身の判断が付きにくい。

 表皮に穴を開けて鎧を留めているので、なかなかに痛々しくも見える。


「へぇ、ティタインが門番をやっているのか?」


 ヒッツェが言うティタインとは、宇宙でも珍しい巨大な身体を持つ種族だ。

 ただしモンスターとは違い、頭が良いので研究者などが多い。

 もちろん、この巨人は見た目が似ているだけでティタインではない。


「冗談でもティタイン族をモンスター扱いすると彼らから抗議が来ます。止めた方がいいよ」

「へいへい。まっ、うちのオヤジはヒューミンなのに、モンスターのオーガみたいな奴だけどな」

「まったく、この時代のコンプラというのも大変だな」

「大昔の地球時代はもっと楽だったらしいね~」


 どうやらSTAR4にも、立場的なものというのがあるらしい。

 イクサには理解できないが、政治、宗教、野球の話はネットでしない方がいいというようなものだろう。


(俺はコンプラに厳しいからな。長期ロボットアニメはどのシリーズまで許せるとか、ゲームハードはどちら派とか、嫁選びは金髪幼なじみと青髪金持ち娘とか、キノコとタケノコとか、VTuberはどの事務所が最高だとかしか話していなかった)

【コンプラではない方向で大荒れなのでは?】


 大炎上したトラウマを呼び起こされそうなので、意識を目の前のことに集中する。

 どうして、こんな巨人が門番をやっているかということが不思議だ。

 いくらファンタジーな世界でも、この王都でこんなことをやっているとは聞いたことがない。


「ようこそ、外の世界からやってきたSTAR4の諸君! どうだ、余のYXは?」


 タイミング良く現れたグンク――たぶん王都の入り口でパイロットスーツの異様な風体をしたSTAR4がやってきた連絡が入って、今か今かと待っていたのだろう。

 自慢げな表情がそれを物語っている。


(小学校の頃、金持ちの子供が新作のオモチャを自慢するときこんな感じだったな……)

【YXではなく、ただの鎧を着けたモンスターだと伝えてあげないのですか?】


 イクサとしては言いにくい。

 文明的な違いはあれど、ペットの犬にダンボールを装着してロボット犬だと言い張るようなものだ。

 STAR4も同じようにいたたまれない気持ちらしく、それぞれが目を逸らしている。


(こ、ここは現地人として馬鹿を演じるしかないか……?)


 ご機嫌を損ねては面倒だ。

 時には道化を演じるのも必要。


「これがYX!! さすがですね、グンク殿下!!」

「そうだろう! そうだろう! ……ん? お前はたしか……イクサ・ヘンキョーか。なぜここに? それにザクセンはどうした? YX談義ができるかと思ったのに」

「話せば長くなりますが、ザクセンの代理としてSTAR4をご案内いたしました。こんなに格好良いYXを直に見られるだなんて光栄です!!」

「なるほど。意外と話がわかる奴だなぁ!」


(どうやら俺の名演技が輝いたようだな……。この世界ならアカデミー賞を取れるぜ……)

【ザコキャラが板に付いただけでは?】

(うるさい)


 グンクは普段見せないようなニコニコした表情だ。

 野郎というのは自分の趣味を褒められると弱いものだ。


「だが、ザクセンからはYXを見せてもらう予定だったのだがなぁ……」


 グンクは急にそんなことを言い出した。

 イクサとしては、実際にYXを見せるわけにはいかない。

 モンスターをデコレーションしたYXモドキと比較されてしまうからだ。

 そんなことになったら、先ほど褒めちぎったイクサの言葉の意味が、京都人もビックリの煽りになってしまう。


「いや~……ザクセンがいなくて残念ですねぇ……! ザクセンがいないとYXは動かせな――」

「ん? イクサ? たしか、S-35を持ち出してSTAR4に見せてたよな?」


 無駄に記憶力が良いイナリが指摘してきた。

 マズい、嫌な予感がする。


「YXを見たいというのなら、俺様たちも四機持ち込んでいるぜ」

「グンク王子の許可があれば、戦艦ヴィーゼで王都まで運んでも騒がれないかもしれませんね」

「ついでにイクサのS-35も積み込んで運んであげるね~!」


 STAR4が勝手に会話を進めていく。

 イクサの冷や汗が止まらない。


【名演技が輝きすぎたようですね。アカデミー賞が取れるどころか、首を取られる可能性もありますよ】

(生ぎだいっ!!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る