ゴブリンか!?
馬車に揺られていると、御者をしていたパーヴェルスが呼びかけてきた。
「イクサ……。前方に馬車が止まっているのが見える」
「馬車が……?」
「ああ、妙だ。ここは街道……まだ日も高い」
イクサが身を乗り出して前方を確認したのだが、距離が離れすぎてよく見えない。
目を細めてみても、指で輪っかを作って覗いてみても無理だ。
イクサの視力が悪いということでもないのだが。
(この世界の前衛って、身体能力が高いとは思ってたけど目までいいのか……。オペ猫は確認できるか?)
【はい、ズームして確認しました。服装、積み荷からどうやら商人の馬車のようです。ゴブリンに襲われていますね】
それを聞いたイクサは思わず肉声を発してしまった。
「ゴブリンか!?」
「えっ?」
パーヴェルスが疑問の声をあげた。
自慢の視力でも見えなかったものを、イクサがゴブリンと判断したからだ。
【なんで叫んだんですか。不審がられていますよ?】
(いや……何か人生で一度は言いたくなってしまうセリフというか、なんというか……)
そんなことより、事態は急を要するだろう。
パーヴェルスもそれをわかっているようだ。
「止まった馬車だけだったのなら、盗賊の罠で待ち伏せの可能性もある。しかし、ゴブリンがいるのなら話は別だ。どうする? 助けるか?」
「助けたいのは山々だが……」
イクサはチラリとSTAR4を見た。
もし、ゴブリンの数が多くて、助けに行っている間にSTAR4が襲われでもしたら大変だろう。
(それに下手に戦ってゴブリンを逃がすと、巣から援軍を呼ばれる可能性も高いな……)
冷たいようだが、見ず知らずの商人――しかも生きてるかどうかわからない相手だ。
イクサが一人で行動しているときならともかく、STAR4を送り届けなければいけない依頼の最中での判断は難しい。
「んー、ある程度近付いたら、わたしの魔術で援護する?」
「いや、ヴィルヘミーネくん。その必要はない! ノブレスオブリージュ、我らSTAR4に任せたまえ!」
「え、ちょっ!?」
イクサが止める間もなく、STAR4の面々は馬車から降りてしまった。
そしてパイロットスーツを戦闘モードにして、全力疾走で襲われている馬車まで走っていく。
「おいおいおい、マジかよ。ケガでもされたら面倒なことになるぞ……」
イクサは頭を抱えてしまうが、善意から来る行動に見えるので咎めることもしにくい。
時として正義というのは厄介だ。
「仕方がない。俺たちでフォローをするぞ。パーヴェルスはSTAR4の死角に注意して、ゴブリンから守ってやってくれ。ヴィルヘミーネは無理せずに避難誘導などの援護だ。ケガ、もしくは毒などを受けたら魔術が必要になる」
「わかった!」
「はい!」
ゲームである〝Yesed Xmachina〟シリーズにも、多くはないが複数の人間で戦うミッションがある。
こういったモンスターも相手にすることもあったので、イクサはそれなりに慣れているのだ。
(ゴブリンは単体では弱いが、多少の知能があるので毒の武器や、弓矢を使ってくる場合がある。それに巣には大量のゴブリンが控えていて、仲間を呼びに行かれると厄介だ……。普段は街道などの目立つ場所には出てこないはずなのに、どうして……)
いないはずの場所にいるモンスター。
この前のヘルファイアハウンドといい、何か異変が起きている気がする。
「ひぃぃ……」
すでに商人の馬車は荒らされていた。
積み荷は食糧もあって、ゴブリン十数匹がそれらを物色しているようだ。
商人は頭を抱えて縮こまっているが、抵抗をしていないので無傷のまま放置されている。
安全な街道だと思っていたので護衛は二人ほど雇っていたのだが、そちらは役割を全うして見るも無惨な姿で転がっている。
「待て待て待てぇーい!」
そこへ先陣を切ったのはイナリだ。
日本刀のようなものを持っていて、それを近接用パイロットスーツで強化された腕力によって振り回す。
武術を習っているのか太刀筋は見事なのだが……ゴブリンのサイズが小さくてうまく当たらないようだ。
「くっ!? 人間相手の練習では平気だったのに……!?」
「大神倉稲魂社さんはその程度かよ? 指を咥えて見てるといいぜぇ!!」
次にヒッツェがハンドガンを構えた。
鉄板を抜けるような大口径、貫通力が高い仕様になっていて、それをゴブリンに向けて連射する。
一発で胴体に大穴を開けたが、モンスター相手だと殺したかどうか判断がつかない。
何発も撃ち込んでいく。
「ひぃぃぃぃ!!」
脆弱なゴブリン相手には過剰な火力で、弾丸が貫通して、それが商人の真横に着弾していた。
商人は抵抗さえしなければ無事でいられたのだが、STAR4に引っかき回されて大変な目に遭っていた。
「……こちらへ避難を」
ようやく追いついたヴィルヘミーネが、商人を庇いつつ誘導をする。
怯えた商人が震えた声で質問をしてくる。
「い、いったい何なんだありゃあ……」
「我が主が言うには、この世界の外から来た人間……らしいです」
「こ、この世界の外……!?」
外の技術を披露するかのように、レオルがプラズマグレネードをポイポイと投げていく。
青白く爆発し、ゴブリンを蒸発させていく。
アリストも魔術とか科学を融合させた新進気鋭の技術、魔術を銃で放つ魔導銃で広範囲に炎を撒き散らし、馬車の積み荷まで燃やしていた。
「あれれ~? ゴブリンが逃げていくよ。つまらないな~。もっとデータが取りたいよ」
「少々、我々が強すぎましたかね」
レオルとアリストは残念そうにして、その場でもう終わったかのように警戒を解いてしまっていた。
ゴブリンが去り際に弓を使って、背後から狙い撃とうとしているのに気が付いていない。
彼らのパイロットスーツは特別製で防弾防刃などは完璧だが、ヘルメットを付けていない状態だと頭部が丸出しなのだ。
それにYXと違ってレーダーもなく、背後に敵がいても警告が来ない。
慣れていない対人戦の怖さは、どんなに強くても呆気なく死ぬところだろう。
「これもイクサの読み通りか……」
その狙っていたゴブリンを、パーヴェルスが一刀両断していた。
STAR4は気付いてすらいない。
「外から来た人間と言っても、用心深いザクセンとは大違いだな……」
戦闘経験豊富な生え抜きの中年と、訓練と装備だけで慢心しているお坊ちゃまとでは差がありすぎる。
そして――イクサはどちら側の存在かというと――
***
「誰もいないここなら、パイロットスーツのテストにもってこいだな」
【了解。ここで最適化をしてしまいましょう】
仲間を呼びに行ったゴブリンを待っていたのは、気付かれずにステルスで尾行していたイクサによる巣ごとの殲滅だった。
ナノマシンで作り出したハンドガンは、生物に対してどれくらいの威力が適切か。
同じくナノマシンで作り出した剣は、どれくらいの殺陣なら不自然に見えにくいか。
パイロットスーツモードのヘルメットを被った状態での視認性、レーダーによる死角からの警告、わざと攻撃させて強度確認など。
イクサもただ操作されるだけでなく、合間にどれくらい自分で介入できるかというのも試す。
「意外と自由に動きに介入できるな」
【戦闘時は集中的に身体をスキャンしているので、イクサの表面意識に出る前に感知できていますよ】
「へ~、ハイテクだなぁ」
そんな暢気な言葉を発しながら、巣に居た百匹ほどのゴブリンを斃し終えた。
長年奪ったらしきお宝を溜め込んでいたが、さすがに持ちきれない。
座標を連絡して、あとでイクサ傭兵団のビースティたちに回収してもらうことにした。
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