本編主人公の正体

 STAR4に村を見られたが散々な評価だった。

 やれ寂れてるだの、汚いだの、臭いだの、魅力がないだの、活気がないだの……。

 バルバロアや、過去イクサのせいなのだから反論はできなかったが、いつか見返してやろうとは思えた。

 そこからパーヴェルスとヴィルヘミーネを伴って、王都へと馬車を出した。


 本当ならSTAR4の戦艦ヴィーゼで向かえばすぐなのだが、さすがにこの世界では目立ちすぎる。

 どうやら彼らの行動は表だった企業としてではなく、何か水面下で行われているものらしい。

 そもそも胡散臭いザクセンに橋渡しをしてもらうくらいなのだ。


 それに大企業が、ほぼ未開の辺境惑星に干渉したとなっては評判も悪いだろう。

 今回はあくまで穏便に、目的のモノを手に入れて終わらせたいという方向だ。


「えーっと、質問していい?」

「うぷ……。気が紛れそうだから、何でも聞いてくれ……」


 今、STAR4と馬車の中にいるのだが空気は最悪だ。

 彼らはこういう乗り物に乗ったことがないので、馬車酔いをしてしまっているのだ。

 科学が発達した星外だと、車はサスペンションやAI制御で揺れないようになっているのだろう。


(ククク……お上品なお坊ちゃんたちにはきついか!)

【この星の現地人の身体が頑丈すぎるというのもありますね】


 弱っている今なら、色々なことを聞き出せるかもしれない。

 そう思って話しかけているのだ。


「今回の目的は何なんだ?」

「それは……テメェ程度に話す筋合いは……」


 ガタイが良いのに酔ってフラフラなヒッツェは、イケメンが台無しになっていて見ていて楽しい。

 前世共にモテなかったイクサ的にはイケメン死すべしだ。


「例の少女――と聞いてしまったので」

「チッ、耳ざとい奴め……」


 人間、いつの時代も変わらないものがあるのだろう。

 こんなイケメンでも、可愛い女の子を求めて宇宙の果てからやってくるのだ。

 というか、本当に距離的にはワープゲートを使って別の星系からやってきてるだろう。

 女への執念が物凄い可能性がある。

 しかも、四人で一人を取り合うのだろうか。


(昼ドラかよ)

【昼ドラ……関連用語はドロドロ、ビンタ、浮気、包丁。あ、御曹司というものもありますね。古の映像コンテンツというのは興味深い】

(見るのは止めておけ……胸糞悪いぞ……)

【人間の醜い部分は愛すべきものですよ】


 オペ猫の趣味はわからないと思いつつ、今はSTAR4の方へ集中することにした。


「イクサは協力者です。ザクセンと同程度には情報共有しておいた方が動きやすいでしょう」


 アリストがそう言ってきた。

 彼らはイケメンでイラッとするが、頭が悪いわけではない。

 文明が低すぎる相手に対して普通の行動を取っているに過ぎないのだろう。

 だが、イケメンなのはどうしてもイラッとする。

 今も酔って弱っている姿を女性ファンたちが見たら、弱っていて可愛い! 素敵! とか言い出しかねないオーラがある。

 イケメン死すべし……!


「おや、イクサくん。険しい顔をしてるね」

「あ、いや。STAR4がどれほどにすごいかザクセンから聞いているから、それほどのメンバーが求める少女とは何者なのかと考えてしまって……」

「詳細は話せないが、ボクたちの合同研究に必要な少女でね。第一王子のグンク殿下と交渉をして、王都で受け渡しをしてもらう約束なんだ」

「グンク……少女……」


 イクサは思い当たるところがあった。

 グンクが人間の盾として使っていた、奴隷勇者と呼ばれていた少女だ。


「もしかして、奴隷勇者?」

「ああ、そうとも呼ばれていたね。ボクたちは強化試験体〝A-R1〟と呼んでいるけど」


 イクサの脳内に電撃のようなものが走った。

 その名称を知っているからだ。


(強化試験体A-R1……本編主人公じゃねーかよ!!)


 イクサの中ですべてが繋がってしまった。

 たしか本編で、主人公はSTAR4と過去に何かあったらしいというのは匂わせがあったのだ。

 つまり道筋的に、グンクが所有する奴隷勇者が、STAR4に受け渡され、本編の主人公となるのだ。


(そして……いつか、ザコキャラであるイクサ・ヘンキョーは主人公こと強化試験体A-R1に殺されることになる……)

【ご愁傷様です。南無阿弥陀仏】

(た、他人事だと思ってお前……!)

【でも、逆に考えればイクサの言う本編とやらの開始前です。そこで宿敵を見つけることができたのは幸運なのでは?】

(うん?)

【先手を打って殺すなり、STAR4に引き渡さないようにするとか、いくらでも対処のしようがあるということですよ】

(なるほど、たしかに……。いや、でも女の子を殺すのはどうかと……)


 イクサとしては、今まで無口で一言も発さない主人公は渋いおっさんだと思い込んでいたのだ。

 その正体が同年代の女の子である。

 おっさんだったら殺してしまっても、なんか墓に酒でも供えてやれば許されそうな雰囲気があるだろう。

 しかし、女の子となると話は違う。

 自分が前世でおっさんだったから言えるのだが。


(相手がおっさんだったら、どんなことをしてもあんまり可哀想じゃないんだけどなぁ……)

【イクサの感性が時々わからなくなりますね……】

(とまぁ、冗談はここまでにして……)


 イクサとしては、あの少女を見て引っかかるところがある。

 彼女は言っていた――


『……殺してください……殺して……もう生きたくない……死にたい……みんなのように楽にして……』


 そのときの姿が忘れられない。


【本人が殺してくれと言っているのだから、そうしてあげるのがいいのでは?】

(まぁ、機械のような正論だとそうなんだろうけどな……)


 本編では一言も話さなかった、ハッピーエンドが一つも無い主人公。

 彼女が本当はどんな人間なのか、知りたいのかもしれない。

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