御曹司集団、STAR4

 STAR4――それはYXの四大企業の社長四人組のことだ。

 本編ではどの企業からの依頼を受けるかによって、各企業の好感度が変化する。

 場合によっては各社長と親睦を深めたり、敵対したりとルートが分岐するのだ。


 その中でも最悪なのが、全企業と敵対するルートだ。

 四大企業と敵対するということは、企業製YXのパーツが何も購入できなくなる。

 オマケに本編だと国家というモノは価値が低下していて、最も権力を持つのは企業だ。

 国や星から与えられる爵位よりも、企業役職名の世界。

 つまり実質、企業を敵に回すというのは……全宇宙から敵視されるのと一緒でルート難易度は最高峰を誇る。


 四大企業――〝S&S社〟、〝大神倉稲魂たいしんうかのみたま社〟、〝アルティマギア社〟、〝ライゼンデ社〟の頭文字を並べてSTARと呼ばれる。

 その社長四人という意味でSTAR4という流れになっているのだ。


(あいつらが……目の前の船に乗っているのか……)


 少し前、STAR4からザクセン宛てに通信が入った。

 もうザクセンは牢獄送りになっているのだが、YX〝S-35〟の受信装置が生きていたのだ。

 というか、レッドウルフを偽装するために、S-35の識別番号IDや、敵味方識別装置IFFを奪い取っている。


【撃墜しなくて良かったんですか?】

(バカ言え。全宇宙を敵に回したくはないし、戦えば戦うほどバッドエンドに近付くんだぞ……)


 先ほど傭兵団の敷地内に着陸したのは、中型の戦艦〝ヴィーゼ〟だ。

 製作はライゼンデ社、格納庫にYXを4~6機ほど積めて整備もできる。

 超大型戦艦の八岐大蛇よりは随分と小さいが、それでも上流階級の個人輸送艦としても使われる高級なタイプだ。

 一応、こちらも偽装完了したレッドウルフを外に持ち出してきているが、見た目はボロボロな旧式のS-35になっているので格差が物凄い。


(それに相手は戦いに来たんじゃないんだ。ただ現地の案内が欲しいだけらしいからな……)


 そもそも、戦う気なら着陸前に対地ミサイルでも発射してきているだろう。

 そういうことで、イクサは警戒しつつも営業スマイルで迎えることにした。

 戦艦ヴィーゼの外部ハッチが開き、地上に伸びたタラップから男たちが降りてきた。

 見た目的に16歳くらいなのでちょっとイメージと違って驚いたが、イクサが子供の時代なので、彼らもまだ若いだけなのだろう。


 まずは目下の人間であるイクサが進んで挨拶をする。


「ようこそ、私はこのヘンキョー領主の嫡男のイクサ・ヘンキョーと申します。田舎の惑星なので不便に感じることはあるとは思いますが、何卒ご容赦くださいませ」


 STAR4はそれぞれ値踏みするような視線を向けてきていた。

 その中で一番初めに口を開いたのは、四人のまとめ役らしき男だ。


「これでは育たないな」

「はい?」


 何を言っているのかわからなかったが、男はいつの間にか地面の土を指ですくっていたのだ。


「米、だ。よくこんな土の上に住んでいられるな、お前は」


 普通だったらバカにされたと思ってしまうが、イクサは感心してしまった。

 オペ猫が検査した結果ときに同じようなことを言っていたからだ。

 スキャンもせずに、指の感触だけでそれを感じ取ったのだ。


「失敬、米のことになると気になってしまってな。私はイナリ・ウカノ」

「大神倉稲魂社の社長さんですよね?」

「いや? 社長ではない。将来的には親の跡を継ぎたいとは思ってはいるがな。今回はプライベートな用事で四人来ているから、堅苦しいのはやめてくれ。周囲に怪しまれる。フレンドリーにいこうではないか」

「ん~……わかった、それでいこう」


 どうやらこの年齢ではまだ社長にはなっていないようだ。

 ハイスクールの生徒時代……なのだろうか。

 それでもプライベートで戦艦を使えるとか、さすが大企業の御曹司たちだ。


 このイナリ・ウカノは、大神倉稲魂社の御曹司だ。

 大神倉稲魂は、農作物をメインとしていた会社だが、YX方面でもめざましい発展を遂げた企業だ。

 このSF宇宙時代に農作物? と思うかもしれないが、人間が生きていれば絶対に必要になるのが食糧だ。

 その食糧も未来は試験管で作られ……るわけはなかった。

 結局は広い地面で作った方が味も効率が良いとなったのだ。


 もちろん、大体の世話などはドローンなどによって自動化されたが、それらの機械を作るのが大神倉稲魂社ということだ。

 そこからの技術転用でYX企業としても名を馳せることになる。


 ちなみに収入の安定感から、理想の結婚相手はここの社員だとされたテキストもあった。

 そういうことで、このイナリ・ウカノもゲーム内外問わずにモテている。

 黒髪で茶色の眼、知的なメガネ。

 背が高く、少し厳しめの表情だが芯の通った顔。

 近接用のパイロットスーツに今時珍しい実体剣を帯刀している。


 そんなイナリの次に、横から会話に入ってきたのは――


「フレンドリー? よしてくれよ、イナリとも友達ダチでもなんでもねぇし、ましてやこんな田舎惑星の、何の面白みもねぇガキ……イクサ? だっけ、コイツとフレンドリーなんて無理だろ」


 STAR4の中で一番身長の高い男だ。

 パイロットスーツの上からでも分かる筋肉質で、赤い眼をした銀髪オールバックは威圧感がある。


「同じ空気を吸えることを光栄に思え、俺様はヒッツェ・ライゼンデだ。おい、イクサとやら。何か面白いことをやれよ? 認めてやってもいいぜ、面白かったらな」

「え、えーっと……」


 いきなり面白いことをやれと言われても、できるはずがない。

 無駄にハードルが上がって笑わせることは難しいだろう。

 しかし、悲しいかなザコキャラのイクサは無茶振りに答えなければならない。


「YXが喜んで笑ってくれたよ! わーい! えークスクス」

「……」


 元々外の気温は低かったが、空気が氷点下に感じられた。

 心が死ぬ。


「つ、つまんねぇ……」


 ぶん殴ったろかと思ったが、相手はライゼンデ社の御曹司だ。

 このライゼンデ社は、高水準の量産型YXが評判の企業だ。

 どこの軍隊も、大体はこのライゼンデ社のYXを使用するほどだ。

 シンプルな構造で、どんな過酷な環境でも信頼度の高い兵器というのは評価される。

 ヒッツェが着ているパイロットスーツも標準的なものだが、ナイフとハンドガンが見えていて、ご本人も万能に立ち回れそうだ。


「は~……、やっぱり田舎惑星の人間はつまらねぇな。お気にのコメディアンが出演しているラジオでも聴くか……ブワハハハハハ!! おもしれぇー!!」


 どうやらイクサに興味がなくなって、自分の世界入ってしまったようだ。


 次に出てきたのは、ミステリアスな雰囲気を纏う少年だ。

 痩せ形で、赤い眼をしていて、クリーム色の長髪を後ろでおさげにしている。


「ボクは名はアリスト・ステラ。ふむ……残念ながら君にはあまり魔力を感じられない。魔術を使うらしいここの住人自体には興味があるけど……君には興味を持てない」

「あはは……たしかに俺は魔力を使う魔術も剣術もからっきしダメだからな」


 イクサとしては少し悔しいが、その通りだ。

 アリストのように星外の人間が魔術や魔力に興味があるのは、少し特殊な理由がある。

 この世界は基本的に科学が発展して、地球から様々な星々へ人類が旅立った世界だ。


 しかし、気が遠くなるほどに長い時間をかければ、星に降り立った人間が化学を忘れて独自の魔力という存在に目覚めることもある。

 このヘンキョー星も、たぶんその一つだ。

 化学で星外から移住してきたという事実は歴史から消え去り、こんなファンタジー世界みたいになってしまったのだろう。


 そういう魔力という概念を兵器に転用したのが、アリストの所属するアルティマギア社だ。

 他のYXと違って魔力を使用するという独自路線だが、魔力が高いエルフィという種族などに支持されて成長してきた。

 人前には姿を現さない希少種族エンジェリンや、デモンとも繋がっているという黒い噂もあるが、真実は闇の中である。


(まぁ、ルートによってはそれ関連で酷い目に遭うけどな)


 最後に出てきたのは、アメリカ系をルーツとする小柄な少年だ。

 金髪碧眼で背が低く、広い場所に出られて嬉しいのかピョンピョンと元気よく動いている。

 開口一番、彼が言ってきた言葉は――


「僕はレオル・プレイルだよ。ねぇねぇ、イクサ。あんたのYXダサすぎるよ~! キャハハ!」


 なかなかにイラッとするものだった。

 外見をS-35に偽装しているのだから仕方がないのだが、それでも初対面から手持ちの機体を馬鹿にされるというのはゲーマーとして……〝星渡りの傭兵〟として熱心にプレイしてきたイクサとしては許せないものがあった。


(どいつもこいつも……全員ぶん殴ったろかい!!)

【イクサ、普通に止めた方がいいのでは……というかなんで逆に当艦が止めてるんですか】


 オペ猫に呆れられてしまった。


「でも、骨董品とはいえ、現地人がうちのS-35を使えるって不思議だよね~。ねぇねぇ、どうして?」


 なかなかに鋭い。

 このレオルはS&S社の御曹司だ。

 S&S社は珍しい技術や、最新鋭の技術を取り入れるという企業だ。

 S-35もS&S社製だが、何分古いので当時の最新技術も、今では骨董品だ。

 自分のメーカーのYXなので、こんな辺境の星の人間が扱えるということが不思議なのだろう。

 偶然にも素人が『音声で自動操縦できちゃった!』というようなシステムではなく、S&S社はそれなりにピーキーなコックピット周りだからだ。


「そもそも、ザクセンが出てこない時点でおかしいもんなぁ……? これは返答次第では笑えねぇぜ?」


 体格の良いヒッツェが右手にハンドガン、左手にナイフの近接戦闘CQCの構えを取った。

 パイロットスーツの力を使えば、戦艦に搭載されているであろうYXを使わなくても余裕ということだろう。

 イクサとしてはオペ猫に任せれば対応できそうだが、さすがに前回のように不自然さ爆発で乗りきりたくはない。

 この場を上手く収めるために――すでに考えておいた言い訳を使うことにした。


「俺はザクセンにYXの操縦や、星の外のことを教えてもらっていたんだ。だから、今回はザクセンの代理で来たってわけさ」

「ふぅむ、なるほどなるほど。しかし、それを初対面のボクたちが信じるに値するかは……。個人的には疑いたくないですが、せめてザクセンと話をすることはできますか?」


 痩せ形のアリストが、割と核心的なところを付いてきた。

 ザクセン本人からの引き継ぎ連絡があれば、そりゃ信じるだろう。

 だが、ザクセンは今は檻の中で、しかもイクサとは敵対中だ。

 ザクセンと話をさせたらロクなことにはならないだろう。


 そう――本物のザクセンと話をさせたら、だが。

 イクサは小型端末を操作して、立体映像を出現させた。

 そこに映っているのは、どこからどう見てもザクセンだ。


『おう、すまねぇ! 急ぎの用が出来ちまってそっちに行けなくなった!』

「ザクセン、例の少女がいるという王都への案内はどうするのですか?」

『案内だけなら、そこのイクサでもいけるだろう? コイツはここの生まれで土地勘があって、しかも一応は貴族の端くれだからな。王都でも多少は顔が利くだろう。むしろオレより坊ちゃんは適役だぜ』

「あなたがそう言うのなら……」

『忙しいからもう切るぜ、じゃあな!』


 立体映像による通信は終了した。

 どうやらアリストは納得してくれたようだ。

 ザクセン――もとい、オペ猫がリアルタイムで偽装している偽物のザクセン映像は、本人と同等に感じられる。

 それでもイナリは訝しげな表情をしながらメガネをクイッと動かしていた。


「偽物の可能性がある、念のために最新AIで検査する」

「イナリ、さすがにザクセンから色々教わった俺でも偽物を作るほどの技術はないよ?」

「それでも、だ」


 さすがまとめ役らしきイナリである。

 メガネキャラは伊達じゃない。

 バレるかどうかドキドキしてしまう。

 戦艦ヴィーゼに搭載されているAIとやり取りをしてしばらく経ち、イナリが言葉を発した。


「これは……100%本物だと結果が出た。偽装できない部分が多すぎる。先ほどの映像をフェイクで作れるAIはこの世界に存在しないな」


(そりゃそうだ。これを作ったのは、この世界に存在しないAI様だからな)

【この世界のゴミみたいなAIと一緒にしないでほしいですね】


 実のところ、この世界はAI技術がそこまで進んでいないのだ。

 もちろん、戦艦の自動航行などができる程度のAIなどはあるのだが、すべてにおいて人間と同程度か、それ以上の判断ができるAI――いわゆるSF時代の人格あるAIというのは量産できないのだ。


 ゲーム内の設定で、ある一定以上の〝知性〟を持つAIをコピーしようとすると、なぜかバグるらしいのだ。

 では、ギリギリの『知性を持たないAI』をコピーしたらどうなるかとなったら、そのAIが時間が経つにつれて再びバグの症状を起こしたり、起こらなかったりと不安定になる。

 そのため、知性水準が低いAIしか量産できないのだ。

 これは化学では不明だが、魔術的な見方をすれば魂の発生が関係あるとされていて、今でも学会で議論が繰り広げられている。


 コピーせずに一つのAIを長い時間かけて育て続けることもできるが、その場合は準人権が発生して、機械のように雑に扱うことができないし、演算能力も程々だ。

 そこらへんになるとマシンヒューミンという種族名で呼ばれるようになるそうだ。


【ようするに当艦がすごいということです】

(はいはい、すごいすごい)

【……当艦を雑に扱うと裸踊りをするイクサの動画をバラ撒きますよ?】

(犯罪行為反対!)


 ――とまぁ、やり取りは小学生レベルだが、実は四大企業の御曹司ですらイクサコンビには敵わないということである。

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