戦利品を領民に大盤振る舞い

 イクサと幼なじみ二人は村へと戻ってきた。

 それも手ぶらではなく、倒したヘルハウンドと、ヘルファイアハウンドの一部を持ってだ。

 それを見たバルバロアは腰を抜かしていた。


「そ、そんな大物どうやって!?」

「ああ、お祖母様。グンク第一王子を助けたついでに、パーヴェルスとヴィルヘミーネの二人が狩った獲物ですよ」

「ぐ、グンク第一王子を助けただってぇ!?」


 さすがのバルバロアも予想外だったらしく、驚いて白目を剥いてしまっている。

 以前の仕返しとしては多少の満足感がある。


「さてと、まだまだ運ばれてくる。領民達に解体作業などを手伝ってもらい、分配も行おう」


 さすがに三人ですべて運ぶのは無理なので、イクサ傭兵団のビースティたちに運んでもらっている。

 力持ちで脚力もあり、実働隊としてかなり優秀だと再確認できた。




 それから領民達に解体を手伝ってもらい、肉を振る舞う宴会を始めた。

 もちろん、余った肉は保存食にするし、皮や骨、それと災害獣の中に存在する魔石と呼ばれる物も分配した。

 災害獣の素材はどれも価値ある物だ。


「い、イクサ様!? たかが領民である私たちに……このような施しを……!?」

「うわぁー!! お肉いっぱいだー!!」


 村人たちはザクセンを倒したのはイクサだと聞いても半信半疑だったが、実際に料理などを振る舞われたら驚きに変わったのだろう。

 イクサとしても、こんなに大盤振る舞いしていいのか? と思うが、オペ猫の進言なのだ。


【どうせ領地改革で大きな変化を起こして豊かさで不信感を抱かれるのなら、先に肉でも豪快に振る舞って領主っぽくしておいた方がお得です】

(そ、そういうものなのか?)

【貧しいときに受けた個人からの施しの方が、後のどんなものよりも印象に残るということです】

(な、なるほど……。たしかに小遣い少なかった子供の頃に奢ってもらったジュースの味は今でも覚えている……)

【なので、こんな感じで村人に話しかけてください】


 またしても脳内カンペを渡されてしまった。

 自分の言葉を入れつつ、それを村人に伝える。


「さぁ、どんどん食べてくれ。ザクセンという理不尽な存在がいなくなったんだ。せっかくだし、俺もみんなのために何かしたいと思ってな。初の狩りだし、すべて分け与えたいという俺のワガママだ」

「す、すべて……!?」

「聖人じゃ……新たなる聖人が誕生しなすった……」

「すべての種族を統一し、そのカリスマで全国を平和的に手中に収めた初代ヘンキョー様の生まれ変わりぞ……」

「ありがたや……ありがたや……」


 まるで神仏のように拝まれてしまっている。


(……さすがに戦利品を振る舞っただけでオーバーじゃね?)

【それほど、この村の待遇がゴミクソだったということです】

(納得……)


 この一連のやり取りを見て、パーヴェルスが笑顔で苦言を呈してきた。


「イクサ。心意気はとても素晴らしいが、キミが毎回すべて分け与えてしまったら……」

「領地として成り立たないと言いたいんだろう? そこらへんは改善によって何とかする。これはあとで話す」

「もう、パーヴェは心配性なんだから。今のイクサなら大丈夫だよ」


 ヴィルヘミーネがフォローを入れてくれるが、これらはイクサではなく、オペ猫の導きだとは言えないのであった。


「いや、でもヴィルヘミーネ……。僕はイクサのことが心配で……」

「え~」


 そこでふと思い出した。

 本編ではメインキャラの二人だが、ルートによってかなり関係性が変わるのだ。

 無難に行くのなら、二人をくっつけた方が安定しそうだ。


「今日は二人とも、戦って疲れたろ。あとはいいから二人で宴会を楽しんでくれ」

「イクサの護衛も従士の務め――」

「従士同士の親睦を深めるのも、立派な務めだぞ☆」


 バチンとウインクをしてみたのだが、二人には不思議そうな顔をされてしまった。


【慣れないことをするもんじゃありませんよ、人生二回とも童貞の癖に】

(うるせええええええ!!!!)


 コホンと咳払いをして仕切り直す。


「と、とにかく、俺も一人の時間が欲しいわけだ。ほら、肉をやるから二人っきりで愛でも語らいながら食ってこい。これは命令だ!」

「あ、愛……? たしかに僕はヴィルヘミーネを愛しているけど……」

「えっ!?」

「同じくらいイクサのことも愛しているぞ」


 人類愛とか、家族愛のことではない。

 パーヴェルスは朴念仁らしい。

 一方、ヴィルヘミーネは頬を少し赤らめているので、さすがに恋愛だと気付いたようだ。


「イクサもお年頃だろうし、きっと意中の子でもいて、このタイミングでアタックしたいんだよ」

「そ、そういうものなのか……?」

「ほら、行こ。パーヴェ! ジャマしちゃ悪いって!」

「ま、待てヴィルヘミーネ、まだ話は――」


 ヴィルヘミーネが強引に、パーヴェルスを連れて行ってしまった。

 どうやらこのルートでは攻めがヴィルヘミーネになりそうだ。


(ふぅ……バッドエンドを避ける調整というのも大変だな……)

【イクサ自身は、この世界で恋愛をしないのですか?】

(恋愛かぁ……。この世界で人気のイケメンくらいになったら違うんだろうけどなぁ……)


 イクサが思い浮かべたのは、このゲームで人気の男キャラ四人組だ。

 STAR4と呼ばれていて、顔グラがないのにイケメンボイスや、イケメン言動で発売前から話題になっていた。

 女子たちの想像力、恐るべし。


(転生前が大人だったっていうのもあるからなぁ。身体の年齢に精神が引っ張られているとはいえ、見境無しにとは思わない。それこそ心動かされるような――)


 そこでふと、先ほど出会った奴隷勇者の悲痛な懇願に動揺したことを思い出した。

 恋愛感情ではないが、さすがにあそこまでのものを見てしまうと思うところもある。


(とても綺麗な眼をしていたな)

【――イクサ、聞いてますか。イクサ?】

「うわっ!?」


 どうやらオペ猫から話しかけられていたらしい。

 いつの間にか現れて、肩に乗ってきている。


【緊急事態です。星外からYX〝S-35〟に向けて通信が入っています。どう対処なさいますか?】

(星外からだと……?)

【相手はSTAR4と名乗っています】

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