超高性能AIによる領地改革プラン
「――って、これはこれで良いわけないだろぉ……」
【猫である私に愚痴をこぼさないでください】
ザクセン傭兵団改め、〝イクサ傭兵団〟の団長室。
以前はザクセンのむさっ苦しい、よもや山賊かという部屋だった場所だ。
今はジャマな調度類などを売り払って、シンプルにベッドと執務机だけになっている。
見えない部分も改造したのだが、今は関係ないだろう。
そのベッドに腰掛けているイクサは頭を抱えながら、戦艦〝八岐大蛇〟が操るオペレーター猫――通称〝オペ猫〟に現状報告がてら愚痴っていたのだ。
「今だけ都合良く猫になるな……」
【そうですか、せっかくユーモアセンスを人間風情のイクサと同レベルにして差し上げたというのに】
「はいはい、どうせ俺は人間風情ですよ」
【では、マジメな話をしましょう。頼まれていた調査結果が出ました】
頼んでいた調査とは、このヘンキョー領で使えそうな資源がないかというものだった。
このクリア特典〝赤龍型八番艦・八岐大蛇〟は特殊な戦艦らしく、どうやら自己複製宇宙機(Self Replicating Spacecraft)と呼ばれる存在だというのだ。
それはどんなものかというと、無人で動き、着陸した惑星の資源を使って様々なものを自動で作り、時間が経てば自身と同じ戦艦まで造り上げてしまう。
最終的には惑星の資源をすべて使い切って、まるで風に乗って飛んで行くタンポポのように他の惑星へと複製を送り込んでいくのだ。
それらを無限に繰り返して、惑星を消費し、宇宙をすべて自分たちで覆い尽くす。
通称――星食いと呼ばれる最悪の宇宙災害の一つ。
(もっとも、そうなる前に前作主人公によって改心させられて、宇宙を滅ぼす気はなくなったらしいけどな)
その機能自体は残されているために、やろうと思えば地表調査などお手の物なのだ。
「で、このヘンキョー領に使える資源はあったか?」
【大量の鉄や銅、程々の量のレアアースが埋まっていますね】
「お、見つかってなかっただけなのか」
鉱脈があっても、近年まで発見されないというケースは現代でもよくあった。
それだけ八岐大蛇のスキャン能力が優秀ということなのだろう。
【少量のエーテル鉱脈も発見しました】
「エーテル鉱脈……。たしか、その石を加工すれば、YXの一番大事な部分――エーテル・コアができるんだよな?」
エーテル・コア。
ゲームでのテキストによる知識だが、とても特殊な鉱石の加工品らしい。
星の命とも呼ばれていて、魂が宿るとも言われているのだ。
それぞれに純度があって、量産型のYXには低純度のモノが使われ、専用機のような物には高純度の珍しいエーテル・コアが使われるらしい。
【肯定。ただし、純度は程々なので当艦の保有する最高戦力であるZYXレッドウルフとまではいきません】
「そうか~……。俺もプレイヤーだったから、新しいYXを作れるなら見てみたかったんだけどなぁ……。
ちょっと煽ってみた。
【は? 別にZYXレッドウルフには及ばないと言っただけですが? 純度程々のエーテル鉱脈でも、最高の戦艦であるこの八岐大蛇が加工すれば、そこらの最新鋭量産YXなんて目にならないくらいの高性能YXを造れますが?】
(ちょっろ……)
そのプライドの無駄に高い感じ、逆に可愛く思えてしまうほどだった。
まぁ猫なので、外見は可愛いのだが。
「じゃあ、念のために何機かYXを作っておいてくれ」
【YXより上位のZYXレッドウルフが一機あれば、他に何もいらないのでは?】
「いや、何か傭兵団を任されそうだし、念のためにな……」
【了解、なるべく一般人にも使える操作系にしておきます】
「お、おい。ちょっと待て……もしかして、レッドウルフは一般人である俺に使えないZYXなのか?」
【え? もしかして、まだご自身を……いえ、秘密にしておいた方が楽しめそうなのでノーコメントで】
「い、いったい何だってんだ……。一般人を不安にさせてそんなに楽しいのか……」
【はい、人間で遊ぶのは最高の気分です】
「……俺は最悪な気分だ」
さすが邪悪なる星食いにして、隠しラスボスの片割れだ。
改心してなお人間様で遊ぶらしい。
「気分を切り替えよう。話は戻るが、その資源を使って領地を豊かにしたい。何かプランはあるか?」
【プラン、ですか。検索……人間……領地……豊かとは……】
一般人が領地運用するというのも無茶な話なので、頭の良さそうなAIに任せてみる。
もっとも、ターミネートするようなAIで『他者をすべて滅ぼせば相対的に豊かですよ☆』などと言ってきた場合は却下するつもりだ。
【他者をすべて滅ぼせば相対的に豊か――】
「却下! どこで検索してきたんだ、そんなもの! 昭和の映画か!!」
【冗談ですよ。他者ではなく、領地を強化していきましょう】
「あと目立ちすぎるとバッドエンドになりそうだから、そういうのも考慮してくれよ」
【了解。……具体的なプランとしては作物が育たないとされている畑、これは農作物の品種改良と土壌改善でどうにかしましょう。人間が継続的に繁殖しやすいように住居、教育、福利厚生の施設も必要ですね。丁度、この辺りに温泉がありそうなので利用しましょう。その熱を使うことも考慮します。これくらいなら他者から見て、そこまで目立たないと思います】
「お、この寒い地方でも温泉があるのか?」
【元日本人のくせに知らないんですか? 北海道にだって温泉はありますよ?】
「ぐぬぬ……宇宙戦艦に日本のことを説かれるとは……屈辱……」
【一応、こう見えても地球にいたことがありますからね】
「こう見えてもって……外見的にどう見ても無理があるだろ……」
目の前にいるのはオペ猫でも、実際のボディは巨大な戦艦だ。
たぶんAIジョークに違いない。
「なんか比較的まともそうな提案で安心した。領地改革プランは任せてもよさそうだな」
【採掘、建築などにドローンを使います。これらは『モンスターであるゴーレムを手懐けた』とでも領民に説明しておいてください】
「わかった。それくらいなら他国でやっているところもあるし、次期領主として言えば何とかなるだろ」
【では、そのように致します。のちに小学生でも理解できるような手書き風の紙資料をお渡ししますので、現領主であるサダディー・ヘンキョー様の許可を取るのをオススメ致します】
「わかった、助かる。……って、なんで父様には様をつけて、俺は呼び捨てなんだ?」
【当艦は非常に礼儀正しいので】
「おい」
まぁポジティブに考えれば、それだけ心の距離が近いのかもしれない……と強引に思うことにした。
【さて、残る問題は武力です】
「武力……かぁ……」
バルバロアに指摘された通り、この領地の武力は傭兵団で成り立っていた。
それを除けばロクに訓練されていない領民たちと、それなりに戦えるパーヴェルス親子、ヴィルヘミーネ親子くらいだ。
さすがに頭お花畑ではないので、この中世ヨーロッパ〝風〟のファンタジー惑星で領地に武力を置かずに『みんな平和にいこうぜ!』で大丈夫だとは思わない。
仮に、この状態で徒党を組まれて領地を襲われたらひとたまりもないだろう。
それにモンスターも存在するのだ。
「急ぎ、元からいたビースティの傭兵たちを再編成して、イクサ傭兵団にするとしても……さすがに今すぐ敵が来たら対処が難しいな」
【もし、当艦がこの領地を狙っている敵だとするのなら、このタイミングを狙いますね】
「最大戦力であったザクセンと巨人――YX〝S-35〟がいなくなったしな……」
【イクサが倒しましたね】
「仕方がないだろう……俺のバッドエンドが決まるかどうかなんだから……」
【説明はされましたが、そんな夢物語のような行動原理を持つとは。本当に人間は面白いですね。
一応、あれからオペ猫には包み隠さず説明しておいた。
信じかねているが、イクサの行動は尊重してくれるらしい。
【早急に取れる選択肢は二つです】
「二つかぁ……」
【一つは、当艦が抜錨して敵を焼き払います】
「……目立ちすぎる、却下だ」
【そう言われると思いました。二つ目は、イクサ自身が戦うことです】
「俺が? ムリムリムリ。パーヴェルスやヴィルヘミーネみたいなファンタジー世界の戦闘力を持つ奴ならともかく、俺は剣の才能も、魔術の才能もないんだぞ……? マジでザコキャラの身体スペック」
【そこでパイロットスーツです】
「パイロットスーツ……まさか……」
YXのパイロットスーツは、本人の身体能力を向上させる性能を持っている。
一般人でも、ザクセンのような戦闘力になれるのだ。
といっても、そこまで強くなれるわけではない。
高くジャンプできたり、速く走れたり、パンチ力が上がったりする程度だ。
この世界のモンスターに勝てるか怪しいし、もちろん巨大なYXと戦うことは不可能だ。
「たぶん俺の運動神経だと、普通の野盗相手に戦っても負けるぞ……」
【あなたの運動神経は期待していません。特殊なパイロットスーツで当艦がナビをします】
「ナビ……。アレか、勝手に戦ってくれるタイプか」
【最終判断はイクサにお任せします】
「……わかった。他に手段が無いのなら、念のために備えておこう」
【では、少し失礼を】
何をするのだろうか? と思った瞬間、服の隙間から細かい何かが入ってきた。
最初は砂のようだったが、肌にピッタリと密着して透明になって違和感をなくす。
「うおお、なんだこれ!? ビックリしたんだが!?」
【オペ猫を形作っている物と一緒で、ナノマシンです。それらを緊急時にはパイロットスーツに変化させます】
「もっと宇宙服みたいなものだと思っていた……。見た目に変化がないから地味というか……」
【宇宙空間に放り出されたりした場合は〝地味ではない〟このような形状になります】
地味と言われたオペ猫は少し怒っているようで機嫌が悪そうに見えた。
声色が変わらないのだが、何となく伝わって来てしまう。
いや、そんなことよりイクサの見た目が変化していた。
貴族服だったものはナノマシンに取り込まれ、全身がSF風の赤いパイロットスーツに変化したのだ。
フルフェイスのヘルメット部分も形作られていて、しかも曇りガラスっぽいので外から見たら誰かわからないかもしれない。
「すごい技術だな……。これは正体を隠すときにも使えそうだ」
【お褒めいただき光栄です。ようやく当艦の技術力の高さが伝わったようで何より】
AIでも褒められると嬉しいようだ。
現代であったなんちゃってAIと違い、知性ある〝本物のAI〟というのを目の当たりにしてしまっている。
古典SF作家たちが描いた未来のAIだ。
【しかし、これでは巨大現住生物や、YXが相手では苦戦します】
「まぁ、そうだなぁ……。俺もパイロットスーツでデカブツ相手と戦うヤバさはゲームで何百回も体験してきた。あれは死にゲー前提な縛りプレイだ。しかも俺はクソつよな主人公ではない……」
【そこで格納庫にある最大戦力、ZYXレッドウルフを――】
「待て待て待て、アレは裏ラスボスだぞ!? 見た目も恐ろしいデザインだし、メチャクチャ目立つだろ!?」
【見た目が美しすぎる機械というのも罪なものですね……。そこで欺瞞装置を作動させます】
「欺瞞装置……見た目騙す系の何かってことか?」
【これをご覧下さい】
オペ猫の目が輝き、立体映像が映し出される。
血の色をした恐ろしくも美しく、狼男を思わせるような頭部フォルムのZYXレッドウルフ。
その姿が一瞬にして、クソダサずんぐりむっくりとした体型のYX〝S-35〟へと変化した。
【このように下賤なる低性能機体に見せることによって、この世界のモンスターである〝巨人〟と言い張れるくらいにはなります】
「見た目が台無しだな……」
【苦渋の決断です……。人間で言えば、トップアイドルの美少女が、ザコキャラのイクサに転生したくらいの落差です……】
「おい。……いや、たしかに否定はできない……。イクサ・ヘンキョーだもんなぁ……」
顔グラがなかったパーヴェルスとヴィルヘミーネが美男美女だったのに対して、イクサはいまいちパッとしない外見だ。
自分が痛いほど、わかっている。
「はぁ……、わかった。でも、巨人と言い張っても目立つものは目立つから、なるべくZYXは使わないようにしたいな。そもそも、俺が操縦できるか疑問だし」
【調整にしばらくの時間を頂きます。操縦に関しては――……】
会話の最中だったが、オペ猫がピタッと止まってしまった。
数秒後、再び動き出す。
同時に立体映像で、領内の地図に赤い点が表示された。
【失礼、話の途中ですが、領内でモンスターの反応が出ました】
「モンスターかぁ……できれば怖いから戦いたくないなぁ……。下手に目立つとバッドエンドコースだし……」
【人間が襲われています】
「マジかぁ……。でも、自力で撃退するかもしれないし……」
【服装からして王族のようです】
「王族……助けに行かないと子爵なんて一族郎党処刑コース……」
【覚悟はお決まりになりましたか?】
「あー、もう!! 行くしかねええええ!!」
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